一番星は消えない   作:ディバル

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019 変わるための選択

 

 

 

 

アイと無事に仲直りができた。それと同時に、俺なりの演技の核心を掴めた。さぁ……そのまま、実践に行こう。と思ったが、残念ながら演技の仕事はまだきておりません。はい……そう簡単に仕事はきませんよねぇ。来たら誰も苦労はしないだろうし。

 

と言うわけで今はモデルの仕事が中心だ。最近だと、服、アクセサリー、化粧品などを身につけての写真撮影。それらが雑誌や広告に載るようになっている。と言ってもすごく売れているわけではない。少しずつ知名度が上がりつつある。例えるなら「この人、どこかで見たことある様な?」程度だろう。

 

顔の良さと壱護さんが売り込んでくれているおかげだ。ぶっちゃけるとただの運である。顔に関しては親に感謝だ。今は、何をしているか知らないけど。

 

とりあえず、仕事がないので演技の練習をしていた。それ以外にやることはないし。アイに関しては、レッスンやライブで俺よりかは忙しい。暇人な俺は、演技に打ち込む。

 

「自分を封じ込めるか」

 

簡単に言うが、それは難しい。自分の解釈、視点、そして感情だけを残し、あとは封じ込める。俺自身が器になる。だが、この考えが面白いくらいにしっかりとハマった。パズルの最後のピースが埋まったかのように。

 

元々の演技は悪くない。「誰にでもできる上手い演技」。技術的には問題ない。だが、感情が乗らず、人間味がない。これが課題だ。だからその「誰にでもできる。」これさえ直せばいい。

 

「やってやるよ」

 

まぁ……考えても仕方がない。そのせいで、いろいろあったからな。今は、実践あるのみ。

 

そのまま、彼は演技を続けた。

 

 

 

 

 

 

「……よし。いい感じだ」

 

体力の許す限り練習を続けた。少しずつだが形になってはきている。それを後は仕上げて完璧にすればいい。

 

成長しつつある彼。自分なりの結論を出してからは早かった。ひたすら反復で練習を続けて身につける。ただ、それの繰り返しだ。事務所を歩いていると、そこにはアイがいた。しかし、どこか悲しそうな顔をしている。

 

「よ……アイ。どうした?そんな顔をして」

 

何かあったな。単なる予想だけど。星野アイは、「嘘で感情を覆い隠す。」のが上手い。さっきまで誰もいなかったので、つい顔に出てしまっていたのだろう。

 

「……やっぱすごいね……彼方にはさ、隠し事とか……無理みたい」

 

アタリか。あんまりこういうのは当たってほしくないんだけどなぁ。

 

「結構、顔に出ている時あるぞ。それに、友達だからな。俺たち、関わり始めてそれなりに経つだろ?」

 

彼の場合は、推しだからというのもあるのだろう。それに、星野アイに関しては彼が一番よく見ている。原作の知識もあるのだろうが、一番は一緒にいる時間が多いからだ。

 

「……そっか。友達、だもんね……ふふ、なんかさ……ちょっと嬉しいかも。」

 

表情が柔らかくなった。少しは、気分が晴れたのだろう。しかし、まだ原因を聞いていない。大体の予想はしているが、それが当たっているとも限らない。なので……。

 

「それで、何があった?言いたくないなら言わなくていいけど」

 

無理には聞かない。無理やり聞くのは、拗れる原因になる可能性があるから。だから、選択権を与えた。話すかどうかの。

 

「……最近さ、B小町のみんなと、ちょっとギスギスしてるんだよねぇ」

 

なるほど。やはり、当たっていたか。この時期の彼女の悩みはこれしかないだろうな。歌やダンスで躓く様子は想像できないし。それに、こうなることはわかっていた。アイと他のメンバーは仲が良くない。アイは、メンバーと仲良くしたかった。まだ、無敵で最強で唯一無二のアイドル様ではない。

 

「アイは、どうしたい?」

 

もし……願うのなら、その願いを叶えるために全力で俺は手助けをする。だって、それが今世の目標だから。

 

