暑さが過ぎ去り、このローブでも快適な陽気が増えてきた。
来年の今頃にはロプト帝国が作り上げられている。
回廊だというのに、口角がつり上がっていく。
皇子からの呼び出しを受け、奥まった客間に向かう。
最近は、皇子が神の書を携える時間が短くなったとの報告を受けている。
来年の夏に控えたロプトウス神の再降臨。
その器に純化され切らない意思が残りかねない。
供物は、無疵であるべきだ。
奴がこちらの意図を察知し、その様に仕向けた可能性も捨てきれない。
奴は、変数だ。
思考もしないはずの魔将が、当然のように自律している。
それどころか、皇子に余計な事ばかりを吹き込む。
他の素体は、あの時に破壊され切ってしまった。
解放軍の聖痕持ちの死体もあまり回収できていない。
決戦、その先に向けた兵力としては、替えが効かない。
奴がどれだけ足掻こうが、結果は変えようがない。
だが、座視して神事を汚させるわけにはいかない。
皇子への影響の深さ。
それを見極め、裁決を下す。
ファラの血は惜しい。
まだ最大の功労者にも披露していない。
だが、神がどれほど寛大であろうと、怠慢は許されない。
―――――
部屋の中には皇子とズィーベンがいた。
椅子に並んで座り、一冊の本をのぞき込んでいる。
神書の気配は箱の中。
皇子の純化が進まないわけだ。
孤独な小僧を癒す唯一の存在。
その代替となり、信頼を勝ち取ったか。
肉でも使ったな。
「お忙しい中、一体何事でしょうか」
皇子は一度ズィーベンの顔を見た。
肩を竦めて、返事とした。
それを受け、皇子は少し不満げにわしへと向き直る。
手で正面の席を促される。
「ユリスが魔将について聞きたいんだって。
どうにも、左腕が勝手に動いたりしちゃうんだって」
ズィーベンは、楽器を弾くように左手を動かしている。
そのような前例は、この百年で聞いたことが無い。
人形共は想定通りに動かなければ、操る意味がない。
だが、意思有る魔将も初だ。
事実だとしても、症例を収集する価値はある。
どちらにせよ、教団員を介しての伝言ではない。
直接の呼び出しだ。口実に違いない。
「他にもある。でも、ユリウス様の前では……ちょっとね」
「なんだよ。私に隠し事か」
「誰にだって聞かれたくない話はある。
私にとってマンフロイさんは闇魔法の師匠。
それに今では専門の医者みたいなもの。
主にして教え子のユリウス様とは、扱いが違って当然」
やはり、密談か。
いや、暗殺も有りうる。
こやつは、そうだった。
距離さえ取れば、対処できる。
わしの実力をこいつは知らない。
フォルセティすら下したのだ。こやつは恐るるに足らん。
「随分な口を叩く。
わしは教団の取りまとめで暇がない。戯れなら他所でやれ」
「魔将にしたのは、マンフロイさんでしょ?」
皇子が漏らしていたか。
だが、ここまでは推理でも辿り着ける。
「分かったよ。
マンフロイ、貴様も多忙だろうがやってやれ。
私は書斎で教本でも読んで待ってるよ」
ズィーベンに向き直り、本を取り上げた。
音を立てず扉を閉め、靴音が遠ざかる。
良く躾けたな。
操縦だけは一流だ。
頃合いを見て、停止すべきだな。
―――――
自らの命すら掛け金とする敬虔さは、敵であれば警戒に値する。
以前のことを思い、机を挟み立ち上がったままで対応する。
ズィーベンは座ったまま、左手を振り始めた。
昔と変わらぬ、揺れの無い視線。
「手以外でも、考えにゆがみがある。
それに衝動的な感情が表に出やすくなった。
マンフロイさんはこういうのないの?」
自我が残るとその様になる可能性があるか。
だが、偽りの線もある。
「わしは魔将ではない」
何処から判断した。
この娘、何かを掴んでいるやもしれぬ。
皇子はおろか、教団幹部にも伝えていない。
有り得るとすれば、ヘイムの末裔達の書庫か。
わしですら侵入できない。
「なんていうの? 似たような物でしょ」
そのような矮小な存在と同一視するな。
偉大なる神の力で、命の理を超越した。
継続のためにも、皇子への浸食が必要だというのに。
「さてな。
信心深い者は色眼鏡で見られる。
話はそれだけではないのだろう」
「私の処遇と期待されている振る舞い。
三人の上司がいて、誰の意向に従うべきか困ってる。
せめて、戦略目標は共有して」
……気づきおったか。
