一番星は消えない   作:ディバル

108 / 108
106 才能

 

 

 

 

スタジオには、既に何人かの出演者が集まっていた。

 

今回の『今ガチ』に出演するメンバーだ。

 

それぞれが既にカメラの前に立つことには慣れているらしく、スタッフと話しながらも時折カメラの位置を確認している。

 

俺も適当に周囲を眺めながら、自分の出番を待っていた。

 

「じゃあ、まずは簡単に自己紹介からお願いしまーす!」

 

スタッフの声に合わせて、最初の出演者が立ち上がる。

 

「ゆきです! 高校一年生で、モデルをやってます!」

 

明るく笑って、カメラに向かって小さく手を振る。

 

「恋愛リアリティーショーは初めてなので緊張してますけど……素敵な出会いがあったらいいなって思ってます!」

 

その後も順番に自己紹介が続いていく。

 

熊野ノブユキはダンサー

 

森本ケンゴはバンドマン。

 

MEMちょは動画投稿や配信を中心に活動しているらしい。それぞれが自分のキャラクターを意識しながら、カメラの前で言葉を選んでいる。

 

まあ、当然だ。ここにいるのは全員芸能人。こういう場で何を言えば自分がどう映るのかくらい、多少は考える。そして、最後の一人。

 

「黒川あかねさん、お願いします!」

 

「はいっ!」

 

明るい声が返ってくる。俺はそちらへ視線を向けた。入ってきたのは、一人の少女だった。

 

「黒川あかねです。高校二年生です!」

 

ぺこりと頭を下げる。

 

「普段は女優をしています。こういう番組に出るのは初めてなので……ちょっとドキドキしてます」

 

そう言って、照れたように笑う。

 

「でも、せっかく参加させてもらうんだから、いっぱい楽しみたいです!」

 

そして、少しだけ首を傾ける。

 

「みんなと仲良くなれたら嬉しいな♪」

 

その笑顔に、周囲の空気が少しだけ変わった。

 

「可愛い……」

 

ゆきが思わず呟く。

 

「なんか、雰囲気あるな」

 

ノブユキもそう漏らす。

 

「これはモテそうだなぁ」

 

ケンゴが笑う。MEMちょも楽しそうにあかねを見ていた。

 

「最後にすごい子来たねー」

 

あかねはそんな反応を見て、嬉しそうに笑っている。

 

「えへへ……ありがとうございます♪」

 

その仕草を見て、俺は少しだけ目を細めた。……なんだろう。初対面だから当然、こいつのことは何も知らない。ただ、どこか引っかかる。笑い方、仕草。

 

「それじゃあ、黒川さん。最後にカメラに向かって一言お願いします!」

 

「はい!」

 

あかねはカメラを見る。そして、満面の笑顔を浮かべた。

 

「素敵な恋、見つけられたらいいなって思ってます♪」

 

その瞬間、また周囲から小さな声が上がった。

 

「おお……」

 

「これは強い」

 

「可愛いなぁ」

 

あかねは照れたように笑って、席へ戻っていく。………その笑顔は、どこか『アイ』に似ていた。

 

けれど俺は、そのことを深く考えることはなかった。初対面の女優が、たまたま似たような笑い方をした。その程度にしか思わなかった。

 

 

 

 

アクアの仕事、『今ガチ』の初回放送を先輩と一緒に見ていた。お兄ちゃんは………

 

「……作り過ぎ!」

 

開幕から先輩の呆れた声が飛んだ。画面の中のお兄ちゃんは、普段の姿からは想像もつかないようなキャラを演じている。

 

「何よあれ。あんなキャラじゃないでしょ、アイツ」

 

「まぁ……そうだね」

 

私も苦笑する。でも、それ以上に気になったのが………

 

「……黒川あかね」

 

先輩が画面を見ながら呟いた。黒川さんは、柔らかい笑顔を浮かべながら周囲と話している。

 

『よろしくお願いします♪』

 

「……」

 

先輩はしばらく黙っていた。

 

「……あの子、相当作ってるわね」

 

「え?」

 

「笑い方も、仕草も、喋り方も。全部計算してる感じがする」

 

先輩は画面から目を離さない。

 

「でも……嫌な感じがしないのよね」

 

少しだけ悔しそうに眉を寄せる。

 

「ちゃんと可愛く見えるように作ってる。こういうキャラを一から作れるって、役者としては結構すごいわよ」

 

「先輩、なんか悔しそう」

 

「うるさい」

 

即答だった。私はそんな先輩を横目に、もう一度画面を見る。黒川さんが笑った。その瞬間、胸の奥が小さく揺れる。

 

……やっぱり。この笑い方。この仕草。人の視線を自然に集めるところ、ママに、少し似ている。

 

「……なんでだろ?」

 

私は小さく呟いて、画面を見つめる。初めて会った時から感じていた、あの不思議な違和感。

 

もしかしたら私は、この人のことをもっと知りたいのかもしれない。そんなことを思いながら、私は画面の中で笑う黒川さんを見続けていた。

 

 

 

 

カメラが回っている。スタッフの指示で、俺たちはテーブルを囲み、出演者同士で自由に話すことになった。

 

「じゃあ、皆さん自由にお話ししてくださーい!」

 

「はーい♪」

 

黒川が明るく返事をする。その声を聞いた瞬間、ほんの少しだけ胸に引っかかった。……何だ?別に変な声じゃない。むしろ、よく通る綺麗な声だ。

 

「ねえ、アクアくん」

 

「何?」

 

