一番星は消えない   作:ディバル

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014 初ライブ

 

 

 

 

俺は、今ライブ会場にいる。と言ってもそんなに大きな箱ではない。地下にある小さな、それこそ30人程度が入れる場所だ。アイのお披露目のライブだ。会場にはそこそこの人数が来ている。この頃のB小町は、まだまだ駆け出しの地下アイドル。このくらいの人数が妥当だろう。

 

「……大丈夫かな?」

 

ライブが始まるのを待ちながら考えていた。もちろん考えている事は、アイの事だ。彼女が完璧で究極のアイドルと言われるのはまだ先の話だ。今日は、そんな彼女の初ライブ。

 

(緊張している……かな?)

 

「ふふ……」

 

思わず笑みが浮かぶ。きっとアイなら「え〜?してないしてない。ぜーんぜん平気だよ?」と笑い飛ばすのだろうな。それに、今日はただの客だ。あまり考えず楽しめばいい。あ……どうやら始まったみたいだ。

 

アイ以外の他のメンバーのステージが始まった。原作ではアイばかりに目が行きがちだが、他のメンバーのルックスやパフォーマンス自体は悪くない。

 

彼は、オタクだが、ドルオタではない。ライブに来たのは今回が初だ。とりあえずペンライトを振って楽しむ。

 

(……初めて来たがこんな感じなのか。)

 

ステージだけではなく周りの観客も見ながら楽しんでいた。 

 

 

 

 

 

「…………」

 

アイは、舞台裏から他のメンバーが歌って踊るのを見ていた。頑張っているなぁ……と他人事のように見ながら私は出番を待つ。緊張は、不思議としていなかった。普通なら「大丈夫かな?」や「不安だな。」と感じるかもしれないけど。私は、それが全く無かった。

 

私のする事は、シンプル。歌って踊って嘘をつく。お客さんが求める理想を演じるだけ。初めてなのに何故か、上手くいくという根拠のない自信があった。

 

曲が変わり、3曲目に。これが終わったら次は、アイの出番だ。

 

「準備できるか?」

 

社長が声をかけてくる。振り返り言葉を返す。

 

「うん、ばっちりだよ〜」

 

その顔には、緊張がなかった。自分の事なのにどこか軽く、むしろこれから起こる事を楽しみにしているようにも見えた。

 

「お前、緊張とかしねぇのか?」

 

アイの軽さに驚きながらも壱護は聞き返す。彼女は、首を傾げる。

 

「んー……よくわかんないや」

 

その言葉を聞き頭を抱える壱護。

 

「じゃあ行ってくるね」

 

アイは、立ち上がり歩きステージに向かう。常人ならこの一歩がとても緊張するだろうが、アイはまるで通学路を歩くように自然にステージの方に向かっていく。そして、スポットライトが彼女に当たった。会場が静かになる。アイの美貌に言葉を出さないでいた。他のメンバーも可愛いがアイはその上をいく。出だしとしては完璧だ。

 

「はじめまして〜。新メンバーのアイです。よろしくね?」

 

彼女が自己紹介をした。ただ、それだけなのに会場は今日一の熱を帯びていた。観客から声が上がる。新メンバーという重大発表の効果もあるのだろう。そして、自己紹介が済んだ後に曲が流れる。アイの初ライブが始まった。

 

曲のイントロが流れる。軽快なリズムに合わせて、アイは一歩前に出た。

 

その瞬間………空気が変わった。

 

さっきまで“可愛い新メンバー”だったはずの少女が、たった一歩で“ステージの中心”に立つ存在へと変わる。観客の視線が全てアイに集まった。

 

「……っ。」

 

観客の一人が、思わず息を呑む。動きは、決して派手じゃない。他のメンバーと比べて特別上手いわけでもない。なのに……目が離せない。笑顔。視線。仕草。その一つ一つが、まるで“自分に向けられている”ように錯覚させる。

 

(なんだこれ?)

