原作において解放軍は、大陸北西のイザークを拠点に、大陸東側を電撃的に制圧していきました。
単純な進軍速度で言えば、1部のシグルド軍を遥かに上回る速さです。
雑に言えば、数か月で北海道から東北を制圧してしまったと言えば伝わるでしょうか。
征夷大将軍かな?
ヒルダ
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夏の日差しが書類山の影をつくる。
湿気で髪はべたつき、インクが滲みやすくなる。
南は嫌いだ。
日光は強く、夏が早く来る。
王都の側が、あたしにはちょうどいい。
解放軍なぞ名乗る逆徒のせいで、こっち大わらわだ。
餓鬼共はあっちだろうに。
あちらに靡こうとする自由都市群の躾に、
イザーク失陥によるトラキアの裏切りへの警戒、
それに狩ってきた子供の管理。
おかげで、イシュトーたちとの連絡も取れやしない。
ライザの誕生日だって近いんだ、こっちにも用意ってものがある。
ブルームよりはマシだが、そういう所は足りてない。
大体、いつまで有象無象に時間をかけているんだ。
神器だってある。イシュタルまで向かった。
大方、新人育成でもしているんだろう。
あの馬鹿。あの子達が生まれてからは、下手な教育に目覚めやがって。
そんなことより、連絡くらいは寄越せ。
王になろうが、いくつになっても、手間がかかる。
早く邪魔者を蹴散らして、武勇伝を聞かせに来い。
「女王様、失礼します。
その、不思議な来客がいらっしゃっています。
名前は女王様以外には伝えられないそうです」
取次役が口ごもるように発言してきた。
教えてやっただろうに。
若手育成のため、若輩ばかり連れて来たツケか。
「端的に伝えろ。見た目を教えな」
「顔まで覆うローブを纏われています。
暗黒教団のものとは違う、明るい色です。
ですが、多少擦り切れたあとも見受けられました」
隠す理由がある。
身なりは整えるが、金銭的な余裕がない。
あるいは、そう振舞おうとしている。
顎で先を促す。
「身長は少女並みで、若い女の声でした」
ヴァイスリッターに送った三姉妹が、密命を持って来たか。
いや、奴らはそんなに背が低くない。
「手はどうだった。タコの位置で生業が分かる」
「長手袋で覆われていました。
左だけは若干色が薄いように思いました」
そちらに隠したい何かがある。
女なら、傷だろう。
そんな奴は密使に向かない。
アルヴィスの線は消えたな。
やるとすれば、素性を隠した教団員か、どこかの町が娘を使って歎願にでも来たか。
「その、意味不明な伝言があります。
女王様へ伝えれば分かるとのことですが……あまりにも……」
合言葉は、日常単語に潜めるのが相場だ。
完全にヴェルトマーの線は消えた。
「あんたを罰したりしない」
「それは理解しております……では。
竜胆は椿。皇帝は家族崩壊。ナーガは畜生。
必ずこの順番で伝えろとのことです」
息が詰まる。
花嫁姿も見れなかった。
刺繍のイニシャルは、欠けたままになっちまった。
……あの子は、殉じた。
違う。
何故、知っている。
シグルド軍は死んだ。
あの娘を知っている者は、もう若くない。
王子のことは教団も知っている。
だが、私的な部分を曝していないはず。アルヴィスもその筈だ。
あの子もそんなヘマはしない。
それを騙る者は、いらない。
「僭越ながら、暗黒教団の横暴が過ぎますね。
弟様が皇帝のヒルダ様に向かって、皇族批判なぞ」
「……教団と呼びな。言葉一つで面倒が減る」
「あたしが対応する。そいつを絶対に逃がすな。
館の周りを手練れで包囲しろ」
「では、奥の部屋を用意します。茶菓子はどうしますか」
それでいい。
不意の出来事でなければ、対応できるように育ったな。
経験を積めば、ブルームの側に置いても問題なくなる。
「遅効性の麻痺。捕まえれば、どうとでもなる。
そいつが囮の可能性もある。政務官は隠れときな。
