こんばんは、作者のディバルです。3章「愛と歪み」は50話まで続きます。現在は、4章を書き始めてます。これからも順次更新していくのでお楽しみに。
「今日はありがとうございました」
昼ご飯を食べた後に演技の練習をしたり話したりしていると、あっという間に時間が過ぎ去っていた。時刻は18時。輝が帰る時間帯になっていた。
「本当に送っていかなくていいか?」
彼は自転車で来ていた。まだ明るいとはいえ、少し心配だ。近くまで送っていくと言ったが遠慮された。しつこいかもしれないが念のために聞いておく。
「……はい、大丈夫です」
「ここまでしてもらってるのに、これ以上は……さすがに甘えすぎなので」
元々、アイが原因でここに来てるんだよなぁ………。
「それに、まだ明るいですし……ちゃんと帰れます」
「……今日は、本当にありがとうございました」
自転車で帰っていく彼を見送った。楽しかったな……人を招いて一緒に食事をして共に話したことが。あいつら元気かな?前世の友達のことを考えていた。あの頃に戻ったような、そんな感じがしたから。
「さて……アイ。送っていくよ」
「え?……なに言ってんの。私、今日ここ泊まるけど?」
「最初からそのつもりだったし」
「…………え?」
(何それ、聞いてないんだけど?泊まる……ここに?は……?)
脳の処理が追いついていなかった。事前に知らされていたわけではなく、今まさに初めて言われた。彼女はリュックを持ってきていた。最初、彼は「なぜリュック?」と思っていたが、今思えば泊まりの伏線だったのだろう。
「……アイさんや、もう少し危機感を持ちましょう。普通、男の家に泊まるのは危ないぞ」
「え、彼方だよ?今さら危ないとかないでしょ」
……俺への信頼デカくない?それにしても……この子唐突すぎない?俺の家で演技の練習をするから始まり、互いの呼び方の見直し。そして家に泊まる。今日、アイに振り回されすぎなのでは?……今、寝室見られるのまずいんだよな。さすがにあれは見せられないし。ベッドも一つしかないんだぞ?……うん。アイには悪いが今回は断ろう。
「……ねぇ、彼方。お願い、いいでしょ?」
「……わかった。その代わり寝室には入らないで。少し散らかっているから」
はい……ダメでした。今回も断れませんでした。なぜ断れない。寝室のあれは後で片付けよう。そうすれば大丈夫だろう。ベッドに関しては、俺はソファーに寝よう。一緒に寝るわけにもいかないし。アイをソファーに寝かせるのは論外だ。
「やった、ありがと彼方」
「ちゃんと約束守るから、安心して」
……アイさん……なんでそんな企むような顔をしてるんですか?フリじゃないからね?多分……大丈夫と思いたい。
「とりあえず晩飯の準備するから。お昼食べてからそんなに動いてないし、軽くでいい?」
「うん、軽めでいいよ」
「彼方のならなんでも食べたいし」
とりあえず、夜ご飯の準備をしよう。何もないといいけど。本当に心臓に悪いな。
……なんかさ、彼方ってずるくない?一人暮らしで、部屋もちゃんとしててさ。料理もできるとか、ちょっと反則でしょ。施設の時から思ってたけど……ほんと、大抵のことできちゃうよね。……私の好きな人、なんでもできすぎなんだけど?
