一番星は消えない   作:ディバル

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2章 それぞれのステージ
012 前途多難


 

 

 

 

これまでのあらすじ。何故か【推しの子】の世界に転生した神崎蒼空こと、天城彼方は施設で暮らしていたが、ある日、自分の推しである星野アイと出会った。俺は、その時に彼女を救うと決心し、アイと関わり、友達になって過ごしていた。そんな時に、アイから東京に行こうという誘いを受け東京へ。

 

楽しんでいた時に、苺プロの斉藤壱護と出会い、アイはスカウトを受ける事に。アイは悩んでいたが、俺の後押しもありアイドルになる事を決意。そして、俺は壱護さんに自分を売り込み、ハッタリをかましながらもなんとかアイと同じ事務所に所属する事になりました。はい……ここまでいろいろありましたが、ようやくスタートラインに立てました。

 

そして、今俺は……写真を撮られてます。

 

彼はモデルとして事務所と契約した。事務所に入って最初に行う最も重要な仕事の一つが、宣材写真の作成である。クライアントがオーディションの合否を判断する唯一の資料となるので重要だ。

 

しかも、ただ写真を撮るのではなく、撮る度にポーズや表情を変える。今世では多分、俺は顔が整っており身長もあるのでイケメンと言えるだろう。しかし、俺は不安である。何故なら……俺は、死ぬ程写真写りが悪いからだ。前世の時、写真を撮るたびになんかおかしくなる。

 

とりあえず考えても仕方ないので俺は、全力で格好つける。羞恥心?そんなもん捨ててきたわ。それから1時間くらい写真を撮った。

 

100枚近くある写真の中で使うのはたった数枚。ベストショットを幾つか厳選していた。気になって見てみたが写真写りはそこまで悪くなかった。これは、俺にとっても嬉しい。……前世でもこの顔だったらと思ってしまったが、考えても仕方がない。

 

そして、写真が決まった後は、レッスンだ。俺は、完全な素人だ。そもそもの基礎ができていない。だから、ウォーキング・ポージング、モデルの基本動作を習得する必要があると。それと同時に表現力、演技の練習も必要だ。

 

同時並行で学ぶ。俺は、凡人だ。ここ数日間でそれを実感させられた。だから、必死に喰らいつく。今までは、まだ何とかなっていた。アイの母親の件。まだ心の傷は残っているだろうが、原作よりはまだ浅いと勝手に思っている。ここは実力が問われる場所だ。付け焼き刃程度じゃあどうにもならない。何を言われても何度失敗しても何度でも立ち上がる。こんなのアイが未来で受ける苦しみに比べたらなんともない。確実に自分の力は変えろ。この世界で生きる為に。

 

「はぁはぁ……」

 

息が上がる。鼓動が早くなる。この時の為に体力向上させる為のランニングをしていたがまだ足りない。限界まで引き出せ。考えろ。思考を回せ。どうしたら俺は、この世界で生きられる?ルックスは申し分ない。でも、そんな奴は五万といる。モブじゃあ駄目だ。今までは、星野アイという人間だけを相手してきた。俺が売れる為には何が必要だ。考えるのは得意な方だろ?

 

 

 

 

 

 

「彼、どうですか?」

 

ミヤコからそう聞かれる。俺が今見ているのは天城彼方の方だ。大きく物を言ってきた割には素人だ。ポージング、表現力、演技、どれも悪くはない。しかし、どれかが突出しているわけでもない。

 

「まだ何とも言えねぇなぁ……」

 

必死になって練習をしている奴を見る。本人もわかっている筈だ。だけど、目は死んじゃあいねぇ。自分の立場をよくわかっている。何が奴を動かしているのかはわからない。その目からはもはや、怨念に近い物を感じる。

 

「もう3時間、ずっと続けている。軽く水分補給はしているみたいだが、それ以外ずっとあの調子だ」

 

「3時間!?」

 

そう……壱護の言う通り彼はほぼ、ぶっ通しで練習を続けていた。講師のレッスンが終わって教えられた事を何度も繰り返して、独自の解釈を広げ分析を繰り返す。数日間の間ずっとこれを繰り返していた。

