ゼロから始める奴隷商の経営学~俺が異世界一の億万長者になった理由。   作:週2回は飲み屋君

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ゼロから始める奴隷商の経営学

 もし命にクーリングオフ制度があったなら、迷わず生まれて三日目で書類にサインしていただろう。

 理由は単純明快、俺の人生が最低で最悪だったからだ。

 

 物心つく頃から、俺は孤児院にいた。

 両親は手紙一枚で俺を捨てたらしい。

 後から知ったが、そこにはただ、こんな醜い子は自分たちには必要ないと書かれていたそうだ。

 

 といっても、その時はまだ人生はそこまで悲観的ではなかった。

 どちらかというと学生時代になってからが最悪だった。

 

 特徴的な顔に痣があったせいで、俺は嘲笑の対象になった。

 やがて虐めに発展し、暴力の日々が続いた。死にたいと思う日もある。

 

 だが、そんな学生時代を乗り越えられたのは親への恨みだった。

 卒業後、とある営業会社に就職した俺は経理を任された。

 だがそこはとんでもないブラック企業で、残業はもちろん、パワハラなども日常茶飯事だった。

 何度もやめようと思ったが、そこで初めて友人と言うものに出逢えたのだ。

 母親の看病をしていて、すぐに仕事はやめれないという。

 だから俺は彼の手伝いをしていた。俺の顔は営業には向いていないが、知識だけは与えられる。

 本を読み、ライバル会社の情報を調べて、できるだけのことをした。

 

 しかしそれもまた、俺にとって最悪な出来事になった。

 

 友人の経歴や話はすべて嘘っぱちだった。経理である俺と仲良くしたのは、金庫の金を奪うためでしかなかった。そしてすべての犯行は、俺のせいだとされた。

 

 俺は、ハメられたのだ。

 

 

 

「……いっつつつ。頭いってぇえ。なんだ、刑務官はどこだ?」

 

 ふっと目を覚ますとそこは小汚い応接間だった。

 なぜだ。なぜここにいる。

 俺は同じ房のやつに殴られ、血を流して――死んだのか!?

 

 だがここは天国とも地獄とも思えない。

 なんというか、古いヨーロッパの作りの家みたいだ。

 よろよろと立ち上がり、机の上にある紙を見つける。

 

「……なんだこれは」

 

 そこには、父から譲ってもらった事業がままならなくなったことがつらつらと書かれていた。そして、自分は命を絶つと。

 誰が書いたのかわからないがと思っていたとき、最後の名前でハッとなる。

 

 ヴィクター……ヴィクター……どこかで聞いたことがあるような。

 

 そのとき、姿見にうつった自分を見て気づく。

 年齢は三十代くらいか。特徴的な金髪。そして右目の下にある傷跡。

 

 ……俺が読んだ古い小説のキャラクターと同じだ。

 

 記憶は定かではないが、小汚い悪党で街からも嫌われ者だったはず。

 

 そしてその理由は……。

 

「夢か? いや、違う。この感じ、本物だ」

 

 俺は応接間を後にする。

 廊下を出るといくつかの部屋があり、ここが小さな屋敷のようなものだと認識した。

 全体的に埃っぽく、地面は薄汚れている。

 階段を降り、地下室の扉に手をかけた。

 

 鍵なんてものはない。こいつに、ヴィクターに、そんな考えなんてないからだ。

 

 暗闇が広がっていた。小さな明かりをつけると、大きな鉄格子がいくつか並んでいる。

 コツコツと俺の足音が響く。

 そして俺は自分がヴィクターだと確信した。

 

「ひ、ひ……」

「や、やめてください」

「食事を、お願いします、何か食べ物を」

 

 鉄格子の中に、裸同然の姿で鎖に繋がれた、薄汚れた女性たちがいたからだ。

 

 ヴィクターは、奴隷商人だった。

 父の事故死によって事業を引き継いだものの、商才もなかったため多額の借金を背負い、最後は首を吊る。

 物語にダークな空気を添えるだけの、実のないモブキャラクター。それがヴィクターだ。

 

