お久しぶりです。いろいろ忙しく中々、手付かずでした。ゆっくりと投稿しますので気長にお待ちください。
収録を終えて、控室に戻った俺は、何となくスマホを眺めていた。最終回の放送直後ということもあって、SNSには『今ガチ』に関するコメントが一気に増えている。
ゆき、ノブユキ、ケンゴ。最後まで注目されていた三人の結末についての感想が多い。
けれど、その中には俺と黒川についてのコメントもかなり混ざっていた。
【ID:rM52Yp9】
「今ガチ最終回、結局誰も成立しないの草」
【ID:K8vQ2Ls】
「ゆきノブケンの結末は意外だったな」
【ID:xP7nT4a】
「でもアクアとあかねの最後の会話よかった」
【ID:V3mN8qR】
「この2人最後まで付き合わなかったの逆に好き」
【ID:hL9sW2c】
「アクアあかね、恋愛じゃなくて友達エンドなの良いな」
【ID:Q6tRb1M】
「無理にカップル成立させなかったの好感持てる」
【ID:pN4xK7v】
「この2人は恋人になるより今の距離感の方がしっくりくる」
【ID:zY8cM3q】
「アクアとあかね、最後まで友達って感じだったな」
【ID:W2kLs9E】
「変に告白とかキスとかしないの良かった」
【ID:tR5mQ8a】
「ゆきノブケンは恋愛、アクアあかねは友情っていう対比が好き」
【ID:bN7sL4x】
「アクアがあかねにだけ見せる感じ……と思ったけど普通に友達だったw」
【ID:M3qV8Yk】
「この2人、付き合ってないのに妙に印象に残る」
【ID:cR6pT2n】
「最終回で無理やりカップル作らなかったの正解だと思う」
【ID:F9xK2Lm】
「友達エンドなのに満足感あるのなんでだろ」
【ID:qT4mN8z】
「アクアあかね、恋愛リアリティーショーで一番恋愛してないのに一番気になった組」
【ID:H2vR7Kp】
「この2人はこのまま友達でいてほしい」
【ID:nL8sQ3w】
「最初はアクアあかね成立すると思ってたけど、これはこれで好き」
【ID:aP6kR2v】
「むしろ最後に告白しなかったからこそ、この2人らしい」
【ID:Y7mQ3Ls】
「『仲のいい共演者』から『気の合う友達』になって終わった感じ」
【ID:uK9xL4m】
「アクアあかね派、無事死亡……いや友達エンドなら生きていける」
【ID:sN5vQ8c】
「恋愛じゃない男女の関係ってこういうのでいいんだよ」
「……」
画面をスクロールする。思っていたより、反応は悪くない。
むしろ、俺と黒川が恋人にならなかったことを残念がる声よりも、あの距離感のまま終わったことを評価する声の方が多かった。
俺たちは最後まで、そういう関係だった。黒川が話しかけて、俺が答える。くだらないことで笑って、MEMちょが茶化す。
それだけ。番組の中で恋愛を成立させる必要なんてなかったし、俺自身もそんなものを求めていない。
「友達、か……」
画面に並ぶ言葉を見ながら、少しだけ考える。黒川あかねとは、最初から最後までただの共演者だった。
それが撮影を重ねて、普通に話せる相手になった。そして今は……まあ、友達と言ってもいいのかもしれない。少なくとも、俺にとっては珍しい存在だった。
打算もなく、何かを探る必要もなく、ただくだらない話ができる。……それだけで十分だ。
「……悪くなかったな」
そう呟いて、スマホを伏せる。恋愛リアリティーショーとしては、少し変な終わり方だったのかもしれない。
思っていたより、ここで過ごした時間は悪くなかった。そして、その理由の一つに黒川あかねがいたことくらいは……もう認めてもいい気がした。
その後は、全収録が終わり打ち上げが始まった。それなりに楽しんだ後に、鏑木さんが俺の元へやって来た。
「『今ガチ』評判良いよ。僕が想定していた物とは違っていたけど君を使ったのは正解だと思っているよ」
「そうですか」
俺はグラスをテーブルに置いた。
『今ガチ』が評判になったところで、俺自身にはそこまで実感がない。番組に出た目的は、最初から別のところにあった。
「番組にいい影響を与えたし、君と彼女の関係も、視聴者には結構好評だったみたいだし」
「……友達みたいなやつですか」
「あの結末は狙って作れるものじゃないからね」
そう言われて、少しだけ黒川の姿が頭に浮かんだ。撮影が始まった頃は、ただの共演者だった。
それが、いつの間にか普通に話すようになっていた。演技の話をしたり、くだらないことで笑ったり。今日で収録が終わったというのに、そこまで寂しいとは思わない。
……たぶん、番組が終わっても関係まで終わるわけじゃないからだ。
「……結果的に役に立ったなら、それでいいです」
「随分あっさりしてるねぇ」
「俺は最初から、番組を成功させようとして出たわけじゃないんで」
そう答えながら、俺は会場を見渡した。さっきまで一緒に撮影していた連中が、それぞれ思い思いに騒いでいる。
『今ガチ』に出たこと自体は、俺にとってただの手段だった。でも、その途中で得たものまで全部無意味だったわけじゃない。
「……悪くはなかったですよ」
それだけ言って、俺はまたグラスに口をつけた。
「来週あたり寿司でも食いに行かない?天城君について僕から話せる事を話してあげよう」
鏑木さんの言葉に、俺は一瞬だけ黙った。父さんが芸能界にいる理由。父さんは、どんな人間なのか。何を考えて、何のために芸能界に足を踏み入れたのか。
