その部分を流しても問題ないようにはしてあります。
前々から取り決められていた、アルヴィスがアゼルに魔法を見せる日。
最初に訓練場で実演し、兄が補助しながら炎魔法を放出する感覚を体感させる予定だ。
中庭に集められて溶け残った雪が標的にはちょうどいい。
視覚的な変化を伴えば、あの子にとって分かりやすい。
きっと、あの子達にとって良い思い出になる。
それに、フリージ家ほどじゃないだろうが、
アルヴィスだって弟に良い所を見せたいはず。
あたしがいなくなれば、あの兄弟しかヴェルトマー家に聖痕*1は残らない。
万一、当主に何かあれば、アゼルが継ぐ。
同じくファラの証を持つユリスでも家が違う。
一緒に教えてきたが、今日だけはそうはいかない。
代わりに、あたしがユリスへ種火を授ける。
すっかり教師としての考えが身についちまった。
とんだ花嫁修業もあったもんだ。
ため息が出るね。
―――――
ユリスをあたしの部屋に呼んだ。
いつものナーサリールームじゃない。
この家を出る前に、ヴェルトマーの女として残してやりたい。
最近は嫁入り前の繕い物を手伝わせながら針仕事を仕込んだ。
あの突拍子もなさに反して、意外と筋は悪くない。
言われた通りに縫えてる。
でも、手元ばかり見る細かい作業よりもファイアーの方が派手であの子好みだろう。
侍女へ言いつける。
「今日は茶葉と砂糖を用意しな。
こっちでやるからあんたらは下がって、リーネの所で嫁入り作業の手伝いだ。
……あんたらも、もう少しでここからいなくなる。
その前に、周りと話をしておきな」
―――――
部屋にユリスがやってきた。
長くなって集中が切れるとまずい。
早速切り出す。
「今日はうちの家紋にして家是、
炎の紋章について教えてやる。
いつも以上に固い話だ。緩んでいい」
首をかしげている。
「まさか、あんたにこの話をするようになるとはね。
ヴァルターにでもさせようと思ってたんだが、あいつは所領だ。
アイーダは当主の穴埋め。縫い物ができりゃ引っ張ってきたさ。
あたしがこの忙しい時期にわざわざ代わってやるんだ。
忘れるんじゃないよ」
あたしの冬の仕事だった所領の管理もあのハゲ親父に任せた。
アルヴィスやアイーダといった若い世代が十分働けるようになったおかげだ。
あたしが居なくなっても、問題ない。
「今日だけは特別に紅茶を淹れてやる。そのやり方も後で覚えな」
「……果実茶がいい」
「ハイビスカスとローズヒップがご所望かい?
今日は紅茶にしときな。」
―――――
紅茶を口に含み、カップを置く。
その微かな音に合わせ、ユリスがこちらを向く。
「おさらいからだ。
大体100年前のこと」
子供の頃、母様に何度もねだった物語を暗唱する。
「あたしたちのご先祖様、ファラ様は聖者ヘイム*2を助け、
暗黒神ロプトウス率いるロプト帝国を倒した。
彼らが窮地に追い詰められた時、十二神から神器とその血を聖別された*3。
その力で暗黒帝国を打倒し、今に至るってわけだよ」
得意げな笑みを浮かべるユリス。
この程度は誰でも知ってる。
「さらに100年ほど前。皇族マイラの反逆*4。
ファラ様の先祖は、そこにも手を貸していたと伝わっている。」
意外そうなユリス。座学に関しては仕込み切れなかったね。
「正義の灯を守り、絶やすことなく継承し続けた。
ファラ様はそれを広め、大火へと育て上げたことから、神器ファラフレイム*5を賜ったとされている」
ユリスは無駄に紅茶をくゆらせている。
誇らしげだね。
あたしもそうさ。
聖痕が偉人たちとのつながりを証明してくれる。
あたしらが何かしたわけじゃないが、無条件に胸を温める明かり。
この話を聞いた時は、あたしは周りに見せびらかしたもんだ。
母様には叱られたね。
「アルヴィスやあたし、それにアゼルが正装する時に付ける家紋があるだろ」
一拍置く。
「象徴さ。
常に正義の炎を携えろって、ヴェルトマー家は戒められてる」
「うちに仕える古参は、ファラ様をお守りすべく仕えた者の末裔だ。
紋章の元に集い、主家の正義に殉じる覚悟を持つ」
随分と真面目な面をするじゃないか。
そんな顔も出来るようになったんだね。
少しだけ茶化すように付け足してやる。
「この件をあんたの父親に語らせると長い。
気になるなら聞いてみな。あたしは絶対に巻き込むんじゃないよ。」
まだ固い顔をしている。
目先の言葉に惑わされなくなったね。
「アルヴィス様とお父様に姉さま、
それにヒルダ様は別のことをしてる」
偶然だろうが、鋭いところを突きやがる。
