一番星は消えない   作:ディバル

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032 約束された絶望

 

 

 

 

あれから……車で寮まで送ってもらった。でも、その車の道中の記憶が全くない。気づいたらもう着いていた。車から降りる。脚が鉛のように重たい。まるで、自分の脚じゃないみたいだ。

 

「あ……彼方、おかえり。ふふ、ちゃんと帰ってきたね」

 

自分の部屋に入ろうとした時、背後から声が聞こえた。振り返る。そこには、コンビニ袋を手に持っていたアイの姿。さっきまで出かけていたのだろう。

 

「彼方……どうしたの、その顔……なんか、暗いよ?」

 

流石の彼でも気持ちを切り替えることは、できていなかった。親しかった友人の死。それをまだ受け止め切れておらず、そして、それを今から彼女に伝える。切り替えることなんてできない。ひたすら現実が彼を蝕んでいる。

 

「アイ……話がある。外で話すことじゃないから俺の部屋でいいかな?」

 

話さなくちゃいけない。そして、届かないと……さりなちゃんの最後の言葉を。それが、俺の役目なのだから。

 

彼の顔を見てただならぬ雰囲気を感じ取っていた。今までにないほどに暗く、空気が重い。

 

「……うん、いいよ……行こ。彼方の部屋、ね」

 

察してはいるだろう。しかし、彼女は、いつも通りにそう言い彼と一緒に部屋に入っていく。

 

部屋に入り荷物を置き、ソファーに座る。彼女は、さりげなく彼の隣に座った。そして、寒いので暖房をつけて部屋を暖める。

 

「ねぇ、彼方……ちゃんと、聞くから……話して」

 

そうだ。話さないと……しっかりと伝えないといけない。……わかっているが、だが……クソ……声が出ねぇ。

 

「アイ……さりなちゃんが………亡くなった」

 

数分かけてようやく声が出せた。

 

「……え……?」

 

友達の死を伝えられたが、アイは、その言葉を理解しきれてなかった。少し前まで、話をし笑って共に日々を過ごした。アイにとって彼女は、対等に話せる数少ない友であり、かけがえのない存在。それを失った。

 

「……さりなちゃんは、最後にアイに『私……アイと話せて……ほんとに、幸せだったよ……。』って言っていたそうだ」

 

「……そっか……そう、なんだ……」

 

星の瞳が黒く染まった。そして、その瞳から涙が溢れる。それを俺は、ただ見ていることしかできなかった。声をかけてあげることすらできない。俺は、最後に彼女と話ができなかった。数少ない頼れる存在だったのに。最後の言葉すら彼女の口から聞けなかった。

 

「……ごめん。アイの連絡先を交換させておけばよかった。そうしたらアイには届いたかもしれないのに」

 

一度、アイがさりなちゃんに電話番号を伝えようとした時があった。それを俺は止めた。万が一の流出の可能性があった。今思えば、そんなことなかったのに。

 

「……ちがうよ、彼方……それは、彼方のせいじゃない」

 

「いや……俺のせいだ。さりなちゃんの病気のことは、わかっていた」

 

「あと10分早ければ、電話に出れた。きっと……最後に話したかったと思う。だけど、その望みすら叶えさせてあげられなかった。」

 

あの時、携帯を手元に持っていれば、撮影をもっと上手くしていれば。最後の時を彼女と過ごせ、ちゃんと送り出せていたかもしれない。それなのに……俺は。

 

「……彼方、こっち見て」

 

恐る恐る、アイの方を見る。どんな酷い面をしてるんだろうな……。

 

「彼方は……さりなちゃんの“最後の願い”を、ちゃんと叶えてるよ」

 

「こうやって……私に、伝えてくれた」

 

「確かに……伝えられた。でも、それでも俺は、彼女の望みを叶えられなかった!!」

 

伝えられた。でも、直接聞けたわけじゃない。目から、涙が溢れそうになる。それを必死になって抑える。泣くな……俺よりもアイの方が辛いはずだ。数少ない友達を失ったのだから。俺の方が精神的に大人だ。しっかりと俺が彼女のケアをしないと。

 

「……それでも、だよ」

 

「最後に話せなくても……それで全部が消えるわけじゃない」

 

「さりなちゃんが、彼方と過ごしてきた時間は……ちゃんと残ってる」

 

時々、言葉が詰まり呼吸も荒くなっている。

 

「……最後に声を聞けなかったことより、今まで何をくれたかのかが……ずっと大きいよ。」

 