皇子と共に行動させたことが裏目に出た。
やはり神書を使わせないのは、故意であったか。
利用できるのであれば、良し。
さもなくば、早めに処分すべきだ。
皇子の世話に煩わされたくはない。
より崇高な使命のために、わしの時間は捧げるべきだ。
だが、こやつは従わないだろう。
「何のことだ。皇子とわしだけが貴様の主だ」
左手を持ち上げ、無意味に指だけを動かし始めた。
「神様を軽んじるんだね。宗旨替え?」
口角を吊り上げ、粘つく声音。
あからさまな挑発だ。
神の意志の存在を、確信している。
「闇魔道の師であり、命令権を持つわしに対して不遜だな。
その様な者が、皇子の指南役気取りか。
グランベルの格も堕ちたものだな」
このような駆け引きは久しぶりだ。
互いの急所を探り、突き刺す頃合いを見計らう。
止まった心の臓が熱を生み出し、それを信心で制御する。
幸い、こちらに失うものはない。
神へと捧げる喜劇として、演者も楽しませて頂こう。
「礼儀は使い分けてこそ。
マンフロイさんなら、この程度流せるでしょう。
昔と同じだけの忍耐力があるかのテスト」
左人差し指を突きつけてきた。
蜻蛉取りでもするように、その先を回し始める。
「生意気さは変わらないな」
瞳は微動だにしない。
呼吸も一定だ。
厄介ではあるが、能力は証明されている。
これ以上純化を妨げられては、面倒だ。
一方的に処分するのでは、皇子に疑念を抱かれる。
立場へ潜り込む手腕は褒めてやろう。
我らが潜伏していた時期に居れば役に立っただろう。
「皇子は神書と合一なされようとしている。
所持することで進行する。邪魔立てするな」
これで消す口実が出来た。
遠ざけるようであれば、叛意有りとして処せる。
神の書への皇子の依存も加速する。
「回答になってない」
誤魔化されないか。
左手を机に置いた。
これ以上、道化を気取るつもりはないか。
「あなたは、皇子と神書、そのどちらとも別の思惑で動いているように見える。
そして、それは私の願いにも一致するはず。
何か間違っている、師匠?」
……ほう。
死者が何を願う。
―――――
「わしはロプト教団の最高司祭。
神の御心のままに振舞うのが道理」
「分からないのは、よほどの愚か者。
上手く皇子を育てたね。自分の変化にも気づいてないよ。
一人称すら変わっているのにね」
器は順調か。
神書に忌避感が無いのであれば、どうとでもする。
「だとしたら、どのようなものだと考える」
「ロプト帝国の長期的な安定。あるいは、それに付随する利益」
目線で先を促す。
「反乱分子、特にヘイムの末裔は最優先で狩るべき。
ロプト神の天敵にして、怨敵。
それをあえて泳がせ、延期して、バーハラで処分する。つまり、神への背信行為」
軍略と政治でしか捉えられていない。
教団内部の情報は制限できているようだな。
「ワンパターン。
まるで、アルヴィス様の二番煎じ。
あるいは、同じ手しか思いつかなかったの?」
一面では正しい。だが、表層だ。
異教徒らしい、愚かさ。
「わしは、貴様を買い被っていた。
まともな判断力を昔は持っていただろうに」
ズィーベンは何でもないことのように、笑みを作った。
「家畜、あるいは軍馬の管理で思いついたのかな?
それとも、貴族の家に入り込んでいたの?」
……まさか‼
「私は学園での経験。
小遣い稼ぎと、隠し子探しにお役立ち。
聖なる血は先祖が分からなきゃ、恋愛も出来ない。
聖戦の頃まで遡るから、5世代分の情報を探すのは大変だったよ」
禁忌にまで考えが及んだか。それでこそだ。
一方的な蹂躙劇には神も食傷気味であろう。
「貴様の思い出話なぞ、興味がない」
「私を信じられないのは分かる。
だから、取引。ヘイムの直系、いいやロプトの末裔と言った方がいいね。
その居場所を教える」
ユリアの所在地まで、掴んだのか。
この7年、教団ですら得られなかった情報を。
思わぬ拾い物だ。
真偽はともかく、捨て置く訳にはいかない。
だが、如何にして。
こやつは帝都に縛り付けていたはず。
これだからヴェルトマーには、気が抜けぬ。
だからこそ、興味深い。
神もお喜びになるだろう。
―――――
指が一つ立てられる。
「解放軍が倒れるまでは、1つでいい」
「単独行動と必要な裁量権が欲しい。
マンフロイさんにとって、ユリウス様の教育はどうでもいいんでしょ?
