「あ……切れちゃった」
「……ふふ、緊張してたんだね」
さりなちゃんとアイの通話が終わった。時間にして数分程度だったが、きっといい思い出になったと思う。スピーカーにしてもらって聞いていたが緊張していた。でも、彼女が伝えたかった事は、しっかりとアイが受け取った。
「……よければまた、話してくれないか……さりなちゃんと」
「……うん、いいよ」
「……ちゃんと届いてたし……また話したいな」
出来る事は、全てやるつもりだ。アイの個人的な連絡先を渡す訳にはいかないが、俺を仲介として話をさせるのはいいだろう。だって、さりなちゃんと話している時の俺は、「芸能人」の天城彼方ではない。彼女の友達であり、ただの「推し仲間」なのだから。
「……ふふ、そっか。女の子だったんだ、彼方の新しいお友達」
彼女の視線が少しだけ鋭くなっていた。ほんの一瞬。いつもの柔らかい笑顔の奥に、微かな棘が混じっているような気がする。最近、こんな視線が増えた気がする。
「……アイ?」
「……大事なんだ、その子」
冗談みたいな軽い口調なのに、どこか確かめるような響き。すぐに、何事もなかったかのように表情を戻して笑う。
「……ふーん、そっか」
けれど、その「そっか」は、どこか納得していないようにも聞こえた。
「ねえ彼方ってさ、女の子に人気あるよね?」
「……そのうち刺されちゃったりしない?」
唐突にそんな事を言われた。確かに、どちらかと言えば女性のファンが多いと思うけど?
「面白い事を言うな、アイ。俺はモテた事ないぞ。それに、俺を好きになる物好きがいるなら見てみたいな」
アイの言葉を受け流しながら彼は笑った。顔がいい事は自覚しているが、自身が女性に人気な事はあまり自覚していない。前世から、彼の自己評価は低い。自分が第三者からどう見られているか、自覚が全くない。
「……ここにいるけど」
小さくアイが呟いたが、それが彼の耳に届く事はなかった。
「何か言った?」
「……ううん、なんでもない」
「……ほんと、鈍いよね」
首を傾げてアイの方を見ている。まさか、自分が異性として好かれているとは思っていない。というか、考えすらしていないだろう。アイは、そんな彼をジトッ……と見つめていた。
「……じゃあ、そろそろ寝るね」
「おやすみ、彼方」
「ああ……おやすみ」
そう言い残して彼女は、俺の部屋から出ていった。アイが不満げにこちらを見つめていたが、まぁ………いいか。さて……今度は、いつ話せるかな?……さりなちゃん。
彼女との会話を楽しみにしながら、彼はベッドに入り眠りにつくのだった。
「彼方ってさ、すごく気持ち悪くていい演技するよね」
『え、わかる……!ちょっと怖いのに、目離せなくなる感じ……!でも、それが好き……!』
今、2人は俺の話をしている。2人とも本人が目の前にいる事、忘れてませんか?自覚はあるのだけど……本人の前で言うのは違くないですか?でも、2人とも楽しそうに話している。さりなちゃんも最初は緊張で話せなかったが、今ではしっかりと話せている。
「だよねぇ。なんか、役に入りすぎてて……素の彼方どこいったの?ってなるときあるもん」
『あ、それわかる……!電話のときと全然違うよね……ちょっと安心するけど……』
「ふふ、でしょ?普段はあんなに普通なのにね」
『うん……でも、そのギャップが……なんか、ずるい……』
「あはは、さりなちゃんも言うね〜。でもほんと、ああいうのハマる人はハマるよね」
『……うん……私、完全にハマってる』
たまにこうして俺の話をする。女子トークってやつかな?にしても、恥ずかしいんですけど?でも、楽しそうだからいいか。
「ねえ彼方、このままいくとさ……将来、絶対いろんな女の子泣かせるタイプになるよね。」
ちょっと……アイさん?