「……どうしたい、かぁ」

 

彼女は、困ったような顔をする。

 

「ほんとはさ……仲良くしたいよ?だって同じグループだし」

 

 

 

「……でも、なんかさ……近づこうとすると、余計に空気悪くなる気がして」

 

……アイ。君は、普通の女の子だ。傷つきやすく繊細で、どこにでもいるような年相応な女の子。嘘で塗り固め演じているだけであって、今も平気じゃあないと思う。

 

「……だから、どうすればいいのか、わかんなくてさ」

 

この世界が因果かはわからない。原作とは違う世界線。本来の世界線ではない。でも、枝分かれしたこの世界。何の因果かわからないが、俺は今、この世界に存在している。そして、本来とは違うこのifの世界ならまだ間に合う。

 

「俺が言うのもなんだけど……自分の気持ちに素直になった方がいい。ちゃんと正面からぶつからないと伝わらないこともある」

 

本当にどの口が言っているんだって感じだ。最近まで、自分の気持ちに正直になれず、彼女と喧嘩していたくせに。アイの気持ちもわかる。確かに今の状態で話しかけたら空気が悪くなる。でも、俺は知っている。アイのことを。そして、メンバーと仲直りができなかったことが心残りだったことも。今のままでは、何も変わらない。それだけは確かだ。

 

「……正面から、かぁ……こわいなぁ。嫌われるの、これ以上はさすがにちょっときついかも」

 

そうは言っているが、さっきよりもいい表情になっていた。

 

「……でもさ、逃げてばっかも、やだよね」

 

悩んでいたのが嘘のように立ちがっていた。

 

「……うん。やってみる。ちゃんと、ぶつかってみるよ」

 

この結果が、何を生むのか。これから先、どんな影響を与えるかはわからない。もしかしたら、今よりも最悪になる可能性もある。こういう言葉がある。「やって後悔する方がいい。」それは、無責任な言葉に聞こえるだろう。それは、やってしまって後悔したことがない者が言うセリフだ。だけど、一番いいのが「やって後悔しない。」これである。

 

「嫌われたらその時に考えたらいい。俺は、いつでもアイの味方だ」

 

彼が間に入って話す方法もある。しかし、それは第三者を混ぜることになる。自分たちの話なのに第三者が混ざるのはお門違いだ。だから、彼は間に入ることはしない。彼がしたのは、単純だ。背中を押す。そして、間違った落ち方をしたら受け止める。それが今回における彼の役目だ。

 

「……ほんと、ずるいよね。そういうこと、さらっと言うの……でもさ、そうやって言ってくれると……ちょっとだけ、強くなれる気がする」

 

悩んでいた顔が見慣れたいつもの顔に変わる。

 

「ありがと、彼方……ちゃんとやってみる。逃げないで、向き合ってみるね」

 

十分に背中は押した。これだけすれば大丈夫だろう。だってアイの目から迷いが消えたのだから。

 

「あぁ……頑張れ。アイならできるよ」

 

そして、ここで俺の別の推しの言葉を借りよう。今ならピッタリだろう。

 

「騙されたと思ってチャレンジしてみな」 

 

彼が最後の言葉をかける。

 

「……ふふ、なにそれ。急にそれっぽいこと言うじゃん」

 

いつもの調子で笑うアイ。

 

「……でもさ、騙されてあげる。彼方になら。ちゃんと見ててよ?私、頑張るから」

 

それは、彼女の意思表示。覚悟は決まった。あとは実行するのみ。

 

「よし、じゃあ行ってらっしゃい」

 

これから、大事な場面なのに、まるで学校に送り届ける親みたいに軽く言ってくる。変に言葉をかけるよりかはこれがいいだろうと判断した。笑顔で送り出す。

 

「……うん。行ってくるね」

 

アイは、前を向き歩く。向かうのはメンバーの元。本筋なら最後まで分かり合うことができなかった、交わらなかった者たち同士。それが今、再び交わろうとしていた。

 

 

 






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