枠外にこれ以上余計なことは書きません。参考画像は付けます。
最終話に活動報告をつけておきます。
ユリウス
https://guide.fire-emblem-heroes.com/03099001000249-2/
セリス
https://guide.fire-emblem-heroes.com/03051001000840-2/
夜が明ける前から支度をさせられて、帝都から出立する。
城から離れた場所に天幕が設置してあった。
その中は、私が過ごすのに相応しくしようと努力したであろう跡が見て取れる。
書斎で使っている物と変わらない触感のソファー、様々な菓子、盤上遊戯の詰めパズルもある。それに普段使っている枕もベッドに用意されていた。
私が過ごすのに最低限は備えられている。
ベッドへと跳び乗り、菓子をむさぼる。
だが、このような場所にわざわざ出向かされたこと自体が気に食わない。
イシュタルも先の戦闘の疲労から一緒に来ないとのことだった。
ズィーベンが言うには、女には色々あるとのことだ。
無事であれば問題ない。ただ、つまらないだけだ。
隣に居るだけでも良かった。
ここにはアリオーンも居ない。
話し相手になる筈のズィーベンも、この場に着いてからは席を外してしまった。
これ程強く退屈を感じるのは、最近までの楽しみのせいだろう。
アグストリアは、本当に心が躍った。
口うるさいズィーベンも居なかったから好きなだけ私を発動出来た。
高所から見下ろして逃げまどう様を見るのは、胸がすくような心地がした。
黒龍の私を少し動かすだけで反対方向へと全ての人間が逃げ惑う。
大規模な砂時計で遊んでいるようで、理由も無く楽しかった。
人々が身を潜めた避難所に転移して、顔を見せてやったのも良かった。
その場で蹲る者、私を崇拝するように五体投地する者、挑みかかって来る者。
そのどれもが好ましい。
だが、軟弱すぎた点だけは頂けない。
大半は魔力をほんの少し高めただけで直ぐに気絶してしまった。
悲鳴すらあげられなくなってしまう者が多くて、足を運んだ甲斐がなかった。
隠れることを選んだ戦士にアリオーン程は望むべくも無いと分かっている。
だとしても、武器が靄に弾かれて壊れた程度で止めるとは。
ヴァイスリッターならそれでも殴り掛かって来る。拳が砕けようが戦う。
命がかかっているのだから、そのくらいは足掻いてみて欲しかったものだ。
私だけの天幕に、外から声がかけられる。
「皇子殿下、ズィーベンにございます。
解放軍が決戦場に到着した御様子です。出立のご準備をお願いできますでしょうか」
ようやくか。
世界中へ負の気を広めた功労者達を労ってやろう。
おかげで私もここまで力を取り戻せた。
奴等は神器を持っている。
強者はどのように足掻いてくれるのかを楽しむとしよう。
―――――
出立する前に、天幕内で見た目の確認をされた。
鏡台の前でズィーベンに私の髪が軽くとかされる。
「皇子、覚悟はいい?」
「私は何も構える必要は無い。
お前の力は要らない。死なない程度に離れておけ。
戦いの後も眷属として働いてもらうぞ」
鏡に映るズィーベンの瞳が伏せられる。
「はぁ……。そうじゃないでしょ」
優しく頭が叩かれる。
不遜極まりないが、ここまでのお膳立てはこいつの功績が大きい。
この場を整えたのも、忌まわしいナーガの継承者ユリアを見つけ出したのもこいつだ。
その働きに免じて、この場は耐えてやろう。
ズィーベンが椿油で髪を整え、後ろ歩きで離れていく。
私もそちらに向かって座り直す。
少し離れた位置で指を立て、私の全体を確認している。
「見た目は問題なさそう。
ここからは歴史に残る、最後の聖戦にするんでしょ?」
ククク……。
正しくその通りだ。
私が全ての継承者を滅ぼし、ただ一人となる。
そして、唯一の神としてこの大陸に再臨する。
その祭事を飾り立てるために捧げられる聖戦だ。
ズィーベンが外へ短く合図を出す。
黒いローブで全身を隠した者が、外から天幕の入口を開いて抑える。
