神木煇のファーストコンタクトを果たした後に、アイの演技の指導が始まった。神木君の演技は上手かった。ララライに所属しているだけの実力はあり、このまま演技を続けるなら更なる成長が見込める。
俺も役者として様々な現場、他の役者の研究とかもしているので、感覚的にだが上手い演技が分かるようになっていた。神木君がアイを指導して、たまに俺がサポートする感じで教えていた。
「はぁ……疲れたぁ……。ねぇ、やっぱり難しいね……?」
体力に限界が来たアイが座り込み、息を整える。演技は意外と体力を使う。体力に関しては、アイはアイドルとして歌って踊っているので申し分ない。でも、圧倒的に経験が足りていない。
「お疲れ様……ほら、水」
持って来た水筒を手渡す。受け取った彼女は、それを飲み水分補給をしていた。
「神木君から見て、アイの演技はどう?」
「……その、正直に言ってもいいなら……まだ形にはなってないと思う」
「でも……ちゃんと“何かを伝えようとしてる”のは、すごく分かる。だから……少し整えれば、ちゃんと届くようになると思うよ」
なるほど……彼の評価はそんな感じか。その評価は的を射ていた。まだ発展途上の段階。昔の自分を見ている感じがする。と言っても、形になってないという部分なのだが。役者には様々なタイプがいる。各々が自分なりの形を作り、演技をしている。でも、アイにはまだ形がない。自分なりの形を作るのは難しい。でも、形さえ作れば一気に伸びることもある。俺がそうだったように。
「やっぱり演技しているから分かるんだね。神木君がいてよかったよ。俺は、教えるのが下手だからさ」
「そ、そんなことないよ……天城さんの言葉、すごく分かりやすいし……」
「僕なんて、ただ思ったことを言ってるだけだから……でも、一緒に考えられるなら、その方がいいと思う。」
まだ関わってほんの少しだが、分かったことがある。どこか一歩引いているような、そんな感じがする。謙虚で、この年でこれか。それが悪いとは言わない。でも、言語化できない違和感があった。
「……ねぇ、なんかさ……二人って、ちょっと兄弟みたいじゃない?」
突然、アイからそんなことを言われる。さっきまでの思考が吹き飛んだ。
「………なんでそう思ったのかな?」
「だってさ、二人とも雰囲気ちょっと似てるし……なんていうか、“静かに考えてる顔”が同じなんだもん」
……似てるのか?確かに見た目的なことを言えば同じ金髪だもんな。それ以外に共通点あるのか?……分からん。
「えっ……そ、そうかな……?あんまり言われたことないけど……でも、ちょっと嬉しいかも」
「……嬉しいか………どうして?」
予想外の反応だ。困惑するかと思っていたが、まさか嬉しいとは。思わず素で聞いてしまった。
「その……兄弟って、ちょっと羨ましくて……。僕、そういうのないから……誰かと似てるって言われるの、なんか……悪くないなって思って」
そうか……この子も愛情をもらえなかった人間だ。幼少期からの愛情不足が原因で、周囲の求める自分像を演じる癖がある。この子も演じているのか……。兄弟愛というものがある。だから嬉しかったのだろうか?
「……私も兄弟がいないからな。君みたいな弟がいたらよかったなと思うよ」
笑みを浮かべながら、そっと神木の頭を撫でる彼。
「なんなら……お兄ちゃんって呼んでもいいよ?」
軽く揶揄いながら、しばらく撫でた後に頭から手を離す。その時の神木の顔は不思議そうな顔をして、少しの間固まっていた。少し揶揄い過ぎたかな?
「えっと……その……嬉しい、けど……さすがに、そこまで甘えちゃうのは……ちょっと、遠慮しておきます」
「……少し揶揄い過ぎた。悪いね」
呼ぶわけないか。というか距離感の詰め方バグり過ぎ。あぁ……少し失敗したかなぁ?まだ出会ってそんなに経ってないのに、お兄ちゃん呼びさせようとするなんてヤバいな……。まぁ……ある意味で距離は縮まったからいいか……うん。
「……ねぇ、私も……撫でて?」
頬を膨らませながらこちらに近づいてくるアイ。撫でろと言われたので撫でてやることにする。なんか少し性格変わってる気がするが、いいか。天真爛漫さが少し増した感じかな?
