ヴァルターが緊急で時間を空けるよう要請してきた。
最近はヴェルトマーの管理もアイーダに任せられるようになり、
奴を各国への連絡役として働かせていた。
いつも仕事が終わると娘たちへの土産を持って帰り、すぐに次へと向かう。
ヒルダが抜けた穴を埋め終えたら、腰を落ち着けさせてやるつもりだ。
諸外国との衝突の気配は無い。
強いて挙げるなら、トラキア半島*1が騒がしいくらいだ。
あそこはいつも内部で争っているから関係ない。
普段はいつの間にか帰還しているヴァルターが前触れを寄越した。
火急なら、事前連絡すら出来ない。
息を切らせて、駆け込んで来るものだ。
今回は違う。
予想が付かない。
「ヴァルター様がいらっしゃいました」
入室の許可を出した途端、言い放った。
「閣下、奥へまいりましょう」
前置きもない。
老鷹の眼が凪いでいる。
―――――
定位置に座り、ヴァルターを待つ。
従者に飲み物でも言いつけているのだろう。これは長くなる。
「最近の変化はお気づきで?」
飲み物と軽食が来るまでお考え下さい、とヴァルターは付け加えた。
「急ぎではなかったのか」
「だからです。
事前準備こそが肝要なのです。
それとも、もう降参ですか、若?」
相変わらず、私を苛つかせる。
あのような無礼な振る舞いから、ここだけで納めておきたいことだろう。
家内では、ヒルダが家を出た後の混乱が尾を引いている。
家政もだが領地とユリスの手綱まで管理してくれていた。
これ以上引き延ばしたくはなかったが、ここにいてほしかった。
……ヴァルターが取り上げる程ではないな。
国内も安定傾向だ。
そのおかげで、街道の整備が進み物流が促進されている。
紅茶とサンドイッチがテーブルに置かれる。
菓子ではない。
腰を据えて話すつもりだ。
「家財の価格が下がり、
日常物資がわずかに上昇しております」
「貿易が盛んになったからだろう。
本格的な収穫がこれからだ」
「その要素もあります。
ですが、嫌な予感がします」
「主にグランベル国内ですが、どこもその傾向があります」
家財が安くなるということは、市場での取引量が増えたということだ。
遠方からの製品の流入が価格へ影響したのだろう。
食料などは単価が低く、輸送の手間ばかりかかる。
更に、腐ることもある。
収穫期は始まったばかり、出回る数が少ないのだろう。
交易としておかしな点はない。
しかし、この男の「どこも」という言葉が、気にかかる。
ヴァルターは喉を潤し、発言する。
「あくまで、経験からの推測です。
疫病の初期段階かと」
カップを揺らし、水面をもてあそびながら説明する。
「私がロートリッター*2を名乗れるようになりたての頃です。
似たようなことが有りました。
当時は備えもなく、王国は大打撃を受けました。
土地を売り払い、大きく領土が失われました。
そのせいで、神器保有数*3に対して現在の版図が狭いのです」
依然揺れる紅茶を眺め、続ける。
「宰相*4も生き残った者です。
彼なら既に手を打っているはず。
各家への正式な通達は王家からになるでしょう。
それを我らが伝えねばなりません」
鷹はもてあそんだ紅茶を飲み干す。
「あるだけのエルファイアーとワープの杖」
一拍置いて、宣言した。
「そして、神器のご用意を」
言葉が出ない。
立ちのぼる湯気が、この男の輪郭をぼかす。
その向こうで微動だにしない視線。
「……なぜだ」
カップを置く傅役。
「若、それは食事をとり、
近況をお話頂いたあとにしましょう」
この男はこうだ。
こちらを試し、からかい、手玉にとろうとする。
扉の向こうへ声を投げかけ、
ミートパイと砂糖菓子、替えの紅茶をポットごと要求している。
背もたれへ体重をかけ、大仰に肩を回す。
「私も大変だったんですよ……」
ため息をつき、目頭を押さえる。
「このことが広まれば、市民の統制が取れなくなる。
誰にも悟られないよう急ぐのは、なかなか疲れるものです」
「それにヒルダ様のご婚礼姿も見れていません。
若が傀儡ではなく、独り立ちした当主であると広めるためにも私は立ち会えなかった。
