お久しぶりです。作者が色々と忙しいのとダンロンに熱が入ってしまい少し疎かにしてしまいました。前より遅くなりますが完結はさせたいと思っているので気長にお待ちください。では、本編どうぞ。
撮影日当日。正直、期待はしていなかったが、それをさらに下回っていた。この日だけで撮影を終わらせるらしい。リハーサルも実質一回。通し確認も浅い。
(……雑だな)
現場の空気は、すでに完成品を作るそれじゃない。消化試合に近い。うちの監督の方がまだ丁寧だろうと思うレベルだ。
そして何より気になったのは、役者側の態度だった。
セリフ合わせの最中から、どこか投げやりだ。視線も集中していない。段取りだけを消化している。
(売れてる側の余裕か、それとも慢心か)
どちらにせよ、作品に対する温度は低い。
「この程度でいいでしょ」
という空気が、隠す気もなく漂っている。
(これが“現場”か)
「挨拶も大事な仕事……ほら」
有馬が俺の背中を押してくる。そして、目の前にいたのは……鏑木勝也。この現場の責任者だ。
「初めまして。苺プロ所属の星野アクアと申します。本日はよろしくお願いします」
「あぁ……よろしくね」
当たり障りのない挨拶を済ませた。……現場の空気は思った通りだ。淡々とした進行、浅い段取り、短い拘束時間。効率だけを優先した組み方だ。
(まあ、こういう現場もあるか)
「あの人の意見が監督やDを通して現場に伝わる。モデル事務所との繋がりが強い人でね。今回のキャスティングは、ほとんど彼の仕事」
子役時代から長くこの業界にいるだけあって、有馬は詳しかった。
「とにかく顔面至上主義の人でね。アクアを使ってもらえたのも、その辺よ」
顔面至上主義。実力が不要という話じゃない。ただ、この業界では実力だけでも足りない。結局、人の目を引く顔は、それだけで武器になる。良くも悪くも、そういう世界だ。
「リハ始めまーす!」
「行くわよ。台本は頭に叩き込んでいるわよね」
スタッフの声が現場に響く。俺の役は、ヒロインに付きまとうストーカー役。なんの因果だろうな……父さんも、こういった悪役を多く演じていた。
そのまま、リハーサルが始まった。有馬の演技は抑えている。周りが浮かないように。俺もそれに合わせて演技をする。
画面で見ていたが、直接対峙すると、他の役者の下手さ加減がよく分かる。しばらく続けていると、主演である鳴島メルトの顔に雨水がかかり、一旦止められた。
(……間が悪いな)
演技の流れが切れる。というより、最初から”流れ”と呼べるほどのものがあったかも怪しい。スタッフが慌ただしく動き、次の段取りを確認している。その間、役者たちはそれぞれの位置で待たされるだけだ。
(これが短期撮影の現場か)
効率はいい。だが、その分だけ積み上がるものが薄い。
「演技できてるわね。何が裏方志望よ」
「教わったことはある。練習すれば、誰にでもできる。下手じゃないだけだ」
あの日、有馬かなが見た演技は、年齢と中身のギャップが引き起こした異質感。それに、俺には才能がない……結局は、どこにでもいるただの役者に過ぎない。
「すごい演技を求めてるなら悪いな」
「……まぁ……ちょっと期待してなかったと言えば嘘になるけど、十分」
嬉しそうに彼女は笑った。その言葉に嘘はない。しかし、その笑みにはまた違った感情も混ざっていた。
「アクアの演技。努力してきた人の演技って感じがして、私は好き」
「細かなテクが親切で丁寧っていうか、物語に寄り添っているっていうか……普通の人には分からなくて、長く役者をやっている私たち以外にはどうでもいいことなのかもしれないけど」
その感想は、ずっとこの業界で演技をし続けた者だからこその客観的な評価であり、彼女が演技に対して真摯に向き合っているという何よりの証だった。
「変に気を遣うなよ」
「遣うわよ。一応、これでも座長だし!」
軽口を叩くように笑って、気にしていないふりで肩をすくめる。
「主演級の仕事なんて、私にとって十年ぶりの大仕事なんだから。そりゃ頑張るし!」
