一番星は消えない   作:ディバル

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106 才能

 

 

 

 

スタジオには、既に何人かの出演者が集まっていた。

 

今回の『今ガチ』に出演するメンバーだ。

 

それぞれが既にカメラの前に立つことには慣れているらしく、スタッフと話しながらも時折カメラの位置を確認している。

 

俺も適当に周囲を眺めながら、自分の出番を待っていた。

 

「じゃあ、まずは簡単に自己紹介からお願いしまーす!」

 

スタッフの声に合わせて、最初の出演者が立ち上がる。

 

「ゆきです! 高校一年生で、モデルをやってます!」

 

明るく笑って、カメラに向かって小さく手を振る。

 

「恋愛リアリティーショーは初めてなので緊張してますけど……素敵な出会いがあったらいいなって思ってます!」

 

その後も順番に自己紹介が続いていく。

 

熊野ノブユキはダンサー

 

森本ケンゴはバンドマン。

 

MEMちょは動画投稿や配信を中心に活動しているらしい。それぞれが自分のキャラクターを意識しながら、カメラの前で言葉を選んでいる。

 

まあ、当然だ。ここにいるのは全員芸能人。こういう場で何を言えば自分がどう映るのかくらい、多少は考える。そして、最後の一人。

 

「黒川あかねさん、お願いします!」

 

「はいっ!」

 

明るい声が返ってくる。俺はそちらへ視線を向けた。入ってきたのは、一人の少女だった。

 

「黒川あかねです。高校二年生です!」

 

ぺこりと頭を下げる。

 

「普段は女優をしています。こういう番組に出るのは初めてなので……ちょっとドキドキしてます」

 

そう言って、照れたように笑う。

 

「でも、せっかく参加させてもらうんだから、いっぱい楽しみたいです!」

 

そして、少しだけ首を傾ける。

 

「みんなと仲良くなれたら嬉しいな♪」

 

その笑顔に、周囲の空気が少しだけ変わった。

 

「可愛い……」

 

ゆきが思わず呟く。

 

「なんか、雰囲気あるな」

 

ノブユキもそう漏らす。

 

「これはモテそうだなぁ」

 

ケンゴが笑う。MEMちょも楽しそうにあかねを見ていた。

 

「最後にすごい子来たねー」

 

あかねはそんな反応を見て、嬉しそうに笑っている。

 

「えへへ……ありがとうございます♪」

 

その仕草を見て、俺は少しだけ目を細めた。……なんだろう。初対面だから当然、こいつのことは何も知らない。ただ、どこか引っかかる。笑い方、仕草。

 

「それじゃあ、黒川さん。最後にカメラに向かって一言お願いします!」

 

「はい!」

 

あかねはカメラを見る。そして、満面の笑顔を浮かべた。

 

「素敵な恋、見つけられたらいいなって思ってます♪」

 

その瞬間、また周囲から小さな声が上がった。

 

「おお……」

 

「これは強い」

 

「可愛いなぁ」

 

あかねは照れたように笑って、席へ戻っていく。………その笑顔は、どこか『アイ』に似ていた。

 

けれど俺は、そのことを深く考えることはなかった。初対面の女優が、たまたま似たような笑い方をした。その程度にしか思わなかった。

 

 

 

 

アクアの仕事、『今ガチ』の初回放送を先輩と一緒に見ていた。お兄ちゃんは………

 

「……作り過ぎ!」

 

開幕から先輩の呆れた声が飛んだ。画面の中のお兄ちゃんは、普段の姿からは想像もつかないようなキャラを演じている。

 

「何よあれ。あんなキャラじゃないでしょ、アイツ」

 

「まぁ……そうだね」

 

私も苦笑する。でも、それ以上に気になったのが………

 

「……黒川あかね」

 

先輩が画面を見ながら呟いた。黒川さんは、柔らかい笑顔を浮かべながら周囲と話している。

 

『よろしくお願いします♪』

 

「……」

 

先輩はしばらく黙っていた。

 

「……あの子、相当作ってるわね」

 

「え?」

 

「笑い方も、仕草も、喋り方も。全部計算してる感じがする」

 

先輩は画面から目を離さない。

 

「でも……嫌な感じがしないのよね」

 

少しだけ悔しそうに眉を寄せる。

 

「ちゃんと可愛く見えるように作ってる。こういうキャラを一から作れるって、役者としては結構すごいわよ」

 

