こんばんは、作者のディバルです。
2章「それぞれのステージ」は32話まで続きます。この章は書き終わったので、次の章を書き始めています。これから順次更新しますのでお楽しみに。
俺達が芸能界に足を踏み入れて1年が経過した。まず、アイの方はB小町は徐々に頭角を表し、深夜のテレビ枠やラジオ番組を獲得。アイがセンターなのは変わらないが、他のメンバーも人気があり、固定のファンが付き始めている。アイが1番ファンが多いが、原作と違ってアイ一強という訳ではない。メンバー仲も良く、いい感じの人間関係を築いていた。
人気が出たことにより、東京だけではなく他の県でのライブ開催もされ始めている。着実にB小町の知名度は上がり、苺プロも業界から少しずつ注目され始めていた。
一方、俺の方は、あの時の演技が評価されて、今ではモデルの仕事よりも演技の仕事の方が少しだけ多くなっていた。なんでも、あの場に鏑木さんがいたらしく、俺の演技に目が止まったみたいで、そこから仕事をもらい、モデルや演技の仕事をそれなりに受けている。その影響もあり、天城彼方という名前はそこそこ有名になっていた。お金もそれなりに俺の手元に入っていた。このままいけば、ワークショップまでにそれなりに資金が手元に残る。足りなかったら最悪借金すればいい。
とまあ……こんな感じで俺達は順調に売れ始めていた。そんな俺は今、演技の仕事が来ている。まず、演技の仕事が来た時にやることは、役への理解と自身の解釈を広げること。前にした殺人鬼の演技の時もそうだが、その役になりきるための土台が必要となる。今回の役は子供だ。親に愛されなかった子供。
「愛されなかった子供……」
前世はもちろん、今世でも一応、母親から愛されてはいた。そんな母親も消えてしまったのだが。だから、施設の子達を思い出す。あそこには愛されなかった子供達が多くいた。陰で泣いている子。親からの愛をもらえず荒れていた子。その子達の感情、その時思っていたであろうことをノートに書き出す。
こうした方が、頭の中でごちゃごちゃ考えるより楽だ。あれから考え過ぎないようにしている。考え過ぎて上手くいかないことの方が多かったから。だから、少しだけ思考するのを削る。
「親か……」
施設にいた時も思っていたことだが、子は親を選ばない。それと同時に、親も子を選べない。親から愛されない。それはとても辛いことだろう。なぜ自分の子を愛せないのか?きっと理由は多くある。だけど、親からしたら手放せばいいだけだが、子供にはその傷が残り続ける。
本当になんなのだろう……親とは。そして、自分が親の立場になったら、子をしっかりと愛せるだろうか?子育ては大変だ。前世では、俺自身もあまりいい息子とは言えなかった。だけど、しっかりと愛情やいろんなものをもらった。…………君達の感情、思い。それらを使わせてもらう。
「さて……続きだ」
ダメだな。また考え過ぎている。土台作りから少し離れたな。今はやるべきことをするだけ。もし自分が親になったのなら、その時に考えればいい。
私は、アイドルだ。ステージの上で歌って踊って、みんなに「愛してる」って伝えてる。1年くらい経ったのかな。でも、まだ本当の意味で「愛してる」って言えてない。だって、私は嘘つきだから。……それなのに、好きな人ができちゃった。自分でもちょっとおかしいなって思う。嘘ばっかりの私が、こんな気持ち持つなんて。でも……伝えられない。だって、もし言っちゃったら……今の関係、壊れちゃうかもしれないから。
だから、今日も嘘をつく。気持ちは隠したまま、歌って踊って、ステージの上で「愛してる」って言うの。……嘘ばっかりだなって、自分でも思うけど。それでもいいかなって。だってさ……この嘘が、いつか本物になるかもしれないって、信じてるから。
「みんな、来てくれてありがと」
最初は規模の小さなライブハウスだったが、今は100人くらいが入る箱でライブをしている。ライブハウスは埋まりきっており、それだけでもB小町が成長したことがわかる。