 

「おい、そろそろ休め。体調管理もお前の仕事だ」

 

根性は、認めるがあれ以上やると体が壊れかねない。俺は、彼方の元にかけてそう声をかける。

 

「壱護さん……俺は、まだやれます」

 

「馬鹿野郎……もう3時間続けているんだぞ?足がふらついている癖に何言ってんだ?」

 

俺がそう言うと彼方は驚きの顔をした。

 

「3時間……もうそんなに経っていたんですね。……そうですね、休みます。ご迷惑をおかけしました」

 

彼方はそう頭を下げてくる。こいつのこの聞き分けの良さ。まだ中学生で思春期真っ只中なのに、俺やミヤコの言葉を素直に聞き、自分が間違っていたら謝罪する。世の中に出たら当たり前で、とても大事な事をこいつはこの歳で持ち合わせている。アイとは全くの真逆だ。だからこそ不気味であり、マジで掴みどころがねぇ。

 

「たく……わかればいいんだよ。それにまだお前は若い。そう焦る必要ねぇんじゃあねぇか?」

 

俺は、ただ励ます為に言った。その程度の認識だった。しかし、こいつにとっては違ったみたいだ。彼方の目が俺を捉える。その顔は、無表情であり、感情がまるでなかった。

 

「それじゃあ駄目なんですよ。俺は、一刻も早く売れる必要がある。それに、貴方との約束もあります」

 

こいつ、まともじゃあねぇ。礼儀が正しく聞き分けもいい。それは事実だ。今言った言葉も嘘じゃあないのはわかる。ただ、それでも拭いきれない狂気がある。最初は、いい拾い物をした程度の認識だった。だが、こいつは……俺が思ったよりも大物になる可能性がある。

 

「……何でそこまで売れる事に拘っているんだ?」

 

彼は、純粋な疑問を投げかけた。少しでも彼を知る為に。それに対して彼は……。

 

「……ナイショです」

 

何事もなかったように笑みを浮かべて笑った。さっきまで感情が一切なく、誰も近づけない雰囲気を放っていたのに。今は、この笑顔。この切り替えの速さ。それも、彼が異質だと言える所以なのかもしれない。

 

「……は、ははっ。ナイショ、ねぇ」

 

「いいじゃねぇか。芸能人はそれくらい胡散臭ぇ方がちょうどいい」

 

さっきまでの空気が少し重かったが、彼の返答で一気にその空気が抜けていく。

 

「その“理由”、忘れんなよ。お前の武器なんだろ」

 

「……ただし、折れんな。折れたら終わりだ」

 

こいつ、本当に読めねえ。俺もそれなりに芸能界にいる。だが、こいつみたいなタイプは見た事ねぇ。この業界は、嘘と打算で出来ている。こいつにも何か目的があるのは間違いない。だが、ここまで読めず掴み所がない奴は珍しい。それは、この業界で強みになり得る。本人は無自覚なのかもしれないが、その一端が溢れている。

 

「折れる気はありません。俺は、この業界で生き抜く。俺が折れる時は、全てを失った時です」

 

は……まだ片足突っ込んだ程度のガキが、ここまで覚悟を決めている。まともじゃあねぇな。だが、まともじゃあ出来ない仕事なのは確かだ。そういう面で言ったら、こいつはこの業界に向いているのかもしれない。

 

「じゃあ……壱護さん。俺は、少し寝ます。1時間くらいしたら起こしてください」

 

彼は、それだけ言ってそのまま、レッスン場でうつ伏せの状態で目を閉じる。

 

「……はぁ?ここで寝るか普通」

 

「……まぁいい。起こしてやるよ」

 

俺の意識が段々と薄れてくる。思っていた以上に疲れていたな。そう思いながら今は寝る事だけに集中する事に。壱護さんの声も聞こえなくなってくる。

 

「……ったく、面白ぇガキ拾っちまったな」

 

そう言う彼の顔は、少し困ったような、でもどこか嬉しそうな、そんな表情をしていた。

 

 

 

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