ひとまず1話完成させたので上げますが、今後は週1程度で投稿出来たらなと思います。
リアル都合次第では隔週になってしまうかも……なるべく早く投稿しますので!
投稿できない間も、お気に入り登録や感想等を読ませて貰っています。
期間が空いても失踪しなかったのは皆さんのお陰です。今後もよろしくお願いします。
「グルルオオオッ!!」
重武装によって全身を覆ったモンスター《ルインコボルド・センチネル》が、雄叫びと共に右手を振り上げる。
巨斧が私の眼前にまで迫る直前で、僅かに顔を逸らす。刃は当たらず、攻撃を避けられたセンチネルは巨体を大きくよろめかせた。
「――スイッチ!」
掛け声を上げると、私の傍を一筋の閃光が抜けていく。相棒のアスナだ。
アスナは驚異的なスピードでセンチネルへと駆けていき、愛剣の《ウインドフルーレ》を輝かせる。
細剣のソードスキル《リニアー》。
彼女が持つ唯一にして最速の剣技を、センチネルの喉元へと放つ。
頑丈な鉄鎧の隙間を突かれた怪物は断末魔の叫びすら上げれず、ポリゴンの欠片となって消失した。
「や、やった。倒せたよミト!」
「まだ気を抜かない! 次のが来るよ!」
自身の戦果に頬を緩めそうになるアスナを戒め、戦場を見渡す。
ボス戦が開始してから暫くが経つ。私が抱いていた不安とは裏腹に、プレイヤー達の優勢で攻略戦は進んでいる。
アルゴの攻略本によって前情報を得ていたのもあるが、ディアベルの指揮能力が予想以上に冴えていたのが大きかった。
「ボケッとしとるんちゃうぞ! スイッチや、スイッチ!!」
「わかってるさ。前に出る!」
すぐ近くでは私達と同じくセンチネルを相手取るE隊が奮戦。キバオウの怒号に等しい掛け声に、キリトは応えて剣を振るった。
先日の一件で仲を心配視された彼らも、ボス戦となれば仲違いはしていられなかったようだ。キバオウはテキパキと指示を飛ばし続け、キリトもそれに意義を唱えず役割に準じている。
彼らE隊、そして私とアスナのペアによって、センチネルを《イルファング・ザ・コボルドロード》の護衛から引き剥がす事に成功。ディアベルがリーダーを務めるC隊を中心に波状攻撃を仕掛け、コボルドロードのHPが順調なペースで削っていく。
「やあああ!」
そして、私にとってはアスナの奮戦が何より嬉しかった。
私がセンチネルを引きつけ隙を作り、アスナが《リニアー》でトドメを刺す。このパターンで既に数体のセンチネルを屠っている。
やはりアスナに秘められた潜在能力は大きい。ソードスキルの速度だけなら、既に私を超えているのだ。このまま経験を積んで成長していけば、とんでもないプレイヤーになるのかもしれない。
友人と嬉しく思う反面、末恐ろしいと思わずにはいられなかった。
このまま何も起きなければ、誰1人欠けずに勝てる。そんな理想的とも言える状況。
そう確信したかったのだが……
(――おかしい)
順調な攻略戦とは裏腹に、私の違和感は募るばかりだった。
頭によぎるのは、キリトに《アニールブレード》の買取を申し入れたプレイヤー――『黒幕』の存在だ。
彼あるいは彼女は、フロアボスであるコボルドロードのLAボーナスを獲る為に、競合相手であるキリトの弱体化を謀った。
これが推測通りならば、『黒幕』は既にラストアタックを狙える位置取りをとっていなければおかしい。コボルドロードのHPバーは間もなく残り1本を切って撃破寸前になってしまうのだから。
なのに、私を含めた
LAボーナスを狙う『黒幕』の存在を、当然だが殆どのプレイヤーは知らない。特定の誰かにラストアタックを獲らせるような陣形になっていない以上、どこかで無理やりにでも自ら動かなければ位置取りが厳しくなる筈。
となると、『黒幕』にとっては今の状況で問題ないという事だろうか? それは一体――
「C隊、ボスを取り囲め!
思考を重ねていた、刹那。
ディアベルの声に『何か』を感じた私は、視線をセンチネルからメイン戦場の方へと向けた。
あちらはディアベルの指揮によって陣形が動き、C隊の6人はコボルドロードをグルッと囲む。相手が範囲攻撃を使えないタイミングで包囲殲滅を仕掛ける手筈なのだろう。
しかし、コボルドロードの正面に立ったのはディアベルだ。タゲ取りを担った以上は防御に備えるかに思えたが、実際には距離がかなり近い。具体的には、
それこそ、そのままトドメを狙っているような。
(まさか…………ディアベル。あなたが全部仕組んだっていうの!?)
彼が盤面を作り上げたのなら、全てに納得がいってしまう。
『黒幕』本人が指揮を取ればタイミングを計るまでもない。自分の思うがままに盤面を動かせるからだ。
そして、キリトがキバオウと同じ部隊に入ったのも恐らく偶然ではなかった。キバオウを監視役にする事でラストアタックの邪魔をさせない為だろう。彼が抱くベータテスターへの敵対心を利用すれば、快く引き受けたに違いない……いや。あるいは、その敵意すらも――
実際、キリトはコボルドロードから距離を離したまま詰めようとはしなかった。キバオウがジッと見つめていたからだ。
ラストアタックを狙う意思が無い事を察してか、キバオウはしたり顔で笑みを深める。そしてディアベルへと顎をしゃくった。
ここに、作為と嘘に塗れた偽りの英雄譚が完成した。
「はあああぁぁぁ――ッ!!」
ディアベル渾身の一撃がヒットする――その直前。
にやり、と。
怪物が笑ったように、私には見えた。
コボルドロードは見計らったように、腰に携えた
あれは、ベータテスト時代に何度も見た攻撃パターンを変化させるモーションだ。元々持っていた骨斧から刀身の長い湾刀へと切替え、間合いが一気に拡張されるのが大きな特徴。繰り出されるソードスキルも変化するが、実は技の軌道さえしっかり把握していれば、意外と対処はしやすかったりする。だからこそC隊はコボルドロードに張り付いたままでいた。
けれど、今握っているアレは何かが違う?