仕事は遅れるが、その先を考えれば安いもんだ。
また一から仕込ませるつもりかい」
言い切ると同時に、皆動き出した。
―――――
大窓から、庭が一望できる。
庭園の管理員に偽装させた弓兵たちからも室内が見える。
作業のふりをして、しゃがんでいる。
手元は花壇でこちらからは見せない。
射線上に客席も配置してある。
十数本の矢で、外すことはない。
もしもの時は、あたしがやればいい。
侍女たちには、短刀を潜ませた。
この子らが戦えるとは思わない。
だが、威嚇程度にはなるだろう。
精神の安定にもつながる。
おかげで、この子らも震えを抑えられている。
あたしは炎上級魔法だけを携える。
これなら高度過ぎて、奪われようが使えやしない。
偽者には取ってつけだ。
あの娘の炎で、骨すら残さない。
部屋の外から、来訪が告げられる。
魔導書を包む布を撫でる。
一度、指を鳴らす。
侍女たちは、短刀を隠す。
「入りな。手短に済ませるよ」
―――――
一切の露出がない、季節にはそぐわない格好だ。
外見からは、どこの者か読み取れない。
「マンスター王国、女王ヒルダ=フリージ様。
突然の来訪に対応していただき、感謝いたします。
故あって、名と顔を貴方様にしか明かせぬ無礼をお許し下さい」
揺れの無い声色に、立礼。
最低限は身に着けているか。
だが、不遜だ。
「貴様のような者が、単独での会見を望むか」
魔力を高める。
侍女たちの手が刃に伸びる。
不審者の呼吸音は聞こえない。
「鈍りましたね。解放軍に負けてしまいますよ」
多少は腕に覚えがあるな。
この部屋ごと焼く羽目になるかもね。
「言うじゃないか。
レンスターで奴らは終わりだ。
情勢すら掴めていない奴の評価なら、自信が持てる」
「もっと感謝していただいても構いません。
イシュタル王女を頭目の凶刃から守りました。
なにせ、娘様以外とは再開できないのですから」
あり得ない。
イシュトーにブルームも居る。トールハンマーだって、そこにある。
第一、あの娘はトラキアへの牽制をしているはずだ。
「道化にしても、程度を弁えな」
刺繍布を懐にしまう。
「お役に立てたようで、何よりです。
トラキア戦はどうなりましたか?
何分、皇子に置いて行かれてしまい、その先が分からないのです」
「……役職を答えな」
平然と言ってのけた。
「乳兄弟」
どこまでだ。
どこからだ。
「……ッ‼」
過去すら掘り起こすのか。
邪法め。
魔導書を構える。
壁際から音がする。
「考えは止めない。それが方針では?」
明るく楽し気な声。
「二人きりになれたのなら、お教えしましょう。
侍女たちが怯えてしまった」
横目をやる。
お互いに抱き合って、床に崩れている。
酸欠で蒼白だ。
……躾が甘かったか。
あたしの全力に慣れさせておくんだった。
「イシュタル様と同じことをなさる。
立場が変わると、振る舞いも変わるものですね」
娘にまで。
「何を望む」
「王都への転移と、情報共有。
個人的な要件は、女王様のご機嫌次第ですがね」
教団には頼れない立場。
それに、都の古い呼び方だ。
シアルフィでないあたり、アルヴィスとは関係は無い。
だが、危険物であることは変わらない。
「良いだろう。
あんたら、用意させな。
他の奴らと部屋から離れておけ」
これで、憂いなく焼却できる。
どこまで、引き出すかだ。
―――――
カーテンを閉め、照明をつけさせる。
これで、逃げ道は減る。
夏場にこんなことをする羽目になるとはね。
扉が閉まり、部屋にはあたし達だけ。
「それで、何者なんだ」
「まだ分かんない?
せっかくだから、予想を教えて」
ふざけやがって。
生意気な態度まで真似てるつもりか。
「面倒だ、茶でも飲みな」
「紅茶は嫌いになった。
使者で行った先々で、薬を盛られてばっかり。
そんなにファラの聖痕が欲しいんだね」
まだ死者の真似事を続けようってのか。
「……あの馬鹿娘は死んだ」
「どうやって?
