一番星は消えない   作:ディバル

109 / 109
107 追跡者

 

 

 

 

『今ガチ』の初回の放送を見た。俺がアドバイスをしたので、少し変化するのは予想していた。でも、まさかいきなり『アイ』にコピーしてくるとは……。確かに、演じてみるといいとは言ったが、その辿り着いた先がアイだったとは。

 

本筋では、彼女はアクアの好きな女性像にキャラ付けをして、辿り着いたのがアイだった。しかし、この世界線ではそのイベントは起こってない。アドバイスをした時に、納得したような顔をしていた。

 

そして、彼女はアイをコピーした。長年、一緒に過ごしてきた俺でさえ、見た時に……「アイ?」と感じてしまった。彼女が出ている作品は何度も見てきた。しかし、見れば見るほどに思う。この子は才能の原石である………と。

 

「…………凄いな」

 

口からそんな感想が漏れる。この業界は、様々な才を持つ者たちが集まる。俺も長年、この業界にいる。何度も、天才と呼べる役者や、その他の才能を目にしてきた。

 

その中で、黒川あかねは頭一つ抜けている。このまま、経験を積み、さらに技術が磨かれたら………。

 

「ふふ………怖い、怖い」

 

思わず笑みを浮かべながら、そんな言葉が漏れる。

 

「……怖いって言ってる割に、嬉しそうだね?」

 

隣で一緒に画面を見ていたアイが、少し呆れたように俺を見る。

 

「そりゃあ、こんな才能を見せられたらね。役者として、これからどうなるのか気になるよ」

 

再び画面へ視線を戻す。黒川あかねが笑う。……やっぱり、アイだ。でも、俺から言わせたら80点ぐらいかな? こちとら、何十年も推しているんだ。年季が違うんだよ………黒川さん。

 

「それにしても、本当に私みたいだね」

 

アイも画面を見ながら、少し複雑そうに、それでもどこか嬉しそうに笑った。

 

「そうだね………でも」

 

確かに、画面に映っている黒川さんは、アイを彷彿とさせる。でも、言ってしまえば所詮はコピーだ。本物には敵わない。

 

隣に座っていた彼女を抱きしめる。もう何十年も経ったけど、今だにこの気持ちは風化しない。

 

「本物が一番………当たり前だけどね」

 

アイは一瞬だけ画面の黒川さんを見つめ、それから抱きしめられたまま、少しだけ俺の胸元に顔を預けてきた。

 

長い時間を一緒に過ごしてきたから、俺が何を言いたいのかわかっているのだろう。

 

「……もう、そういうことさらっと言うんだから」

 

少しだけ頬を赤くしながら、抱きしめられたまま胸元に顔を埋めてくる。

 

「でも……嬉しいよ」

 

小さく笑ってから、再びテレビの画面へ視線を向ける。

 

「私の真似をしてくれる子がいるって、なんだか不思議な気分だけど……」

 

彼女の笑顔を見ながら、アイは少しだけ考えるように目を細めた。自分が誰かの目標になったことなんて、昔なら想像もしていなかった。ましてや、自分の姿をここまで再現しようとする人が現れるなんて。

 

けれど、今はそれよりも隣にいる彼方の言葉の方が胸に残っていた。アイは少しだけ顔を上げ、悪戯っぽく笑う。

 

「やっぱり、本物の私には敵わないでしょ?……なんてね♪」

 

そして、照れ隠しのように小さく笑った。

 

「…………嫁がダントツで一等賞」

 

そう口にした瞬間、隣にいたアイがぴたりと動きを止めた。

 

「…………」

 

数秒の沈黙。どうやら予想以上に効いたらしい。

 

アイはゆっくりとこちらを振り向くと、頬を少し赤くしながら、困ったように笑った。

 

「………急にそういうこと言うの、ずるいよ」

 

視線を逸らしながらも、その表情は明らかに嬉しそうだった。こういう時のアイが、本気で嫌がっているわけじゃないことくらい分かる。

 

むしろ、照れを隠そうとしている。

 

「そういうの……嫌いじゃないけどね♪」

 

そう言って笑うアイを見て、俺も自然と口元が緩んだ。

 

本筋とは違う道を辿っている。このまま、上手いこと番組が終わってくれることを願うばかりだ。

 

 

 

 

『今ガチ』の初回放送を見終えた夜。私は自分の部屋の机に向かい、テレビを消した。静かになった部屋の中で、ノートを開く。

 

今日の放送で演じた自分。明るく振る舞って、よく笑って、相手の懐へ自然に入り込む。それなりに上手くできたと思う。でも…………。

 

「……まだ違う」

 

私はノートに書いた。元・B小町センター伝説のアイドル………アイ。

 

今回、私が参考にした人物。テレビや映像で見てきた彼女の姿を思い浮かべる。

 

