一番星は消えない   作:ディバル

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7章 次世代の星々  
103 夢を追う少女


 

 

 

「ミヤえもーん! 早く私をアイドルにしてよ!!」

 

事務所によると、そんな叫び声が聞こえた。

 

「………どういう状況?」

 

強請っているルビーの姿。これから楽しい高校生活なのに、そんな娘は涙目であった。

 

「芸能科にいるのに、普通の子みたいに見られたら……このままじゃいじめられる!!」

 

確かにルビーはまだアイドルじゃないけど、そこまで発想が飛躍するとは。いじめられるかはさておき、実際ルビーに至っては、まだ事務所に所属しているだけである。何故こんな状況かと言うと………

 

「そうそう。可愛い子なんて見つからないのよ。意欲のある子は、大手のオーディションに粗方持って行かれちゃうし」

 

そう……これである。苺プロは、いい意味でも悪い意味でも有名だ。いい意味で言うと、自分で言うのも何だが、俺やアイ、他にも稼ぎ頭がいること。名が広く知れ渡っている。

 

悪い意味と言うのは、あの事件が尾を引いていることだ。今はだいぶマシになったとは言え、殺傷事件があったアイドルグループ。そして、刺された本人が普通に芸能活動をしている。一度問題があった事務所に入るのは中々、勇気がいる。

 

「………今はまだ活動できてないけど、活動を始めたらルビーは輝けるよ………だから大丈夫」

 

ルビーの頭を撫でる。アイドルはすぐになることが難しい。でも、活動をスタートしたら伸びるだろう。アイの娘であることもそうだが、この子には他者を惹きつける力があると、俺はそう思っている。

 

実際に見て過ごして、そして長年この業界にいるから分かる。先見の明と言うべきかな?色んな人や才能を見てきた。だから分かる。この子は輝ける子だと………。

 

「……パパがそう言うなら、信じる」

 

ルビーは少しだけ目を伏せた。普段なら自信満々に振る舞う彼女が、珍しく弱気な顔を見せていた。

 

「でも……やっぱり早くアイドルになりたい」

 

ルビーはそう呟いた。

 

「せっかく今度は、ちゃんと動ける体で……夢を追える時間があるんだから」

 

その言葉に、少しだけ胸が締め付けられる。前世では決して届かなかった。スタートラインにすら立てはしなかった。でも、今は違う。

 

「焦らなくても大丈夫だよ」

 

そう言うと、ルビーは顔を上げた。

 

「……うん」

 

そして、いつもの明るい笑顔に戻った。この笑顔だ。天真爛漫で輝きに満ちている笑顔。どうか、このままの状態でいてほしいと思う。

 

「じゃあ、最高のアイドルになる準備をしないとね!」

 

「切り替えが早いね」

 

「だって私は星野アイの娘で、天城彼方の娘なんだから!」

 

これでこそルビーだ。とは言え、元気だけでは現実は変わらない。苺プロはB小町の解散以降、アイドル部門を停止していた。それを最近になって復活させたのはいいのだが、ミヤコさんが言った通り、人がいないのだ。

 

「そう言えば、芸能科に寿みなみちゃんっていう胸バカでかくて可愛い子がいるんだけど……」

 

「よその事務所の子でしょ。駄目」

 

よその事務所の子もそうだけど、ルビー………年頃の女の子がそういう言い方をするのはどうかと思うぞ。

 

「フリーの子ならまだしも……事務所間の揉め事は御免よ」

 

ミヤコさんの言う通り、他事務所の所属タレントを直接勧誘するのは、業界ではかなりデリケートだ。契約期間中なら契約違反や損害賠償の問題になる可能性すらある。

 

たとえ本人に移籍する意思があっても、円満に話し合いを経て移籍するのが普通だ。芸能界だけではないが、業界にはルールが存在している。ルールなしだと、そこはただの無法地帯になる。

 

「フリーなら……居るじゃん」

 

今まで黙っていたアクアがそう言って………

 

「フリーランスで名前が売れている割に仕事がなくて…………顔が可愛い子」

 

 

 

 

 

「よく手入れされた艶々の髪。あどけなさの抜けない童顔。天然おバカっぽいキャラクター……」

 

翌日、お兄ちゃんが提案してきたメンバー候補はロリ先輩だった。改めてじっくり見て、最初に思ったことは……

 

「長年アイドルを追ってきた私の経験上、ああいう子はコッテリしたオタの人気を滅茶苦茶稼ぐ!!」

 

「視点も分析も、なんか嫌だなぁ」

 

アイドルって、可愛いだけじゃ売れない。「この子を応援したい」って思わせる何かがある子が強い。ロリ先輩には、それがあった。うん、この子は絶対人気が出る。私のアイドルオタクとしての勘が、そう言っていた。

 

「人気が出そうなら良いじゃん。誘うだけ誘ってみたら?」

 

「いやまぁ……そうなんだけど。ほら……私とロリ先輩は、ただならぬ因縁があるじゃない?」

 

「あったか?」

 

「だって、あの人なんか私に対して感じ悪くない!?」

 

「お前が何度も『重曹』とか言うからじゃねーの?」

 

……うっ。言われてみれば、原因が全く分からないわけじゃない。初対面から何かにつけて「重曹を舐める天才役者」と好き放題言ってきた。そりゃあ機嫌も悪くなるかもしれない。

 

(……でも、あれくらいであんなに怒る?)