どこまで知られているのか聞いておきたい」
魔力収束は終わった。
部屋ごと吹き飛ばせばいい。
構えもしないあたり、魔導士では無い。
魔法への耐久力も高くないはず。
「態度を改めろ。不快だ」
フードが取り払われる。
後ろでまとめられた赤髪。
真っ赤な瞳。
歳の割に、あどけなさを残す顔。
見間違えるはずがない。
「私はズィーベン」
声も最後に会った時のまま。
名乗りだけが、違う。
あたし達を置いて行ったはず。
震える手を、伸ばす。
「……あんた、なのかい」
葬式で、見たままだ。
だが、左腕は繋がっている。
「灰になれないと、死後も働かされる。
リーネ様はこれを伝えたかったのかもね」
気が付いた時には、距離が消えていた。
耳元で囁いてくる。
「いつでも会話を打ち切れるようにして。
ここは戦場。気を抜かないで」
感情が、引きはがされる。
魔導書を閉じさせられる。
その手には、確かに熱がある。
それだけでも、いい。
―――――
ゆっくりと、離れていく。
緊急時にふざけるような娘じゃない。必要なことから片付ける。
一つ、息を吐く。
肺の底まで、空気を取り込む。
不快な湿気が入り込む。
全く、情緒ってもんがありゃしない。
「先にあんたの問に答えてやる。あたしのにも答えな。
逆賊からディアドラ王女を守って死んだことになっている」
アルヴィスの箔付けと、シアルフィ家の追い落とし。
身内の死すら、道具にしなきゃならなかった。
「アルヴィスから実際のことは聞いた。
聖剣相手に大立ち回りだったそうじゃないか。
その場にいた二人と、アルヴィスから伝えられた奴しか知らない。
事が事だ。あんたの家族と側近くらいだろうね」
まさか、本当に投げつけるとは。
おしとやかになれ、そのつもりで渡したんだがね。
「……ごめんなさい。椿瓶を捨てた」
俯くな。顔を見せろ。
謝るなら目を見ろ。
あんたの得意分野だろ。
「相変わらず、愚かだね」
あれは母様から貰ったものだ。
……だが、所詮は香油瓶。
一体何故、何処で隠れていやがったんだ。
生きていたなら、アルヴィスかあたしの仕事を手伝いな。
それか、とっと嫁にでも行って子供の顔でも見せに来な。
「……私は、約束も破った。
正しいことよりも、情を優先してしまった」
アルヴィスと、ついでにぽっと出の王女を守ってくれたんだろう。
それを詫びる必要なんてない。
あんたのおかげで、帝国は今も命脈を保っているんだ。
「それがどうした」
当然だ。
家族の方が大切に決まってる。
「結局、自分の紋章は見つけられなかった」
……相当、昔の話だね。
あんなこと、授けるんじゃなかった。
「そんなもの無くたって、生きていける」
身内を守る、あたしと同じ道を選んだ。
それでいいじゃないか。
「私は死んだけどね」
「止めろ。冗談でも許さない」
現に、目の前で喋っているじゃないか。
名前を変えることにはなったが、どこかに潜んでいたんだろう。
今だって、身なりは悪くなったが、あの時のままじゃないか。
葬式の時よりも血色だって良くなっている。
「数か月前に蘇生された」
「遊びは止せ」
「よく分からないけど、暗黒の力で死者を手駒にしたんだって。
戦場ではズィーベン。宮廷では元の方を名乗ってる」
あんたはユリスだ。
皇子と皇女だって、そこから名づけられた。
そんな堅苦しい記号じゃない。
ヴァルターが考え抜いた、あんただけのものだ。
「事実は小説より奇なり。
アゼルの本みたいに、幽霊になって手助けしたかった。
それなら一人でレンスターからの強行軍もしなくて済んだ。
持ってきた杖も全部売っちゃったしね」
どういうつもりだ。
戯れるが、本質を偽ったりしない。そんな子だった。
「……本当なのかい」
「嘘は全てか、最小限に。信頼を失えば、真実も価値が無くなる。
そう教えたのはヒルダ様でしょ」
もう一度、深呼吸をする。
……今は、棚上げだ。
「先に要件を済ませな」
―――――
「イシュタル様を助けて、置いてきぼり。
ロプトウスを持つユリウス様は、自力でワープまでできちゃう。
定員二人なら、先に言うべき」
あの子まで、逆徒が届いたのか。
「イシュタルは無事なのかい⁉」
「多分ね。その時は、王都に行くと言っていた」
一先ず、安心して良さそうだ。
ユリウス皇子はあの子を好いている。
帝都には、家臣や王家の騎士団に送り込んだ奴らもいる。
悪いようにはされない。
母親抜きで、家族の集まりか。
仕事を押し付けないで、早く帰ってこい。
「邪神の書は洗脳も出来る。
あの時も、それで言うことを聞かせていた。
本当に最低限の女性の扱いは分かっているようだから、変な事にはなってないと思う」
……また、訳の分からないことを。
これも、脇に置いておくか。
「想像以上に手強そうだね。ゲルプリッターも呼ばなきゃ不味いか」
近寄って、手を握られる。
手袋越しに熱が伝わってくる。
この子も生きている。
大丈夫だ。
「イシュトー様は戦死。メルゲン城が落ちていた」
……は?