吹き込んできた風が私の頬を撫でる。
―――――
その者とズィーベンに先導されて決戦場に着く。
その一帯は大地が均されていて、雑草すら生えていない。
このような場所が帝都周辺にあったとは知らなかった。
「ユリウス皇子……」
少し離れた位置に青髪の青年が立っていた。
その背後から距離を置き、何人もの戦士が各々の得物を携えている。
あれらが今代の反逆者共か。
「よくぞここまでやって来た。
その功を称えて、神が直々に手を下してやろう」
腕を広げ、マントを払う。
正面の青髪が剣へと手を伸ばす。
良い気概だ。私の前でも戦意が残っている。
そうでなくては、つまらない。
後ろから大きな咳払いが聞こえる。
口うるさい奴だ。
「黙れ、今始める」
「まだ早い。
アリオーン様が来ていないでしょう」
折角、楽しみが始まる所だったというのに。
奴はいつまで時間をかけている。
―――――
「セリス皇子殿下も驚いたよね。
悪いけど、もう少しだけ待って欲しい」
青髪はズィーベンの言葉を受け、背筋を正した。
そして、聖剣ティルフィングから手を離した。
こいつはどうして敵の言葉を真に受けているのだ。
「何故だ。私が敵と相まみえた。それだけで開戦には十分だ」
背後から大きなため息が聞こえる。
「この戦いは、結末がどうなろうと永遠に歴史に刻まれる。
それなのに竜騎士ダインの末裔だけ仲間外れなんて論外。
政治だけでなく、社会からも蔑視されるに違いない。
何より、余計な変数は管理に入れたくないでしょ」
全く、面倒だ。
だが、アリオーンであれば待ってやってもいい。
それにしても、あいつは遅い。
奴なら解放軍など直ぐに蹴散らせるだろう。
それなのに、まだシアルフィ城制圧から帰って来ない。
おかげで天幕で待つのがつまらなかった。
居れば盤上遊戯でも、模擬戦でも、何でもいいから時間を潰せた。
大方、ついでにエッダ城とドズル城も取り返しているのだろう。
ズィーベンが待つあたり、それも既に終わらせてこちらへ向かっているのだろう。
「……分かったよ。
これは世界の行く末を決めるものだもんね。
アリオーン王子を仲間はずれになんてできない」
奴を青髪も知っているか。
……そういえば、トラキアで戦っていたか。
神器を三つも使ってアリオーンに負けていた。
「暇つぶしとして、思考実験でもしようか。
どうすれば社会から神器の影響を無くして、聖血の恩恵だけを残らせるか」
ズィーベンは何がしたい。余興にしても場違いだ。
……いいや、悪趣味な奴だ。
これから死にゆく反逆者共への当て付けか。
聖戦の後、使用者の居なくなった神器と傍系だけになった世界を語らせるつもりだ。
こいつは本当に相手を愚弄する。
我が眷属として殊勝な奴だ。
―――――
「ユリス、一体どうしたの?」
青髪はこいつのもう一つの名前を知っているのか。
誰が漏らした。
「私はズィーベン。いい加減覚えて。
セリス皇子殿下も歴史書に名前が覚えられないなんて記録されたくないでしょう?」
それこそが我が眷属の名前だ。
本来なら他の名等必要ない。温情で許しているだけだ。
そこは弁えているようだな。
「ごめんなさい……」
青髪はこいつに弱みでも握られているのか。素直すぎる。
だが、幾何もせず潰える命。気にすることもない。
「統治は単純であるほど容易い。
聖血を持つ人間は、身体や戦闘能力が比較的優位だと経験的に実証されている。
聖血が広まれば、人口の病に対する抵抗力が上がり、生産能力が向上する。
統治者にとっては嬉しいこと尽くめ。産まれた後に何も追加する必要もないのも嬉しい。
道具も教育も与えずにボトムアップ出来る」
些事だ。
人間など放っておけばいくらでも増える。
そこまで気にせずともどうとでもなる。私が気に掛ける必要は無いな。
そこまで言うなら、ズィーベンに委細任せれば良い。マンフロイも上手くやるだろう。
「ズィーベンは時々残酷すぎるよ。
あの時も言ったけど、人であることを忘れちゃいけない」
私の見えぬ所でも青髪を甚振っていたのか。