 

なんとなく腑に落ちない。私としては、ちょっといじっていただけのつもりだったんだけど。

 

「とにかく呼び出しておくから、話だけでもしてみろよ。その上で仲良くできないと思うならナシで良いし」

 

そんなこんなで、お兄ちゃんが放課後、近くの公園でロリ先輩を呼び出すことになった。

 

そして、放課後。私達は指定した公園でロリ先輩を待っていた。正直、どうなるかは分からない。初対面……いや、初対面じゃないけど、お互いの印象はあんまり良くない。

 

それでも、この人が仲間になってくれたら絶対に面白くなる。お願いだから……来てくれますように。そんなことを考えながら、私は公園の入口へ視線を向けた。

 

待つこと一時間。……遅い。時間を指定してなかったとは言え、遅いと思う。もしかして、来ないつもり? だとしたら、ちょっとショックなんだけど……。

 

そんなことを考えていると、公園の入口に待ち望んでいた人影が見えた。

 

「お待た……」

 

「やっと来た! もう、遅いよロリ先輩!」

 

「あ? 永遠に待ってろ………」

 

出会った瞬間、ロリ先輩は露骨に嫌そうな顔をした。……いやいや、さすがに酷くない!?

 

「大事な話があるんじゃないの? なんで妹の方も居るの?」

 

「話があるのはルビーの方だからな」

 

「で………どんな話? 私も暇じゃないんだから20秒で済ませて」

 

ロリ先輩は近くのベンチにどかっと腰を下ろすと、脚を組んだままスマホに視線を落とし、いかにも面倒くさそうにそう言った。

 

「態度露骨ぅ………」

 

良い印象を持たれてないのは分かってたけど……まさかここまでとは思わなかった。

 

(……え、私。この空気でロリ先輩を勧誘するの?)

 

正直、かなり気が重い。でも、ここまで来たんだから逃げるわけにはいかない。深く息を吸って、私は意を決した。

 

「有馬かなさん。私とアイドルやりませんか?」

 

「アイドル? 何よ急に………」

 

「苺プロでアイドルユニットを組む企画が動いているの。そのメンバーを探してて」

 

よし、言った。ここまで来たら勢いが大事だ。変に遠回しに話すより、真正面からぶつかった方が私らしい。

 

「有馬さん、フリーって聞いてたから……まぁ、有り体に言うとスカウト?」

 

「………これマジな話?」

 

さっきまでとは打って変わって、先輩の表情がほんの少しだけ真面目になる。

 

「大事でマジな話」

 

「ちょっと考える時間頂戴」

 

即断られると思っていたから、少し意外だった。さっきまで面倒くさそうにしていたのに、ちゃんと話を聞こうとしている。

 

(……もしかして、脈あり?)

 

なんて期待してしまう。でも、まだ安心するのは早い。先輩のことだ。ここから一気に嫌味を言われる可能性だってある。それでも……少しだけ嬉しかった。私達の話を、ちゃんと聞いてくれたことが。

 

「悪いけど」

 

「頼む。有馬かな………ルビーとアイドルをやってくれ」

 

ずっと黙っていたお兄ちゃんが、ここで口を開いた。正直、断られる雰囲気だったところだったから、その言葉で空気が変わったのが分かった。

 

「………でも。私、ここまで可愛く………」

 

「いや、可愛いだろ」

 

先輩を勧誘しているだけのはずなのに、なんでそんな自然に褒め言葉が出てくるの?

 

「俺も酔狂でアイドルをやってくれなんて言わない。有馬はそこらのアイドルよりずっと可愛い。有馬になら、大事な妹を預けられると思ってる」

 

「えっ……でも……」

 

さっきまであんなに乗り気じゃなかった先輩の表情が変わる。流れが確実に変わってきた。

 

「頼む。アイドルをやってくれ」

 

「む………無理!」

 

「頼む」

 

「やらないって!」

 

「有馬のこと、信用して頼んでるんだ」

 

「もうっ!………何を言われても無理なものは無理! 絶対にやらないから!」

 

 

 

 

その結果………

 

「苺プロへようこそ……歓迎するわ」

 

「頭では、駄目って分かってるのに、何で私はいつもこう!!」

 

「一緒に頑張ろうね、先輩」

 

……というわけで! 有馬かな、苺プロ所属決定!!

 

あれだけ拒否してたのに、最後はちゃんと契約書にサインしてるんだから面白い。

 

でも、正直ちょっとワクワクしていた。私と先輩でアイドルをやる未来なんて、少し前までは想像もしていなかったから。

 

それにしても……せんせ、私のためにここまでしてくれるんだ。

 

昔からそういうところあるよね。いつもは冷静で、何を考えているのか分からない顔をしてるのに……大事な人のためなら、誰よりも一生懸命になる。

 

……昔から思ってたけど、せんせって無自覚に人を落とすところあるよね? 本人は全然気づいてないんだろうけど……そういうところ、ずるいと思う。

 

とにもかくにも………こうして先輩がメンバーになった!!

 

まだ二人だけ。アイドル活動なんて、ようやくスタートラインが見えてきたくらい。

 

でも、ゼロだった私たちに仲間ができた。その事実だけで、胸が少し熱くなる。

 

あとは、できればもう一人。きっと簡単には見つからない。でも、不思議と不安はなかった。

 

少しずつでも前に進めばいい。私のアイドルへの夢は、やっとここから始まるんだから。

 

 

 









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