ヒルダ様とは彼女が生まれたころからの付き合いです。
娘みたいに勝手に思っているんです。
内緒ですよ、こんなこと言ったら薄毛親父と言われてしまいます」
もう誰もお前をそうは呼ばない。
指摘はしない。
慈悲は捨てない。
どれだけ腹立たしくても。
「……ならば、話してやろう。」
指先で机をたたく。
「貴様の愛娘の話をしてやる。選べ」
奴の嫌らしい笑みが消え去る。
「私のファイアーに飛び込んだ話。
何発のボルガノンで大聖堂を壊せるか聞いて回っていた話。
やたらと私の髪をいじろうとする話。
他にもあるぞ、どれがいい」
顔を覆い、机に肘をつく。
礼拝さながらだ。
「……アイーダの話を。
あの子も私の大事な愛娘です」
新しい紅茶を注ぎ、立ちのぼる香りを楽しむ。
「ヴァルター、
それはユリスの痴態を噛みしめ、
本題の後に気が向いたら話してやろう」
今度は私が水面を弄ぶ。
「ユリスの話は食事が終わるまでにしてやる。
食べ終えるまでに、どこまで聞かせてやれるかな」
―――――
それから我が一門は例外なく動き続けた。
ヴァルターは諸外国との調整を買って出た。
あいつは以前のことを忘れられない。
何頭もの替えの馬を用意させ、一切戻ってくるつもりはないらしい。
当時、村から村へ移り、
その全てを炎に飲み込んだあいつの言うことなら、どこも耳を貸す。
加えて、エッダ家から依頼されていたアグストリアへの交渉も任せた。
聖杖*5の担い手である当主の巡礼のさなか、今回の事態が起きた。
当主の娘も攫われ、彼とその息子で直系*6のクロード神父*7しか聖痕を持つ者が残っていない。
無理に帰還するのではなく、外国に滞在させ血の存続を確実にしたい思惑がある。
普段から各地へ飛び回るヴァルターに任せるのが最適と判断した。
賢きイムカ王なら受け入れはするだろうが、細部の折衝が厄介だと零していた。
各家への正式な通達のため、元々の身分が高い出身の騎士を方々へ送る。
我らが王家の使者として赴く際は、ワープの杖の使用は許されない。*8
儀礼、安全、そして費用。そのどれもが軽くない。
杖や炎魔法を使えるものは鍛錬の日々。
アイーダにはこの監督を任せた。
私はこれを使わずに収めたい。
だが、経験者はそうはいかないと言っていた。
武芸に秀でたものは、各家の移動補助に回した。
聖戦士の血を絶やさぬため、主要な家は王都と所領に聖痕持ちを分ける。
直系の子息たちはワープで所領へ送るが、使用人たちは陸路での移動だ。
動乱の前は治安悪化がつきもの。我らの旗を見れば、愚か者は居なくなる。
他にも各村落への伝達と物資輸送の補助も行う。
各都市は閉鎖し、感染者の侵入を防ぐ。
外から内部へ入ることは難しくなり、小規模な集落は干上がる。
多くの民を生かすために、さらに踏み込む。
必需品の買い付けを領主たちと共同で手伝う。
村落へ現状を知らせ、資金を供出させる。
その資金で都市から塩等を購入。護送し、適切に分配する。
管理する家だけでは、臨時の徴収として反発を招く。そのような猶予などない。
我らが側にあれば、民の疑念は消え去る。
炎の紋章とは、そういうものだ。
皆が、信じる。
我が家はユリスとアゼルをリーネと共に本領*9へ送り、私は王都で執務。
ヴェルトマー城には、あのヒルダが鍛えた者たちがいる。
何も不足はないだろう。
リーネはこれを機に、ユリスへ内向きの仕事を仕込み切ってしまうつもりらしい。
アゼルは同情していたが、あいつにはいい薬だ。
アゼルだけに手紙を送った。
あの子たちはこれまで王都に滞在していて、あの城のことを知らない。
普段以上に外に出れず退屈だろう。
幼い頃、母上と過ごした場所を教えてやる。
―――――
「周辺の城、および街には通達いたしました。
周囲の捜索と撤収も完了しています」
疲労の色を隠せない壮年の騎士が報告に来る。
「よろしい。
該当の村へ案内せよ」
短い返事を返し、先導する騎士。
これで12回目だ。
私は疫病を軽んじていた。