そんなことがあったのであれば、私へ伝えるべきだ。
きっと、面白い催しだっただろう。
「空論に決まってるでしょ。これは上に立つ者への授業。
一見良いこと尽くめだけど、この理論には管理者にとって大きな問題を孕んでいる。
何だと思う? ヒントは前のロプト帝国」
下民まで血が広まるのに時間がかかる点だ。
人間は他の家畜のように一回で何頭も産めない。成長するにも時間を食う。
「……だから、神器なんだね。
そんなに血が広まってしまえば、直系がどこで産まれるか分からなくなる。
今みたいに特定の家が決まった神器を受け継ぐことがなくなる」
青髪は意外と頭が回るのかもしれない。
これなら、どんな小細工をもって抵抗してくるのか楽しめそうだ。
ズィーベンの話はつまらないが、青髪の反応を観察するとしよう。
「それもあるね。
別解としては、血が薄まり過ぎる。
これはロプト側の歴史を読み解いた私の解釈だけど、聖痕もいずれは発現しづらくなる」
我が血が薄れるとでもほざくか。
「ロプト帝国は200年近く続いた。
末期に顕著だけど、近親交配が頻発していた。
これはロプトの血の濃度を保つためだと推測できる。
まあ、その目標はなんとか達成出来た様だけど、近交の悪影響で政治が安定しなかったんだろうね。
セリス皇子殿下も軍馬に跨っているんだから、これくらい分かるでしょう?」
「ユリ……ズィーベン。
言っていることは正しいのかもしれないけど、言葉は選ぶべきだ」
「現在はロプト帝国の滅亡から130年経った。その予兆ともとれる物も出ている。
以前は長子が継承者になることが常だったのに、今では例外も増えた。
第二子なのに直系のイシュタル様、ウル傍系の息子なのに印すら出なかったスコピオ様。
イシュタル様はファラ傍系も出なかったあたり、興味深いね。
反対に、私みたいな先祖返りみたいなパターンもある。管理が面倒だね」
そう捉える者もいるのか。
神の配剤を矮小なりに読み解こうとする愚かさも悪くない。
やはり、道化は自らも間抜けを晒さなくてはな。
我が帝国が崩壊したのは、他の竜族のせいだ。
奴等が人間にその血と神器を授けなければ、今も帝国は続いていた。
こんな自明のことすら分からないのであれば、マンフロイに雑事は任せるとしよう。
「話が逸れたね。
セリス皇子殿下の懸念に対する策は思いつく?
私は一つしか思いつかない」
血を継ぐ者全てを奴隷にすればいい。
管理し、継承者の資格を授かった者を戦士へと取り立てる。
これは悪くないかもしれない。
強力な兵力を維持し続けられる。
「……神器の管理を徹底するとか」
「それだと、別の人物を担ぎあげようとする派閥が盗むかも。
事実、バルムンクは教団から盗み出されてあなたたちの手元に渡った」
「私なら自分以外の神器を破壊する。その上、二度と使えないようにする」
こいつは馬鹿か。
それでは血が活用出来ない。
我以外の血は神器を使うためだけに存在すべきだ。
それが使えないのであれば、存在価値がない。
「ズィーベン‼ なんてことを言うんだ‼
君だってファラフレイムを大切に思っていただろう‼」
だが、青髪の動揺は見られた。
継承者に対してぶつける暴論としては中々だ。
「自分の神器だけあればいい。
セリス皇子殿下もそう思ったことくらいはあるでしょう?」
青髪が喉を詰まらせる。
今の帝国の継承者達を殺してここまでやって来たのだ。
継承者達との苦戦でも思い返しているのだろう。
こいつは気に入った。
苦悩を直ぐに出す。その上、神器があるから簡単には壊れそうにない。
ティルフィングなのも良い。加護によって、他より長く遊べるだろう。
……ズィーベンも中々悪くない案を出した。
私以外の全てを破壊する。
我が王国を邪魔した竜族共への意趣返しとしてこの上ない。
副産物として、血が広まっても問題が無くなる。
強靭な奴隷が増えれば、何かと便利だろう。
「神器は強大な力だ。
だからこそ、末裔が意思を以て振るうんだ‼
神から与えられたのだから、そんなただの道具みたいに扱うべきじゃない‼」
