また、あのとんでもない娘を教えなくちゃならない。
しかも、魔法をだ。
ついにあいつが炎へ手を伸ばせるようになっちまう。
3年前の疫病でどこの家も人が失われた。
うちも大奥様や家臣たちが逝った。
うちは家人との距離が近すぎる。
だから、あの時は皆暗くなっちまった。
次期当主の嫁の立場を使って、叩きなおしてやった。
シギュン様*1が居なくなった頃と比べれば、大したもんじゃない。
完全に乗り越えたわけじゃないが、今では十分明るくなった。
嫁ぐ前はこれ以上だったらしい。
眩しくて仕方なかっただろうね。
宰相の義父が主導で王国経済の回復を図っている。
今はブルームもそれに付き合っている。
その調子であんたのお嫁さんを安心させておくれ。
あの時、ヴェルトマーは最前線で王国が潰れないよう戦っていた。
助からない村々を焼き、出血を最小限に抑える焼灼術。
他にも、閉鎖した都市同士の連絡と最小限の物流を担っていた。
矢面に立ったせいで相応のロートリッター*2と裏方が居なくなっちまった。
誰もが褒めたたえるが、その炎を向けられたくないからだ。
悲哀を分かち合おうなんざ思わない。
疫病はリーネまで奪っちまった。
死ぬ直前まであの子に尽くしてくれたそうじゃないか。
よく頑張ったね。ありがとう。
これまでリーネがいたから、あの子は立っていられた。
……あの年にあたしが嫁がなきゃ、リーネも元気だったかもね。
少なくとも、あの子の重荷の一部を肩代わりしてやれた。
これは傲慢だね。
それでも当主として、立派に流行り病を乗り越えた。
あの子を侮る奴は、もういない。
それに、あの子の側にはユリスがいる。
神器に対してあたしの香油瓶で立ち向かったそうじゃないか。
……そんな使い方は想定できないよ。
母様からもらったんだ、もっと大切にしてくれ。
椿瓶なんて変な名前まで付けやがって。
アゼルとユリスがいたからあの子はまだ立っていられる。
あたしは育てることくらいしか、やれることが無い。
「姉さま、アゼルたちがきました」
来客を伝えてくれる義妹。
侍女に任せればいいのに健気だね。
「エスニャ*3、助かった。」
頭を撫でて感謝を伝える。
あの家ではこんな事すらしてやれなかった。
「今日は魔法を教えてやるんだ。
ユリスがいると何があるか分かりゃしない。
終わったら声をかける。それまで好きにしてな」
目を細め、嬉しそうなエスニャ。
何事も起こらないでくれよ。
リーネに仕込まれたんだ、心配する必要はないはず。
それでも、心がざわめく。
―――――
「ヒルダ様、お久しぶりです。
フリージ家でもお元気ですか?」
挨拶し、アゼルたちが一礼する。
「ああ、調子は悪くないね。
そっちこそ、大きくなったじゃないか」
前よりも様になっている。
リーネの教えを守っているんだね。
「それより今日は魔法を教えてくれるんでしょ」
いつも以上にはしゃぐティルテュ*4。
挨拶を返せ。
まあ、あの年の秋口以来の再開なんだ。
多めに見てやる。
「今日もティルテュはパチパチだね。安心した」
ユリスも相変わらずだ。
「なんてったって、サンダー最強が証明される日よ‼
早く訓練所に行きましょう‼」
二人の手を引いて部屋を出ようとする。
やはり、今日は座学とさわりだけにする。
語気を強め、止める。
「待ちな。
今日は魔法の基礎についてだ。
席に着きな」
ティルテュは竦み上がって一目散に席につく。
侍女へ向かって告げる。
「この子達の紅茶、私用にラズベリーリーフを頼む」
無意識に腹部を指先で撫でる。
「お菓子もほしー」
褒美を先に与えたら、話が進まない。
別の餌をぶら下げる。
「これが終わったら、あんたの大好きなクロード神父*5の講話に連れて行ってやる。
しっかり覚えなきゃ、間に合わないよ」
ティルテュはあの神父を大層気に入っちまった。
この子は大奥様の冥福を律儀に今でも祈っている。
その姿を認められ、向こうから話しかけてきた。
神器の担い手と親交を深めるのは家にとって悪くない。
「むずかしいことはわかんないけど、神父様のお話はすき。
何と言っても、声がいい」
笑って言ってのける。
相変わらず、この家は眩しい。
―――――
中天に達する前の日差しが差し込んでいる。
湯気を立ちのぼらせる3つの紅茶と、
それより色が薄いあたしの香草茶を照らしている。
一口、舌を湿らせる。
「あんたらも10になった。
魔法について、三相の公女とまで呼ばれたヒルダ様が教えてやる」
「光以外ならどんなのだって使える。
これ以上の教師はいない。
世界ひろしと言えどもな」
「だっさ‼」
「光魔法*6は使えないんですか?」
「ファラフレイム使えないじゃん」
騒ぐ子供たち。
程度を知らないにも程がある。
カップを置き、かき消すように声を張る。
「いいから、魔法に必要なものは何か言ってみな」
ユリスが真っ先に答えた。
「魔導書」
「それじゃ足りない」
「魔力量が必要ね。
足りないと魔法が発動出来ないわ」
既にサンダー*7に触れている割に、甘い。
「術者の技量も必要じゃないかな。
人によって使える種類は決まってるから」
アゼルは素人が忘れがちなことも抑えられている。
アルヴィスもしっかりやれてるじゃないか。
「……なんでみんな知ってるの?
