一番星は消えない   作:ディバル

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お気に入り登録500件突破。ありがとうございます。推しの子の熱が湧き、ほぼノリで描き始めた「一番星は消えない」ですが、ここまで伸びるとは思いませんでした。これからも応援お願いします。では、本編どうぞ。





021 異質な存在

 

 

 

 

皆んなにとって演じるとはなんだろうか?これは、役者に限った話ではない。大袈裟に言えば、全人類が演じている。それぞれの役を持っている。

 

現場にいるのは監督、AD、カメラマン、照明スタッフ、まだまだ他にも現場を支える人間はいるが、上げ出したらキリが無い。ここにいる全員がそれぞれの役を演じ、誰しもが主役だ。

 

今回、俺が演じるのは、殺人犯役。と言っても、真犯人に操られている脇役だ。脇役とは言えど、重要な役だ。少し遠くで座っているのは、俺にアドバイスをくれた監督だ。彼が俺を選んだみたいだ。『誰にでもできる演技。』その中から、俺を選んだ理由は不明。何か意図があるのか……それともただの気まぐれなのか、それはわからない。

 

だけど、前の俺とは違う。俺なりに核心にたどり着いた。後は、それを披露するだけだ。

 

練習通りにやればいい。だが、どうしても手が震えてしまう。これが緊張によるものなのか、武者震いなのか……どっちなんだろうな?緊張は、もちろんしている。こんだけの人間に見られるんだ。緊張するなって方が無理だろ。ただ、それと同時にワクワクしている。自分が生まれ変わる瞬間を、覚醒の時を。

 

「はは………」

 

何でだろうなぁ。前までこんなに悩んでいたのに、今はとても頭がスッキリしている。

 

「天城さん……出番です」

 

スタッフから声をかけられる。出番が来たみたいだ。スタッフの後ろをついて行く。そして、指定された位置に立つ。今回、俺が演じるのは殺しに快楽を感じる異常者だ。あの監督、面倒な役をよこしてきたな。つい、視線を向けてしまう。まだ、一般人に毛が生えた程度の人間によくこんな役をよこしてきたな。

 

殺人鬼は、その動機に応じて分類される。今回、俺が演じるのは快楽を求めて殺すタイプの殺人鬼だ。

 

だから、全力で異常者を演じる。殺人を楽しむ。それと同時に快楽を求める。分析はした……後は、俺自身を心の奥底に封じ込め、俺自身が器になる。そして、器に解釈、視点、感情を注ぎ込む。

 

瞳を閉じる。極限まで天城彼方という存在を押し込む。そして、カチンコの音が鳴り響く。

 

「よーい、スタート!」

 

監督の声が響いた。それが合図でもある。………その時、()は目を開ける。

 

「あは………いい、いいとも、いいじゃあなぁ〜い」

 

演技が始まった。その瞬間、彼の纏う空気が変わった。目には、狂気と光が宿った。そして、口は三日月のように吊り上がり、とても不気味な笑みを向ける。今行われているシーンは、殺人鬼である彼が人を殺すシーンだ。

 

「その顔、絶望に染まったその顔。僕の好みじゃん」

 

体をユラユラと揺らしながら、ゆっくりと近づく。まるで、獲物を見つけた捕食者の目。手に、握られているのは一本のナイフ。

 

「さぁ……僕に委ねて、君の命の輝きを見せてよ」

 

今から人を殺すとは思えない程の満面な笑み。殺しを楽しんでいる様子は、まさに狂人。いつの間にか、目の前に立っていた。

 

「ありがとう………僕の為に殺されてくれて」

 

グサッ……と生々しい音が響く。ナイフは腹部に刺さる。血が溢れ出し、滴る。しかし、それだけでは終わらない。ナイフを刺したまま上下に動かす。肉が抉れる。

 

「うっ……ああっ!」

 

苦しみの声が彼の耳に届く。しかし、彼はその声を聞き、恍惚とした表情を見せた。まるで愛する人に会ったかのような、そんな顔。苦しむ様子を見て楽しんでいる。

 

「あぁ……最高」

 

うっとりとした顔を浮かべて、ナイフを一気に引き抜く。大量の血が溢れ出す。これは、完全に命に届いた。そして、男はそのまま、大量出血で死亡。

 

「………あははははははは」

 

