一番星は消えない   作:ディバル

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013 隣にいない時間

 

 

 

私は、アイドルになった。と言ってもまだライブはしていない。自称アイドルだ。今日も歌とダンスの練習をしている。覚える事が多くて大変だけど、これはこれで楽しい。

 

「アイちゃん。そこのステップ間違えているよ」

 

「あ……ごめん。ごめん」

 

この子は、……誰だっけ?まぁいっか。私、昔から人の名前を覚えるのが苦手なんだよねぇ。彼方も何度も私に根気強く教えていたっけ?レッスン中なのにそんなどうでもいい事を考えていた。

 

ステップを間違えたんだっけ?なら……ここをこうして少し修正。

 

アイは、自分が間違えた所を直ぐに修正してみせた。まだ、結成して数日だが、彼女のアイドルとしての才能が見え隠れする。アイはアイドルとしては天才だった。何となくこうすればいいと本質を見抜いている。

 

「アイちゃんすごい……もうこんなに踊れるんだね」

 

「私、覚えるのけっこう時間かかっちゃってさ〜」 

 

「どうやったらそんな風に踊れるの?」

 

こんなに人が近づいてくるのは、初めてだなぁ。いつもは彼方としか過ごしてなかったのに。でも、何だろう。これも悪くないかも。

 

アイは、自然と笑みを浮かべていた。アイは、そのルックスから男女共に話しかけられる事はあったが、殆どがその見た目に釣られていた。でも、目の前の彼女達は、少し違う。ここには、斉藤壱護が自らスカウトした顔のいい子達が集められている。今この場にいるのはアイを含めて4人。高峯、渡辺、ニノ、そしてアイだ。これがB小町の初期メンバーとなる。

 

こんなに誰かに褒められた事ってあったっけ?何だか、心の隙間的な物が埋まっていくのを感じた。あれ、私ちょっと楽しんでいる?こうやって皆んなと話す事。彼方以外の友達が出来た事がとっても嬉しい。

 

「ここはねぇ………こうやってこんな感じにドーンって感じで」

 

アイは確かにダンスや歌は上手いが、それを他者に教えるのは下手である。彼女はどちらかと言うと論理派ではなく感覚派の人間だ。しかも彼女の性格は大雑把だ。教えるのにはまず向いていない。

 

「「「わからない」」」

 

他のメンバーが同時にハモった。無理もない。あんな大雑把で雑な説明でわかる人間なんていないだろう。

 

「え?」

 

 

 

 

 

それから4人でレッスンを続けて2時間近く経過した。

 

「アイちゃんお疲れ」

 

「先に帰るね」 

 

「また明日」

 

レッスンの時間が終わり、3人は先に帰って行った。アイはまだ練習を続けていた。アイは、ダンスと歌を繰り返す。アイは、繰り返す。ただ、ひたすらに練習する度に動きは繊細になり完璧へと近づいていく。流れる汗、荒れる呼吸。それを気にせず動き続けた。 

 

「あれ、もうこんな時間〜?やば、全然気づかなかった」

 

気づけば3人が帰って1時間近く経っていた。アイはようやく休憩に入る。タオルで流れた汗を拭い、水分補給として水を飲む。

 

「こんなに一人でいるの、なんか久しぶりかも。……ちょっと変な感じ」

 

彼が貴女によく話しかけたり遊んだりしていた。学校でも1人の時間があったが、気づいたら彼が隣にいた。アイにとって天城彼方は、隣にいて当たり前の存在になりつつある。それは、彼自身が推しと一緒にいたいというオタク的な思考なのだが、兎にも角にも彼は、アイの側にずっといた。最近、彼はアイではなく表現力や演技を高めるのに夢中だ。

 

(でも……前より寂しさは感じてないかな?)