ん、なに作ってるのかなって思って見たら。あ、魚だ。へぇ……魚料理なんだ。しかも味噌汁にサラダって……昼と違って、めっちゃヘルシーじゃん。
「もう少し待っていてね」
振り返った彼。エプロンをつけており、真ん中には可愛らしいクマのイラストが。
「……ちょっと待って、なにそれ」
「そのエプロン、可愛すぎない?」
「これ?安かったから買った。こいつにはお世話になっているよ」
軽く動いて見せてくる。買った理由が安かったからと。そのくせに似合っている。その後、彼は「座って待っていて」と軽く頭を撫でて料理に戻った。彼女は座って、彼が作るご飯を待つ。
(……ほんとさ、彼方って、ああいうのサラッとやるよね。)
撫でられた部分に触れながら、さっきの彼の手の感触を思い出していた。
(……彼方の手やさしかったな。あったかいし……なんか、落ち着く。)
振り返っていると彼が木製のトレーを持って貴女の前に。そして、そのトレーが貴女の前に置かれる。鮭、ミニサラダ、味噌汁。そして白米。
……白米かぁ。味は嫌いじゃないんだけどさ……あのガリってなる感じ、ちょっと苦手なんだよね。……まぁ、出されたら普通に食べるけど。
普通の人ならそんな心配をしない。しかし、アイがこう思っているのは彼女の家庭環境にあった。母親が投げたグラスの破片が白米の中に入った。その時の記憶がよぎり、白米に対して苦手意識を持っていた。
「大丈夫……何も入ってない。普通のご飯だよ」
自分のトレーを持ってきて貴女の正面に座る彼。貴女の考えていたことを言い当ててくる。彼女は、少しだけ驚いた顔をしてから、ふっと笑ってごまかした。
「……ほんと、なんで分かるの?」
箸を手に取りながら、少しだけ視線を逸らす。
「別にさ、怖いとかじゃないんだよ?ただちょっと……昔のこと、思い出すだけ」
軽く肩をすくめてから、また彼の方を見る。少しだけ意地悪っぽく、でもどこか甘えるような笑みで。
「でもさ、彼方が言うなら信じる。だって……」
一口だけ白米を口に運んで、もぐもぐと噛む。問題ないことを確認していたら、安心したように小さく息を吐く。
「……うん、大丈夫。ちゃんと美味しい」
……前はさ、ちょっと覚悟して食べてたのに。彼方のご飯なら……そういうの、いらないかも。だって、私のために作ってくれたんでしょ。……それだけで、なんか嬉しいんだよね。
「よかった……アイは白米が苦手だってわかってはいたけど。日本の主食は米だから。」
「苦手意識を少しでも克服できたらいいなって思って」
そんなことを言いながら、彼も自身が作った物を食べていた。
「……ふーん、そこまで考えてくれてたんだ」
「……ほんと、そういうとこずるい」
「……ちゃんと食べるよ。彼方が作った物なら」
2人は、そのまま食べ進めていく。最初は少し警戒していたアイだったが、そのままモグモグと食べておかわりまでしていた。
白米って、こんな美味しかったっけ?今までちょっと苦手だったのに……彼方のなら普通に食べられる。これなら、いくらでもいけそう。……なんかさ、私より女子力高くない?……ちょっと悔しい。
「ねぇ彼方、ほんとなんでもできるよね。」
彼女の言葉で彼の動きが止まった。そして、悲しそうな目をしながら答えを返す。
「何でもはできないよ……できることだけ。」
「俺にもできないことはあるよ……何でもできていたら……さりなちゃんを救えていたかもしれないけどね。」
そう言いながら自虐気味に笑っていた。決して彼は万能ではない。彼の手にも限りがある。たとえそれが未来を知っている者だとしても。
「……なにそれ。」
「急に、そんな顔しないでよ。」
……さりなちゃんがいなくなってから、彼方ちょっと変わったよね。たまにさ、すごい暗い顔するし。私もまだ全然立ち直れてないけど。彼方はたぶん……ずっと引きずるんだろうな。
「……できないことがあるの、当たり前じゃん。」
「……でもさ、私はそれでもいいよ」
「彼方が彼方でいてくれれば、それでいい」
そう言うと、暗かった顔が少しだけ和らいだ。
「ありがとう……」
彼方、静かに言うんだよね、そういうの。好きになった人に、あんな顔してほしくないんだけどな。ま、いいや。あとでちゃんと戻すし。ご飯を食べ終わって、2人でお皿洗い。最初は彼方が「いい」って言ってたけど、そこは押し切った。
「彼方、私今日どこで寝るの?」
「そこの寝室だよ」
あれ、ここ見てなかったな。……ま、いっか。私はドアに手をかける。……なんか忘れてる気もするけど。
「ちょっと……待ってアイ。その部屋は!!」
声をかけたのが遅かった。ドアが開き、彼女が部屋に入る。
「え?」
部屋を見た彼女は驚きの声を上げた。なぜなら部屋の一角に、アイのグッズが大量に飾ってあったのだから。
皆様の感想や評価が作者のやる気に繋がっています。よければ評価と感想をお願いします。