あれだけ準備をすれば被害を抑えられると見積もっていた。
あいつが朱鷹と呼ばれるようになった所以を考えていなかった。
そして、父上が錯乱する一因でもあったのだ。
従騎士へ命じて、差し出させる。
「神器を」
ファラフレイム*10
を持つと血が沸き立つ。
だが、自分を俯瞰し、操作するような感覚になる。
加えて、身体が傷を受け付けない程頑健になり、無意識に魔力が高まる。
神器によって効果は異なるが、似たようなことが起きるらしい。*11
村を消すことへの重しが、強制的に取り除かれる。
「リデール、離れろ」
ただでさえ、普段から威圧するような魔力量と指摘されている。
付き従う者達に苦労をかけたくない。
「分かっております。発動前でも溶けてしまいそうですからな」
この業務を通じて、ロートリッターたちは私に気安くなった。
だが、悪くない。
これまで私にはなかったものだ。私も彼らへ背を預けられる。
魔導書を開く。
使い慣れているわけでもないのに詠唱が頭に浮かぶ。
魔力収束も勝手に行われる。
気にかけるのは範囲だけ。
名が零れる。
「ファラフレイム」
地に太陽が現出し、その縁を炎が踊る。
熱から風が生じ、吹き荒ぶ。
石垣が溶け、建物は蒸散する。
日輪が爆ぜ、世界を落陽に染め上げる。
神器を閉じ、離れて地に伏せていた従騎士に預ける。
―――――
「次は、フリージ城になります。
ワープの準備を行います。しばしご休憩ください」
今組み立てられてたばかりの椅子にもたれる。
日差しが直接顔に当たる。
神器が巻き起こす突風でテントすら建てられない。
指揮官たちが激を飛ばしている。
「重装隊、爆風によく耐えた。何人吹き飛んだ」
「破れた衣類を城へ送る。処置できないものだけよこせ」
「水は各自の水筒から飲め。これ以上我らが倒れるわけにいかん」
これで12の村を消し去った。
斥候の報告では、大半が感染し、既に死者多数。
まだ生きている者もいたが、生存させる余裕はない。
外へ出せない。病が広がる。
都市は閉ざされ、食料もない。
人が消えた後だろうが、疫病に満たされた場所で過ごせば発症する。
数年立ち入らなければ問題なくなるそうだが、その頃には悪党の住処になる。
よって、一切を消し飛ばす。
灰も、何かが存在した痕跡も、残さない。
神器では残してやれない。
先ほどとは違う中年の騎士が司祭を伴いやってきた。
「準備が出来ました。
私共は周辺へ完了の通達、および感染状況の確認を行います。
その後、我々だけで次の村へ参ります。
……お互い、気持ちの良い役目ではありませんな」
立ち上がり、術者の前へ出る。
「……貴様らは無理はするな。
私が出れば済むことだ」
「次第に患者の数が減ってきました。
きっと、あと1つか2つで終わります。
そのくらいなら我らが片付けておきますよ」
固い笑顔で嘯く司祭。
別の若手騎士がマントを揺らしながら見せつけてくる。
「見てください。この刺繍。
ヴェルトマー城にいる御方様や、
コーエン家の椿油を塗って来る方がやってくれたんですよ」
踊るようで楽しげな様子を装っている。
空元気で場が明るくなる。
「新品なんて今じゃそうそう手に入りません。
俺たちもその場しのぎはできますが、どうしても後回しにします。
繕い物を集めてやってくれるんです。こんなおまけ付きで。
今じゃ、あの強面先輩の裾にも付いてますよ」
これは……花だ。
何かは分からない。
よく見れば、各騎士ごとに異なる形が付けられている。
「……こんなお役目をしてると、気が滅入ります。
でも、守ってるものがあると正しいことなんだって、やる気になれるんです。
帰ったら、あのお嬢ちゃんを褒めてやってくださいね」
従騎士が、エルファイアー*12と一切汚れの無い式典用のローブを差し出してくる。
受け取り、騎士たちの顔を見まわす。
「貴様らはよくやっている。
フリージへ行ってくる」
見計らっていた術者がワープの杖*13を起動した。
身体が光に包まれ、体が浮いていく。
―――――
浮遊感が収まった頃、フリージ城*14内へたどり着いていた。