 だが、なぜか俺はそんな底辺キャラクターに転生してしまったらしい。

 にしても、最悪すぎる。

 このままだと俺は借金を返せず、金主に殺されるだろう。それこそ、前世以上の最悪な死が待っているに違いない。

 

 だがそんなヴィクターになぜか俺はなっている。

 魂の輪廻か? にしても最悪だな。

 

 このままだと俺は借金を返せず金主に殺されるだろう。

 それこそ、最悪な死が待っているに違いない。

 

「はぁはぁ……」

 

 足元を見ると、女の一人が荒い息を吐いていた。極度の脱水症状だ。

 不憫に思った俺は、鍵を探した。ふと、自分の首から鍵束を下げていることに気がつく。

 

「今、逃がし――」

 

 鍵穴に差し込もうとして、手が止まる。

 

 彼女たちは商品だ。元の世界ならありえない人権侵害だが、ここは俺の知っている倫理が通用する世界ではない。ここで自由になれと言って、一体どうなる?

 俺は全財産である商品を失う。彼女たちも行く当てなどないだろう。外に出たところで、野垂れ死ぬか別の悪党に捕まるだけだ。

 

 

 ……俺にできることは一つ。

 

 従来通り彼女たちを売る。

 それが、俺の生きる道だ。

 

 だが今のままで販売したとしても安価な値段しかつかないだろう。

 それこそ借金なんて返せるわけがない。

 

 ……価値を上げるんだ。

 

 そうすれば俺は生き、彼女たちも幸せになれるはず。

 

 だが、どうすればいい。

 

 俺は鉄格子越しに見下ろし、あえて淡々とした口調で告げた。

 

「……水をやる。だが、逃げようなんて考えるな。お前たちはどこにも行く当てがない。そもそも、そんな恰好で逃げればすぐに誰かに捕まるだろう。俺の指示と約束さえ守れば、三食きっちり飯を食わせる。風呂だって入らせてやる」

 

 その言葉に、彼女たちは僅かな力を振り絞って頷いた。

 胡散臭い奴隷商の言葉を信じたわけではないだろうが、彼女たちも自分たちの絶望的な立場は痛いほどわかっているはずだ。

 

 俺は鍵を開け、一人目の女に水差しを傾けて水を飲ませた。鉄格子越しに投げ与えても良かったが、そんな扱いをすれば無駄に不信感が募るだけだ。

 扉を開けたまま、次の女にも同じように水を与えた。

 そして三人目の女がごくごくと水を飲み干している時、俺は視界の端に奇妙な違和感を覚えた。

 

「……神はまだ、完全に俺を見捨ててないってわけか」

 

 それは、ゲームのステータス画面のようなウィンドウだった。

 しかし俺自身の能力値ではない。対象――つまり、目の前の女のステータスだ。

 

 名前:メアリー

 年齢:18歳

 種族:人族

 状態:衰弱・極度の脱水・筋肉萎縮・睡眠障害・重度の人間不信

 筋力:1(規格外の低さ)

 耐久:1(※過度な労働で死亡の危険あり)

 敏捷:2

 魔力:5(一般人以下)

 知力:48(※未教育状態。成長限界値:測定不能)

 固有スキル:『完全記憶(パーフェクトメモリー)

 

 

 昔、考えたことがある。

 自分には一体、何の才能があるのだろうかと。

 だが、そんな都合の良いことを教えてくれる人間なんて、現実にはどこにもいなかった。

 世の中のほとんどの人間がそうであるように、手探りで泥水をすするしかなかった。

 

 だが、この力があれば違う。

 

 この世界の平均値は知らないが、育て上げれば能力は上がるだろう。

 そして――高値で売る。

 

 前世の俺はの人生は最悪だった。

 生まれは最悪で、裏切られ、金もなく、希望なんて欠片もなく死んだ。

 

 でも、今度は違う。

 この人生は、俺が変えてみせる。

 

 底辺の奴隷商人から成り上がり、異世界で億万長者になってやる。

 




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