『……あ……わかる……なんか、無自覚でやりそう』
待って、なんでそんな反応するの?さりなちゃん。
「でしょ?ああいうのが一番タチ悪いんだよ〜」
『……お兄さん、たぶん気づいてないだけで……結構ひどいことしてそう……』
待ってくれ。なんで俺がそんなクズ男みたいになっているの?
「あはは、ほんとそれ。気づいたら周りに女の子増えててさ〜」
『……うん。それで、刺されるんだ……』
「……あ、それリアルにありそうで怖い」
『……やだ……お兄さん、刺されないでほしい……』
……この2人から俺、どんなふうに見られてるんだ?一体。女を泣かせた事ないんですけど?というか、前世では女性に泣かされそうになった事あるんですけど?
「待て待て……2人にはどう俺は映ってるの?」
2人の会話を邪魔してはダメだと思って黙っていたが、さすがにこれは突っ込まないとダメだ。
「「……え?」」
「ふふ、聞いてたんだ?」
そりゃあ、俺の携帯で電話しているし。2人とも俺がいるのに気にせず話すものだから。
『……あ……ごめん。でも……ほんとのことだし』
「だって彼方ってさ、無自覚に優しいじゃん?」
『……うん。それが一番、ずるい』
「ね?本人は普通のつもりでも、勘違いする子いっぱいいるタイプだよ〜」
『……だから、ちゃんと気をつけてね……?』
「刺される前にね?」
『……うん。ほんとに……』
ここまで言われているのに彼は、全くわかっていなかった。頭に「?」が浮かんでいる。
「誰にでも優しくしてないよ。それに大事な人達に優しくするのは普通じゃない?」
目の前のアイが固まった。そして、あちゃーみたいな顔をしながらため息をついた。
「「……それがダメなの!」」
そして、2人が同時に言ってハモった。
「……ほらね、こういうとこ」
『……無自覚、怖い』
「ね?将来ほんとに刺されるよ?」
『うん……お兄さん、ほんと気をつけて』
なぜだ?どこがダメなのか全くわからない。
「わからん……2人とも大事だしな。何が問題なんだ?」
「「…………え?」」
「ちょっと待って彼方、それ今サラッと言うやつ?」
『……え……ちょっと……いまの……ずるい』
言っている事に一切の嘘がない。だからこそ、タチが悪い。彼にとって「大切な人を大事にする」は当たり前の事だ。そして、前世で友達や家族に対して未練を抱いている。それも影響し、その当たり前が大きくなっていた。
「ねえ、それ無意識で言ってるのが一番危ないんだけど?」
『お兄さん……ほんとに……やばい人かも』
けれども、その当たり前は受け取る側にとっては時に残酷だ。「自分は特別だ」と、そう思う人も出てくるだろう。自分の言葉がどれ程の影響力を持つのかを、彼自身は理解していない。
「……え?そんなに?」
「……そんなに、だよ」
『……うん……かなり……』
ここまで言われると自覚しなければダメだ。俺は、自分にとっての当たり前をしてるだけなんだけどなぁ……。
「彼方が思ってるより、ずっと破壊力あるからね?」
『……優しいの、ほんとはいいことなのに……』
「ね、でも使い方間違えると大惨事」
しかも、いつものふざけた感じではなく、ガチの時のやつだ。いつも笑って言ってくるが、顔がマジの時の顔だ。しかも心配そうに見ている。
『……だから……ちゃんと自覚して……?』
「じゃないとほんと、刺されるよ?」
『……それはやだ……ほんとに』
……これ、俺が悪いな……完全に。
「はい……ごめんなさい」
素直に謝る彼。心の内では、まだ完全には納得していないが、これから気をつけようと決心するのだった。その後は、2人に混ざって3人で話した。こんな時間がずっと続けばいいなと思っていた。
そうして、時は過ぎていく。季節は変わり、冬になった。雪が降り積もる、そんな日の出来事だった。
彼らに訃報が届いたのは。
皆様の感想や評価が作者のやる気に繋がっています。よければ評価と感想をお願いします。
それとお知らせです。2章「それぞれのステージ」は残り2話で終了します。その残りの2話なのですが少し辛い展開があるのでご注意ください。