父さんは、掴みどころがなくて、まるで鵺みたいな存在。今まで集めてきた情報だけじゃ、肝心なところには届かない。でも………鏑木さんなら、何か知っているかもしれない。
ほんの少しでもいい。父さんという人間を知れる手掛かりが得られるなら、この誘いを断る理由はなかった。
それと………もう一仕事して行くか。
『今ガチ』は無事に終わった。俺が介入した影響もあり、黒川あかねの炎上事件も起こなかった。そして、終わり方も変化した。本筋ならアクアが黒川さんにキスをしてカップル成立だった。
しかし、この世界線では、友達エンドに終わった。息子にちゃんと友達いるようで俺は安心している。元々の精神年齢にプラスして、アクアの性質上、中々……人を信用しないというか心の内を見せない。
本音で話時にくだらない会話で笑い馬鹿みたいな時間を過ごす。それは、若者の特権であり青春だ。
「元気にしてるかな?」
ふと、そう呟く。思いを馳せる相手は前世の友。転生してからは普通とは言い難い生活を送って来た。高校には行かず、救う為にひたすらに働き稼いだ。資金集めに奮闘していた。
前世での青い春が脳内を駆け巡る。この世界で過ごして来た日々は前世よりも濃厚で深い。それでも、そんな何気ない日常と前世での高校生活は、今でも思い出せる。
センチメンタルになりつつもスマホの画面を消した。
「………壱護さんの所によるか」
今後のスケジュールとスケジュールが空いているならモデルにならないかと仕事のお誘いを貰った。基本的に、仕事に関しては壱護さんに管理してもらっている。
ドラマの仕事が七割、残りの三割が雑誌やモデル、バライティー番組って感じだ。俺的には受けても良いが前に壱護さんが『お前は働き過ぎた!休め』とお叱りを受けた。
それ以降、スケジュールに関しては丸投げである。アイや子供達との時間は大切にしているし問題ないと思ったが壱護さんやミヤコさんからしたら、問題大有りだったらしい。
いつの間にか事務所の前についていた。変装のカツラを取り眼鏡を外す。そして中に入る。
「壱護さん……今後のスケジュールの予定を」
そう言いながら入った。事務所にはルビーがいた。そこまではよかったが………有馬かなとMEMちょもいた。名前も顔も知っている。それだけではなく大体の性格も把握している。ただ、こうして直接会うのは初めてだ。
「……えっ」
俺の姿を見た瞬間、MEMちょが目を見開いた。
「もしかして……天城彼方!?」
随分と分かりやすい反応。
「先ずは自己紹介から私は天城彼方。役者をしています」
「やっぱり!本物だ!」
……本物って。テンプレの反応をしてくる。
「あ………初めまして。MEMちょです!」
こうして直接顔を合わせるのは初だ。と言っても俺は彼女がどう言う人物なのかは大体知っている。【推しの子】において最後まで癒やし枠だった。
そして、その隣。有馬かなは………
「……どうも」
声こそ普通だった。けれど、俺と目が合った瞬間から、どこか微妙な顔をしている。歓迎されている、という感じではない。
俺と彼女は、今日が初対面。苺プロに入ったのは知っていた。その内、挨拶でもしようか思ったが中々、時間が合わなかった。
「かなちゃん、天城さん知ってる?」
MEMちょが尋ねる。
「知ってるわよ。知らないわけないでしょ」
「だよね!」
そう答えながらも、かなはどこか面倒そうに俺を見る。……なんか嫌そうな顔してるなぁ……。
理由はさっぱり分からない。けど………同じ事務所に所属している以上、これから会う機会は増える。その度に気まずくなるのは彼女に悪い。
「これから顔を合わせる機会も増えるでしょう。何かあれば力になりますよ」
そう言いながら笑みを浮かべる。ファーストコンタクトとしてはこんな感じだろうか?
「……そう言ってもらえるなら」
やはり、微妙な反応だった。
彼女の反応も仕方ないのかもしれない。有名になりはしたが、俺を好ましく思っている人間は、半々くらいだ。
自分で言うのもなんだが、俺の演技は少し……いや、かなり異質だと思う。
同じ役者から見ても、反応は「興味深い」か「得体の知れない」くらいにはっきりと分かれる。褒められているのか、怖がられているのか。まぁ……どちらにせよ、普通の役者として見られていないことだけは確かだ。
彼女の反応を見るに……後者っぽいな、これ。
原作でも、有馬かなは演技に対する執着が強かった。そんな彼女の目から見れば、俺みたいな得体の知れない演技をする人間は、あまり好ましい存在には見えないのだろう。
「パ……天城さん!聞いて聞いて!MEMちょがB小町に入ってくれたんだよ!」
ルビー……今危なかったね。言いかけたよね?パパって……ヒヤッとしたよ。バレたら確実に面倒な事になる。
「よかったねルビーさん。メンバーも三人になったら新生B小町としてスタートを迎えられるね」
「うん!やっと三人になったんだよ!これからもっともっと頑張って、絶対に有名なアイドルになってみせるんだから!」
嬉しそうにしている。形にはなり始めていた。これから、いろいろと壁に当たるだろうがそれすらもルビーなら笑って乗り越えられそうな気がする。
あの病室から解放されて自由に動き、踊れる。本来なら一度死んで終わりの人生。それを転生という形でやり直しを行えている。娘の成長とこれからの活躍を願おう。
そして………あわよくば………アイと一緒にステージに立って欲しい!!
そんなささやかな願いを胸に秘めながら彼女達を見守る。
期待しているよ………ルビー。
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