一番星は消えない   作:ディバル

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3章 愛と歪み
033 訪れた時間


 

 

 

 

天童寺さりなの死は、2人に良くも悪くも影響を与えた。アイは「ドームに立つ」という夢を持った。日々のレッスン、ステージのパフォーマンスも向上。夢へと一歩ずつ進んでいる。

 

彼方の方は、あの時に感じた喪失感、無力感、悲しみ、苦しみの負の感情を吐き出して演技に活かした。引き出しが多くなったことで演技力が向上。それぞれの知名度が上がりつつあった。

 

苺プロはそんな2人が所属する事務所として業界でも話題になっており、経営もようやく赤字から脱出できた。2年という月日が経過したが、順調そのものである。

 

「ねえ彼方……ちょっと疲れちゃった……飲み物、ちょうだい?」

 

レッスン終わり、事務所にいた彼に対してそう言いながら、さりげなく隣に座った。

 

「飲みかけでもいいなら……あげるけど?」

 

雑誌を読みながら答え、机に置いてあったペットボトルを彼女に手渡す。少し前の彼なら戸惑っていたが、アイと知り合ってから5年の月日が経っていた。アイが近くにいたら何度も飲み物を強請ってきたのもあり、彼はもう慣れていた。

 

「……ありがと。……ん、やっぱ彼方のやつが一番おいしい」

 

「……味は変わらないよ?というか毎回、俺の物を強請ってくるよね?食べ物や飲み物とか」

 

「えー、いいじゃん別に。減るもんでもないし」

 

物理的には減ってはいるんだよなぁ、と口から出そうになったが抑える。というか、前から思ってたけど……近くない?さりげなく、くっついているけど?まぁ……いいか。嫌ではないし。

 

(……んー、ちょっと弱かったかも……もう少し踏み込んでみよっかな?)

 

2年の月日が経過したが、彼らの関係はそのままの状態だった。アイなりに攻めてみているが中々進まない。というか、彼は彼女が異性として自分を見ていることに気づいていない。

 

「アイさんや……何してるのかな?」

 

彼が固まった。その理由は、アイが彼の膝に頭を乗せて寝転がっていたからだ。ソファに座っており広さも十分にある。でも、彼女は彼の膝の上に落ち着いた。

 

「んー?ちょっと休憩中。ここ、意外とちょうどいいんだよね」

 

……もっと他にいい場所あるだろ?……はぁ……最近、慣れてきたと思ったのにこれだよ。俺の推し、何考えているか読めねぇ。……考えるのやめよう。今、動いたらアイが落ちちゃうし、しばらく好きなようにさせるか。

 

(あ……無表情になった。効果あるみたいだね。)

 

しっかりと彼の反応を見ながら、満足げに微笑んでいた。

 

「ねぇ……彼方ぁ……ちょっとでいいから……頭、撫でて……?」

 

「……わかった」

 

しばらくの間があったが、彼は了承した。何故なら、上目遣いで見てくる推しに対して断る勇気がなかった。そのまま、優しく彼女の頭を撫でる。

 

(甘えてくるのも増えたなぁ。)

 

実のところ、こんなお願いをされるのは今回が初めてではない。月に何度か強請ってくることがあるが、それに関しては未だに慣れてはいなかった。

 

「……お前ら、どんな状況だ?」

 

しばらくの間、頭を撫でていると事務所の扉が開く。入ってきたのは壱護さんだった。俺とアイの姿を見ながらそう聞いてきた。確かに、側から見たら謎のシチュエーションだもんな……これ。

 

「んー?休憩中だよ。ね、彼方?」

 

「まぁ……そうだな」

 

一から説明するのは面倒なのでアイに合わせた。嘘は言ってないしな……うん。

 

「お前らって……付き合っているのか?」

 

「!?」

 

突然の質問に手が止まってしまう。……確かに距離感は近いが、それはない。彼からしたらアイドルが付き合っているなんて、爆弾を抱えたくないだろう。……よくよく考えたらこの人、原作で爆弾抱えまくってたな。

 

「付き合ってないですよ。アイは、俺程度の男じゃ勿体ないですよ。」

 

とりあえず誤解を解くことに注力する。軽くジョークを混ぜながら笑う。……アイさん?なんでそんなに目つきが鋭くなっているんですか?