それどころか、余計な知識を持たれたくない」
わしの掌で転がせるのであれば、どうとでもできる。
だから、貴様の教育にも口を出していない。
「不敬な物言いだな。
だとしても、貴様に自由を与える必要はない」
どのようにして、わしからもぎ取る。
「期せずして与えられた外出で、ユリア皇女の居場所を見つけた」
……イシュタルの救援か。
皇子の仕業で外へ赴いていたのか。
僥倖だな。正しく、禍を転じて福と為す。
灯台下暗し。盲点だったな。
バーハラまでの道のりで発見したか。
今のこやつは、顔も知られておらぬただの小娘。
匿う者の懐にも潜りやすい。
それ程時間をかけずに帰還したあたり、どこぞの有力者に取り入ったな。
そこでユリアを見つけたか。
「ズィーベンとして正面から解放軍に取り入った。
これが使い分け。あなたたちには不可能な手法。
昔の師匠でもコソコソしか出来なかった」
ユリアは奴らの内部に潜んでいたのか。
皇子が壊滅させる前に、回収せねば。
神の側面が顕在化した後では、貴重なロプトの血を持つ女が消されてしまう。
解放軍はトラキアとの戦闘中だったはず。
彼の地の司祭に確認させるとしよう。
「これからグランベル帝国は、あなたの計画通りに落陽を迎える。
団員の官僚教育、いや統治者としての育成にはまだまだ時間が必要でしょ?
実践法の蓄積すらない。それ以前の段階」
宮廷情勢から見破ったか。
帝国再誕後の立場を確保しようと必死だな。
だが、時を要することは認めよう。
ロプト帝国は教徒によって運用されてこそ。
既存の者は改宗するか、奴隷にならねば管理には携わらせない。
「成果だけは褒めてやる。
だが、貴様を泳がせる理由にはならない」
指が付きつけられる。
「統治を一元化しようとするから間違える。分割すればいい」
「気に食わないだろうけど、率直に言う。
あなたたちは、エッダ教と同じ轍を踏む。
聖俗を併せて管理するなんて不可能。片方が形骸化する」
逆徒どもの迷信と混同するとは、業腹だ。
しかし、痛い所を突く。
前のロプト帝国は、それが原因で滅びた。
政の歪みからマイラなぞが現れたせいで、聖戦士の土壌が出来てしまった。
「我らは闇と恐怖で支配する。
教徒以外を奴隷に貶め、反乱の芽生えすら許さない」
どう返す。
神によって統治されれば、分離もない。
「おかげで聖戦士が誕生した。
次は、何個の神器が貰えるかな?
