UA50000突破!!ありがとうございます。沢山の人に見ていただき作者としましては、とても嬉しい限りです。これからもこの「一番星は消えない。」をどうぞよろしくお願いします。……それでは、本編をどうぞ。
依頼を終えてから1週間が経過した。興信所からの連絡はない。興信所には動きがあったら連絡するように頼んでいる。できれば、とっとと尻尾を出してほしい。
「どうしたんですか?さっきから上の空ですけど」
考え事をしていると彼からそう声をかけられる。今は、アイの演技の指導を神木君に行ってもらっている。
「何でもない。少し考え事を」
「そうですか……何かあったら言ってください」
そう言い、アイの演技の指導に戻る彼。アイは彼に任せよう。2人だけにすれば、アイが彼に好意を抱くかもしれない。そんな期待をしながら立ち上がり、俺は彼女の元に向かう。
「お時間よろしいですか?愛梨さん」
声をかけたのは姫川愛梨。彼女は振り返り、笑顔で出迎えてくる。
「あら、天城くん。どうしたのかしら?」
「……愛梨さんに演技を見てもらいたくて話しかけましたが、大丈夫ですか?」
もちろん建前だ。彼女という人間を知るために話しかけたのが8割。残りの2割は役者としての彼女が気になったからだ。こんなことが気になっているなんて、自分でも驚きだ。職業病なのか、それとも演技自体に対して何か特別な感情を抱いているのかはわからない。ただ、純粋に気になった。
「いいわよ……見せてくれるかしら?」
「よろしくお願いします」
その様子を少し遠くから、面白くなさそうに見る少女がいた。それは、アイ。
(……ふーん。そっか……そっちを、頼るんだ。)
(別にいいけど……私もいるのに、わざわざあの人なんだ。)
……確かに、あの人の方が演技は上手いよ?でもさ……私だって、感想くらい言えるのに。……ていうか、あんな顔で笑うんだ。私以外にも。……なんか、ちょっと……やだな、それ。
……そこ、私の場所なのに。
アイにとって彼が隣にいるのは当たり前だった。いつも自分の隣で、共に過ごし、笑ったり泣いたりしながらそれこそ5年と過ごした。そんな彼が、自分とは別の女性と2人でいる場面を見たのは初めてであり、心の底から暗く濁った感情が湧いていた。
(……あれ、私……こんなふうに思えるんだ。)
自分が感じているものが嫉妬だと気づいた彼女。前までは、それに気づかなかった。でも、今ここでようやく自覚した。自分が姫川愛梨に嫉妬していることを。
(あの時も、こんな気持ちだったなぁ。)
B小町のみんなも、こんな感じだったのかな。私ばっかりスポットライトを浴びて、優遇されて……今とはちょっと違うけどさ。……たぶん、私に対して……こういう気持ち、あったんだろうな。
自分の今の想いに対して過去を振り返っていた。原作ならこんな感情を抱いていなかったのだろう。でも、彼を通して人として成長をした。それがどんな結果をもたらすかは、わからない。でも、近いうちにその感情が爆発する。
「どうですか?私の演技は……」
互いに演技を一通り見せて、感想を交換していた。姫川愛梨の演技は、朝ドラに出演しているだけあって上手かった。人としてはダメだが、役者としてはこの人はいい人材なのだろう。
「……天城くんの演技って、相手を引きずり下ろす演技ね。初めて見たわ、あなたみたいな役者」
そう見えるか。俺は、自分が輝く演技はできない。ただ、ひたすら役に溶け込み、自分という境界を曖昧にする。演じている時は、俺という個の存在はない。あるのは、演じている役そのもの。だから、有馬かなのように「自分を見て」という感情はない。だから、輝く演技ができない。
「でも、その歳でそこまでできる子なんてなかなかいないから、誇っていいと思うわね」
「ありがとうございます」
きっと……神木の件がなければ、この人はいい人なのだろう。彼女が歪んだのは芸能界の闇のせいだ。ここは、誰もが輝ける場所ではない。そして、どの業界にも闇はある。彼女はその被害者だ。だけど、すべては俺の目的のために。