 

この変化は、彼の影響を受けている。本来のアイならそこまで深く関わろうとせず、あまり興味を示さなかった。しかし、天城彼方という世界のバグが彼女の心に少なからず変化をもたらしていた。アイは現にメンバーに興味を示している。しかし、彼女はまだ知らない。この先のメンバーとの問題を。

 

「あ、そういえば彼方もレッスンだったっけ?……たぶん」

 

アイは立ち上がる。タオルを床に置き、レッスン場から出る。ここにはレッスンの場が二つある。同じ構図だが、部屋は分けてある。アイはそのまま歩き、もう一つのレッスン場に向かった。ドア越しから見える。うつ伏せ状態の彼の姿が見える。

 

「彼方?」

 

レッスン場に入り彼に近づく。腰を下ろしてジーッと彼の事を見ている。寝息が聞こえてきた。どうやら眠っているみたいだ。アイは、うつ伏せの彼をひっくり返す。ゴン……と少し鈍い音が鳴ったような気がしたが気のせいだろう。

 

「寝ている」

 

人差し指で彼の頬を突くアイ。それでも、彼は起きなかった。彼は、さっきまでレッスンを合わせて3時間以上ほぼ動いていた。こうなるのも自然だろう。

 

「こうして見ると、普通の男の子っぽいよね〜」

 

アイから見た彼方は、友達であり変な人である。彼はアイの側にいた。話したり、遊んだりして一年近く過ごしたが、彼女ですら彼をよくわかっていない。

 

(彼方ってすごいけど……同い年で合ってるよね?……たぶん。)

 

アイは疑問を感じていた。彼女の母親の事から始まり、スカウトでのアイの後押しをし、そして自分を売り込んで見事に彼女と同じ事務所入りを果たした。この全てに共通している事は、人をよく見ている事だ。よく見て感じて相手の欲しい言葉、求めている答えを導き出している。それこそ、怖いくらいに。ある意味でこれは彼の才能とも呼べるだろう。

 

彼方の前だと、なんか隠し事できなさそう。……全部見えてるみたいで、ちょっと怖いかも。でも、助けられたのも本当なんだよね。 

 

「痛くないのかな……?」

 

彼は今、固い床で寝ている。寝心地としては最悪だろう。そんな彼を見かねた彼女は、床に座り、膝を少し立てて、太ももの上に彼の頭を優しく乗せた。アイは彼に膝枕をしてあげた。 

 

「こんな感じかな?」

 

そのまま、しばらく経過した。

 

「んっ……あれ?……何でアイが?」

 

彼が目を覚ました。彼は、まだ寝ぼけている。アイがいる事に不思議そうにしている。段々と意識がハッキリとし始める。頭に柔らかい感触が伝わり、彼が自分の置かれている状況に疑問を抱く。

 

「………アイさんや貴女は何をしているんだい?」

 

「膝枕だけど?」

 

その言葉で彼の思考がフリーズ。いつも思考を回している彼だが、推しに密着されたら、今みたいな想定外な事をされるといつもこんな感じになる。因みに顔は完全な無表情であり、一見すると動じてないように見える。

 

(……俺は天国にいる。)

 

現実はこれだ。彼は推しの事になるとIQが著しく低下する。

 

(あ、また無表情。彼方って、たまにこうなるんだよね〜。)

 

無表情になっている理由が自分のせいだとは思いもよらないのだろう。彼はアイへの気持ちを隠している。アイは、嘘には敏感だがそれ以外、主に自分に向けられる好意には疎い傾向がある。と言っても彼が完璧に気持ちを隠しているのなら、気づけないのは無理もないだろう。 

 

「さて……起きるか」

 

彼方が膝から起き上がっちゃった。……もうちょっとこのままでもよかった気もするけど。まぁ、いっか。

 

少しだけ名残惜しそうにする彼女。彼は、立ち上がって軽く体操をして体をゆっくりと起こしていく。

 

「そう言えばアイの初ライブっていつだっけ?」

 

振り返ってそう聞いてくる彼。B小町は弱小ながら活動はしていた。今度するライブは、アイの初お披露目であり、アイが中心となる。 

 

「あれ、2週間後だっけ?……まぁ、そんな感じだよね」

 

普通ならもう少し時間をかけてメンバーとの連携も合わせるのだが、アイの場合、才能がありもう歌やダンスは完璧に近い。そして、アイが出るのは最後で、覚えるダンスと曲は一つだけなのもあり初ライブが早まった。

 

「え、見に来てくれるの?」

 

「もちろん……行くつもりさ。例え熱を出してでも行くさ」

 

彼はアイが推しだ。そんな推しの初ライブ。彼がこれに行かない理由がない。

 

「そこまでされたら困るかも〜。……ちゃんと元気な状態で来てよね?その方が嬉しいし」

 

彼の言葉でアイがクスッと笑った。2人は、それぞれの道を歩んでいる。アイはアイドルとして。彼方はモデルとして、ゆっくりと確実に前に進んでいる。

 

 

 







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