私も一度は使ってみたい」
未来を見据えている。
既に、戦後のその向こうに取り組んでいるつもりか。
わしが排除しようとしていることなぞ、理解できているだろうに。
教団員のように、希望からの楽観視ではない。
その先、歴史の再演を警戒している。
わしに二度目の奇跡を想起させ、何処へ誘導するつもりだ。
「迂遠な物言いだな」
「血と神器も教団で管理すればいい。
今ならロプト帝国の繋ぎとして、統治機構までついてくる。
十二神の介入すら跳ねのける戦力も保持できる」
ズィーベンの胸の上下は、一定だ。乱れはない。
計算あっての発言か。
一度起きたこと。
二度目がないとは言い切れない。
蛇共への対策は必須だろう。
認めよう。
わしすら考慮していなかった。
教徒の中に、この次の聖戦まで視野に入れている者は居ない。
だからこそ、貴様の手足は捥がれたままでなければならない。
別の絵図面は世界に必要ない。
下女として生きる以外に、貴様の道はない。
「バーハラで終わりにすると知っているのだろう。
それまでに、そ奴らは解放軍の手で粛清される」
ロプトの血以外は不確定要素だ。
蓋然性よりも、確実性を取るべきだ。
「直接見てきた。
彼らには武力しかない。シグルド軍みたいだね。
役人たちのほとんどはそのままだった。
現実問題として、行政を回せるわけがない」
我らは中央を基盤に、各地へ監督員程度しか教団員を配置出来ていない。
敵地をくぐり抜けてきた、それは事実のようだ。
「地方など捨ておけばよい。
神が再臨されれば、どうとでもなる」
「面倒事を神様に押し付ける。信心が足りないね。
運命論ばかりのエッダ教でも、努力はするよ」
異教徒が説法か。
「知ったような口を利く」
「教えてくれなかったのは、あなたでしょう?」
この図太さ。
この手で、叩き折りたくなる。
「アルヴィス様に取り入って今がある。
血なんて、そうやって利用すればいい。
何が気に入らないの?」
我らのみが頂点に立つ。
その側に末裔どもが寄るはずがない。
神器とその血に宿る力は有用だ。
奴らはその実がどれだけ醜くかろうが、自らを聖者と疑わぬ。
「貴様は異常者のはず。
わしと心中する覚悟を持っていた。翻意など、考えられぬ」
疑念を抱いただけで、排除にかかってきた貴様。
あの姿を見れば、我らに摺り寄るなど信じがたい。
情を踏み潰し、主の御心にのみ従う。
形は違えど、信仰心のようなものまで感じた。
こちらに来れば、良き司祭にもなることも不可能ではなかった。
「死んで初めて分かることもある。
私は、どうも裏切りが許せない質だったらしい。
消し炭にしてやりたくなる」
鷹の目だ。
あの男と同じ、焼却する得物を定める視線。
ようやく、感情を見せたな。
―――――
瞳だけが熱を持っている。
一切微動だにせず、言い放った。
「私の最後は知っているんでしょ。
王女の身代わりで串刺し。使い捨ての盾として消費された。
裏切り者として紹介されたせいで、真っ先に斬られたよ」
掘り起こした土と死者の匂いを思い出す。
左腕は切り落とされ、腹部には掻き回された痕があった。
全身に殴打も見られ、怨恨が刻み込まれた死体だった。
加えて、背中だけは炭化して回収できなかった。
ヴェルトマーに宮廷司祭を送り込もうとした姉を殺し、それで補った。
厄介だったその父も、トラキア半島へ都落ちさせた。
「事前に何も伝えられてなかった。
文字通り生涯尽くしたのに、裏切られた」
何故だ。
アルヴィスは何故こいつに伝えなかったのか。
……弟には大層甘かった。それと同じ扱いか。
アルヴィスはこやつにかなり心を許していた。
大方、黒い部分を隠したかったのだろう。
それで失ったとは、何とも愉快だ。
「反乱軍もそう。
わざわざ直前に出向いて助言をしてやったのに、素手の私を殺した。
嬲られて、腹を何度も何度も抉られたよ。修復した師匠のほうが詳しいでしょう。
主犯でもない、そこにいただけの女にあそこまでする?」
記憶では、こやつは伝令に出たていた。
アルヴィスの密通を警戒し、奴等の天幕に潜ませていた団員から報告を受けた。
「貴様の恨みは理解した。
だが、何のために教団に与する」
理屈だけは通っている。
しかし、貴様の忠誠はわしが体感した。
言葉なぞ、いくらでも弄ぶのが貴様だ。
「自らの手で復讐はさせてもらえないんでしょ。
ならば、その未来を塗りつぶすのみ。
奴らの子孫を、治世の歯車に落とし込む。
管理された家畜として、系譜を配合表にする」
沈黙が、降りる。
血統だけは残す腹積もりか。
愛憎の果てに、そのような結論に至ったか。
恨みを叫ぼうが、そこから抜け出せていない。
