一番星は消えない   作:ディバル

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030 無自覚な彼へ

 

 

 

 

「あ……切れちゃった」

 

「……ふふ、緊張してたんだね」

 

さりなちゃんとアイの通話が終わった。時間にして数分程度だったが、きっといい思い出になったと思う。スピーカーにしてもらって聞いていたが緊張していた。でも、彼女が伝えたかった事は、しっかりとアイが受け取った。

 

「……よければまた、話してくれないか……さりなちゃんと」

 

「……うん、いいよ」

 

「……ちゃんと届いてたし……また話したいな」

 

出来る事は、全てやるつもりだ。アイの個人的な連絡先を渡す訳にはいかないが、俺を仲介として話をさせるのはいいだろう。だって、さりなちゃんと話している時の俺は、「芸能人」の天城彼方ではない。彼女の友達であり、ただの「推し仲間」なのだから。

 

「……ふふ、そっか。女の子だったんだ、彼方の新しいお友達」

 

彼女の視線が少しだけ鋭くなっていた。ほんの一瞬。いつもの柔らかい笑顔の奥に、微かな棘が混じっているような気がする。最近、こんな視線が増えた気がする。

 

「……アイ?」

 

「……大事なんだ、その子」

 

冗談みたいな軽い口調なのに、どこか確かめるような響き。すぐに、何事もなかったかのように表情を戻して笑う。

 

「……ふーん、そっか」

 

けれど、その「そっか」は、どこか納得していないようにも聞こえた。

 

「ねえ彼方ってさ、女の子に人気あるよね?」

 

「……そのうち刺されちゃったりしない?」

 

唐突にそんな事を言われた。確かに、どちらかと言えば女性のファンが多いと思うけど?

 

「面白い事を言うな、アイ。俺はモテた事ないぞ。それに、俺を好きになる物好きがいるなら見てみたいな」

 

アイの言葉を受け流しながら彼は笑った。顔がいい事は自覚しているが、自身が女性に人気な事はあまり自覚していない。前世から、彼の自己評価は低い。自分が第三者からどう見られているか、自覚が全くない。

 

「……ここにいるけど」

 

小さくアイが呟いたが、それが彼の耳に届く事はなかった。

 

「何か言った?」

 

「……ううん、なんでもない」

 

「……ほんと、鈍いよね」

 

首を傾げてアイの方を見ている。まさか、自分が異性として好かれているとは思っていない。というか、考えすらしていないだろう。アイは、そんな彼をジトッ……と見つめていた。

 

「……じゃあ、そろそろ寝るね」

 

「おやすみ、彼方」 

 

「ああ……おやすみ」

 

そう言い残して彼女は、俺の部屋から出ていった。アイが不満げにこちらを見つめていたが、まぁ………いいか。さて……今度は、いつ話せるかな?……さりなちゃん。

 

彼女との会話を楽しみにしながら、彼はベッドに入り眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

「彼方ってさ、すごく気持ち悪くていい演技するよね」

 

『え、わかる……!ちょっと怖いのに、目離せなくなる感じ……!でも、それが好き……!』

 

今、2人は俺の話をしている。2人とも本人が目の前にいる事、忘れてませんか?自覚はあるのだけど……本人の前で言うのは違くないですか?でも、2人とも楽しそうに話している。さりなちゃんも最初は緊張で話せなかったが、今ではしっかりと話せている。

 

「だよねぇ。なんか、役に入りすぎてて……素の彼方どこいったの?ってなるときあるもん」

 

『あ、それわかる……!電話のときと全然違うよね……ちょっと安心するけど……』

 

「ふふ、でしょ?普段はあんなに普通なのにね」

 

『うん……でも、そのギャップが……なんか、ずるい……』

 

「あはは、さりなちゃんも言うね〜。でもほんと、ああいうのハマる人はハマるよね」

 

『……うん……私、完全にハマってる』

 

たまにこうして俺の話をする。女子トークってやつかな?にしても、恥ずかしいんですけど?でも、楽しそうだからいいか。

 

「ねえ彼方、このままいくとさ……将来、絶対いろんな女の子泣かせるタイプになるよね。」

 

ちょっと……アイさん?

