一番星は消えない   作:ディバル

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042 恋と目的の狭間で

 

 

 

 

……俺の名前は、天城彼方。前世で死に、次に目を覚ましたら【推しの子】の世界に転生していた。アイと出会い、彼女を救うことを目標にしてこの15年間生きてきた。そして、アイから告白された。

 

そんな今の俺の状況は、アイと一緒のベッドに寝ております。……なぜ、わざわざ振り返っているのか……それは、脳を回していないと落ち着かないからだ。

 

「……あったかいね」

 

「そうだね……」

 

正面からアイに抱きしめられて、抱き枕みたいな状態にされている。その、近い。それと、いろいろと当たっている。心臓がめちゃくちゃ鼓動していた。……こんなにドキドキするのは、いつぶりだ?

 

今の季節は6月の上旬。まだ、暑くなる前の時期だ。俺がいた前世の現代なら、もう暑くてたまらない時期だ。そんな時期なはずだが、とても暑い。

 

「ねぇ、彼方」

 

「……そっちからも、ぎゅーして?」

 

……そんな言葉が彼の耳に届いた。彼の体が硬直した。しかし、そんな彼を彼女は逃してはくれない。じっと見つめていた。まるで、「早く」と催促しているみたいに。その視線に負けて彼は、ガッチガチの体で優しくそっと抱きしめた。

 

(……ほら、ちゃんとできるじゃん。)

 

「……ね、ぎこちない」

 

「でも、それでいいよ。ちゃんと伝わってるし」

 

(無理無理……これダメだ。)

 

彼の心臓がさらに早くなる。抱きしめ合っていることで、その心臓の高鳴りはアイに伝わっていく。

 

「……すごいね、ドキドキしてる。……私のせいでしょ?」

 

「そうだよ……ずっと俺は、アイのことを推しや友達として見ていた」

 

「……いきなり異性として好きと言われたら、こうもなるよ」

 

 

抱きしめながら答える。暑くてたまらない。体の体温が上がり続けているな、これ。……にしても、これ……煇とくっ付けるのはもう無理なのでは?

 

彼が考えていたサブプラン。それが完全に崩壊した。数刻前は、互いを名前で呼び、いい調子だと思っていたが、それが全くの的外れな考えだとは、その時は思いもしなかっただろう。

 

「……ふーん、そっか」

 

「……じゃあさ。これからは、ちゃんと“そういうふうに”見てよね」 

 

「……わかった」

 

こう宣言されてしまっては、彼も意識しないというのは無理な話で。そのまま、互いを抱きしめ続ける。2人とも妙に目が覚めており、なかなか寝付けないでいた。

 

「ねぇ、彼方。……さっきの、まだ返事もらってないよね?」

 

……サラッと流されていたが、まだ告白の返事を返していない。

 

「……考えさせてくれ。俺には、やることがある。それがひと段落すれば、ちゃんと答えを返すよ」

 

それは、一種の逃げとも捉えられる。しかし、彼には果たすべき目標がある。それを放棄することはできない。星野アイという人間の今後の未来がかかっている大事な時期に、今すぐに返答はできなかった。

 

「ねぇ、それってさ。」

 

「……前に言ってた、芸能界で頑張る理由と関係あるの?」

 

それは、数年前に彼と彼女が喧嘩をした時のこと。1つ約束をした。いつか自分がなぜ、ここまで頑張っているかの理由を自分から話すと。

 

「そうだね……今が一番大事な時かもしれない」

 

「1ヶ月くれないか?その時までには、ちゃんとアイの告白に対して答えを出す」

 

自分で言っておいて最低だな。俺を好きでいてくれる人に対して、また……待てだなんて。

 

「……1ヶ月ね。……いいよ、待つ」

 

「……ちゃんと、逃げずに帰ってきてよね」

 

ちゃんと……答えを出す。1ヶ月以内に。煇からの証言が欲しかったが、もういい。興信所の証拠は、十分に揃った。これで、愛梨を詰ませる。

 

「顔、ちょっと怖いよ。今はさ、私のことだけ見ててよ」

 

顔に出ていたのか。まだまだ、俺も未熟だ。隠しきれていると思っていたのに。やっぱり精神が肉体に引っ張られているのか?もう前世を含めると45年近く生きているんだけどな。