笑顔。声。仕草。言葉の選び方。どれも真似しているつもりだった。けれど、画面越しに見るアイは、もっと自然だった。

 

「どうして……?」

 

私は映像を再生する。アイが笑っている。

 

もう一度。

 

再生。

 

そして停止。

 

「……笑顔だけじゃない」

 

ノートに書き込む。笑うタイミング。

 

相手を見る時間。

 

距離の詰め方。

 

声の高さ。

 

視線の動かし方。

 

一つずつ、細かく分解していく。アイはただ明るいわけじゃない。相手が何を求めているのかを無意識に感じ取って、その場に一番合う表情を作っている。だから、同じ笑顔でも相手によって微妙に違う。

 

「……そういうことか」

 

私は映像を巻き戻す。アイがファンに向けて笑う場面。次に、共演者へ向けて笑う場面。さらに、インタビューで笑う場面。全部違う。でも、全部「アイ」だった。

 

「……すごい」

 

思わず呟く。そして、ふと天城さんの言葉を思い出した。

 

『スター性があり、周りの視線を奪ってしまうような役』

 

私はその言葉を思い返しながら、ノートに新しく書き加える。

 

「視線を奪う」=目立つことではない。

 

むしろ逆。本人が意識させることなく、自然と目が向いてしまう。

 

「……なら」

 

私は鏡を見る。自分の表情を確認する。笑ってみる。首を傾ける。少しだけ声を高くする。

 

「……違う」

 

また消す。そして、もう一度考える。アイはどうして、あんなにも人を惹きつけられるのか。

 

演技が上手いから?…………違う。それだけじゃない。

 

「……この人自身が、そういう人だから」

 

だからこそ、ただ仕草を真似するだけでは届かない。もっと知る必要がある。もっと観察する。もっと理解する。そして………もっと近づく。

 

ノートの最後に、私は一つだけ書いた。

 

「アイを、もっと理解する」

 

ペンを置く。

 

「……もう少しだけ、近づける」

 

そう呟いて、私は再び映像を再生した。ノートにいくつか書き込みながら、私はふと手を止めた。アイ本人を分析するだけでは、まだ何か足りない。

 

彼女がどういう人間なのかを知るなら………周囲との関係も見るべきだ。そう思い、今度はアイが活動していた頃のライブ映像を年代順に並べていく。

 

最初の頃は、やっぱりアイに目が行く。センターだからというだけではない。歌っている時も、踊っている時も、ただ立っている時でさえ視線を奪っている。

 

「……やっぱり、凄い」

 

けれど、何本かの映像を見比べているうちに、私は小さな違和感に気づいた。

 

「……あれ?」

 

ある時期を境に、ライブの印象が変わっている。アイの輝きが弱くなったわけではない。むしろ、以前と変わらず圧倒的だ。なのに………他のメンバーにも目が行く。

 

以前ならアイの存在感に隠れてしまっていたメンバーが、それぞれ自分の魅力を出している。

 

「……アイ一人のステージじゃなくなってる」

 

映像を止める。アイが目立つ。でも、他のメンバーもちゃんと目立っている。しかも、それが不自然じゃない。

 

まるでアイ自身が、周囲の魅力まで引き出しているように見える。

 

「……いつから?」

 

年代を確認する。そして、私は一つの名前を思い浮かべた。

 

天城彼方。

 

今の私にとっては、単なる有名な役者ではない。少し前に直接会って、私にキャラクター作りについてアドバイスをしてくれた人。

 

「……天城さん」

 

彼もアイと同じ苺プロに所属している。そして、アイと同い年。もちろん、そのことは知っている。二人が同じ事務所で活動していることは、業界では有名な話だ。

 

でも…………。私は映像をもう一度再生する。アイが笑う。隣のメンバーが笑う。アイが視線を向ける。

 

それに応えるように、メンバーが前へ出る。以前よりも、全員が生き生きしている。

 

「……もしかして」

 

私は一度、映像を止めた。天城さんは、私に言った。

 

『スター性があり、周りの視線を奪ってしまうような役を作るといい』

 

あの人は、人がどう見えるのかを考えることに長けている。役者としてだけじゃない。他人の魅力を見つけて、それを引き出すことにも長けているんじゃないだろうか?

