一番星は消えない   作:ディバル

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015 足りない者

 

 

 

 

俺達が芸能界に足を踏み入れて三ヶ月の月日が経とうとしていた。アイは、あれから人気が出てセンターに抜擢された。レッスンを重ねる程、彼女のパフォーマンスはより輝きを増していく。このままいけば、本筋通りにB小町は売れていくだろう。

 

さて、そんなアイの今後の活躍は一旦隅に置いておく。問題は俺の方だ。モデルの仕事はちょくちょく来るが目立った活躍がない。社長からしたら期待外れもいい所だろう。わかってはいたが、現実は心に来る物がある。表情やポージングに関してはだいぶ様になってきたと思う。呑み込みも早かったと個人的には感じる。しかし、演技の方が圧倒的にダメだ。別に、大根役者とかではない。それなりにできていると自負している。しかし、何かが足りない。

 

自分でもよくわからないが、ボタンの掛け違いやパズルのピースが足りない様な、そんな感覚だ。少し前にちょい役で出たが、まぁまぁな結果。よく言えば、しっかりとやれていた。悪く言えば記憶に残らない。そんな演技だった。

 

何が足りないか考えるが、唖然として打開点が見つからない。初動が大事だ。記憶に残ればまた仕事を斡旋してくれる可能性は高い。しかし、俺には現時点でその記憶に残る部分がない。凡庸なのだ。

 

(何が足りない?)

 

基礎的な部分はできている。だが、それだけじゃあダメだ。売れなくちゃいけない。自分の価値を証明しないといけない。この芸能界における自分の立ち位置を確立する。それが、この芸能界での唯一の存在証明。

 

何故、彼が売れるのに必死なのか、それは金だ。アイを救う為に金と言う力が必要だから。今までは側にいられたが、今後どうなっていくかわからない。それに、今後の計画の為に金は必要不可欠。ある程度、

 

彼の頭にはアイを救う生存ルートは組み上がっているが、そのどれもが莫大な金がいる。

 

そして、何より彼は、アイの生存後も考えている。アイを救う事、それはつまり神木煇と関わらせない。それか、アイと神木煇を恋仲にさせない。これが一番手っ取り早い。でも、そうすると問題が起こる。それは、アクアとルビーが生まれなくなる。

 

これは、余りにも大き過ぎる変化だ。何かを変えるにはそれに見合う代償を支払う必要がある。それが、これだ。特に、アクアがいないと有馬かなと黒川あかねに起こる悲劇は、確実な物になるだろう。俺は、ハッピーエンドが好きだ。だから、アイを救った後の目標は彼女達の救済になる。

 

これは、本来の本筋を変える俺の罪であり罰だ。俺には、その責任を背負う義務がある。だから、金と同時に芸能界で売れる必要がある。彼女達と接点を持つ為に。

 

演技の話からだいぶ逸れたが、俺がここまで必死になる理由がこれだ。立ち上がり楽屋から出る。今日は演技の仕事だ。ドラマでのちょい役。確か、主人公の友人Aだ。

 

「苺プロの天城彼方です。本日はよろしくお願いします」

 

ちょい役だが現場での挨拶は欠かさない。この業界でもっとも大事なのはコミュ力だ。礼儀正しく、誠実に他の役者やスタッフに嫌われないように努める。地道な積み重ねを大事にしていく。

 

撮影の準備が整い、俺はスタッフの指示通りの位置に立つ。カチンコの音が鳴り響き、撮影が始まった。

 

「なぁ……俺は、どうすればいいと思う?」

 

主演の役者が俺の前におり、相談を持ちかけてくる。恋愛ドラマのワンシーン。ここは、主人公が自分の気持ちについて悩んでいる様子だ。そんな彼に対して、友人Aである俺がアドバイスをするシーンだ。

 

「そう難しく考えるなよ、蓮。お前は自分の気持ちに素直になればいいんだよ」

 

肩を組み、笑う。満面の笑みで。そして、台本通りのセリフ。これで良いはずだ。この明るいキャラでこのセリフ。 

 

「はい……カット。OKです」

 

OKが出て、俺は主演の役者から離れる。どうやら良かったみたいだ。しかし、周りを見て空気感が少し違うのを感じる。

 

(なんだ?この空気感?)

 

OKが出た。それは、シーンとしては問題なかったという事だ。なのに、この空気の重さ。監督の方に向かう。直接聞きに行く事にする。

 

「すいません。何か問題がありましたか?」

 

そう聞くと、監督は何とも言えない顔をしていた。苦虫を噛み潰すような、そんな顔。しばらく答えを待っていると、返答が返ってくる。

 

「問題はない……セリフはしっかりと言えてるし、限りなく正解に近い演技だった」

 

(なら……何故だ?何故こんなにも空気が重い?)

 

「君の演技は確かに正確でよく出来ている。でも、記憶に残らない。正確に出来過ぎている。差し詰め模範解答みたいだ」

 

その言葉は、彼に深く突き刺さった。彼はよく見ている。人も、周りも、そして台本も。それが致命的な仇となっている。言ってしまえば個性がない。そして、考えすぎている余り、本物の感情が乗っておらず、結果として弱く記憶に残らない。

 

「君、上手いよ。でも“誰でもできる上手さ”だ」

 

演技で大事なのは感情だ。ある程度の感情は出せているのだろうが、それではダメだ。役者なんて星の数程いる。その中から、わざわざ彼を選ぶ理由がない。

 

「……なるほど。率直な意見ありがとうございます」

 

彼は、頭を下げてお礼を言う。しかし、その心境はとても穏やかではなかった。

 

限りなく正解に近い?演技自体には問題はないという事だよな。記憶に残らない。記憶に残るには?……感情の乗せ方?クソ……わからない。でも、これだけはわかる。

 

『悔しい』

 

彼の抱いた感情はこれだった。自分に才能がない事はわかっていた。わかり切っていた。でも、直接人に言われるのとは訳が違う。心が重くなる。生々しいその重さが心の内に溜まり、燻る。 

 

でも、立ち止まる訳にはいかない。俺に使命と責任がある。だから、折れてなるものか。俺の歩みはこの程度で止められると思うな。何度でも立ち上がる。たとえ神だろうと、たとえ悪魔だろうと、俺を邪魔するもの全てが音を上げるまで、何度でもリベンジし続ける。

 

悔しい気持ちをバネに、彼は燃え上がっていた。鋼の意志を彼は既に持っていた。それは、凡人である彼の唯一の武器。彼は、リベンジを決意した。

 

歩いて帰る。寮から近かったので、そのまま歩く。一人だ。いつもアイが隣にいた。でも、最近は一人だ。こうして一人の時間は珍しくない。でも、物足りなさを感じている。

 

俺は、一人でいる事には慣れている。今世の親は仕事で俺を放置している事が多かったし、学校でも友達はいなく、一人で過ごした時間が多い。前世でも一人暮らしはしていたし、なんて事のない事だ。でも、やっぱり感じてしまう寂しさを。

 

やっぱり隣に人がいる方が好きだ。誰かと関わり、話す。そんな当たり前の日常が好きだ。考える事、これからやる事は多い。アイの死までの時間もまだまだある。それでも、きっとその内、一人になるだろう。アイを救ったら俺はお役ごめんだ。でも、それでもやらなくてはいけない。前世とは違うこの世界にまた生を受けた理由はわからない。でも、俺は新たに目標を持って歩いている。

 

「頑張らないとな」

 

背を伸ばし、前を歩く。明日へと向かって。

 

 

 

 






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