正気と狂気が折り重なり、歪なまだらを描いたか。
わし好みの作品だ。神にもお気に召していただけることだろう。
「私のこと、異常者と言ったね。末裔たちの方だよ」
瞳を閉じ、こぶしを握っている。
「わざわざ紛らわしい名前を双子に付けるくせに、何も伝えない恥知らず夫婦。
美談として利用するなら、まともな扱いをすべき。
解放軍からの逃亡でだって、何の役にも立たなかった。
ただの感傷、慰めに、私の名前を使いやがった」
魔力が高められ、喉が締まる。
胸が圧迫される。
「奴らは、反乱軍に加入して私に迷惑しかかけなかった。
挙句、その子孫が持て囃されて、のさばっている。
真っ当に働いた私だけが、蔑ろにされてばかり」
「これの何処が異常だ‼」
いつの間にか、懐へ指を伸ばしていた。
ズィーベンが一呼吸し、唸るように言い放つ。
「狂っているのは、奴らと世界」
床に押し付けられるように感じられる。
背中を焼かれた痛みが、呼び起される。
「私はようやく背中の聖痕から解放された。
だったら、やることは決まってる‼」
馴染み深い心地よさがある。
暗黒が混ざったというのも、強ち嘘ではなさそうだ。
ここまで、魔力が育っていたか。
あの時のように魔導書を暴発させたわけでもない。
自力だけで、これほどまでに。
「……少し、はしたなかった。
魔将の欠点だよ、何とかして。外交がしづらくなる」
圧が消え去り、誤魔化すようにこちらを責めてくる。
ズィーベンがこの部屋に来て、初めて目線を逸らした。
悪くない。
しばらくは、楽しめそうだ。
物事を恣意的に捉える割に、実務は担える。
教団はその手の仕事に向かぬ。
戦力としても、想定以上だ。
ただ炎上級魔法を使える程度だと見積もっていた。
これなら、皇子の盾以上に働ける。
どちらにせよ、命は皇子が握っている。
いつでも壊せる。
「それで良い。
負の感情こそが、我らを強くする。
わしらは世を満たす暗黒の力で動くのだ」
不意に、伝えるつもりのなかった真実が口から零れた。
こやつに指導するなぞ、いつ以来か。
わしも脇が甘くなったな。
これも、張り合いが無くなったせいだ。
「……なんだか、懐かしい。
闇魔法もこうやって教えてくれた。
気に入らないことを叫びながら暴れるのは、爽快だった」
泳がせるには、多少の不安が残る。
内部に取り込み、下の者の刺激とすべきだ。
何なら、手ずから育成してやっても良い。
さすれば、負の感情が醸成される。
「貴様も教団として働くか。
闇魔法も上級を使えたはずだ。
ビショップに成れたのだから、そのままダークビショップになれ」
「私の価値を潰す気?
アルヴィス様が討たれた後、隠し子ユリスとして名乗りをあげる。
ヴェルトマーの残党をまとめ、反教団派として立つ。
癒着が疑われる者を御旗になんてしない」
悪くない手だ。
不老を逆手に取るか。
皇子の姉と申し出ようが、外見と傍系の力で否定はされまい。
守護した主家を簒奪し、教団に阿らぬ者どもを糾合するか。
正義の紋章などというおためごかしを使いつぶすつもりだな。
外道よりも、悍ましい策を練りおる。
アルヴィスへの当て擦りには、どれ程の影響があることか。
「神書が武、師匠が聖。私は俗を制する。
お互い苦手な所を補い合えばいい」
支配欲の増加。
昔よりも、分かりやすくなった。
いづれ、牙をむく。
だが、計算の出来る獣だ。
それ以上に帝国が盤石であれば良き歯車となる。
座興の玩具にしては、利便性もある。
いざとなれば、いつでも捨てられて不便もない。
「何処から手を付ける」
「ヴェルトマー。使える手駒を知りたい。
私が頂くんだもの、性能と数は把握しておくべき」
「良いだろう。元より奴への当てつけだ」
「ユリア様も見せびらかしたい。解放軍から攫ってきて。
人質にして、アルヴィス様を処分する。
正義のためなら、裏切る位はしそう。その抑止」
あからさまな発言だ。
全く、こいつの試したがる性質だけは変わらない。
むしろ、この性格だからこそ闇に適したのだろう。
「ナーガ直系を用いた騙し討ちか。
舌の根も乾かぬうちに、裏切りとはな」
「信頼は相手によって使い分ける。ユリウス様にはこんなこと言えない。
だから、私を前と同じように呼んで。
既に解放軍相手にズィーベンを名乗っている」
どちらからともなく、視線を合わせ、笑みがこぼれる。
多少の波が無くては、つまらん。
盤面は既に終局。
多少の変数では揺るがない。
直系であれば、干渉できたであろうに。
「ユリスよ、奴らがトラキアを超えて自由都市群にたどり着いてからだ」
貴様を使ってやる。不要になるまでは。
価値をどこまで示し続けられるか、試してみろ。
神とわしを最後まで飽きさせるな。