「彼方は、ちゃんと……あの子の中にいた」

 

「……だから、自分を責めないで」

 

それは、彼が一番、今欲しかった言葉だ。彼の心は「自分を許してはいけない。」という気持ちで埋め尽くされていた。最後を見届けられなかったのもそうだが、本来ならこの後に転生するはずだった彼女の機会を、自分が奪ってしまう可能性がある。その罪の意識に囚われ続けている。

 

何度も深呼吸を繰り返す。さっきやって効果がなかったのに、意味もなく繰り返す。

 

「……彼方」

 

「……無理に、強がらなくていいよ」

 

「……ねえ彼方、泣いてもいいんだよ」

 

その言葉で、とうとう限界を迎えた。溜め込んでいた。悲しみ、苦しみ、それらが涙となって溢れる。彼にとって大事な人を失うのは、初めての経験だ。家族や友達よりも早く死んだ彼は、身近にいる人の死を経験したことがなかった。

 

「あぁ……ごめん。ごめん……さりなちゃん。君の望みを叶えられなくて」

 

そのまま、ボロボロと泣きながら、彼女に対して謝罪を繰り返す。その言葉は、彼女には永遠に届かない。我慢してきた感情。いつもならそれを隠して他者に見せないようにしていたが、アイの言葉でその制御を失っていた。

 

「……うん……いいよ……全部、出して」

 

「……彼方、ちゃんと泣いて」

 

「……私、ここにいるから」

 

アイは、彼の頭を撫でていた。それは、彼がアイに対してしたこと。泣いていたアイを彼が優しく頭を撫でてくれた。あの時とは立場が逆だ。彼女も辛いのに。今も涙を流している。

 

そうして……2人は泣き続けた。

 

 

 

 

「少し……落ち着いた」

 

2人で30分くらい泣き続けた。久しぶりに人生で泣いた気がする。泣いたお陰か、ほんの少しだけ気持ちが軽くなっていた。

 

「……そっか……少しでも、楽になったならよかった」

 

「……でもね、無理に止めなくていいから」

 

俺の方が泣いていた時間が長かったな。ダメだな……また、アイに助けられたよ。

 

「……まだ残ってるなら、ちゃんと吐き出していいよ」

 

「……私、まだここにいるし」

 

まだ、自分を許してはいない。これからもずっと生きているうちは引きずり続けるだろう。でも、絶望している暇はない。やるべきことがあるから。それに、まだ、彼女が転生しないと決まったわけではない。悲観し過ぎていたのかもしれない。まだ、希望はある。だから、進み続ける。それに、こんな言葉がある。「希望は前に進むんだ。」と。

 

「……俺の心配はいいよ。それよりアイの方は大丈夫?」

 

「……うん、大丈夫……って言いたいけど……やっぱり、つらい」

 

「……でもね、彼方がいてくれるから……ちゃんと立ってられる」

 

「……だから今は、私の心配より……隣にいて」

 

少し、マシになったとは言え、まだ傷は深い。彼は、アイの手を握る。

 

「あぁ……側にいるよ」 

 

彼らは、大切な友を失った。それは、とても辛いことで、しばらくはその事実が深く残り、引きずるであろう。隣に誰かがいる。1人ではない。その事実がほんの少しだけ彼らの心を軽くする。

 

「……決めた」

 

「私……B小町のみんなと、ドームに立つ」

 

彼女は、宣言した。黒い星はいつのまにか白星になっていた。その瞳は、いつもよりも輝いており、まるで一番星のようだった。まだ、辛さや苦しみがある中で彼女は立ち上がった。自らの意思で。

 

「……そしたらね、天国にいるさりなちゃんにも……ちゃんと届くかもしれないでしょ?」

 

すごいな……アイ。まだ、悲しみが癒えてないのに。強いな……彼女は。俺も、見習わないといけない。

 

「………あぁ……届くさ、きっと」

 

「……うん、届かせる」

 

「……だから、見ててね」

 

2人の顔には、いつの間にか笑みが浮かんでいた。2人は今日、大切な友達を失った。でも、物語はこれからも続く。余韻と余白を残して、次の物語へと一っ飛び。

 

 

 

 





これで、2章「それぞれのステージ」は終了です。本来は10話程度にしようと思ってたのですが、アイとのお出かけやさりなちゃん関連で長くなりました。さりなちゃんは、1話程度のゲスト出演予定でしたが、いろいろあってこんな形になりました。次は、3章「愛と歪み」にいきます。お楽しみに。



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