………だいぶ格好つけたなぁ。歩きながら自身の行動を振り返る。朝起きて、色々準備をして余裕を持って家を出た。ゆっくりと歩きながら、10分前には集合場所である駅に着いたのだが、アイが男2人に囲まれていた。男の1人が彼女の手を掴みそうだったから、急いでそいつの手を掴んだ。
そこまではよかったんだけど、男達はテンプレみたいな事を言ってくる。あんなコテコテのテンプレ野郎がいるんだなぁ……と呑気に考えた。で、めんどくさそうだったので、「彼女」という設定を出して逃げて来た。
相手もアイも驚いていたが、それがいい感じの隙となった。あれが1番最善だと思う。下手に揉めるのも面倒だし、それに「逃げるは恥だが役に立つ」とも言うし。で、アイに「ちょっとは本気」かどうか聞かれた時は、焦った。
(にしても、アイと付き合うねぇ……考えた事なかった。)
目標は、星野アイの「生存」と「幸せ」。彼女が幸せに今後の人生を生きていけるなら、それでいいという思考。故に、自分が彼女の隣に立ち、今後の未来を過ごす……それこそ彼氏や旦那になる。そんな発想は彼の中には思いつかなかった。
(確かに、アイは推しとして好きだけど……。)
歩きながらチラッと見る。整った容姿。大雑把だがどこか、目が離せなく守ってあげたいと思わせる。
(ダメだ……意識したら急に恥ずかしくなってきた。)
やっぱり肉体に精神が引っ張られているのか?どんどん神崎蒼空との境目がなくなっている感じがする。前世の俺なら、アイの事をまだ幼い子供として認識していたと思う。でも、天城彼方としてはどうだ?俺は、彼女を異性として見ているのか?
(考えても仕方のない話だな。そもそもアイが俺を恋愛対象と見てるとは限らないし。)
とりあえず楽しむ事にしよう。今日はただの友達としているのだから。
「ねぇ、彼方……どっちが似合うと思う?」
「ちゃんと見てよ?適当に選んだら怒るからね?……ほら、どっち?」
2人は、ショッピングモールに来ていた。そして今、彼女は片方は可愛い系、もう片方はカジュアル系の服。これまた、データのテンプレみたいな事をしている。
「こっちかな?アイ可愛いし……こっちの方が似合うと思うけど?」
右手に持っている可愛い系の服を指差す。彼女は悪戯げに笑った。
「へぇ……彼方って、こういうの好きなんだ?」
何?その悪意が少し混じってる質問は?
「じゃあ着替えてくるね……のぞいたらダメだよ?」
そのまま、アイは試着室に入っていった。……なんだアレ?ズルいだろ。あの笑みの破壊力。というか、顔に出そうだった?はぁ……これ今日、俺大丈夫か?
しばらく待っていると、試着室のカーテンが開いた。そこにいたのは、先程俺が選んだワンピースを着ているアイの姿。うん……可愛い。というか、大抵の物だったら似合うだろ、この子。
「どう?……可愛い?」
「あぁ……可愛いよ、アイ」
……うん。考えるのはやめよう。とりあえず言える事は、今日も俺の推しは可愛いって事くらいだ。
考えるのを放棄した。考え過ぎてもいい事はない。演技で躓いていた時もそうだったように。故に放棄した。アイは彼が選んだワンピースを一着買った。そして、次の場所に。
「荷物持つよ」
手を出して荷物をこちらに渡すように言う。
「ん、ありがと。……ちゃんと持ってよ?私のだし」
「ふふっ、落としたら許さないからね?」
それから、いろんな場所を回った。食べ歩き、映画館、ゲームセンター。楽しめそうな場所はあらかた回った。しかし、そのどれもが……。
「ねぇ、彼方……一口ちょうだい?……いいでしょ?」
食べ歩きでは、いろいろな物を食べた。それぞれが違う物を頼む事が多かったので、彼女が強請ってくる事もあった。
「いいよ」
ソフトクリームを彼女の前に差し出す。差し出すと、そのまま……パクッと一口。美味しそうに食べていた。
「ほら、彼方……あーん?……ちゃんと食べてよ?」
映画館では、最近話題の実写映画を見た。見たのは恋愛物で、最終的に2人が結ばれキスシーンで終わるという、ありがちだけどちゃんと楽しめる映画だった。因みに、映画を選んだのは彼女の方だ。
「面白かったね……私も、ああいうの。してみたいなって……思っちゃったかも」
ゲームセンターでは、前とは違いアーケードゲームをしたり、クレーンゲームで……
「ねぇ、彼方……あれ取って?」
指を差した物は、ウサギのぬいぐるみ。お金を入れてチャレンジ。と言っても、大抵こういうのは確率機。案の定、アームの力が弱い。お金の投入が増えた。3000円目でようやく獲得。
「ありがと、彼方……ちゃんと大事にするね?」
なんだかんだで満喫して、もう夕方を迎えていた。流石に体力がなくなってきてる。
なんか……デートのテンプレを大抵やった気がする。ダメだろ……食べ歩き、映画、ゲーセン。どれもが……チョロい奴なら普通に惚れるぞ。魔性の女とは、この事を言うのだろうか?