 

「……アイにも、何かしていたのかな」

 

もちろん、これは推測に過ぎない。二人の間に何があったのかなんて、私には分からない。ただ、同じ事務所で、同い年。

 

そして、ある時期を境にアイの周囲の見え方が変わっている。私は画面の中のアイを見る。

 

「……天城さんとアイって、どんな関係なんだろう」

 

その疑問を、ノートの隅に小さく書き込んだ。その時、私はふと別のことを思い出した。

 

天城彼方が、芸能界から一時期姿を消した事件。

 

私は検索画面を開く。B小町の初のドーム公演。その公演を終えた夜。当時のメンバーだった新野冬子………ニノによって、天城さんは刺された。

 

その後、彼はしばらく芸能活動を休止している。

 

「……」

 

当時の報道映像を探す。そして、会見の映像を再生した。画面の中の天城さんは、まだ完全には回復していない。その証拠に、車椅子で会見に出てきた。

 

被害者なのに。自分にも非があったと話している。そして………B小町への取材や追及をやめてほしいと、頭を下げている。私は映像を止めた。

 

「……どうして?」

 

普通なら、自分の事で手一杯な筈なのに。

 

ましてや、自分が被害者なのに。なのに、天城さんは自分よりも先にB小町のことを気にしていた。まるで…………。

 

「……何かを守ろうとしてる?」

 

その言葉が自然に口から出た。

 

誰を?何を?そこまでは分からない。ただ、あの人の行動には、自分のためだけでは説明できないものがある。

 

私は再びライブ映像へ戻る。画面の中でアイが笑っている。そして、さっき見ていた天城さんの会見が頭の中で重なった。

 

アイ。

 

天城彼方。

 

同じ苺プロ。

 

同い年。

 

そして、アイの活動に変化が見え始めた時期と、天城さんが近くにいた時期。

 

「……まさか」

 

私はペンを持ったまま固まった。天城さんが守ろうとしたもの。アイの周囲で変わっていったもの。それらが、もし同じものだったとしたら。

 

「……アイを、守ろうとしていた?」

 

もちろん、まだ推測。でも、そう考えると妙に辻褄が合う。私はノートに、二人の名前を書いた。

 

アイ

 

天城彼方

 

その間に、小さく線を引く。

 

「……二人の間には、何があったんだろう」

 

世間に知られているのは、同じ事務所の同い年の芸能人。それだけ。

 

けれど…………。人間関係を読み解く時、表に出ている情報だけが全てとは限らない。私はそう考えながら、またライブ映像を再生した。

 

今度は、アイの表情だけではなく、彼女が誰を見るのか。そして、その視線を受けた人間がどう反応するのか。そこまで注意深く観察し始めた。

 

そして私は、画面の中で笑うアイを見つめながら、もう一度ノートに視線を落とした。

 

まだ、答えは出ていない。けれど………アイと天城さんの間には、私が知らない何かがある。

 

「……もっと、知りたい」

 

そう呟いて、私は再び映像を再生した。今度は、二人の関係を探るように。

 

 

 

 








皆様の感想や評価が作者のやる気に繋がっています。よければ評価と感想をお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜(作者:ペンギンって可愛いですよね)(原作:推しの子)

表紙イラスト↓▼【挿絵表示】▼世界的な名声を得た天才外科医は、数え切れない命を救った末、過労によりその生涯を終えた。▼――しかし、目を覚ますと彼は記憶を持ったまま、日本で赤ん坊として転生していた。▼二度目の人生でも迷うことなく外科医の道を選び、再び天才と呼ばれるまでに成長した彼は、都内の大学病院へ勤務することになる。▼病院の近くへ引っ越し、新たな生活を始めた…


総合評価:5468/評価:6.06/連載:35話/更新日時:2026年08月25日(火) 21:00 小説情報

櫛田の中学に転校した(作者:スクラップドラゴン)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

▼よう実の世界に転生したオリ主が櫛田の中学に転校する話


総合評価:3628/評価:7.36/連載:20話/更新日時:2026年06月14日(日) 15:33 小説情報

距離を置きたいだけなんだけど(作者:ろしでれ)(原作:時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん)

▼転生した先は、異世界ではなかった。▼慣れ親しんだ現代日本――そして、中学三年の春に思い出した。▼ここは、前世で読んだ事のある『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』の世界だと。▼ハーレム系な主人公が苦手な僕、真田伊織は、原作主人公・久世政近と少しずつ距離を置くことを決意するはず、だったんだけど………


総合評価:3602/評価:7.91/連載:20話/更新日時:2026年08月17日(月) 01:04 小説情報

魅力至上主義の教室(作者:Mr.♟️)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

地雷だと思った方はブラウザバックしてください。▼神様転生なので、地雷の人は本当にブラウザバック推奨。▼オリ主ハーレム?モノです。▼タグは随時更新します。▼挿絵は全てAI絵になります。▼オリ主:神代 凪(かみしろ なぎ)


総合評価:3770/評価:8.08/連載:26話/更新日時:2026年07月26日(日) 00:00 小説情報

ようこそ原作主人公抜きで頑張る教室へ(作者:灰色の)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

▼よう実の世界に転生した青年、しかし物語の鍵となる原作主人公がいなかった。▼自分の能力も分からない中、彼は必死に足掻いて行く。


総合評価:3709/評価:7.98/連載:43話/更新日時:2026年08月14日(金) 21:23 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>