何を言っているんだ。
他の城からも遠くない。
落城しても、落ち延びられる。
頬に手が当てられる。
「その時点では、コノート城も健在だったけど……」
……。
「誰だ」
生かさない。
「不明」
見せしめでは、済まさない。
全て、縛り上げればいい。
「あんたと同じにすれば済む。
そうすれば、また会える」
邪法だっていい。
何でもいいから、生きていれば。
「私は例外。
意思のない人形にしかならない。
それでも、術者の意思で止められてしまう」
「構うもんか」
「本来は、ロプトウスの的。
皇子の訓練で、毎日そんな風に使われた。
ナーガ相手よりは、やりやすかったけどね」
邪書の木人で、捨て駒まがいの扱い。おまけに、洗脳。
この子もイシュタルもバーハラには、置いておけない。
アゼルは消えた。
ティルテュは……あたしが殺した。
家のために必要だった。
これ以上は、失えない。
「……それでも、息をしてくれるのならいい」
唐変木と親不孝が戻るのなら。
「そこまで言うなら、好きにして。
私はその方法は知らない。知ってても使うつもりはない」
教団に取り入る必要がある。
子供狩りを推進しなければ。
―――――
「ヒルダ様は、教団を選んだんだね」
背筋に氷柱が差し込まれた。
……あんたは、軽蔑するだろうね。
あれだけ迫害していた奴らに阿る。
ファラの系譜らしさは、一切ない。
あんたの生かした未来を、穢した。
「……あたしの柱は、答えてやっただろう。
昔から何も変わっちゃいない」
「責めてない。むしろ、憧れる。
私には、貫けなかったから」
……あたしの、せいだ。
火継ぎなんて、するんじゃなかった。
何も知らない方が、満足に生きていられた。
こんなものを、憧れなんて言わせちまった。
―――――
ユリスの視線が、左手に向かう。
縦に一回、横に二回。
それを人差し指で繰り返し続けている。
あたしが認めたのに気付き、口を開いた。
「ユリウス皇子と話した。
暗黒教の征伐と、子供狩りは変わらない。どちらも統治のためだって。
ヴェルトマーらしい、合理と必要性を重んじる良い教育がなされてた」
随分と懐かしい伝え方だ。
あたし達には、ちょうどいい。
本意ではない、裏がある。
一度も本名を出さないあたり、ここですら盗聴を疑っている。
あるいは、その危険性を伝えようとしている。
子供狩り。
この子なら、非効率だと理解しているはず。
損得を度外視した何かがあるんだね。
エッダ教と違い、ただの宗教行事ではないということか。
邪教は、あたしにまだ隠していることがある。
あれだけ好意的に振舞ってやっているのに。
皇子の考えはかなり邪教に寄っているらしい。
だが、わざわざ家名を出した。それも、バーハラではない。
少しは自分で考えることもできるのか。
「そうかい。
これでもあたしは教団への貢献では頭抜けているんだよ。
イシュタルが皇子と結ばれれば、帝国は安定する。
早くお妃さまにしてもらえないかね」
音を立てずに、人差し指を斜めに動かしている。
ここまでは、知っているか。
「イシュタル様は無知。私のことすら分かって無かった。
親としての教育はどうなっているの?
間違えたら針で刺す、それが指南でしょ?」
左胸に手を当てている。
それはあたしじゃなく、リーネの仕込み方だった。
……ヴェルトマーのことか?
あの子はフリージの娘だ。必要ない。
何が伝えたい。
手を組み、内側を見せる。
「それとも、この17年間で変わったの?
