いつも見ていただいている皆様、ありがとうございます。前にお知らせした通り今回と次回は少し辛い話となります。ご注意下さい。では、本編をどうぞ。
季節は巡る。今年も冬がやってきた。少し前まで暑かったのに、今ではその逆で、外に出るだけで凍える毎日だ。今日は、モデルとしての仕事がある。上着を着て、外に出た。空からほんの少しだけだが、雪が降っていた。
「………今年もこの季節がやってきたな」
そんなことを呟きながら車に乗る。運転席には壱護さんがおり、俺が乗ったことを確認し、車が発進。窓から映る雪景色が綺麗に感じた。しかし、それにもすぐ飽きた。携帯を開く。連絡欄にある「さりなちゃん」という文字を眺める。すっかりとアイとも友達になって、俺たちの日常に溶け込んできていた。しかし、12月に入ってから彼女と連絡が取れない日が増えた。
前は、3日に1回程度だったのが、1週間に1回程度になり、そして連絡が取れなくなっていた。彼女と連絡が取れなくなって2週間。たかが2週間だと思うかもしれないが、心配だ。正直、今すぐにでも宮崎に飛んでいきたいが、仕事を無下にはできない。帰ったら壱護さんに休みを申請してみようかな?
「着いたぞ」
そんなことを考えていると、そう声をかけられた。どうやら、撮影場所に着いたみたいだ。仕事、頑張りますか。
この時の俺は、知らなかった。数時間後に今世で一番、後悔する出来事が起こることを。
12月がやってきた。外の空気はすっかり冷たくなっていて、吐く息も白い。そんな中でも、私は今日もステージに立つ。暖房は効いているはずなのに、この衣装だと少しだけ寒い。けれど……そんなこと、どうでもいい。ライトが当たれば、寒さなんて消えるから。
「……さりなちゃん、元気にしてるかな」
天童寺さりなちゃん。私の友達。きっかけは彼方で、私のファンの子。ファンの子とこうして話せるのって、なんだか不思議で、でもすごく楽しかった。同い年っていうのもあって、ちょっとだけ近い距離にいる気がしてたんだよね。でも……最近、あんまり連絡がつかなくて。……元気にしてるのかな。
「B小町の皆さん、スタンバイお願いします」
スタッフさんに呼ばれた。そろそろ行かないと。……今日こそ、話せるといいな。
「ありがとうございました」
撮影が無事に終了した。今回は、冬服の撮影で夕方から夜にかけての撮影だった。今の時刻は21時23分。4時間くらい撮影が行われた。日が沈むのが早くなってきたな。そんなことを思いながら、車に戻る。壱護さんは他の人と話しているので、少し待つことに。
「着信?……さりなちゃんからだ」
車の中に置いていた携帯を見ると、ちょうど10分前くらいに彼女から電話がかかってきたみたいだ。まだそんなに経っていないので掛け直すことにする。着信音が数回鳴り響くが出ない。もう寝たのかな?そう思っていると電話が繋がった。
『もしもし。こちら、天城彼方さんの番号でお間違いないでしょうか』
電話に出たのは彼女ではなく男性だった。彼は、それに違和感を持つ。男性が出たこと自体もそうだが、彼はこの声を聞いたことがあった。
「はい……間違いないです。すいませんが、どなたですか?これは、さりなちゃんの番号なはずですが?」
なんだ……すごく嫌な予感がする。
額から汗が滲む。冬なのに、とても暑く感じた。体の体温が上がっているのがわかる。
『初めまして、天城君……俺は、雨宮吾郎。さりなちゃんの主治医をしていた医者だ』
……待て。ここでこの男が出てくる?それに、なんで彼がわざわざ?それに「していた」?……言い方がおかしい。なぜ過去形なんだ?