コボルドロードが扱う湾刀は、気持ち程度の刃が付いてる事でなんとか剣と呼べるような、言ってしまえば大きな鉄の棒に近い武器だった筈。なのに、私には目の前のソレが碧く輝いているように見える。鈍ら刀どころか、まるで匠が鍛え上げた名刀のようだ。
あの輝きに似た光を、私は見た事がある。
(…………あ)
そうだ、思い出した。
ベータテスト終了まで残り1分。当時のアインクラッドの最前線で、最後の攻略に挑んだ際に立ちふさがったモンスターだ。長い蛇の胴体と黄色の甲冑が印象的だったし、
アイツらが使ってきた武器は、確か――
「
「え? ミト、今なんて――」
「だめ、範囲攻撃が来る!! 後ろに跳んで回避――――ッ!!」
私の叫びも虚しく、ディアベルのソードスキルは止まらない。システム補助によって怪物へと突っ込んでいく。
あの時のアスナと同じように。
対するコボルドロードの動きは、悪い意味で見覚えのあるものだ。床を蹴り上げ跳躍すると、空中で腰を捻らせ、着地と同時に溜め込んだパワーを解き放つ。
紅色のスキルエフェクトが怪物を包み込んだ瞬間、周囲へ竜巻の如く襲いかかった。
ディアベルを含めたC隊の全員が無防備な状態で一撃を貰い、HPバーを黄色に染める。事前情報と入念な作戦会議が仇となり、想定外の攻撃に殆ど回避行動をとれていなかった。
一撃で半分以上を削る火力も恐ろしいが、それだけではない。
ソードスキルを受けたプレイヤー達は誰1人動こうとしない――否、動けない。
動きを封じられる時間は、長くても10秒には至らなかった筈。故に、この状況だと後衛とスイッチしてタゲを移し替えるのがセオリーとなるが……
C隊を除いたプレイヤー達は、冷や水を浴びせられたように静まり返っていた。戦場にはコボルドロードの雄叫びのみが木霊する。
勝ち戦が突然翻った事や、フロアボスの予期せぬ挙動……そして何よりも、指揮官のディアベルが行動不能に陥ったのが痛い。殆どのプレイヤーが思考を止めて傍観者と化してしまっていた。
もちろん、私もアスナも動けない。
(反撃が、来る……)
声を張り上げようとした。走り出す為の力も込めた。しかし、何もできない。
ソードスキルによる硬直が解除されると、コボルドロードは正面のディアベルを見据える。先程とは違う構え……あれは《
身体が動かない中で、思考だけが私の中で鮮明になっていく。
そのまま、ぼんやりと辺りを見渡そうとした時――私の傍を、1人の
「え…………」
そこには、私と違って傍観者になる事を拒んだ少年――キリトの姿があった。
彼は、ディアベルを誰よりも注視していた。
私より早い段階で彼が『黒幕』だと目星を付けていたから。
彼は、
私よりずっと多くの強力なモンスター達と戦ってきたから。
彼は、私が回避を叫ぶのとほぼ同時に駆け出していた。
私より前に状況判断を済ませ行動に移していたから。
そして。
私なんかより、彼は強い。
だから迷わなかったのだろうと、遠くへ消えていく背中へ手を伸ばしながら――そんな事を思ってしまう。
キリトはコボルドロードではなく、ディアベルの元へと一直線に向かっていく。
そして、カタナの剣技が繰り出される直前で――勢いのままに、ディアベルを体当たりで突き飛ばした。
完全に不意をつかれたディアベルは、怪物の逆方向へと転がっていき。それによりターゲットが強制的に切り替わる。《
安全圏だったキリトのHPバーが急速に減っていき、空中へと浮かされる。無防備な姿を晒すかに見えたが、キリトは空中で体を丸めて防御姿勢を取る。セオリー通りの動きだが、普通ならパニックになってもおかしくはない。流石だと思った最中――怪物はそれを見逃さない。
コボルドロードは間髪を入れず追撃の準備に入る。
キリトは初撃を上手く防御し、そのまま床へと叩きつけられる。間髪を入れずに下段の突きが飛んでくるが、なんと彼は常人離れした反射速度で立ち上がった。《アニールブレード》で2発目を弾いて防ぐ。
しかし、それが限界だった。
2発目を防いだ剣は彼方へと大きく飛んでいく。そして、丸腰となった身体に最後の一撃が正面から入ってしまう。
キリトは紙のように呆気なく吹き飛ばされ、ボス部屋の壁へ激突する。そのまま、真下へと落ちていって……ぐったりと寝たきり。
彼が起き上がる気配は、無かった。
Q.なんでキリトはディアベルを庇えたんですか?
A.ミトが干渉した事で様々な要因が変化した結果です。
流石キリトといったところでしょうか。
ディアベルの生死をどうするか迷いましたが、今作の状況及びキリトの思考回路から生き残った方が自然だと判断しました。
彼の英雄譚もまだ終わりません。今後どのように物語を歩んでいくのか、是非応援してください。