「確かに、最近見ないし。まだ役者続けていたのかって思ったし」
「うぐぅ!!」
アクアの「最近見てないし」という言葉が突き刺さった。事実だが、有馬の心にダメージを与えた。
「確かに……闇の時代は長かったわ。ずっと仕事がもらえなくて、ネットでは終わった人扱い」
上からの転落。登るのは難しい。だが、落ちる時は本当に一瞬。
「何のために努力してるのか分からなくて……何度も『引退』って言葉が頭をよぎった」
そう言った声には、さっきまでの自虐とは違う熱が戻っていた。
「だけど!こうやって実力で評価される時期が来たのよ!本当に今まで辛かったけど、続けてきて良かったって思った!」
そこまで一気に言い切ると、少しだけ照れくさそうに視線を逸らす。さっきまでの勢いは少しだけ落ち着いて、声の調子も自然と柔らかくなった。
「だからね、別にアンタがめちゃくちゃすごい演技しなくたって、アンタがこの仕事を続けてるって分かっただけで、私、嬉しかった」
少しだけ言葉を探すように間を置く。
「こんな前も後ろも真っ暗な世界で、一緒にもがいてた奴がいたんだって分かって……それだけで十分」
有馬が俺の演技を褒めていた理由。続けてきたことを、あそこまで喜んでいた理由。ようやく腑に落ちた。
(俺は、ただ残っていただけだ)
それでも、この世界で生き残ること自体が簡単じゃない。だからこそ、有馬はあんな顔で笑ったのだろう。……少なくとも、その笑顔に嘘はなかった。
「……よく降るな」
撮影の再開までは、まだ時間がかかりそうだった。手持ち無沙汰になって外へ目を向ける。雨は相変わらず激しい。屋根を叩く音が絶え間なく響き、空もまだ明るくなる気配はない。
……しばらく止みそうにないな。
「撮りの再開まだ? メルト、この後、雑貨の撮影入ってるけど」
「もうすぐです。キャスト陣は有馬さんが宥めてくれてるんで……」
外を眺めていると、不意に鏑木さんとスタッフの会話が耳に入る。
「かなちゃんね……使い勝手が楽でいいよね。誰にでもいい感じに尻尾振ってくれるから、雑に添えとくにはちょうどいい」
視線だけをそちらへ向ける。有馬はさっきまで、この現場を回すために動いていた。主演を支え、空気を繋ぎ、周囲の演技に合わせて自分まで抑えていた。それが、この現場では「使い勝手がいい」の一言で片付けられる。
「演技にうるさいのだけ面倒だけどな。このドラマはあくまで役者の宣伝。演技力なんて求められてないのに、そこだけは分かってないみたいだけどね」
演技じゃない。評価されているのは、扱いやすさだ。……この業界らしい。
結局、最後に物を言うのは、金になるかどうか。その基準に合わせて、人も作品も動く。華やかで夢のある世界に見えても、その裏では数字が全てだ。
『だけど!こうやって実力で評価される時期が来たのよ!』
さっきの有馬の言葉が脳裏をよぎる。
「……評価なんて、されてねぇじゃん」
思わず小さく漏れた。
この業界で正当に評価される人間なんて、一体どれだけいる。実力があっても埋もれる奴はいる。逆に、実力が足りなくても売れる奴もいる。最後に残るのは、作品の都合と市場の都合。その中で使いやすいか、金になるか。それだけだ。
(世の中、そんなもんか)
適切な評価なんて、与えられる方が珍しい。だから皆、自分で居場所を繋ぎ止めるしかない。……有馬かなも、その一人だった。
「撮影再開します!」
スタッフの声が響く。どうやら調整は終わったらしい。……帰るだけなら、それでもいい。最低限、役目を果たして終わる。
それが一番面倒もない。だが……さっき聞いた言葉が、妙に頭から離れなかった。……少しだけ、予定を変えるか。
「せっかくだから、めちゃくちゃやって帰るか」
そう決めた瞬間、不思議なくらい頭が冷えた。あとは、やるだけだ。
原作と同じになるだろうなぁって部分はカットしております。原作に沿って書くのに苦労しております。
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