授業初めてじゃなかったの?」
ユリスのカップからは、もう湯気が立っていない。
「あたし達には聖痕*8があるんだから、当たり前よ。
ユリスも魔導書に触ったことくらいあるでしょ?」
あのお転婆娘も知ってることに驚いた様子。
「……また、私だけ仲間外れ」
そんなに裾を握りしめるな、しわが付く。
アゼルに先を越されて拗ねてるのか。
「……あんたは危なっかしいんだよ
だから、このあたしが見てやる」
これも事実だ。
リーネが内向きのことを仕込んだおかげで時間がなかったんだろう。
それに、この子の家族*9は全員ヴェルトマーの中枢にいる。
時期を見ていたんだろうが、また人が減っちまった。
だから、あたしにお鉢が回ってきた。
熱を身体へ流し込む。
ヴェルトマー一門にとって、子孫に炎魔法を教えることは特別な意味を持つ。
親か兄姉が炎の紋章の意義を伝え、魔道を伝授する。
これを”火継ぎ”と呼ぶ。
ただの力じゃない。我らは正義で火を制す。
それが、ファラの系譜とそれに侍る者。
一門でしか完結させられない。
こんな名誉なこと、外部に任せるんじゃないよ。
あたしは、もうフリージなんだ。
湯気がやけに熱い。
……それほど手が足りないのか。
「……じゃあ、二人はもう使えるの?」
相変わらず俯いたままだ。
「当たり前よ‼」
ふんぞり返るティルテュ。
束ねた後ろ髪が床につきそうだ。
「僕は一人で使わないように言われてるよ。
兄さんか騎士の誰かに見てもらわないとダメだって」
隠さず素直に答えるアゼル。
……茶が冷める。
「飲み終わったら、中庭へ行くよ。
あたしと子供たちだけでいい。他は下がってな」
―――――
春先の日差しが噴水を照らす。
飛沫が輝いて、目に刺さる。
子どもたちは、待ちかねた様子で落ち着きがない。
「魔導書の発動手順を改めて教えてやる」
「まずは魔力を高める。
感覚は人によってそれぞれだが、身体の奥底から引き出すって言われることが多いね」
キョトンとした顔のユリス。
実感しなきゃ分からないか。
驚かせないよう、初心者並みに魔力を高める。
「思いっきり相手にぶつけようとすれば魔力が高まるわ」
早速見せびらかすティルテュ。
それに続くアゼル。
「僕は身体の中の炎を大きくする感じかな」
やはり聖痕持ちは違う。
現時点で威嚇用の固定砲台として使える。
「ユリス、あたし達を見てみな。
何か変わった感じがしないかい?」
「するような、しないような?
……ヒルダ様の髪がちょっと違う?
髪切った?」
……生まれつき魔法への抵抗力が強いのかもしれない。肝も太いが。
普通は鍛錬で自然と伸びていくもんだ。
最初から高くても悪いことはない。
「……今は関係ないよ。
なんというか、圧力が増した感じはしないかい?」
「姉さまがもっと怖くなってるでしょ‼
わかんないの⁉
にぶちん‼」
「ティルテュ」
もう一段階高める。
ロートリッターの平均並みに抑える。
肩を跳ねさせ、アゼルの後ろに隠れやがった。
アゼルは震えながらも、庇う様にあたしへ向き合っている。
この子に免じて、先に進める。
「魔力を高めれば人を脅すのにも使える。
どこでもやるんじゃないよ。
必要な時だけにしときな」
「リーネ様は魔法使いだった?」
すかさず反論するアゼル。
「母さんは優しかったよ。
ユリスも果実茶が好きだったでしょ?」
何かを堪えるような顔のユリス。
あたしの指導より少しだけ厳しかっただけだろ。
……ユリスは意外ともろいのかもね。
「果実茶ってなに?