 

「悪かった。今は、アイだけを見るよ」

 

そう言うと、アイはニコッと満足そうに笑みを浮かべていた。

 

「うん、それでいい。こっち見て」

 

抱きしめる力は強くなる。それに合わせてアイをこちらに引き寄せる。これくらいならバチは当たらないだろう?抱き寄せると、アイの頬がほんの少しだけ赤く染まっていた。俺は、今どんな顔をしているのだろうか。きっとアイ以上に赤くなっているんだろうな。

 

 

 

 

 

……あ、引き寄せてくれた。あったかい。やっぱり彼方、こういうのずるい。体に包まれて、ふわっと安心する。いい匂いもしてきて、なんか落ち着く。今、すごい幸せ。……好きな人と一緒にいて、こうやって抱きしめられているなんてさ。……ほんと、反則だよね。

 

ほんとさ、1ヶ月待ってって、普通にひどいよね。他の子に言ったら、たぶん殴られてると思うし。でも、ちゃんと向き合ってくれたんだよね。それだけで、ちょっと嬉しいとかさ。ずるいなぁ、ほんと。……できればさ。ちゃんと「いいよ」って、言ってほしいな。

 

「……すぐに答えを出してあげられなくてごめん」

 

……あ、そういう顔するんだ。やっぱり、まだ隠してることあるんだろうなって思ってた。少しだけ申し訳なさそうな顔。前から、なんとなく気づいてた。でも、別にいいよ。無理に聞いたりしない。だってさ、約束してくれたから……いつか、ちゃんと話してくれるって。

 

「……謝らなくていいよ。ちゃんと考えてくれてるんでしょ?」

 

「……それなら、それでいいから」

 

私は、彼方のこと信じてるよ。だって、好きだから。彼方にならさ、そのうち言えるかも。ちゃんと、「愛してる」って。私、嘘つきだし、そういうの得意じゃないけど。この気持ちだけは、嘘じゃない。

 

でも、言うのは今じゃないよね?だから……。

 

「彼方……大好き」

 

今、彼女が言える最大限の気持ちを言葉に乗せていた。嘘から始まった少女は、成長し愛する対象を得た。そして、その思いをしっかりと伝えた。その結果はまだ、わからない。だが、確実に運命が変わりつつある。

 

(顔、赤い……かわいい。)

 

いつもはさ、カッコいいのに。こういう顔、初めて見たかも……なんか、いいな。これ。もうちょっと見たい。そっと彼方の頭に手を回して、ゆっくり引き寄せる。

 

「……ほら、そのまま」

 

胸元に顔を預けさせて、優しく抱き込んであげるアイ。

 

(……ほんと、かわいい。)

 

「アイさん?……ちょっと……これはダメなんじゃないですか?」

 

 

あ、また赤くなってる。さっきまで余裕ぶってたくせに。こういうとこ、昔からほんと分かりやすいよね。いつもの、ちょっとした仕返し。……私ばっかりドキドキしてるの、ずるいし。これからはさ。……ちゃんと、私のことも意識してよね?

 

「ん?……聞こえない♪」

 

必死に訴えかける彼を無視して、そのまま満足するまで優しく撫で続けた。完全に主導権を握った。数分もすれば、彼は完全に黙ってしまった。まさに、アイの独壇場。

 

しばらくすると、彼の手から力が抜けた。目を閉じており、寝てしまった。いろいろあったので、その疲れたこの数十分間で、感情の昂りと負荷がかかったことで、一気に睡魔がやって来たみたいで。

 

「……寝ちゃったんだ」

 

「……私も、そろそろ寝よっかな」

 

「でも……最後に」

 

悪戯げに笑っていた。そして、彼の頬に顔を近づけ………

 

「んっ……」

 

そっと……頬にキスをした。彼が起きていたら、さらにテンパっていたことだろう。しかし、そんな彼は、今は夢の中だ。

 

「おやすみ……彼方」

 

アイも瞳を閉じる。そのうち、意識がゆっくりと落ちてゆく。2人は眠りについた。

 

本日の勝敗……星野アイの勝利。

 







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