「本当に顔に出なくてよかった」
1人で頭を抱えていた。いつも以上にある意味で頭を回していた。楽しかったのは事実だろうが、それ以上に疲れたというのが感想として出てくる。
「お待たせ」
トイレから戻ってきた。時刻は18時。実は最後に行く場所だけ決めていた。今の時間帯ならきっと……。
「じゃあ……最後の場所に行こうか」
立ち上がり歩き始める。ここからそう遠くない場所。多分、最後に締めくくるには悪くないと個人的には思っている。
「最後?……なにそれ、気になるんだけど。ちゃんと“それっぽい”やつなんだよね?」
「……ふふっ、期待してるからね、彼方」
日が沈み始めていた。この時間帯でも人は多く行き来している。そんな街中で2人で歩く。道中、会話はなかった。しかし、気まずさはない。むしろ隣にいるだけで心地よさを互いに感じていた。歩き続ける事、約15分。彼の足が止まった。
「着いた……ここだ」
最後に選んだ場所。それは観覧車だった。大きく、日も沈み始めているこの時間帯。きっといい景色が見れる。
「……観覧車?へぇ……彼方、こういうの選ぶんだ。いいじゃん。ロマンチックでさ」
お金を払い観覧車に乗り込み席に座る。ゆっくりとゴンドラが頂上に向かい始めた。高度が徐々に上がり、地面から離れていく。ガタン、ゴトッと音を鳴り響かせながら、2人を乗せたゴンドラはやがて頂上に。夕日が差し込み、2人を照らす。
「……いい景色だ」
夕焼けで照らされた街並み。朝とは違った顔を覗かせていた。前に彼女と一緒に東京タワーで景色を見たが、それとはまた違った良さがある。
私達は今、観覧車で景色を見ていた。
「……ほんと、綺麗」
そんな事を言いながら、ぼんやり景色を眺める。東京タワーとはまた違う良さがあって、ちょっとだけ見入っちゃう。……でも、気づいたら彼方の方を見ちゃってた。横顔、なんか楽しそうに笑ってて。いつもの笑顔なのに……なんでだろ、意識しちゃってる。
(……またこの感じ。)
最近さ、彼方といると……ちょっとドキドキするんだよね。……なんでだろ。横にいる彼方を見ながら、今日の事思い返してて。助けてくれた時の顔とか、いつもの笑ってる顔とか、ちょっとびっくりした顔も、無表情で固まってた時の顔も……なんかさ、全部ちゃんと覚えてるんだよね。
いろいろやったなぁ……食べ歩きに、映画に、ゲームセンター。映画もさ、普通に面白かったし。恋の話だったけど……私でもちゃんと楽しめたし。……あれ?恋……?
アイは、これまでの事を思い出していた。メンバーと楽しそうに会話している時の彼の姿を見て、黒い感情が湧いていた事。今日の出来事、映画での内容。一つずつピースが埋まっていく。そして、理解してしまう。
(……あ、そっか。私……彼方の事、好きなんだ。)
自分が抱いていた感情を理解したアイ。彼は、彼女の気持ちを知らない。そんな状態で……。
「また、一緒に遊びに行こう」
と、いつものような笑みを浮かべて笑っていた。観覧車が下へと降りていく。本来の世界線から外れてしまったこの世界。どうなるかは、神ですらわからない。
「さて……帰ろうか」
観覧車から降りた時には、もう暗くなっていた。
「……うん、帰ろっか。ねぇ、彼方。今日さ……楽しかった……ありがと」
胸の奥が、さっきよりもずっと騒がしい。さっきまで「なんだろ?」って思ってた気持ちの正体を知っちゃったから、もう誤魔化せない。彼方が隣にいるだけで、意識しない方が無理で。
(……好き、なんだよね。)
言葉にしたわけでもないのに、その事実だけがやけに重くて、でも少しだけ嬉しくて。変な感じ。さっきまでは“いつも通り”でいられてたはずなのに。今は、隣を歩いてるだけで距離が近く感じる。
(……さっきの「また遊びに行こう」って……どういう意味なんだろ。)
いつもと同じ言葉のはずなのに、意味が変わって聞こえる。期待しちゃいそうになる自分がいて、でもそれを隠そうとしてる自分もいる。ちらっと横を見る。彼方はいつも通りで、特に何も気にしてない顔してて。
(……そりゃ、そうだよね。)
まだ、何も伝えてないんだから。少しだけ唇を噛む。
(……でも。)
今日みたいな時間、また過ごしたいって思った。“友達”としてじゃなくて、もう少しだけ特別な何かで。でも、それをどうしたらいいのかは、まだ分からない。
(……どうしよっか、これ。)
胸の奥で、小さく笑う。嬉しいのに、ちょっと苦しくて。でも、そのどっちも嫌じゃない。そんな感情を抱えたまま、彼女は彼の隣を歩き続けた。
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