訪れたのはヒルダが嫁いで以来だ。
不思議なことに当主自らが転送の間で待ち構えていた。
「お忙しい中、よくぞいらした」
ただでさえ痩身長躯の男の頬がこけている。
こちらも挨拶を返す。
「こんなご時世です。お気になさらず。
お待たせしたようですので、早速フリージ家大奥様の葬送を仕らせて頂こうと思います」
レプトール卿に導かれ、式場へ向かう。
フリージ家に因んだ調度品に囲まれた回廊を歩きながら話しかけられる。
「今だけは肩の力を抜いてください。
私的なことをお話ししたい」
身構える。
宰相相手に隙を見せられるほど、まだ私は有能ではない。
「ヒルダのことです」
あの人が失態を犯すとは思えない。
「義娘のおかげで我が家は元に戻れました」
「母が亡くなった際、家中は暗くなってしまいました。
私も、母は70になっていましたが、
生きているうちに曾孫の顔は見せられると思っていたので……。
何も手が付かなくなり、王都からここへ帰って来てしまいました」
「子供たちもそうでした。
特にティルテュの落ち込み様は見てられなかった。
母へよくなついていましたから」
「そこを義娘が、叱りつけたのです」
「あんたらがだらしないから、逝く前に大奥様からあたしフリージを託されちまった。
そんなんじゃ申し訳が付かない。
しょぼくれた顔見つけたら、追い回して蹴っ飛ばすよ」
「……私もやられました。
息子はとんだ女に惚れたものだ。そう思いました。
ティルテュ達も最初は反発していました。
ですが、何度も追い回される内にあの子らしさが戻って来たのです。」
悪役を買って出る、如何にもあの人らしい。
「今では、一人称まで”あたし”になりました。
困りものです」
言葉に反して、笑顔だ。
「ファラの女は炉心。
息子は定説に違わぬ良い嫁を選んだ」
「……なんといっていいやら」
―――――
城内を進み、中庭へと案内される。
肌寒い夕暮れの中、多くの観客と宴席が用意されていた。
中央には棺とその周りを取り囲む花々が陳列されている。
当主が注目を集め、響き渡るよう宣言する。
「同胞よ、ヴェルトマー家のアルヴィス卿がいらっしゃった。
我が母、フリージの大母を送るためにだ」
歓声が響く。
落ち着くまで待ち、私も同様にする。
「ご紹介にあずかりました。アルヴィスです。
これより、聖ファラの末裔が葬送仕る」
貴様らの中にも中位炎魔術程度使える者がいるだろう。
それでも直系の私を呼ぶのだ。
「巻き込まれぬよう、離れていただきたい」
瞠目し、魔導書に手をかける。
不必要だが、魔力を全力で練り上げる。
急激に魔力を制限し、大仰に叫ぶ。
「エルファイアー」
火力が強すぎると、灰しか残らない。
弱すぎては、骨以外が残ってしまう。
炎魔法で遺体を焼くのは、戦場か処刑、
それに今のような緊急時だけだ。
だから、このような演出が必要になる。
子孫に囲まれ、ファラの炎に包まれて送られる。
そんな幸福と名誉に満ちた旅立ち。
残された者は相応しい装いを整え、故人のことを胸に刻むべく語り明かす。
それが炎による葬送だ。
花を巻き上げる炎。夕焼けをより濃く染める。
燃える花びらが空を舞う光景に目を奪われる参列者。
これは、彼らにとっては故人が残していった最後のもの。
余すことなく見つめている。
だが、ヒルダだけはこちらを見ている。
「彼の御仁が旅立たれます。
みなさま、悔いの無いようお別れを」
遺骨を埋葬用の棺へ移すフリージ家当主。
その周りを各人が思い思いの品で彩る。
その後は酒宴で故人の話に花を咲かせている。
涙を拭う従者に改めて退出を伝え、転移室へ戻る。
そこではヴァルターと我が家の司祭が待っていた。
「お疲れ様です。
次はドズルです。それが終わればひと段落付きます。
その後は一旦、ヴェルトマーにお戻りください」
訳をただす間もなく、飛ばされる。
―――――
ドズル*15での祭式は、武人らしい家風が表れていた。
参列者たちは皆感情を押し殺しているが、確かに故人を悼んでいることが伝わった。