殺しを終えた彼は、笑っていた。手は血に塗れ、辺りは鉄が錆びたような特有の鉄臭さで満たされていた。その中心で、大きく両方の手を広げる。まるで、世界の中心かのように彼は、一番目立っていた。

 

 

 

 

 

彼の演技は、異質そのものだった。僕は、偶々現場に来ていた。最近、苺プロに新たな人材が入ったと聞いた。1人は既に、アイドルとして立場を確立しつつある。そして、彼。ここにいる監督から聞いたけど、「誰にでも出来る演技。」それがどんなものか見てやろうと、軽い気持ちでいたのだけど。

 

「ありがとう………僕の為に殺されてくれて」

 

狂気的な笑みを浮かべながら殺すシーン。絵としては、珍しくは無い。しかし、現場にいる全ての視線を集めた。魅力的と言うよりかは、その「異質」さに。演技以外にも聞きはした。礼儀正しい子だと。聞いていた話とのギャップもあるのだろうが、これが………。

 

「………あははははははは」

 

「誰にでも出来る演技。」だと言えるのかな?狂気的に笑い続ける彼の姿は、現場の空気を大きく変えた。

 

「あの子……名前なんて言ったっけ?」

 

近くにいたスタッフにそう声をかける。気になったのだ。あそこまで狂気的な演技をする子を。僕も芸能界にそこそこいるが、中々見られるものではない。

 

「天城彼方ですよ………鏑木さん」

 

僕は、スタッフが持ってきた彼についての資料を見る。これで、まだ中学生だと言うのだから驚きだ。

 

「天城彼方ねぇ………また面白い子が入ってきたね」

 

 

 

 

 

「はい……カットOKです」

 

その声が俺を現実に引き戻す。自分を沈め込む。自分の演技を振り返る。出来た………自分を封じ込め、感情をむき出しにした演技。これならどうだ?現場を見渡す。俺を見てくる者たちが多いが、前とは違い空気は重く無い。

 

OKとは出たが、念の為、監督の方に向かう。感想を聞く為だ。

 

「どうでしたか?俺の演技は?」

 

そう声をかけると、監督は此方をマジマジと見てきた。まるで得体の知れない物を見るような、そんな目だ。

 

「……気のせいか?いや、違うな」

 

1人で何なら自問自答している。

 

「君……何があった?」

 

質問の返答ではなく、そんな言葉が返ってきた。それに対して………。

 

「何も?………演技の解釈を広げた程度です」

 

彼は、ニッコリと笑った。その笑みは、とても胡散臭かった。

 

記憶に残るように、自身の「胡散臭さ」という武器を使う。

 

「……はは、なるほどね。“広げた”ねぇ……」

 

監督の目が疑惑から確信へ。

 

「君、さっき自分を消しただろ」

 

やっぱりわかるか。監督という立場上、様々な役者を見てきた。だから、俺がやったことも見抜いている。

 

「……怖いよ。でも……いい。面白い」

 

シンプルな言葉が彼に送らる。

 

「次もそのまま来い」

 

次、ということは、他の役者と差別化が出ているということ。これでもう「誰にも出来る演技」からは卒業だ。そして、手にしたのだ……新たな武器を。他の役者の喉元に喰らい付けるような、強力な刃を。

 

それから、俺のシーンの撮影を進められる。その後も問題なく演技に集中し、演じ切れた。

 

 

 

 

 

「今日はありがとうございました」

 

俺が出るシーンを全て撮り終え、先に帰っていいと言われたので現場を後にする。ここにいる全ての人間に俺という存在を刻み込んだ。でも、まだ足りない。武器は手入れをしないと、すぐに錆びてしまう。だから、これからも磨き続ける。

 

「それと……さらに仮面を被ろう。自分の長所を活かさないと」

 

自分の強みを最大限活かす。そのために………

 

「現場や関係者がいる時は………一人称を私にしようかな?」

 

帰宅の準備をしながら、考える。そう言えば、最初の問いに答えてなかったな。俺にとって演じるとは、「存在の証明」。この業界は、様々な才能が集まる。油断していたら喰われるのは此方の方だ。だから、演じ続け、自分の価値を提供し、これからも演じ続ける。全ての目的を果たすその時まで。

 

「私……か」

 

小さく息を吐く。これはいい。これも私の武器になる。本音を見せるのは大事な人達の前だけでいい。偽ってはいるが視点を変えれば、それもまた「本物」の私の一つだ。

 

「……演じるって、そういうことだろ」 

 

 

 

 

 

 







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