そうなら私に教えて。出来る女は、相手に合わせる」
片手をこちらに軽く開き、薬指だけを明確に折っている。
八に関する何か。
……入賞、無限、聖雷。
どれだ。
左胸に手を当ててみる。
左目だけ瞑ってきた。
我が家のことか。
だが、その何が知りたい。
もう一度、手を組んだ内側を見せながら口を開く。
「そんな立派な奴なら察するもんさ。
イシュタルだって、あんたの鈍感さに苛立っていたってところだろう」
左手に視線を向け始め、音を立てずに扉を叩くような動作を繰り返す。
「イシュタル様を守った時、ぽかんとしていた。
セリス皇子の剣を弾いた後も、追撃もしない。随分平和だったんだね。
あれじゃあ、王の使者は勤められない」
止まれの合図。
だが、話を続けている。
あべこべだ。
それが必要になる場面……。
言葉から拾うしかない。
わざわざ、イシュタルに関係のない公務を持ち出している。
しかも、ヴェルトマー家しか努めていなかった、王の使者。
任務に関すること……。
サイン自体か。
掌を合わせ、上下に軽く振る。
人差し指を斜めに動かし始めた。
……そういうことか。
「それで、なんであんたに教えることになるんだい。
あんたはあの娘とは関係ないだろう」
再び、片手の薬指だけを折った。
そして、手を合わせて振り始めた。
フリージ流の符丁を教えろ、そういうことか。
「時代遅れの作法は醜い。
ロプト教団に迎合しなきゃ。時代は神書。ヴェルトマーは時代遅れ」
指を縦に一回、横に二回。
暗黒教団に反逆するつもりだ。
命を握られていると言っていた、それでもやる気なのか。
……本当に、種火を渡すべきじゃなかった。
ここで安穏としても誰も文句を言わない。
あたしが言わせない。
左胸に手を当てた。
あの時のままの瞳が、あたしを見つめている。
「仕方ないねぇ。
何年経っても面倒な娘だ。少しは成長しな。
ついでに、他にも教えてやろうか。誰がいい?」
……変わっていればよかった。
そうすれば、こんな世の中だって息がしやすい。
「イシュタル様。王配としての教育もお願い。
ユリウス皇子は忙しいだろうし、私がやる」
ユリウス皇子自体は味方に出来ないのか。
それに、イシュタルにヴェルトマーのを仕込め、か。
あの子のことは、守るつもりがあるらしい。
あんたはどうなる。
何故、そこまでする。
二本指で、自分の胸を突き刺す。
本音を語れ。
「私は、何があってもユリウス様の想いを守る。
見つけられなかったけど、支えることからは逃げない。
人間、二度死ぬことなんてない。
灰になるまでは、動けるからね」
……そうかい。
「木偶人形だったら、こんな面倒から解放された」
それなら、どれ程良かっただろうね。
ユリスが両目を瞑る。
これで伝えたいことは、終わりか。
「ユリウス様が皇子だろうが、皇帝だろうが変わらない」
敬称に何かある。
役職、傀儡、不本意、この段階では読み取れない。
だが、暗黒教団が関係することには違いない。
「好きにしな。あたしの邪魔さえしなけりゃ何も言わないよ」
軽く手を叩く。
これで、密談は終わりだ。
古臭い暗号のせいで、肩が凝った。
ドレスなんて着ていたら、もっと疲れただろうね。
―――――
「ほら、これを持ってきな。
今のあたしには軽すぎる。
その程度なら、いくらでも替えがある」
ボルガノンを差し出す。
あんたには、敵が多すぎる。
アゼルとアルヴィスの想いなら、寒さを覚えることはない。
「……本当に女王様になっちゃったもんね。
レプトール様の口説き文句通りだ」
受け取ろうとしない。
あの時の再現のつもりかい。
「……なんのことだか。
あんたにとっては近いことでも、あたしにとっては昔のことなんだよ」
「……また、置いてかれちゃったんだね。
誰も、私とは一緒にいてくれないんだね」
あんたこそ、もう一度あたしを置いて行くつもりなんだろう。
引き留める権利は、ない。
今は命令できる関係にもない。
……押し付けたのは、あたしだ。
「歩み寄る努力をしな。無駄な意地ばかり張るからだ」
魔導書を強引に押し付ける。
驚いた後、柔らかい笑顔を向けてくる。
「人は必ず彼岸に行く。
わざわざ急いで向かわなくてもいい。
私の速さに誰も追いつけなかっただけ。
それよりも、早く礼法を教えて」
今度は、無手になるな。
ここに帰ってこい。
ヒルダ達を傍から見ていれば、珍妙な踊りのようにも見えたでしょう。ティルテュなら、絶対にからかっています。
マフティーダンスに意味を見出すようなものですので、気にしなくても読めるようにはしています。