大人たちは皆違うものを目指してる。それを読み取ったっていうのかい。
紅茶で喉を潤わせる。
「それは立場と職分の違いさ」
正論で煙に巻く。
「顔が渋いよ。
お砂糖入れ忘れた?」
ストレートがあたしの好みだよ。
「あんたのそのちっちゃな頭を破裂させないように気を使ってやってるんだ。
感謝しな」
両頬を自分で抑えるユリス。
「小顔って褒められた。
ありがとう」
相変わらず生意気で、かわいげがない。
感情をかき乱すことに関してはあたし以上だと認めてやる。
「……難しい話だ」
カップの中には、何も残っていない。
ユリスはまっすぐにこちらを見つめている。
「だからって知らんぷりをするのは正しいの?」
今のあたしには、答えられない。
「……その前に紅茶の入れ方を見せてやる。
あんたも今度7つになるんだ。
時期にリーネから教わるだろうが、先に覚えて損はない。
あいつから厳しく指導されたくなきゃね」
こちらの所作を凝視するユリス。
よっぽど堪えるらしい。
リーネの指導は年々厳しくなっている。
まるで侍女として完璧を求めるかのようだ。
自分の知識を教えるのが楽しいことには同意する。が、あれは過剰だ。
あたしの時は教師からあれほど強く教わらなかったが、
平民上がりの侍女ってのはそういうもんなのか。
家を思えば、内向きに強い女が増えるのは喜ばしい。
あたしが抜ける分、重要度が高い。
普通、先代の側室みたいな立場ならそれを隠し持つもんだけどね。
リーネもまたエムブレムに寄り添う覚悟を持った仲間ってわけだ。
先代の女を見る目だけは評価してやる。
「砂時計が落ち切ったら、ホストが注いでいくんだ」
2杯目を用意しながら、考えを整理する。
だからといって所作が崩れないよう気を回す。
あたしもそんなに社交する方じゃないんだ。
―――――
「ここからは、家臣は考えなくていい。
アイーダだってそうだ。
それでもというから話してやるんだ」
立ち上る湯気には目もくれず、あたしだけを見つめている。
「我が家はグランベル王国の近衛*6だ。
それには、他家が悪さをたくらんでいないかの監視、
暗黒教団のあぶり出しも含まれる。」
この子は将来、ヴェルトマーの外交札として外へ嫁ぐ。
それまでにどこまで家業に関わらせるか決まっていない。
精々、使者として各家へ赴くくらいだろう。
嫁入り後にも役に立つ。
「なんか正義っぽくない」
「正義は綺麗でも、守る者はそうはいられない。
美しい程、その者はみじめに思える。
それでも信念を持ち続けられるファラの系譜が担う」
身近な例えがこいつには効く。
目の前のカップを持ち上げる。
「紅茶だってそうだ。
飲む方はこの紅を楽しめばいい。だけど、作り手は違う。
毎日汗と泥にまみれる。そして産物は残らず、あたしらの元へってね」
「なんでみんな同じ方を見てないの?」
「思い描く正義が違うからだ。
いろいろあったんだよ」
子供に聞かせていい話なのか悩む。もう少し大人になってからすべきだろう。
だが、時間はあたし達を待ってくれない。
ここを逃したら、この子は芯を見つけられなくなる気がする。
つまらない話になる。
その前に熱を身体に入れておく。
「先代当主ヴィクトル。
つまり、アルヴィス・あたし・アゼルの父親が訳アリでね。
全員母親が違うことからも分かるだろ。女好きだったのさ」
「先代は当主としても優れていなかった。
アルヴィスの半分も仕事出来なかったんじゃないかね。
神器を使えるだけのボンクラ。
それが世間での評価さ」
凡庸だった。それは否定しない。
それでも正義のために汚れるのは耐えられていた。直系*7だったからだ。
でも、周りからの期待に押しつぶされたんだろうね。
ファラの再来とまで言われたお爺様。
命令を十全にこなせるほどの家臣団。
次代への重圧はいかほどだったんだろうね。
領地を回し、子供たちを育てて分かったよ。
辛かったんだろう。
あんなことになるくらいなら、離れるんじゃなかった。
この子みたいな飛び道具じみたことでもやればよかったんだ。
そうすりゃ、蔑む視線をあたしが肩代わりしてやれた。
「だから、その頃を生き抜いた奴らは、皆自分だけの柱を立てた」
推測も混じるよと付け足す。
「ヴァルターはファラの系譜を守ること。
血が絶えなければ、その時の当主が愚かでも次がある。
次が駄目でもさらにその次がある。
ただの家臣を超えた、重臣らしい覚悟だ」
各地へ渡り、炎の恐怖を叩き込む、朱鷹の信念。
当主すらも止まり木として見る側面を含んでいる。