唯一、夜の暗闇で一人の少年の泣き声だけが炎に照らされていた。
―――――
ヴェルトマー城の転移室に着くと、育児室に来るよう書置きだけが残されていた。
遊ばせて置ける人材は一人たりともいない。
使用人たちの一部は各地に間借りする形で、我が家のお役目全うのため力を尽くしている。
汗がうなじをつたう。
業務上の要件であれば執務室か内応接室で済む。
わざわざアゼル達の部屋へ呼び出すのだ。
神器を握りしめる。
今だけはその加護をあの子に分けてくれ。
外套を脱ぎ捨て、扉を蹴破る。
転移室を出て、月明かりだけの廊下を駆ける。
段を飛ばして駆け上がり、育児室の扉を叩き開ける。
育児室には燭台の下、横たわるヴァルターだけだった。
起き上がり、こちらを認めた。
「いらっしゃいましたか。若」
声がいつもより暗い。
神器を握りしめる。
「何があった」
「若、そのような声と魔力では、
アゼル様が起きてしまいます」
アゼルまで居なくなった訳ではないようだ。
つまり……。
「落ち着くために、少し昔話して差し上げよう」
「彼女は出来ることを精一杯やっていました。
元々、貴族とは縁の無い出身、ここは居心地がさぞ悪かったでしょう」
……ユリスに何かあったわけでもなさそうだ。
「リーネ様がお亡くなりになられました」
魔導書を取り落とした。
その音だけが暗闇に響く。
―――――
「聖戦士の血を継ぐ者は、他よりも強靭。*16
それは、病に対しても言えます。
壊滅した村はいくつもあるのに、高貴な家での死者は少ない」
リーネは母上の側仕えだった。アゼルを授かり、立場が変わった。
その時ですら、母上の世話を焼こうと必死だったのを覚えている。
母上の部屋に入り浸る私の世話もよく焼いてくれた。
薬草茶の苦手な私には母上とは違う配合の果実茶を用意してくれた。
柑橘のさわやかな甘さが忘れられない。
父上と母上が去った後、
生まれたばかりのアゼルを抱えながらも私にも良くしてくれた。
彼女たちを守ろうと外部から切り離した時ですら、快諾してくれた。
それは父上の母上への仕打ちとは違うと私に説いてくれた。
いつも私を受け入れてくれた。
あの人は、いつも出来ることを探していた。
私は……何を与えられたのだろう。
「家令の話では、ユリスの教育と繕い物ばかりしていたそうです。
病状が出た後も、辛いだろうにユリスの指導だけは欠かさなかったようです」
「彼女は聖戦士の末裔ではない。もちろん、騎士でもない。
ですが、炎の紋章を支えんとする我らの同胞でした」
「当主様、
忠を尽くした仲間に、別れのお言葉を賜りたく存じます」
燭台の元、鷹がこちらを射抜く。
―――――
部屋へ入ると、月明かりに照らされたユリスがいた。
床に座り、ベッドに上半身だけもたれている。
リーネと手を握ったまま寝ているようだ。
ヴァルターへ頷き、起こさないよう、そっとリーネの側へ近づく。
月光はリーネの肩までしか照らさない。
跪き、横たわって閉じた瞳へ向かう。
呼吸を整え、当主として最後の言葉をかける。
「忠節、大儀である」
「何言ってんだ」
掠れた声が返ってきた。
横を向けば、月に照らされ、
寝台に顔を置いたままのユリスが凝視している。
「お前にではない。リーネにだ」
「悲しくないの?」
「それよりも、彼女を称えるべきだ」
ユリスが手をつないだまま、立ち上がり、
大声で叫びだした。
「悲しくないのか聞いてる」
ヴァルターが割り込み、叱りつける。
「ユリス、そこまでだ。
これは……大人の話だ。
それに、亡きリーネ様に叱られるぞ」
さらに大声で言い返すユリス。
「このハゲーっ‼」
「それがどうした。いつも叱られてる」
息を大きく吸い、吐ききるように告げる。
「私は、悲しくないか、聞いてんだ」
「……この病で幾人もの家臣の命が消えた。
リーネもその一つだ」
「悲しいなら、悲しめよ‼」
威嚇のため魔力を練り上げるヴァルター。
「ユリス、いい加減にしろ。
それ以上は看過できない」
実の父親へ向けて吠える。
「うるせー‼しらねー‼
そこのウネウネから分けてもらえ、ハゲ‼」
