一番星は消えない   作:ディバル

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022 知らない感情

 

 

 

「ねぇ……アイ。天城さんとはどう言う関係?」

 

ある日のレッスン終わり、B小町のメンバーであるニノからそう話しかけられる。彼女は、ニノを不思議そうに見ていた。

 

「急にどうしたの?……彼方のこと、気になっちゃった?」

 

「ふふっ、もしかしてさ……ちょっと興味出てきた?」

 

言葉をそう返す。B小町の他のメンバーは彼とは余り関わりがない。事務所にいる時もあるが、大抵、演技やポージングの練習をしている。それ以外は、アイと話していたらしている程度。

 

「……そんなのじゃあないよ。たださ、アイ……天城さんといる時、ちょっと違う感じだよ」

 

アイは、それが嘘だと気づいた。視線を逸らし髪を手で弄っている。

 

「なんていうか……その、楽しそうっていうか。だから……ちょっと気になっただけ」

 

話していると他のメンバー達が寄ってくる。興味深々な様子。

 

「何?天城さんの話?」

 

「私、天城さんが出たドラマ見たけど凄かったよ」

 

「それに顔もいいしねぇ」

 

アイが本心を打ち明けた事により、徐々に仲が戻りつつある。こうして普通に会話ができる程度には関係が修復されていた。そして、彼女達の話の中心は天城彼方で持ちきりだった。彼女達もまだ中学生。異性が気になるお年頃。

 

「えっ、ドラマ?……彼方、出てるの?」

 

「ねぇそれ、どんな役?」

 

彼がモデルをしている事は知っているがドラマに出たと言う事は知らない。自分達の事もあるが、余り興味がなかったから。しかし、周りの反応もあり、彼がどんな事をしているのか気になってきたみたいで。

 

「見たらわかるよ。移動しようか」

 

そのまま、全員で移動して事務所にあるテレビをつける。そして、録画した物を再生。そこには、狂気的な笑みを浮かべている彼の姿。

 

「……え、なにこれ?嘘でしょ、これ彼方?」

 

いつもの彼を知っているアイですら画面に映る姿の彼を見てそう言葉漏れる。それもその筈、画面に映っているのは、彼であって彼じゃあないのだから。自身を極限レベルまでに閉じ込めた「究極の思い込み。」それが彼の今の武器である。

 

「ちょっと待って、雰囲気違いすぎない?」

 

「さっきまで話してた人と同じ人間……?」

 

「……こわ、でも目離せないんだけど。」

 

「え、普通に演技上手いとかそういうレベルじゃなくない?」

 

「……なんか、本当にやってるみたいで無理……」

 

アイ、以外のメンバーの反応は様々だ。驚く者、目が離せない者、怖がる者。多種多様な反応。

 

「……っ、でも……すごい」

 

「……ねぇ、アイ。あんたこれ見て平気なの?」

 

「………」

 

ニノの言葉が聞こえていない。アイは、画面に映る彼に釘付けだ。

 

「……すごいね、彼方。こんな顔、するんだ」

 

少し怖かったけど………でも、彼方の新たな一面が見れて嬉しかったなぁ。

 

そんな時だった。事務所の扉が開く。視線が一斉にそちらに向いた。視線の先にいたのは、今まさに話していた天城彼方の姿。

 

「………皆んな揃って何してるの?」

 

レッスン場ではない場所で全員が揃っていたのが不思議だったのか彼は、そう聞く。

 

「今、天城さんの出ていたドラマ見てたんだよ」

 

「……あれ、本当に天城さんなんだよね?」

 

「正直、ちょっと怖かったけど……でも、すごかった」 

 

そう言いながらニノは笑いながら彼に近づく。彼は、笑顔を浮かべ言葉を返した。

 

「ありがとう。私なんて全然だよ。」

 

と言葉を返した。アイだけが違和感を感じ取っていた。一人称が変わっていたのだから。前までは、俺だったのに今では、私だ。それを口には出さず2人が話しているのを見ていた。

 

「え、ちょっと待って……今“私”って言った?」

 

「さっきまでドラマであんな感じだったのに」

 

「……同じ人に見えないんだけど」

 

「なんか、ちゃんとしてる人って感じする」

 

金色の髪と青い瞳。親からいい所だけを引き継いでいる。ルッキズムの源。そして、同年代とは思えない落ち着いた様子。彼女達からしたら彼は魅力的に見えるだろう。

 

それから、彼女達と話す事になり彼は、いろいろ受け答えをしていた。その様子を面白くなさそうにアイは眺めていた。その時、アイの心の内側で何かドロっとした黒い感情が湧き上がる。

 

(……なんか、変な感じ。胸の奥が、ちょっとザワザワするっていうか………これ、なに?)

