一番星は消えない   作:ディバル

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041 恋する乙女

 

 

 

 

遅かった。気が緩んでいた……まさか、アイに見られるなんて。寝室を見せたくなかった理由。それは、アイのグッズが大量に飾ってあるからだ。俺は、2つの通帳を持っている。1つはアイを救うための通帳。もう1つが生活用の通帳だ。生活費から少し削って、3年間アイのグッズを買い続けていた。

 

最近、その量が多くなり、コレクションケースを買って飾っていた。まさか、その直後にアイや煇が訪れるとは思わなかった。アイがお風呂に入っている間に片付けようと思っていたが、どうやら遅かったみたいで。

アイがそのグッズのケースを見て固まっている。ケースにはアクスタ、人形、CDなどが綺麗に並べてある。

 

「……なにこれ」

 

「……全部、私とか、やば」

 

ケースは4段に分けられているが、その4段ほぼすべてがアイのグッズである。時間をかけて貯めたとはいえど、あまりにもガチである。

 

「……彼方さ、そういうとこほんと変だよね」

 

「……でもさ。ちょっと嬉しい」

 

膝から崩れ落ちた。クソ……こんな反応になるから見られたくなかったのに。でも、飾りたいじゃん。オタクなら……ケースいっぱいにグッズを。その本能を抑えきれなかった。

 

「……入らないでって言ったのに」

 

「……というより、そんな必死に隠すくらいなら、最初から見せたらいいのに。……悪くないし。」

 

無理ですやん。推しのグッズをガチで集めている程度なら珍しくないけど……その推しが友達とか言えないやん。

 

「シンプルに恥ずかしかったから」

 

「……ふーん、恥ずかしいんだ。自分で集めといて?」

 

それは、ごもっともだけどさぁ……。

 

「……変なの。……でもさ」

 

「そういうの、ちゃんと好きでいてくれてる感じして。……私、これ好きだよ」

 

ギリギリで助かった。でも、これからグッズを買うのは減らそう。ケースももう満タンで入らないから。

 

「とりあえずお風呂入ってきな。着替えは持ってきているよね?」

 

「あるある、ちゃんと持ってきてる」

 

よかった。さすがに持ってきていたか。持ってきてないって言われたら買いに行くハメになっていたから。アイは、お風呂場に向かって行った。さて……ベッドにコロコロでもかけて綺麗にしておこう。

 

「ふぅ……上がったー」

 

「……彼方、タオルどこー?」

 

「……あ、あった」

 

「……なんか、落ち着くねここ」

 

お風呂から上がってきたアイ。まるで、自分の家のようにソファーでくつろいでいた。

 

「アイ……髪の毛乾かさないの?」

 

そんなくつろいでいるアイの様子を見ていると、1つ気づいたことがある。髪の毛がまだ湿っており、濡れていた。思わず聞いてしまう。

 

「んー……あとで乾かす」

 

「ちょっとくらい大丈夫でしょ?」

 

これ……絶対に乾かさないやつだろ。

 

「ダメだ……綺麗な髪の毛をしてるんだから、もったいない」

 

ドライヤーを取り出し、コードを入れて電源を入れる。温風が出てきた。後ろに立ち、そのまま髪の毛を乾かし始める。ゆっくりと、そして熱くないように丁寧に。施設の時から小さい子の髪の毛を乾かしていた。最初はうまくできなかったが、今じゃ慣れたもんよ。

 

「……勝手にやるとか、ほんとずるい」

 

「……まぁ、別にいいけど」

 

「……ちゃんと優しいし、下手じゃないし。……そういうとこ、ほんと反則」

 

頬をぷくーっと膨らませながら、大人しくしていた。乾かし始めてから約10分。乾かした後に、くしで丁寧に髪をとかす。うん……我ながら完璧だ。

 

「はい……終了」

 

乾かす作業が終わる。ロングヘアーなので乾かすのに少し時間がかかった。髪は女の子にとって命そのもの。しっかりとケアしないと。

 

「……ありがと」

 

「……こういうの、さらっとやるよね」

 

「まぁ……慣れてるから。大事にしなよ……綺麗な髪してるんだからさ」

 

「……うん、わかってる」

 

「彼方に言われると、ちゃんとしよって思う。ありがとね」

 