「アルヴィスは正しき世界を作ること。
当主らしいスケールの大きさだね」
……家の重さを押し付けちまったからかね。
愛で妻を縛りつける父。その果てに、母は消え去った。
残されたのは、半分しか血のつながらない赤子と重責だけ。
その苦しみに取り入ったナーガ*8使い。
これだけは、墓まで持っていく。
仰ぐべき聖血が信じ切れない。
だから、ロプトの末裔すら世界に組み込もうとしやがる。
荊に覆われた道へ躊躇なく足を踏み入れる、
全く、ファラの系譜らしい。
今度こそあたしが側で支えてやりたかった。
それよりも、嫁いだ方が利が大きい。
本当は姉としてあの子にも甘えさせてやりたかった。
……あたしの腕は長くない。
領地の管理と子供の面倒を見るだけで手一杯だ。
カップを傾け、眉を顰めるユリス。
「ヒルダ様のは?」
黒髪を指でいじる。
「あたしはヴェルトマーとして半端者さ」
この髪と同じ。
「何をしてでも周りの奴らを安心させなきゃ始まらないと思ってる。
あんな時代を過ごしたせいだね。
お題目なんざ掲げる気なんてなくなっちまった」
紅茶を飲み干す。
熱が足りない。
「ユリス、どれが間違いだ。
どれが正しい」
「わからない」
ユリスは自分のカップをあたしのと取り替えた。
「お父様は、きっと間違ってない。
でも、アルヴィス様を神器扱いは冷たい」
「アルヴィス様はおかしい。
話すときは相手を見るよう習った。
世界じゃなくて人を見るべき」
「ヒルダ様のは良いことだと思う。
でも、悪いことはしちゃだめ」
紅茶を戻してやる。
「……だからこんな話、気にするなって言ったんだ
もう一杯淹れてやる。
あんたのカップ底に溜まった砂糖で甘くなるよ」
「いらない」
また手元に戻ってきた。
テーブルマナーはまだまだだね。
「今は正義がわかんない。
だから、みんなに聞いてくる」
「それでアゼルと話し合って、わかんなかったらヒルダ様にもう一回聞く。
見ないふりは多分正義じゃない」
「みんなやってるんだからさ、私にもさせて」
ユリスは立ち上がり、駆け出していく。
呼び止める暇すら与えやしない。
退室は許可を取りな。
カップを下げさせようと思ったが、侍女たちがいないことを思い出す。
あたしが洗い場まで持っていったら、あいつらが白い目で見られちまう。
仕方ないから、1人分だけ3杯目を注ぐ。
ぬるい。
あの子にも辛いことを押し付けちまったかもね。
ユリスもいつか外交札としてどこかへ嫁ぐ。
面倒なことを考えなくても何とかなる立場だ。
それなのに真剣に向き合おうとしている。そこまで頭が回らないんだろうね。
たとえ思い悩んでもあの子なら大丈夫。
きっと、今みたいに飛び出していく。
先代のようには決してならない。周りが止めるだろう。
あたしもまだ残せるものがあった。
黒髪を払い、残りの紅茶を一息で飲み干す。
熱が失われた代わりに飲みやすい。
カップを置き、立ち上がる。
あたしも嫁入り道具の準備に行こうかね。
……あの子もこうやって、誰かに種火を託していくのかね。
原作ではそれがあるだけで対応した武器レベルが上がる。
クラスチェンジ以外で上げられないので重要。
神器を授けられた人たちのリーダー。
過剰な奴隷政策を改革しようとしたが失敗し処刑される。
後の十二聖戦士の先祖も救った。
現在の世界宗教エッダ教もこの人が居ないと産まれなかった。
装備時に魔力+10、守備+10、魔防+10。
原作において、武器単体であれば最も威力が出る魔法。
本作では設定を拡張している。
原作及び本作では辞書的な使い方とは異なる。
ヴェルトマーではアルヴィスが該当する。
装備時に技+20、速さ+20、守+20、魔防+20。
原作最強装備。グランベル王家が継承。
原作についてご存じですか?
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聖戦の系譜をプレイして覚えている
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触ったことはある
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FEシリーズはやったことがある
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FEシリーズに触れたことはない
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