 

『……あ……わかる……なんか、無自覚でやりそう』

 

待って、なんでそんな反応するの?さりなちゃん。

 

「でしょ?ああいうのが一番タチ悪いんだよ〜」

 

『……お兄さん、たぶん気づいてないだけで……結構ひどいことしてそう……』

 

待ってくれ。なんで俺がそんなクズ男みたいになっているの?

 

「あはは、ほんとそれ。気づいたら周りに女の子増えててさ〜」

 

『……うん。それで、刺されるんだ……』

 

「……あ、それリアルにありそうで怖い」

 

『……やだ……お兄さん、刺されないでほしい……』

 

……この2人から俺、どんなふうに見られてるんだ?一体。女を泣かせた事ないんですけど?というか、前世では女性に泣かされそうになった事あるんですけど?

 

「待て待て……2人にはどう俺は映ってるの?」

 

2人の会話を邪魔してはダメだと思って黙っていたが、さすがにこれは突っ込まないとダメだ。

 

「「……え?」」

 

「ふふ、聞いてたんだ?」

 

そりゃあ、俺の携帯で電話しているし。2人とも俺がいるのに気にせず話すものだから。

 

『……あ……ごめん。でも……ほんとのことだし』

 

「だって彼方ってさ、無自覚に優しいじゃん?」

 

『……うん。それが一番、ずるい』

 

「ね?本人は普通のつもりでも、勘違いする子いっぱいいるタイプだよ〜」

 

『……だから、ちゃんと気をつけてね……?』

 

「刺される前にね?」

 

『……うん。ほんとに……』 

 

ここまで言われているのに彼は、全くわかっていなかった。頭に「?」が浮かんでいる。

 

「誰にでも優しくしてないよ。それに大事な人達に優しくするのは普通じゃない?」

 

目の前のアイが固まった。そして、あちゃーみたいな顔をしながらため息をついた。

 

「「……それがダメなの!」」

 

そして、2人が同時に言ってハモった。

 

「……ほらね、こういうとこ」

 

『……無自覚、怖い』

 

「ね?将来ほんとに刺されるよ?」

 

『うん……お兄さん、ほんと気をつけて』

 

なぜだ?どこがダメなのか全くわからない。

 

「わからん……2人とも大事だしな。何が問題なんだ?」

 

「「…………え?」」

 

「ちょっと待って彼方、それ今サラッと言うやつ?」

 

『……え……ちょっと……いまの……ずるい』

 

言っている事に一切の嘘がない。だからこそ、タチが悪い。彼にとって「大切な人を大事にする」は当たり前の事だ。そして、前世で友達や家族に対して未練を抱いている。それも影響し、その当たり前が大きくなっていた。

 

「ねえ、それ無意識で言ってるのが一番危ないんだけど?」

 

『お兄さん……ほんとに……やばい人かも』

 

けれども、その当たり前は受け取る側にとっては時に残酷だ。「自分は特別だ」と、そう思う人も出てくるだろう。自分の言葉がどれ程の影響力を持つのかを、彼自身は理解していない。

 

「……え?そんなに?」

 

「……そんなに、だよ」

 

『……うん……かなり……』

 

ここまで言われると自覚しなければダメだ。俺は、自分にとっての当たり前をしてるだけなんだけどなぁ……。

 

「彼方が思ってるより、ずっと破壊力あるからね?」

 

『……優しいの、ほんとはいいことなのに……』

 

「ね、でも使い方間違えると大惨事」

 

しかも、いつものふざけた感じではなく、ガチの時のやつだ。いつも笑って言ってくるが、顔がマジの時の顔だ。しかも心配そうに見ている。

 

『……だから……ちゃんと自覚して……?』

 

「じゃないとほんと、刺されるよ?」

 

『……それはやだ……ほんとに』

 

……これ、俺が悪いな……完全に。

 

「はい……ごめんなさい」

 

素直に謝る彼。心の内では、まだ完全には納得していないが、これから気をつけようと決心するのだった。その後は、2人に混ざって3人で話した。こんな時間がずっと続けばいいなと思っていた。

 

そうして、時は過ぎていく。季節は変わり、冬になった。雪が降り積もる、そんな日の出来事だった。

 

彼らに訃報が届いたのは。

 






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それとお知らせです。2章「それぞれのステージ」は残り2話で終了します。その残りの2話なのですが少し辛い展開があるのでご注意ください。
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