こちらへ正対し、瞳をのぞき込んでくる。
「リーネ様は死んだ。
何も思わないのか‼」
「何も知らぬくせに、出しゃばるな‼」
「ッ‼」
気付かぬ内、魔導書を握りしめていた。
神器が感情を遠くする。
これは、いけない。やりすぎだ。
だが、期せずして黙らせられた。
弱弱しい涙声でつぶやくユリス。
「いっぱい知ってる」
「いつもいつもリーネ様に怒られてた」
「ヒルダ様より言葉は優しいけど、怖くて厳しくて辛かった」
「ご褒美なんて一度もなかった」
段々と声色が熱を帯びる。
「それでも、あんたのためにって私を鍛えてくれた」
「咳が出ても続けてた」
「声が出せなくなっても紙に書いて教えようとしてた」
「あんたがいつ帰って来てもいいように果実茶の準備だけは自分でしてた」
「シギュン様や先代様のことも教えてくれた」
「あなたは、リーネ様の何を知ってるの?」
胸が上下している。
顔色も悪い。
それでもまだ、私に挑みかかるつもりか。
神器を更に強く握りしめ、叩き折る。
「あの人は母様の側仕えだった」
「知ってる。シギュン様の果実茶の好みも教わった」
「母様と姉妹のように仲が良かった」
「知ってる。お互いのあだ名も教わった」
「……父上のことを好いてなかった」
「知ってる。アゼルにはないしょって教わった」
なぜ、お前がそこまで詳しいのだ。
リーネは私が生まれた時から共にあった。
お前は5年だけだ。
私の決断を肯定してくれた。
お前は否定されてばかりだ。
リーネだけは私を置いていかなかった。
神器を掻き抱く。
もっと私を遠ざけろ。
「……私は当主だ。
臣下の死で心乱すべきでない」
「リーネ様は、直接言えないけど、
あんたのこと息子だと思ってた‼」
「私はヴェルトマーじゃない‼
でも、ヒルダ様に炎を託されたんだ‼」
ユリスが空いた手で姉様の香油瓶を突き出す。
月光が鈍い黄金の彫刻を浮かびあがらせる。
炎の紋章が、この私に突き付けられている。
「家の中でも悲しめないのは正しくない‼」
「……なら、どうすればいい?」
「知らない」
脛を蹴られた。
痛みは無いが、やけに熱い。
「リーネ様から、死んだら火葬用の格好に着替えさせて棺に入れろ、
火葬の実践だって言われてた。
けど、私は悲しいから泣いて待ってた。
準備してくる。出てけ」
部屋から押し出される私たち。
聖炎を握っているのに抵抗する気になれない。
―――――
廊下には、小さな灯があった。
ランタンに照らされたアゼルだ。
あの大声で起きたのだろう。
「兄さま、帰って来てたんですね‼
母様が……亡くなりました……」
枯れた声で呼びかけてくる。
「兄さまも母様のこと好きだったから辛いですよね……
一緒にお祈りしませんか?」
実の母は亡くなったのにこの子は私を気遣ってくれる。
自分よりも周りを気にかけるあの人に似ている。
「……ああ。
その後は、母様の思い出を語り合おう。
お前の知らない話もしてやる。聞いてくれるか」
土壌が豊かな北部と貧しい南部が対立している。
原作では魔法騎兵や重装歩兵等複数の兵科から構成されている。
大抵の家は血に纏わる単一兵科に近い騎士団を持つ。
他の国は0~1個。
原作では死者を蘇らせられる(1回3万ゴールド)。
原作の発言的に効果は当主しか知らないと設定。
辞書的な意味ではない。
風花雪月の級長ではない。
本作ではそこから設定している。
装備時に魔力+10、守備+10、魔防+10。
原作では複数の神器の相手もできるほど強い。
原作では特殊なクラスかファラの血がない限り、この炎魔法が限界。
今作ではお互いの許可があり、範囲内であれば、城の決められた部屋に飛べる設定。
アグストリア諸侯連合(外国)と接している。
直系は合計+100%、傍系は合計+50%。
最低でもHP成長率に+10%(最大+40%)される。
原作についてご存じですか?
-
聖戦の系譜をプレイして覚えている
-
触ったことはある
-
FEシリーズはやったことがある
-
FEシリーズに触れたことはない
-
全く知らない