「……これでいいかな?」
「……ん、いい感じ……。えへへ、やっぱ彼方に撫でられるの、落ち着く」
アイを撫でていると、神木君からの視線を感じた。
「二人って付き合ってるんですか?」
壱護さんにも同じ質問をされたな。………これ、外で甘やかしたのダメだった?というか……原作通りにアイが神木に好意抱くかな?
「付き合ってないよ……昔からの友達だ。もう五年の付き合いだね」
「……そ、そうなんですね……。すごく仲がいいから、てっきり……でも、なんか……いい関係だなって思います」
神木君、なんでちょっと引いてるのかな?というかアイさん……足踏まないでくれますか?地味に痛いんですけど?
その後、少し話した後に今日は解散となった。
「じゃあね……神木君」
「神木くん。またよろしくね?」
「うん……こちらこそ。また会えるの、楽しみにしてるね」
……行っちゃった。なんだか不思議な人たちだったな。天城さんも、アイさんも。天城さん……優しいし、ちゃんと見てくれてる感じがするのに……どこか少し遠い気もする。ああいう人って……きっと、気づかないまま誰かを傷つけちゃうこと、あるんだろうな……。……でも、それでも……もう一度会ってみたいって思った。
「楽しそうね」
歩いていると声をかけられる。そこにいたのは、姫川愛莉。笑顔ではあるが、圧がある。
「私みたいな人妻より……若くて可愛い子の方がいいのかしら?」
その声には怒気が混じっていた。
「いえ……愛梨さんの方が綺麗ですから」
神木は、愛梨の声に怒気が混じっているのを感じ取っていた。だから、すぐに彼女を立てた。
「ふふ……ありがとう」
その時、彼の顔が真っ青になる。愛梨は彼の体全身に触れて特に胸や太もも、そして股関節部分をいやらしく撫で回している。
「本当に可愛いわね」
真っ青な彼に対して、彼女の顔は恍惚としていた。しかし、その顔はまだ中学生の少年に向けるようなものではない。完全に雌としての顔が浮かんでおり、歪そのもの。
(……あぁ、まただ……。)
(この感じになると……愛梨さん、もう止まらないんだよな……。)
(……どうしようも、ないか。)
こうなったら彼女は止められない。それは彼自身も理解していた。なぜなら、これが初めてではないから。過去に同じようなことがあった。そして、この後に自分がどうなるか……。
「じゃあ……行きましょうか……いつもの場所に」
背中から手を抜いて、耳元でそう囁く愛梨。彼女の吐息が彼の耳に当たる。その感触が伝わった。
(気持ち悪い……。)
そう思うが、決して口には出さない。「未成年淫行」、18歳未満の青少年に対して、たとえ同意があっても大人が性的な行為をすることは、法律や条例で禁止されている。だから彼自身が本気で彼女を拒否し、周りの大人に助けを求めたら、愛梨との関係を断つことができる。しかし、まだ中学生である神木にとってそれは難しいだろう。何が正しいのかまだ分からない年齢。苦しくても助けを求められない人間もいる。そして、何よりも彼の性質にも問題があった。
神木輝は「愛」を欲していた。親からは放置されていた。と言っても衣食住は与えられ、学校にも行かせてもらってい不自由ではない。しかし「それだけ」。それ以上のことはしてくれない。劇団に所属することに関しても承諾は得たが、その「理由」は聞かれなかった。無関心なのだ。好きの反対は嫌いだと言うが、一番辛いのは「無関心」。嫌いという感情は、まだその人のことを考えている、思われている。でも無関心は違う。何も思わない。嫌いにすらなってくれない。彼の両親はまさにそれだった。
神木自身も分かっていた。この関係が歪んでいると。でも、それでも「愛」を求めた。だって体を差し出せばそれが得られるからだ。故に彼は、この歪んだ関係を続ける。
そんな二人を見ている者がいた。その手にはカメラが握られており、先ほどの愛梨のしていたことをバッチリとカメラに収めていた。歯車が動き出す。本来の世界と違う、イレギュラーの存在によって。
神木輝を書くの難しいですね。毎回、頭を悩ませております。
皆様の感想や評価が作者のやる気に繋がっています。よければ評価と感想をお願いします。