「さっきから全然女の子と話してないよね?」

 

黒川がこちらへ身体を向ける。その笑顔を見た瞬間、また引っかかった。……笑い方。口元だけじゃない。目元まで柔らかく細める、その笑い方。

 

「そうかな」

 

「そうだよ♪」

 

少しだけ首を傾ける。………まただ。その仕草に、妙な既視感がある。どこかで見た。いや……知っている。でも、こんなところにいるはずがない。

 

「せっかくこういう番組に来たんだから、もっとお話ししようよ」

 

「黒川さんは積極的なんだな」

 

「だって、待ってるだけじゃ何も始まらないでしょ?」

 

そう言って笑う。その笑顔に、自然と周囲の視線が集まる。

 

ゆきも。

 

ノブユキも。

 

ケンゴも。

 

みんな、いつの間にか黒川を見ている。本人は、それを全く気にしていないように見える。いや……気にしていないというより。そう見せている?

そんなことを考えた瞬間、黒川がこちらを覗き込んだ。

 

「アクアくんは、好きなタイプとかあるの?」

 

「……いきなりだな」

 

「だって、気になるんだもん♪」

 

また、その笑顔。また、その声。また、その仕草。一つ一つは大したことじゃない。でも、積み重なる。笑った時の目。首の傾け方。相手との距離。言葉の選び方。その全部が、俺の記憶の中にある誰かと重なっていく。

 

「教えて?」

 

「……秘密」

 

「えー!」

 

少し頬を膨らませたあと、すぐに笑う。

 

「意地悪だなぁ」

 

その瞬間だった。胸の奥が、強くざわついた。……母さん。頭の中に、突然その姿が浮かんだ。ステージの上で笑っていた。テレビの前で笑っていた。俺やルビーに向かって笑っていた。

同じ笑顔。同じような声。同じような、人の懐へ自然に入り込む距離感。

 

「アクアくん?」

 

「……………」

 

「どうしたの?」

 

黒川が不思議そうに俺を見る。

 

「ぼーっとしてたよ?」

 

「……いや」

 

俺は首を振った。あり得ない。ただの偶然だ。母さんと黒川は別人だ。そもそも、黒川あかねとは今日初めて会った。

 

「じゃあ、また私から質問していい?」

 

「……どうぞ」

 

「アクアくんは、私のことどう思う?」

 

「……黒川さん?」

 

「うん」

 

カメラが回っている。これも番組のための会話だ。そう思っているのに。黒川は、まるでこちらの答えを楽しみに待つように笑っている。

 

「……可愛いと思う」

 

「ほんと?」

 

ぱっと表情が明るくなる。その瞬………まただ。その笑顔。その目。その輝き。

 

「嬉しい♪」

 

……母さんだ。そう思ってしまった。顔が似ているわけじゃない。声も違う。性格だって知らない………なのに、見れば見るほど。話せば話すほど。

 

黒川あかねという少女の中に、俺の知っている「アイ」が重なっていく。

 

「アクアくん?」

 

「……なんでもない」

 

カメラの赤いランプが点いている。黒川は変わらず笑っている。その笑顔を見ながら、俺は初めて思った。………こいつは、何なんだ?

 

 







皆様の感想や評価が作者のやる気に繋がっています。よければ評価と感想をお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜(作者:ペンギンって可愛いですよね)(原作:推しの子)

表紙イラスト↓▼【挿絵表示】▼世界的な名声を得た天才外科医は、数え切れない命を救った末、過労によりその生涯を終えた。▼――しかし、目を覚ますと彼は記憶を持ったまま、日本で赤ん坊として転生していた。▼二度目の人生でも迷うことなく外科医の道を選び、再び天才と呼ばれるまでに成長した彼は、都内の大学病院へ勤務することになる。▼病院の近くへ引っ越し、新たな生活を始めた…


総合評価:5468/評価:6.06/連載:35話/更新日時:2026年08月25日(火) 21:00 小説情報

櫛田の中学に転校した(作者:スクラップドラゴン)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

▼よう実の世界に転生したオリ主が櫛田の中学に転校する話


総合評価:3628/評価:7.36/連載:20話/更新日時:2026年06月14日(日) 15:33 小説情報

距離を置きたいだけなんだけど(作者:ろしでれ)(原作:時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん)

▼転生した先は、異世界ではなかった。▼慣れ親しんだ現代日本――そして、中学三年の春に思い出した。▼ここは、前世で読んだ事のある『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』の世界だと。▼ハーレム系な主人公が苦手な僕、真田伊織は、原作主人公・久世政近と少しずつ距離を置くことを決意するはず、だったんだけど………


総合評価:3574/評価:7.89/連載:20話/更新日時:2026年08月17日(月) 01:04 小説情報

魅力至上主義の教室(作者:Mr.♟️)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

地雷だと思った方はブラウザバックしてください。▼神様転生なので、地雷の人は本当にブラウザバック推奨。▼オリ主ハーレム?モノです。▼タグは随時更新します。▼挿絵は全てAI絵になります。▼オリ主:神代 凪(かみしろ なぎ)


総合評価:3770/評価:8.08/連載:26話/更新日時:2026年07月26日(日) 00:00 小説情報

ようこそ原作主人公抜きで頑張る教室へ(作者:灰色の)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

▼よう実の世界に転生した青年、しかし物語の鍵となる原作主人公がいなかった。▼自分の能力も分からない中、彼は必死に足掻いて行く。


総合評価:3710/評価:7.98/連載:43話/更新日時:2026年08月14日(金) 21:23 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>