「魔導書は継承者に暴発させてればいい。
その灰を燃やせば、更に確実だろうね。
武器は壊して海から捨てればいいんじゃない?」
青髪は口を開けたまま、馬鹿みたいに固まっている。
だが、両手が腰のティルフィングへと伸びている。
柄に触れた途端、叫びだした。
「ズィーベン‼ ユリウス皇子も止めないのか‼」
「不評だったみたいだね。
でも、お勉強と暇つぶしにはなったでしょう?」
無聊を慰めるには悪くなかった。
だが、まだアリオーンは来ていない。
他にはないのか。
―――――
青髪が未だ吠えている。
「ズィーベン‼ 最近の君はおかしい‼」
「そんな事を言われるほどの付き合いも無い。
それに、すべきことと私の気持ちは別。切り分けることを覚えてね」
「だとしても、君はオイフェの気持ちを尊重してくれた‼
アルテナ王女のことだってある‼
元の君に戻ってくれ‼」
ズィーベンが調略でもかけていたのだろう。
青髪は随分と直ぐに人を信じるようだ。
これなら簡単に計略にひっかかりそうだ。
そんな物、私には必要無いが、そういった光景も観戦してみたかった。
罠にかかる様は、さぞ愉快だっただろう。
「貴族なんて退屈な中待つのが仕事。式典なんて本当に暇。
御子様たちが仕方ないから、もう一つのネタを出そうか。
前に出なさい」
ズィーベンの言葉を受けて、黒一色の人物が私と青髪の間に出でる。
青髪に向かって私を庇うように背中を向けている。
「この子の名前はまだ無くてね。
アハトなんてどうだろ? 私とお揃い」
我が眷属のような名前だ。
八番目。つまり、トードの末裔か。
いつの間に確保して、魔将にしたのだ。
……そういえば、ティニーが反逆者に所属していたな。
ユリアのように奴等から攫って来たのか。
イシュタルも戦わなければならないことを悲しんでいた。
これなら敵対することも無い。
「ズィーベン、さっきから何を言っているんだ?
意味が分からないよ」
青髪は付いてこれないか。無様だな。
「一々命令しないといけないのは面倒だね。
セリス皇子殿下に顔をお見せしてさしあげなさい」
フードが外される。
黒の中から紫がかった銀髪が目に入る。
僕が見間違えるはずない。後ろ姿でも分かる。
「イシュタル‼ 来ていたのか‼」
居たんだったら、そんな格好をしないで横に居れば良かった。
そうすれば誰もいなかった天幕だって寂しくなかった。
イシュタルは後ろ手を首筋にやって、内側にしまっていた長髪を外へと放り出す。
午前の明かりを受けて輝いている。
「イシュタル王女⁉ どうしてここに⁉」
さぞ恐ろしいだろう。
私だけでなく、雷神までもこの場に揃った。
間もなくアリオーンまで来る。
元より無かった勝ち目が、一欠けらも残さず消えていくのだ。
だが、まだ折れてくれるなよ。
戦いは始まってすらいない。
「ズィーベン‼
戦いが終わるまでイシュタル王女を出さないと約束したじゃないか‼」
大きなため息が背後から聞こえる。
「アハト。そう呼んであげて。
生かしたからって幸せになるとは思わない方がいい、そう言ったでしょう?」
何故、そんな名前でイシュタルを呼ぶ。
何故、命令が無いと動けない。
どうして、僕を見てくれない。
違う。
ユリスが見捨てるはずない。
ユリスにとっても愛弟子だった。
どんな杖も使えるよう兵種も変えていたじゃないか。
回復なんて慣れているだろう。
ゆっくりと後ろへ振り返る。
ユリスの薄ら笑いが目に入る。
「まあ、死んだんだけどね。だから有効活用。
あんなに良い素材を無駄にするなんて、勿体ない」
「なっ……。
何を言っているんだ‼
王女は僕達と戦った後は生きていた‼
君が救出した‼」
魔力を魔導書に籠める。
優しい闇が僕を包み込む。
「ロプトウス‼」
眷属へ我が分身を放つ。
大気を押し分け闇が竜を形成し、空へと昇らせる。
イシュタルを巻き込まないように天から地へと跳び込ませ、ズィーベンを飲み込む。
ズィーベンは吹き飛ばず、その場へ倒れ込んだ。