「先輩、なんか悔しそう」

 

「うるさい」

 

即答だった。私はそんな先輩を横目に、もう一度画面を見る。黒川さんが笑った。その瞬間、胸の奥が小さく揺れる。

 

……やっぱり。この笑い方。この仕草。人の視線を自然に集めるところ、ママに、少し似ている。

 

「……なんでだろ?」

 

私は小さく呟いて、画面を見つめる。初めて会った時から感じていた、あの不思議な違和感。

 

もしかしたら私は、この人のことをもっと知りたいのかもしれない。そんなことを思いながら、私は画面の中で笑う黒川さんを見続けていた。

 

 

 

 

カメラが回っている。スタッフの指示で、俺たちはテーブルを囲み、出演者同士で自由に話すことになった。

 

「じゃあ、皆さん自由にお話ししてくださーい!」

 

「はーい♪」

 

黒川が明るく返事をする。その声を聞いた瞬間、ほんの少しだけ胸に引っかかった。……何だ?別に変な声じゃない。むしろ、よく通る綺麗な声だ。

 

「ねえ、アクアくん」

 

「何?」

 

「さっきから全然女の子と話してないよね?」

 

黒川がこちらへ身体を向ける。その笑顔を見た瞬間、また引っかかった。……笑い方。口元だけじゃない。目元まで柔らかく細める、その笑い方。

 

「そうかな」

 

「そうだよ♪」

 

少しだけ首を傾ける。………まただ。その仕草に、妙な既視感がある。どこかで見た。いや……知っている。でも、こんなところにいるはずがない。

 

「せっかくこういう番組に来たんだから、もっとお話ししようよ」

 

「黒川さんは積極的なんだな」

 

「だって、待ってるだけじゃ何も始まらないでしょ?」

 

そう言って笑う。その笑顔に、自然と周囲の視線が集まる。

 

ゆきも。

 

ノブユキも。

 

ケンゴも。

 

みんな、いつの間にか黒川を見ている。本人は、それを全く気にしていないように見える。いや……気にしていないというより。そう見せている?

そんなことを考えた瞬間、黒川がこちらを覗き込んだ。

 

「アクアくんは、好きなタイプとかあるの?」

 

「……いきなりだな」

 

「だって、気になるんだもん♪」

 

また、その笑顔。また、その声。また、その仕草。一つ一つは大したことじゃない。でも、積み重なる。笑った時の目。首の傾け方。相手との距離。言葉の選び方。その全部が、俺の記憶の中にある誰かと重なっていく。

 

「教えて?」

 

「……秘密」

 

「えー!」

 

少し頬を膨らませたあと、すぐに笑う。

 

「意地悪だなぁ」

 

その瞬間だった。胸の奥が、強くざわついた。……母さん。頭の中に、突然その姿が浮かんだ。ステージの上で笑っていた。テレビの前で笑っていた。俺やルビーに向かって笑っていた。

同じ笑顔。同じような声。同じような、人の懐へ自然に入り込む距離感。

 

「アクアくん?」

 

「……………」

 

「どうしたの?」

 

黒川が不思議そうに俺を見る。

 

「ぼーっとしてたよ?」

 

「……いや」

 

俺は首を振った。あり得ない。ただの偶然だ。母さんと黒川は別人だ。そもそも、黒川あかねとは今日初めて会った。

 

「じゃあ、また私から質問していい?」

 

「……どうぞ」

 

「アクアくんは、私のことどう思う?」

 

「……黒川さん?」

 

「うん」

 

カメラが回っている。これも番組のための会話だ。そう思っているのに。黒川は、まるでこちらの答えを楽しみに待つように笑っている。

 

「……可愛いと思う」

 

「ほんと?」

 

ぱっと表情が明るくなる。その瞬………まただ。その笑顔。その目。その輝き。

 

「嬉しい♪」

 

……母さんだ。そう思ってしまった。顔が似ているわけじゃない。声も違う。性格だって知らない………なのに、見れば見るほど。話せば話すほど。

 

黒川あかねという少女の中に、俺の知っている「アイ」が重なっていく。

 

「アクアくん?」

 

「……なんでもない」

 

カメラの赤いランプが点いている。黒川は変わらず笑っている。その笑顔を見ながら、俺は初めて思った。………こいつは、何なんだ?

 

 







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