一番星は消えない   作:ディバル

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003 ただ君にだけ

 

 

 

俺とアイは、児童養護施設で暮らしている。この施設には1〜18歳までの子供達が暮らしている事になるが、今、この施設の中で一番年齢が高いのが俺とアイだ。

 

 

「お兄ちゃん、綾人くんが僕のボール取った」

 

「見て見て……ワンチャン描いた」

 

「一緒に遊ぼ」

 

俺の周りに子供達が集まっている。俺は、一人ずつ対応をしてゆく。

 

俺は、小さい子達の面倒を見る事が多い。きっかけは俺が小2の時。赤ちゃんが泣いていた事があった。施設の大人は、その時手を離せなくて誰も対応が出来なかった。なので、俺があやしてオムツを変えてあげた。それが、施設の大人に伝わって偶に面倒を見る様に頼まれた。俺は、それを了承し偶に面倒を見る程度なら……と思っていたが、ここの施設は人手が足りず他の子の喧嘩の仲裁や遊び相手をしたりしていた。

 

それから、懐かれ今は、アイ以外の子供達からお兄ちゃんと呼ばれる様になっていた。こうしてお兄ちゃんと呼ばれると不思議な感覚がする。前世には妹がいたが俺は余りいい兄とは言えなかった。お兄ちゃんなんて呼ばれた事がない。まぁ……それに関しては俺が悪いのだが。今、こうして血のつながりのない赤の他人からお兄ちゃんと呼ばれ多分、慕われている。

 

「お兄ちゃんこっちこっち」

 

「今行くから少し待って」

 

 

 

 

 

 

それから二時間近くが経過した。鬼ごっこや隠れんぼなどで外で遊んだ。自分より年が下なので手加減はしたが、子供の体力は恐ろしい。まるで疲れを知らない。次から次へと新しい遊びをしようとする。元気いっぱいな事は、いい事だが元気過ぎるのも困りものだ。

 

え?お前も子供だろって………肉体はそうだが精神的に疲れるんだよ。体力はない方だし……最近、それを改善する為に昼休み走ったりしている。

 

「人気者だね天城くん」

 

遊び疲れた俺の目の前に立っていたのはアイだった。アイと関わり初めて数ヶ月が過ぎた。彼女はようやく俺の苗字を覚えた。きっかけは、俺達が正式に友達になった所だ。あれから、学校でも一緒にいる事が増えて苗字を間違える事が減っていき今に至る。少しだけだが、好感度は上がっているみたいだ。

 

「大人達は忙しそうだから仕方なくだよ」

 

「ふーん……でもさ、楽しそうだったよ?」

 

「………別に」

 

「ふふ……嘘だね」

 

「………楽しかったよ」

 

俺は素直に白状した。実際に楽しかったからだ。同学年とは遊ばない癖に自分より小さい子達と遊んだ。子供は、いい。無邪気で純粋でまだ穢れを知らない。大人になったら真っ黒だ。純粋な気持ちなんてのありはしない。何も考えずに遊んで、楽しみ一緒に過ごす。もう何十年としてこなかった事だ。力を抜いていたのは事実だ。だが、彼等の笑顔がとても眩しくてそれに釣られてもっと彼等の笑顔が見たくなりついはしゃいでしまった。

 

「天城くんはいいよね。皆んなから好かれて」

 

「!?」

 

彼女の瞳が黒い星に変わっていた。だが、直ぐに元の白星に戻る。あの黒い星は、【推しの子】と言う作品で重要な要素の一つだ。白い星は、スター性や精彩を表している。逆に黒い瞳は、復讐心、深い悲しみなどの負の感情の象徴とも言える。アクアは復讐心。ルビーは大切な人を失った時の深い悲しみで黒い星が宿った。何故、黒い星が宿ったかはわからない。

 

「私には無理だなぁ……皆んなから好かれるの」

 

何処か投げやりで諦めている様な感じが漂っていた。まだ、幼いのに彼女の心の闇は俺が思っていたよりも深い物だと理解した……いやさせられた。

 

「それは違うよ」

 

「え?」

 

星野アイは俺の推しだ。例え本人だとしても推しを否定されるのは我慢ならない。彼女は、皆んなから愛された。それは、その愛は偽物だったかもしれない。だが、皆が愛して彼女の死を悲しんだ。ちゃんと皆んなから好かれていた……だから、俺は否定する。彼女のその言葉を。

 

「断言する。近い将来、星野さんは皆んなから好かれるよ」

 

「何を言ってるの?」

 

彼の言葉にピンときてない様子。それもそのはず、これはそう遠くない未来の話だ。現時点で世界で唯一彼しか知らない未来。

 

「それに、俺は沢山の人に好かれるより星野さんに好かれたいな」

 

「え?」

 

星野アイ本日二度目の困惑。

 

「……なにそれ。変なの」

 

彼女は、そう言う。彼の言葉をどう受け取ったのかはわからない。けれど、さっきまでの投げやりな雰囲気は少しだけ薄れていた。

 

「これは、嘘じゃないよ」

 

「そっか」

 

彼女は俺の顔をジッと見ていた。まるで嘘かどうか確かめる様に。彼女は、嘘に敏感だ。アイドルになった後にそれがさらに精度が上がるが、今はそこまでないだろうが何となくでわかるだろう。今の彼女にとって嘘は自分の身を守る為の物であるのだから。

 

「天城くんって偶に変なことを言うよね」

 

「そうだね」

 

「自覚あるんだ?」

 

「あるよ」

 

自分でも何故、こんな事を言ったのかわからない。でも、この言葉には嘘はない。ただ、投げやりの彼女を見てつい言葉が漏れてしまった。

 

「……天城くんさ」

 

「ん?」

 

「そういうこと、他の子にも言ってるの?」

 

「言ってないよ」

 

「ふーん……」

 

彼女は少しだけ視線を逸らす。もしかして、引かれたか?いきなり、こんな事言ったのだから。引かれてもおかしくはない。久しぶりにドキドキしている。

 

「なら……ちょっとだけ、ずるい」

 

「何が?」

 

「別に」

 

そう言ってアイはくるりと背中を向けた。夕方の風が紫色の髪を揺らす。数歩歩いたところで、彼女はふと立ち止まった。

 

「ねえ、天城くん」

 

「ん?」

 

振り返った彼女は、いつもの太陽みたいな笑顔を浮かべている。でもその笑顔は、さっきまでよりほんの少しだけ柔らかかった。

 

「私に好かれるの、大変だよ?」

 

「そうかな?」

 

「うん。だって私、めんどくさいから」

 

「それでもいいよ」

 

めんどくさいだなんてとんでもない。俺は、彼女の事を知っている。何でもとは言わない知っている事だけだけだ。間髪入れずに答えると、アイは一瞬だけ目を丸くしていた。

 

「……ほんと、変な人」

 

くすっと笑った。どうやら、引かれてはないみたいだ。それに安堵する。アイの方に視線を向けると、彼女の瞳の白い星がいつも以上に輝いている様に見えた。

 

 

 

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