立ち上がり、風呂場に向かう。あとは風呂に入って寝るだけだ。最初は泊まると聞いて驚いたが、よくよく考えたら施設で一緒に暮らしていた。部屋は別々だったが、共に過ごしていた。今思えば過剰に反応していたな。

 

しかし、彼はこの時、思いもしなかった。この後に、大きな変化が訪れることになるとは。

 

お風呂から上がり、アイと喋っていると時刻は23時を迎えていた。そろそろ寝る時間だ。明日は2人とも仕事がある。

 

「じゃあ……アイは寝室で寝て」

 

「……え、彼方は?まさか床とか言わないよね?」

 

「……一緒でいいじゃん」

 

ちょっとアイさん?……危機感なさすぎない?

 

「俺は、ソファーで寝るから大丈夫だよ」

 

「なにそれ、普通にダメでしょ……風邪ひくよ?」

 

おっと……さっきまでなんだかんだ余裕だと思っていたのにこれだよ。これ、ダメじゃん……一緒のベッドに寝るのは。

 

「アイ……簡単にそんなこと言ったらダメだよ」

 

「……なにがダメなの?彼方だから言ってるんだけど」

 

なんか怒ってるなぁ。そんなにおかしいこと言った覚えはないけど。それに、一緒に寝るのはダメだ。これだけは譲れない。今度こそしっかりと断らないといけない。

 

「男と一緒に寝るのはダメだよ。それこそ、好きな人じゃないと」

 

その瞬間、彼女の視線が鋭くなった。そして、彼の言葉が逆に彼女に覚悟を決めさせてしまった。

 

「じゃあさ。……彼方が相手なら、いいってことだよね」

 

言っている意味がわからず、彼は首を傾げた。どうやら、ここまで言ってもまだ理解していないみたいだ。彼女が思ったよりも彼は鈍感だった。

 

「……ほんと、鈍いよね。……だからさ」

 

「……好きって言ってるの、彼方のこと」

 

 

 

 

 

 

……あーあ、言っちゃった。ほんとは、もうちょっと後にするつもりだったのに。……でもさ、彼方が鈍いからでしょ?ここまで気づかないとは思わなかったんだけど。

 

「………それってlikeじゃなくloveの方……?」

 

ようやく口を開いたかと思えば、言った内容がこれであった。顔は無表情のままで、固まった時の反応と同じだった。数年間、一緒にいたアイにとって、その表情が動揺しているものだとすぐに理解した。

 

「……そうだよ」

 

「……そっちの意味で言ってる。だから、ちゃんと受け取って」

 

ほんと鈍い。ここまで言わせるとかさ。で、そういう時、顔固まるの昔からだよね。……でも、それが彼方らしいんだよね。

 

しかし、今回はそのいつも通りの反応ではなかった。貴女の気持ちをようやく理解した彼の顔は、少し赤く染まっており、貴女から目を逸らしていた。

 

「………マジかぁ……」

 

ソファーに座り込み、顔を両手で隠していた。彼にとって、自分がアイに異性として好かれているとは思いもしていなかった。だから、感情を隠す余裕すら与えられず、今に至っていた。

 

「……なにそれ。逃げないでよ?」

 

「……ちゃんと、こっち見て話して」

 

彼の顔を両手で包み込み、強制的にこちらを向かせる。真っ赤で、今までに見たことがない表情をしていた。

 

「……ほら、こっち見て」

 

「……それ、私のせいなんだからさ。目、逸らさないでよ」

 

「………待って、本当に待って。今、アイの顔見れない」

 

珍しく彼が慌てている。いつも見てきた彼の姿は、同じ年齢なのにどこか遠い存在で……大抵のことはできる、掴みどころのない存在。しかし、今では年相応の反応を見せており、それがギャップとして、アイのハートに突き刺さった。

 

「……かわいい」

 

「へ?」

 

「……ずるいなぁ、そういう顔」

 

普段見せないその姿に、ドキドキしていた。アイは、そんな彼をじっくり見つめて観察を続ける。

 

「私、彼方のこと好きだよ。だからさ……一緒に寝ても、いいでしょ?」

 

「…………はい」

 

もう、彼に反論する余地はなかった。恋する乙女は強い。こうして、2人は一緒に寝ることになった。まだ……夜は明けることはない。むしろ、ここからが本番である。

 

 

 







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