「それにしても、神木くんは演技上手いですよね。アイにいい先生がついてよかったですよ」
軽く話を振る。でも、彼女にとってそれは虎の尾を踏む行為だ。一瞬だけど、表情が強張った。
「……えぇ……そうね」
嫉妬という感情を利用する。だから、俺は煽る。彼女の中にある女としての顔や感情を。
「話していて楽しいですし……彼女とかいそうな感じしますよね」
煽る……ひたすら。感情を揺さぶる。不安にさせる。そうすれば、彼女は彼を求める。今この瞬間も外で調査員が待ち構えている。今日じゃあなくても近いうちに尻尾は必ず出る。この為に大金を注ぎ込んだ。悪いな……俺はまともじゃねぇんだよ。
「……今日はありがとうございました。とても学びになりました」
最後に笑顔で、その場を後にする。種はまいた。芽吹くのを待てばいい。もし今日がダメでも、また感情を煽る。繰り返していけば彼女は神木君を求める。我ながら性格が悪い。
「……そっちはどう?上手くいってる?」
「あ……天城さん。それが……」
戻ってくると神木君が、困った顔をしながら指をさした。そこには、体操座りで頬を膨らませたアイの姿。
「さっきからずっとあんな感じなんですよ……」
この調子だとあまり進まなかった感じか。珍しいな、あんな風になるアイは。俺はアイに近づき、腰を下ろして彼女の目線に合わせる。
「アイ……体調が悪いのか?」
「……別に、体調は悪くないけど」
「ただ……ちょっと、やる気なくなっただけ」
視線を合わせようとせず、むしろ視線を避けていた。
「……なんかさ、さっきの見てたら……バカみたいって思っちゃって」
さっきの?……もしかして愛梨さんと話していた時か?
「……私、ちゃんと見てもらえてないなら、頑張る意味ないじゃん」
これ……拗ねているのか?俺に見てもらえなくて。約束はしたが、まさかずっと見ていてくれとは思わなかった。
「……可愛いかよ」
「「え?」」
「………やべ」
つい、本音が漏れてしまった。神木君まで反応してしまっている。さっきまで視線を合わせようとしなかったアイも、こちらを見て目を丸くしていた。逆に俺が目を逸らしている。
「……可愛いって、そういう時に言うやつじゃないでしょ」
「……ずるいんだけど、そういうの。」
表情が少しだが柔らかいものになっていた。
「拗ねてる理由が俺に見てもらえなかったからだったから……とても可愛い理由だなぁって思ってさ」
アイの頭に触れて優しく撫でる。
「大丈夫……ちゃんと見てるよ。アイの頑張り。だから、今日はもう少し頑張ろ?」
そう言うと、こちらを見ながら言葉を紡いだ。
「……じゃあ、頑張る。もうちょっとだけ」
「……その代わり、ちゃんと見ててよ。絶対だよ?」
立ち上がって台本を手に取る。さっきまで拗ねていたのが嘘みたいにやる気が出ていた。
「あぁ……もちろん」
「よし……神木君。もう少し付き合ってくれるかな?」
「はい……僕でよければ」
どの面でお願いしてるんだろうな。自分で頼んでおいてそんなことを思ってしまう。この後、彼が辛い思いをする可能性が高いのに。自分が嫌になる。まだ、そう思えているだけでも心は完全に凍っていないのかもしれない。前世ではネタで性格が悪いと言ったが、今は本当の意味で性格が悪くなってしまったな。
(……ほんとに、彼方ってズルいよね。)
撫でられたところ、まだちょっとあったかいなって思いながら、そんなことを考えていた。さっきまでの嫉妬とか、もうどこかに行っちゃったみたい。で、彼方の方を見たらさ、神木くんと楽しそうに話していた。
(あれ?……なんか、いつもの彼方と違う気がする?)
笑ってるんだけど……それだけじゃない気がするんだよね。……気のせい、かな?
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