 

彼女が初めて抱いた感情の正体。それは、嫉妬。彼が他の人と話している姿を見る事はあっても前までは何も思わなかった。と言うより彼が同年代と話している姿をアイは、見た事がない。学校では孤立気味。施設では同年代の子がいなかった。しかし、今の彼は、笑顔で他のメンバーと話している。

 

その笑顔が他の物に向けられる。それ自体に、本人が気付かない内に嫉妬していた。でも、彼女自身は嫉妬しているとは気づいていない。何故ならそれは、彼女が人を「愛した事」がないから。愛と嫉妬。それは、一見違って見えるが、人を強く思うという点においては同じだ。人を愛した事がない彼女がその気持ちを実感するのは、難しい話なのだ。

 

アイの拳が強く握られた。

 

(……それにさ、前よりわかんなくなっちゃったかも。)

 

アイから映る彼方は、前よりも読みづらくなった。ただ、でさえ読めず、掴みどころがないのに、新しい仮面を被った事によりそれが増した。それが、彼女をさらに不安にさせる。

 

「じゃあ……予定があるからまた今度ね」

 

そう言いながら、皆に軽く会釈をしてその場から去っていった。

 

「……行っちゃったね」

 

「なんか、ちゃんとしてたね。さっきの演技と全然違う」

 

「……ああいうの、ギャップっていうのかな」

 

「正直、ちょっとドキッとした」

 

話して見ての感想は、それぞれ違っていたが、概ね高評価。演技とのギャップがあった事も大きいだろう。

 

「ねぇ、アイ……大丈夫?」

 

「さっきから全然喋ってないじゃん」

 

「……顔、ちょっと怖いよ」

 

「え?」

 

近くにあった鏡を見る。顔は、無表情でそこにはなんの感情も乗っていなかった。アイ自身もその顔を見て驚く。

 

(……あれ、私……今こんな顔してたんだ。)

 

そんな事を考えたが、いつもの表情に戻して。

 

「ごめんごめん、ちょっとお腹空いちゃってさ。ほら、レッスンの後だし?お腹鳴りそうだったんだよね。」

 

いつも調子で言いながら舌を出して……テヘッと笑う。その様子を見てメンバーも安心したのか笑った。もちろん、今言った事は、嘘だ。自分の感情を悟らせない為の。

 

「お腹すいたし、コンビニ行ってくるね、すぐ戻るから。」

 

そう言い残して部屋を後にする。コンビニは行かず彼を追いかける。いろいろ聞くために。幸いにもまだ、彼が事務所を出てからそう時間は経っていなかった。事務所を出て、少しの所に彼の後ろ姿。

 

「彼方」

 

近づいてアイは、呼びかけながら手を握る。貴女の存在に気づいたのか振り返る。

 

「びっくりした。どうしたのアイ?」

 

驚いた反応を見せたが、直ぐに笑みを浮かべて聞いてくる。さっきの時よりも笑顔な彼を見てアイは少しだけ安心する。

 

「……ねぇ、彼方。さっきさ、“私”って言ってたよね。前まで“俺”だったのに……いつから変えたの?」

 

いきなり一人称が変わり前よりわからなくなってしまった。それは、アイにとって置いていかれる様な感覚だった。つい最近まで、知っていた人物がガラッと変わった様な感覚。その感覚がアイに不安を与えてしまっていた。

 

「……なんかさ。今日の彼方、ちょっとだけ遠く感じたんだよね。私の知らない彼方が、増えたみたいでさ」

 

「……ねぇ、今の彼方って、どれが本当なの?」

 

あれだけではない。演技している彼の姿。今日、彼女は自身の知らない彼の姿を2回見ている。

 

「あぁ……アレか。仮面を被る事にしたんだよ大事な人の前以外はね。俺は、俺だ」

 

一人称が私から俺に戻った。

 

「……ふーん。仮面、ね。」

 

「じゃあさ。今の“俺”は、本物ってことでいいの?」

 

不安が一気に抜けていく。

 

「……よかった。ちょっとだけ安心した」

 

ほっとした様子。

 

「だってさ、さっきの彼方……ほんとに遠く行っちゃったみたいだったんだもん」

 

なんかさ……彼方って、いつも私のちょっと先にいるよね。だからさ、また一人で遠くに行っちゃったのかと思っちゃった。……でも、ちょっと安心したかも。だって、やっぱり彼方は彼方のままだったんだね。

 

「アレも本物の俺だよ。それに、俺にとってアイは大事な人だから」

 

サラッと……そんな事を言う。

 

「……え、ちょっと待って。今、さらっとすごいこと言わなかった?」

 

「そういうのさ……そんな普通の顔で言うの、ずるいと思うんだけど」

 

顔を逸らす。彼女の心臓の鼓動が上がっていく。体が熱くなり熱を帯びてくる。

 

(また……この感覚。)

 

「……もう。彼方って、ほんとそういうとこあるよね」

 

「……でも。それ聞けただけで、今日は満足かも」

 

この感情の正体を彼女は、近い内に自覚する事になる。それが、この物語を大きく変える。

 

 







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