「………まだ、俺の質問に答えていませんよね?あなたがさりなちゃんの携帯を持っているんですか?」
本当は、わかっていた。わかっていて聞いていた。でも、僅かな蜘蛛の糸を垂らすかのような、そんな僅かな可能性に賭けていた。違うんじゃないかって。きっと……別の話じゃないかって。
『落ち着いて聞いてほしい。さりなちゃんが……亡くなった』
「……は?」
数十分前。
彼女の命の炎は、どんどん弱くなっていた。日に日に悪化する症状。体のほとんどが動かず、視力も徐々に失われていき、今ではほとんど彼女の視界は見えていなかった。
(あぁ……そっか……私……もう、終わるんだ……。)
自分の肉体が今どんな状態なのか理解していた。その現実が、最後の敵として現れる。逃れられない死が、もうすぐそこまで来ていた。
(……最後に……お兄さんだけでも、声……聞きたいな……。)
震える手で携帯を握り、ゆっくりとボタンが押された。何度もコールされるが、彼は出ない。
(……お仕事中、かな……。……最後に……声、聞きたかったな……。)
電話を切る。それと同時に病室の扉が開いた。入ってきたのは、彼女の主治医の雨宮吾郎。彼女の人生に光を与えてくれた人物の一人だ。そして、彼女が最も信頼し、そして好きな人。
「……せんせぇ……最後に一つ……お願いしても、いい……?」
「いいよ……さりなちゃん」
最後、文字通りの意味だ。今際の時で彼女の願ったことは………。
「お兄さんに……お兄さんに会えてよかった……約束守れなくてごめんねって……伝えて」
それは、最初で最後に会った時、アイのライブを一緒に見に行くと約束したこと。ずっとそれを願っていた。でも、それは叶わなかった。会えたことへの感謝と、約束を守れなかったことに対する謝罪。その両方が含まれていた。
「……アイには……お兄さんが伝えてくれるから……だから……私……アイと話せて……ほんとに、幸せだったよ……」
彼女には、3つの光があった。1つは、目の前にいる雨宮吾郎の存在。ここで一番過ごし、話し、そんな彼を異性として好きになった。2つ目は、アイ。彼女は夢と幸せを与えてくれた。自分もアイドルになりたいという夢。そして、そんなアイと話せたことによる幸せ。そして最後は、天城彼方。唯一の友達であり、兄として慕い、同年代で同じ好きなものを共有できる唯一の存在。そんな2人に最後に言葉を残した。
「せんせぇ……これ……あげるよ」
彼女が彼に手渡したのは「アイ無限恒久永遠推し!!!」のキーホルダー。あの時、一回だけ回して引き当てたものだ。
「私だと………思って大事にしてね」
彼はそれをしっかりと握りしめて受け取った。
「分かった。ずっと大事にする」
「ずっとだ………。」
震える手を伸ばし、彼女は吾郎の頬に触れる。
「せんせぇ………だぁいすき……」
「もし……生まれ変わっても……」
「きっと………」
手が力なく落ちる。そして、そのまま瞳が閉じられた。こうして、天童寺さりなは13歳という若さでこの世を去った。その顔は、とても穏やかだった。
雨宮吾郎さんの話を聞いて、俺は言葉が出なかった。それと同時に、自分の罪を呪った。なんで……あと少し早ければ、たったの10分。早ければ、さりなちゃんの望みを叶えてあげられたのに。
『……さりなちゃんは幸せだったと思う。君と出会ってから、彼女は楽しそうに君やアイのことを話していたよ』
……彼の言葉が遠く感じる。呼吸が荒くなる。そして、気持ち悪くなる。さっき食べた物が出てきそうだ。
「…お忙しい中…ありがとうございます。では、失礼します」
これ以上、話していられない。そう感じ、俺は電話を切った。ダメだ……まだ、俺には役目がある。アイにこのことを伝えないといけない。こういう時こそ冷静になれ。落ち着け……呼吸を繰り返せ。
何度も深呼吸を繰り返したが、一向に気持ちが収まらない。
「………クソ……あと少し早かったら」
なんで、こうも残酷なんだ?なんで、なんで………なぜ!!
「ごめん、ごめん……ごめんなさい」
ただ、ひたすら謝罪を繰り返していた。もう、その声が彼女に届くことはないのに。
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