 

「……ふーん。そっか、“俺程度”なんだ」

 

なんで……頭を抱えているんですか?壱護さん。そして、なんで俺をそんな憐れむ感じの目で見てるんですか?

 

「それで……壱護さん。何か用があるんじゃないですか?」

 

「お前……エスパーかよ」

 

よし、話が変わった。心の内でガッツポーズをした。

 

「アイ……お前には、演技の練習のためにワークショップに行ってもらう」

 

その一言で、俺の心臓が一気に高鳴る。……ついに、来てしまうのか……。

 

「演技の練習?」

 

「このまま売れたら、ドラマや映画のオファーがバシバシ来る。その時のために備えておかないとな!」

 

……いよいよって感じだ。ここが、一番の勝負どきだ。神木輝……ようやくご対面ってわけか。

 

「壱護さん……俺も行っていいですか?」

 

「……お前はもう十分演技ができているから、必要ねぇんじゃないか?」

 

確かに、俺は演技が十分にできる方だと思う。でも、目的はそれじゃない。でも、それを馬鹿正直には言えない。

 

「さらに演技を良くしたいんですよ。それに、俺自身にも学びがあると思いますよ?」

 

「……わかった。お前もついでに行ってこい」

 

何か思うことはあっただろうが、無事に一緒に行けるようになった。金も十分に手にした。……1000万。3年でドラマとモデル後は、CM出演での仕事をこなしてきたこと。資金という面では十分だ。いろいろ切り詰めた。学校には行かず、服や食べる物は安い物にした。たまに使う時もあったが、そんなに大きくは使わなかった。全ては、この時のために。

 

「ありがとうございます。壱護さん」

 

それから、壱護さんから日時と時間、そして注意事項を伝えられて壱護さんは出ていった。

 

「……ねぇ彼方。なんでそんなに、行きたがってるの?」

 

やはり、アイにはわかるか。学びがあるのは事実だが、目的はそれじゃないからな。ここでアイを1人で行かせたら原作ルートになる可能性が高い。アイ自身も変わってはいるが、不確定要素が多すぎる。それに、神木輝が闇堕ちした根本から何とかする必要がある。行かせないという手もあるが、それでもやはり神木輝という存在が脳裏によぎる。この先一生不安を抱えながら生きるのはごめんだ。なら……早々に決着をつける。

 

「……アイが心配だから。それに、演技のことなら俺も少しは役に立てるかもしれないだろ?」

 

「……そっか。じゃあ……ちゃんと隣にいてよ、彼方」

 

アイ自身も気づいていた。きっとそれだけではないと。でも、あえて聞かなかった。何故なら、今の彼の言葉に嘘がなかったから。それに、5年も一緒に過ごしてきた仲である。彼を信用している。だから、全ては聞かない。 

 

「……というか、いつまでもそこにいるの?」

 

話している最中もずっと俺の膝の上で頭を乗せての膝枕状態が続いていた。もう軽く30分くらい経ってるんですけど?休憩にしては長くない?

 

「……もうちょっとだけ。ね、彼方……だめ?」

 

「……アイの好きなように」

 

断れないよな……うん。

 

「……それとさ、頭も……撫でて?」

 

「仰せのままに」

 

手を動かし、撫でを再開する。にしても、無防備にも程があるな。別の意味で、外に出すのが怖いなこれ。流石のアイもそこまで考えなしとは思わないけど。

 

「……あんまり、男にこういうことさせるの良くないぞ?」

 

「……彼方だから、してるの」

 

……今のズルいだろ?にしても、読めない。冗談なのか本気なのかが。はぁ……心臓にとても悪い。今、どんな表情をしてるんだ?

 

彼の視点からはアイの顔が見れないので、どんな表情をしているのかわからない。

 

(……ほんと、にぶいんだから。)

 

今後は、何があるかわからない。大事な局面を迎える時が来る。でも、今はこの何気ない日常を楽しむ彼らであった。

 

 

 

 






3章「愛と歪み」スタートです。この章は、本格的に、アイの生存の為に主人公が動きます。また、神木煇も勿論出て来ますが歪む前の彼なので作者の独自解釈で書いてます。


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