原作でのB小町には、アイのライバルになれる人間はいなかった。しかし、この世界線では、アイに必死に食らいついている。会場がサイリウムで満たされる。様々な色が彼女達に向けられ、声援に包まれる。
みんな、笑ってる。……ちゃんと、みんなが求めてる“アイドル”の私、できてるのかも。このまま続けていけば……いつか、本当に言える日が来るのかな。そしたら……彼方にも。
「おつかれ〜!今日もめっちゃよかったじゃん!」
ライブ終了。今回も失敗なく無事に終えることができた。
「ね、最近の私たちいい感じじゃない?」
「このままいけばさ、ドームとかも夢じゃなくない?」
「え〜さすがにそれはまだ早くない?でもちょっと分かるかも〜!」
少女達は夢を語る。目は輝いており、これから先の未来を楽しみそうにしていた。
「ねぇ……アイはどう思う?」
ニノがそうアイに話しかける。原作での彼女はアイを嫌っていた。ターゲット層が被っており、ファンを奪われ「この世から消えてほしい」とさえ願った。しかし、アイが本音で話したことにより、今では仲が良かった。長い髪もバッサリと切り、ショートヘアになっている。
「んー……どうだろ。でもさ、夢くらい大きくてもよくない?」
「私、みんなで行けるなら……ドームでも、その先でも行きたいな」
前よりも笑うことが増えた。彼の前だけではなく、特定の人物だが、偽らず嘘をつかなくてもいい相手。彼女達もそれに該当している。
「いいじゃんそれ!“その先”ってやつ、なんかワクワクする〜!」
「うんうん、みんなで行くなら絶対楽しいし!」
「アイがそう言うなら、なんか本当に行けそうな気してきたんだけど!」
「じゃあ決まりね、目標はドーム……その先まで!」
彼女達は、これからも進み続ける。夢のその先まで。そうして4人は笑い合う。明るい未来を願って。
「来月は県外に行くぞ」
レッスン後に壱護さんに呼び出され、彼の元に向かうと突然そんなことを言われた。
「また唐突ですね?」
これまでは東京で仕事をしていた。恐らく、この言い方からして県外での仕事があるのだろう。
「ああ……先方がドラマの撮影場所を変更してな」
よくある話だ。理想の景観が近場にない、撮影協力の可否、予算と時間。理由は様々だが、撮影場所が変わるのは仕方ない。プロデューサーが一番偉い。金、人、スケジュールを管理し、ドラマをヒットさせる責任を負う。予算とキャスティングの決定権を持っている。
「後は、B小町も同じ県でライブをすることになった」
なんとも偶然的な話だ。
「……もしかして時期も?」
まさかとは思うが、ここまで来たら流れ的に……。
「そうだ。お前の撮影日がB小町のライブの1日後。だから、ついでにお前も連れて行く」
うん……分かっていた。完全に流れが来てたし。
「それで、どこの県ですか?」
断ることなんて最初からできないしな。俺は流れに身を任せるだけだ。にしても県外か……どこなんだろうな。
「宮崎だ……その大きな箱でライブをする」
宮崎県……それは、【推しの子】という作品で無視できない場所。アクアとルビーが生まれた場所であり、そして雨宮吾郎、天童寺さりな。転生する前の彼らが過ごした場所でもある。
(なんの因果だろうか……)
そう考えてしまう。未来を変えようとする俺にとって、その地はとても無視できない。これも神の導きだろうか。はたまた、ただの偶然か。
(……何か起こるかもな。)
そんなことを考えながら壱護さんの話を聞いていたが、どこか上の空だった。
病室のテレビで、B小町のライブ映像を見る1人の少女。
「楽しみだなぁ……生のアイ」
本来なら、もうこの世にいないはずの少女。そんな彼女が、彼の物語と交わる時が、すぐそこまで来ていた。
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