ゼロから始める奴隷商の経営学~俺が異世界一の億万長者になった理由。   作:週2回は飲み屋君

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まずは清潔にしよう

「ありがとうございます……ヴィクターさま……」

 

 メアリーは、たかがコップ一杯の水を飲みほして号泣した。

 こんな裸同然のボロ布切れを着せられ、劣悪な環境に置かれていたというのに。

 だが俺にとって彼女たちは全財産だ。ここで情に流されれば誰も幸せにならない。

 彼女たちは路頭に迷い、俺は金主に殺される。

 そのためには感情で揺れ動くな。

 

「さっき伝えた通りだが、大人しくしろよ。変な真似をしたらまた檻に逆戻りだ」

 

 メアリーはゆっくり頷く。

 といっても、ヴィクター自身もそこまで弱いわけではない。奴隷商人となれば、血生臭い出来事の一つや二つこなさなければならないからだ。

 記憶が混濁している。前世と現在が混ざり、軽い頭痛がした。

 しかし、やらなければならないことがある。

 

 ザッと見てもわかるが、この場所は菌にまみれている。

 排泄は檻の隅っこの穴にしていたのだろう。下水処理も大したことはないはず。

 まったく、品質管理(・・・・)をおざなりにするなんて、ヴィクターは相当のバカだな。

 

 ……いや、今は俺か。

 

「ひとまずここで待て」

 

 檻を開けたまま、メアリーをその場で放置した。

 逃げようという衝動にかられるかもしれないが、上へ続く扉には鍵を閉めている。

 そういった行動を起こすならそういった教育が必要になるだろう。

 寝首をかく勇気があるならお仕置きもいる。

 こういったことも一から考えていく必要があるな。

 そうだ、マニュアルを作ろう。

 俺のような忘れっぽい人間にはちょうどいい。

 

 少し奥へ行くと、二つの檻があった。

 メアリーと同じぐらいの年齢か?

 

 ふと、目がぼやぼやし始める。

 

 名前:ニル

 年齢:16歳

 種族:獣狼族(※戦闘奴隷として人気の種族)

 状態:恐慌状態・深刻な感覚過敏・栄養失調・失語症

 *認識できません。

 

 名前:セリア

 年齢:17歳

 種族:エルフ族

 状態:感情の死・重度の貧血・魔力欠乏症・両腕の震え

 *認識できません。

 

 どうやらメアリーと違って人族ではないようだ。

 ニルは大きな黒い耳をしていて、セリアは汚れてわからないが、白耳をしている。

 ただステータスが完全には見えなかった。

 

 ……なぜだ?

 

 俺にもレベルがあるということか?

 ゲーム的なシステムだと思えばその可能性は高い。

 だが、二人ともメアリーと同じように衰弱している。

  

 手を出さなければ水と飯をやるという、先ほどと同じ約束を伝え、牢獄の檻を開けた。

 驚くほど従順だが、それは筋力の衰えが関係しているだろう。

 二人は水を飲み干すと、その場で茫然と座り続ける。

 

 ふと後ろのメアリーに顔を向けた。

 俺の様子を窺っているだけで何か行動を起こすつもりはないらしい。

 

 今のところ大きな問題はなさそうだ。

 

 ひとまずは清潔でいてもらわなければならん。

 こいつらがここで死ねば丸損(ロス)どころか、俺の死まで確定するからな。

 

 確か風呂があったはずだ。ヴィクターは湯船に浸かるのが好きで、この世界ではめずらしく特注で作ったんだった。

 それも親の金をつぎ込んだ汚い金だが。

 

「メアリー、ニル、セリア」

 

 俺はその場で立ち上がると、あえて高圧的に声を上げた。

 初めに立ち位置を理解させておくことが大事だ。

 もちろん既に逆らうつもりはないだろうが、俺の心構えも変わってくる。

 