なにそれおいしいの?」
ティルテュは気になることに首を突っ込まなきゃ済まない性分だね。
これじゃあ進まない。
「おしゃべりはそこまでだ。
次に行くよ」
「魔導書を意識し、発動させたい魔法を思い描く。
今日は書を持たないからイメージだけだ」
寂し気なユリス。
「……実は、ファイアー*10がどんなのかわかんない」
アルヴィスのに突っ込んでいったんじゃなかったか。
忘れちまったのかい。
「おっくれてるぅ~」
久しぶりに会えたから有頂天だね。
後で締める。
「火の弾を相手へ飛ばすかんじだよ」
「使い手の魔力と腕で、魔法の質が変わってくる。
具体的には大きさと火力、それに飛んでいく速度」
見せてやれれば良かったんだけどね。
「それに血の影響もある。
ティルテュなら雷魔法、あたしらは炎魔法だ。
聖痕がある奴は対応する魔法だけなら、精鋭と同程度のを簡単に出せちまう」
直系なら猶の事。
アゼルはアルヴィスのと比べてへこまないといいけど。
普段使いと同じだけ魔力を高め、注意する。
「暴発なんてしたら目も当てられない。
実力以上の爆発が手元で起こる。十中八九死ぬ。
だから、大人がいないところで練習するんじゃないよ。
特に小娘ども」
飛び跳ねるティルテュ。
ユリスに抱き着いた。
「次行くよ。
魔法を発動させる場所と範囲を決める。
動かない的ならそう難しくない」
「範囲は魔法ごとに違う。
周りを巻き込まないように予め誰かに見せてもらってから練習しな。
絶対、慣れない魔法は使うんじゃないよ」
「そんなの気にしないわ。
みんなまとめてやっつけちゃうんだから‼」
得意げなティルテュ。
「範囲を広げるだけ威力が弱くなる。無駄だ。
その時の状況と自分の魔力に合った広さにするんだね」
「最後に魔術の名を呼ぶ。これが詠唱。
それが終われば、発動さ。
イメージを明確にするために、大抵の奴は身体も一緒に動かす。
あたしのやり方を見せてやる。魔導書はないけどね」
―――――
書を右腕全体で固定する。落とさないようにだ。
左の掌へ魔力収束。
左腕を上げながらやるとイメージが付きやすい。
発動寸前だと魔力が可視化される。
集まった魔力で視界をふさがないよう気を付けな。
対象を見定める。
相手ばかり見て魔法への意識を切らすなよ。
肩ごと腕を振るい、同時に詠唱。
覚えときな。
「失敗すれば、魔導書が壊れる。
最悪自分ごと魔力暴発でお陀仏。
修理には金と時間がかかるんだ、無駄にするんじゃないよ」
「つまり、本人の魔力・技量・装備が揃ってようやく使い物になる」
「だから、魔法兵は貴重なんだ。
棒っ切れを振り回すのとはわけが違う」
「今日は魔力を高める訓練だけで終わり。
後で大聖堂に行くんだから、そこまでで切り上げるよ」
―――――
アゼルはユリスへ魔力を高めるコツを教えている。
ユリスが意味の分からないポーズで「ボルガノン‼*11」と叫んでいる。
魔力が高められていない。
ティルテュが「トローン‼*12」と呼応する。
こっちはブルームや義父の姿を見ているおかげで、形だけは様になっている。
この子達はあと数年で士官学校*13へ入ることが決まっている。
あそこは、力か政治力がなければ辛い世界だ。
あたしの時はそうだった。
力を誇示する乱暴者と派閥作りに熱心な貴族。
そんなのが煮詰まった箱庭。
創設の立役者、スサール卿*14もそれは見通せなかった。
聖痕があれば、いきなり舐められることはない。
でも、その先は分からない。
あたしやブルームみたいに叩きのめせる実力があればなんとかなる。
……この子達に力をつけさせてやらなきゃね。
顔が冷える。
液体だ。
いつの間にか子どもたちはびしょ濡れになっていた。
相変わらず珍妙な立ち姿で「ブリザード‼*15」と唱えるユリス。
もう一度顔に冷水がかけられる。
手本を見せてやる。
全力の魔力収束*16。
一心不乱に逃げ出す馬鹿娘ども。
アゼルは腰を抜かしてる。
これをやると化粧が多少崩れる。
身体を動かせば、服装も乱れる。
どうせ身だしなみを整えるんだ、気にすることもない。
罰だ。
ユリス、あんたが髪やりな。
前話でアルヴィスに付き添っていた人たち。
なのにFEHには実装されていない。
金鹿の学級とは一切関係ない。
神器ナーガもこの属性。
最近の作品のように必殺が出やすいといったことはない。
傍系だとクラスの上限値の一つ上も使える。
原作ではこれが本当に助かる。
リブローを使うファルコンナイトも実現可
最近の作品のように命中率が高いといったことはない。
アグストリア(外国)の王様も愛用する。
威力20、射程1~2、重さ7、雷A。
ティルテュ参戦時に持ってきてくれる。
原作主人公はここで各国の王子と友誼を結んだ。
本作では設定を拡張している。
原作自軍で使うことは出来ない。
神器か魔力を+5するマジックリングを持たないと超えられない。
原作についてご存じですか?
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聖戦の系譜をプレイして覚えている
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触ったことはある
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FEシリーズはやったことがある
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FEシリーズに触れたことはない
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全く知らない