 

手に持っているペンライトが手から滑り落ちる。わかっていた……彼女がアイドルとして才能がある事を。しかし、それは彼の予想を遥かに超えた物だった。ここにいる全ての人間の視線を集めている。さっきまで心配をしていた彼だったが、それが杞憂だったとそのパフォーマンスで理解させられた。

 

彼にとって星野アイがすごいアイドルという事は知っていた。しかしそれは、理解であり実感ではない。彼は、魅せられていた。星野アイという才能の原石に。

 

(ここまでとは……。)

 

抱いた感想はこれだった。彼の予想を遥かに超えた。他の観客が声援を送っている中、彼は動けず視線はアイだけを追っていた。何故か目で追ってしまう。そんな魅力がある。

 

(これで初ライブなのかよ。)

 

観客のコールが増える。この空間は既にアイによって支配されていた。ステージの上で誰よりも輝き、眩い光を放っている。人は、眩し過ぎる光に脳を焼かれるという言葉があるが、まさに今、この状況を言うのだろう。

アイのパフォーマンスに突出している物は現時点ではない。だが、それも時を重ねる事にキレも動きも増していく事だろう。彼の背中に冷たい物が走った。

 

(あぁ……キミ達もこんな気持ちだったんだな。)

 

こうして、彼はさらにアイを推しとして好きになった。脳を焼かれたのは周りの観客だけではなく彼も例外ではなかった。

 

(やっぱり……アイ……君は何処まで行っても根っからのアイドルなんだな。)

 

顔から自然と笑みが漏れる。そうして、ライブが終了した。沢山のコールと熱気を残したまま。

 

 

 

 

 

「お疲れ様。アイちゃん初ライブなのに凄かったね」

 

「お客さんのコール凄かった」

 

楽屋に戻ってきた彼女らは先程のライブの話で持ちきりだった。その話の中心は勿論アイだった。今回のライブがここまで大きく評価を得たのはアイのお陰なのだから。彼女達の言葉に嘘はない。しかし、それでも心に残り溜まっていく物がある。

 

「え〜?ほんと?ありがと〜。でも、みんなもちゃんと可愛かったよ?」

 

アイはそう言葉を返す。メンバーが盛り上がっている中でアイ。彼女だけは別の事を考えていた。

 

(彼方、ずーっとぽかんって顔してたな〜。)

 

彼の事だった。彼は何気に最前列を陣取っていた。ステージから一番近く彼女達からもよく見える位置にいた。驚いていた彼の顔も丸見えであった。

 

(でも……最後は笑ってたし、まぁいっか。)

 

メンバーとは今はまだ仲良くやれている。しかし、眩い光には影が差し込む物。アイは、まだアイドルという仕事を軽く見ている。一見、綺麗な世界に見えるがそれは、あくまで観客から見たらの話だ。影はゆっくりと濃くなり彼女へと近づく。まだ、誰もそれに気づいていない。

 

その後、全てのスケジュールが終わりアイは、寮に帰ってきた。ここは苺プロが管理している寮だ。他のメンバーや斉藤壱護やミヤコ、そして天城彼方も住んでいる。アイは他のメンバーと共同生活をしているが、彼の場合は、男のタレントが彼しかいないので一人だ。 

 

アイは自分の部屋に入りベッドに寝転がる。彼女の脳内に浮かぶのは初ライブの事だった。天井をぼーっと見上げる。体は疲れているはずなのに、妙に意識が冴えていた。

 

「……楽しかったなぁ」

 

ぽつりと呟く。嘘じゃない。本当に楽しかった。ステージの上で、みんなが自分を見てくれていた。あの視線も、声も、全部が気持ちよかった。

 

「……でも」

 

そこで、言葉が止まる。何だろう、この感じ。楽しかったはずなのに、どこか足りない。埋まったと思ったのに、また少し空いているみたいな……そんな感じ。

 

「……よくわかんないや」

 

くるりと寝返りを打つ。今日の事を思い出す。ライト。歓声。メンバーの声。そして……。

 

(彼方。)

 

最前列で、ぽかんとした顔をしていた彼。いつも最後に考えるのは彼の事だ。アイが思っている以上に彼の存在は、大きくなっていっている。 

 

(びっくりしてたよね〜。)

 

(でも……最後はちゃんと笑ってたし。)

 

そこまで考えて……ふと、思う。 

 

(あれって……楽しかったから、だよね?)

 

一瞬だけ、考えが止まる。自分が見せたものは、ちゃんと“届いていた”のか。ちゃんと“好き”になってもらえたのか。アイは、彼の事をよく理解できていない。だからこそ、そう思ってしまう。

 

「……まぁ、いっか」

 

小さく呟いて、考えるのをやめる。わからないものは、わからないままでいい。アイも切り替えが早かった。わからない事は、深く考えず放棄する。彼女らしい考え方だ。

 

「またやればいいだけだし」

 

ベッドの上で天井を見ながら、ふっと笑う。今日できたことは、明日もできる。むしろ、もっと上手くやれる。アイはどこからかそんな自信が湧いていた。

 

「次は、もっと好きにさせよっかな」

 

軽い調子でそう呟いた。その言葉に、深い意味はない。ただ思っただけ。でも……それが、彼女の在り方なのだ。

 

 

 

 






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