「俺は今まで最低な奴だった。こんな劣悪な環境で過ごさせたことを酷く後悔している」

 

 こんな言葉を伝えても何も響かないだろう。

 だがそれも今だけだ。

 行動で示していけばいい。

 

「だがこれからは違う。お前たちの人権を尊重し、人並の生活をさせてやる。――とはいえ、最終的にはお前たちを売る。だが、できるだけ高値で販売したいと思っている。まずは健康を整えてもらう。清潔にしてもらい、食事を提供する。嘘かどうかは、これからの行動で判断してくれればいい。ただし、一つだけ言っておく。もし逃げ出そうとしたり、俺に刃向かえば容赦はしない」

 

 すべて本音だ。前世で人なんて傷つけたことのない俺ができるのかどうかはわからないが、ヴィクターなら赤子の手を捻るようにできる。

 

「わかったなら頷け。そして自分の力で上へあがってこい。褒美は風呂だ。飯も与える。もしこれからもここで過ごしたいなら勝手にしろ」

 

 そう言って、俺は振り返らずに階段を上がった。

 ほどなくして、ずりずりと体を引きずる音が聞こえる。

 

 ……正直、心がかなり痛む。

 こんな人権侵害は前世ではありえなかった。

 しかし、この世界では合法だ。そもそも、彼女たちだってここを逃げ出しても行く宛がない。

 

 心をヴィクターにし、階段の上で待っていると、三人が力を出して登ってきた。

 俺はそれぞれに手を差し伸べ、一人一人、浴室に連れていく。

 

「タオルはそこだ。風呂はもう沸いている。俺は料理を作る。三人で仲良く入ってもいいし、恥ずかしいなら一人ずつでもいい。悪いが下着はない。そこのシャツと短パンを履け」

 

 そのことを伝えると、三人は少し目を見開いていた。

 これが現実の世界かまだわからないのだろう。

 しかし、暖かい湯を見つめ、ニルが服を脱ぎ始める。

 俺は目をそらし、振り返った。

 すると、メアリーのか細い声が聞こえる。

 

「……ありがとう、ございます」

 

 心の底から思ってのことじゃない。俺のご機嫌を取るためのただの言葉だ。

 しかし、俺にはメアリーが生きたいと言っているように聞こえた。

 

 返事はせず、その場を後にする。

 

 今のままメアリーたちを売っても10万ペール(日本円で10万円)程度にしかならないだろう。

 対して、金主から借り入れている金額は500万ペール。普通に考えれば絶望的な数字だ。

 単純計算なら、三人の価値を均等に17倍に引き上げれば借金は返せる。だが、それは素人の計算だ。

 育成にかかる期間の利子、彼女たちにかかる経費、運営資金も必要になってくる。

 

 少し頭は痛いが、できることからやっていこう。

 

 料理を作る前に自室へ戻り、ノートを引っ張り出す。

 俺はこの異世界で奴隷商人として成り上がる。となると、これはただの第一歩に過ぎない。

 よって、一つ一つ、些細なことでもメモをしていく必要がある。

 どんなことにも手順が必要だ。大企業なんて、それこそ分厚いマニュアルがあるだろうしな。

 

 「……タイトルでもつけるか」

 

 俺はそこにペンをなぞらせた。

 もし仕事が順調にいったとしても、俺が病気や怪我で倒れる可能性だってある。

 ゆくゆくは誰かに任せて余生を過ごしたいとも思うだろう。

 その為のマニュアル。なので、

 

 ――ゼロから始める奴隷商の経営学。

 

 と、記載した。

 

 

 最低だが、まあヴィクターには似合いだろう。

 

「……っと、早く料理を作らねえとな」

 

 冷蔵庫になにがあったっけか?

 

 そんなことを考えながらキッチンへ移動したら、びちょびちょの女たちが廊下で立ち尽くしていた。

 

 それも、裸で。




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一度でいいから、そんな夢を叶えてみたい。
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