一番星は消えない   作:ディバル

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043 執着

 

 

 

 

今日も来たのね。彼らを見ながらそんなことを思っていた。私の視線の先にいるのは、輝。私が愛している子だ。愛して……愛して……愛しているのに、どうして……その子たちばかりと話しているの?

 

「輝……ここの演技の解釈なんだけど」

 

「どこですか?」

 

天城彼方。最近、よくテレビで見る顔。どことなく輝に似ていて、初めは親近感を感じていた。でも……話していて……なんというか、とても気味が悪かった。礼儀正しく、私に演技について意見を求めてくる。意欲的で、こういう子が伸びるだろうな……とそう思っている。でも、だからこそ……気色が悪い。

 

彼と何度か話したが、輝の話が必ず出てくる。最初は偶然だろうと思っていたけど……数回話して、わざとだと気づかされた。一度、なんで彼のことを話に出すのか聞いてみたけど………。

 

『愛梨さんは神木君と仲が良さそうだったので、彼のことをよく知っているだろうと思いまして』

 

私と輝が2人の前で話しているところは、数回程度しか見ていないのに。さすがに私たちの関係まではわかっていないだろうけど……それが不気味だった。いろいろ聞いても、のらりくらりとかわされてしまう。話しかけられたら話すけど……私からは積極的には話さない。

 

彼についてはまだいい。でも……アイ。確かB小町だったかしら?アイドルをしており、天城彼方と同じ事務所。この子が……目の上のたんこぶ。

 

「ねぇ、輝。これってさ、どんな気持ちだと思う?」

 

「えっと……これは」

 

近い……それと彼のときも思っていたけど……名前呼び。いつの間にそんなに距離が近くなったの?どうして……彼は、私の「もの」なのに……。どうして……笑っているの?……私にはそんな満面の笑みを見せたことなかったでしょ?……どうして?

 

姫川愛梨の思いは、大きくなる。歪に形作られたその思い。彼女が抱く感情は嫉妬と憤怒。その2つの感情に身を焦がれ、どろどろとした怨念に近い執着が湧いて出ていた。

 

私だけが……男に搾取されなきゃいけないの?……ふふ……でも、大丈夫……輝は絶対に逃げられない。だって……大輝はあなたの子供なのよ。

 

もう壊れかけな彼女。その精神の支柱を支えているのは自身の子供だった。姫川大輝……表向きは上原清十郎の子供。しかし、本来の父親は……神木煇。

 

「輝……少しいいかしら?」

 

2人が帰った後にそう声をかけてくる愛梨。その目の奥は暗く濁りきっていた。まるで、深淵のように……。

 

「愛梨さん………僕は、あなたとの関係をもう……終わりにしたいです」

 

震えながら、そう告げた。彼も2人と関わって変わろうとしていた。今まで「どうせ見てくれないから」と諦めていた親に向き合おうとしている。向き合う前に、目の前にいる彼女との関係を完全に断つ。そう心に決めて決別の意思を見せる。

 

「ふふ……そう。あなたはあの子を選ぶの………」

 

愛する男からの決別。そんな中、彼女は笑っていた。まるで、今の状況になるとわかっていたような反応。愛梨視点からすれば、自分ではなくアイを選んだと思い込んでいる。

 

「あの子?」

 

神木からすれば、その言葉の意味がわからないでいた。でも、それは些細な問題で本質ではない。

 

「輝……忘れないでね……大輝はあなたの子供なのよ」

 

「ねぇ……輝。あなたは、一生私から逃げられない……わかる?」

 

そのとき、愛梨が近づき耳元で囁く。体をそっと抱きしめながら。その言葉が彼の心に大きなヒビを入れた。それでも、お構いなしに彼女の言葉は続く。

 

「どうせ、いつか私の元に戻ってくる」

 

「空っぽな煇を本当の意味で愛してくれる人は……私だけよ」

 

容赦ない追撃が与えられた。その言葉は、彼自身に響いた。「愛」それは、ずっと彼が求めていたもの。自身が空っぽであると深層心理ではわかっていた。その現実を突きつけられ……心が悲鳴を上げる。

 

「………!!」

 

力任せに彼女を押して、無理やり離れさせる。愛梨は押されたことで尻餅をついた。いつもの彼なら謝罪する。しかし、そんな余裕はどこにもなく、その場を逃げるように去っていく。

 

「大丈夫……絶対……あの子は戻ってくる。」

 

愛梨は追いかけなかった。確信しているのだ。一度離れても再び自分を求めると。数年間、続いてきたこの関係に自信を持っているのだから。

 

 

 

 

 

 

……雨が降っている。傘はさしていない。気づいたら、ただ歩いていた。どこへ向かっているのかも、わからないまま。愛梨さんとの関係は、ずっと曖昧なまま続いていた。間違っているって、わかっていたのに……やめられなかった。さっきの言葉は本当だ。嘘じゃない。……ってことは。大輝くんは……僕の……。

 

「……っ、は……」

 

息が詰まる。気持ち悪い。現実が一気に押し寄せてくる。無理だ。抱えられない。こんなの、1人で処理できるわけがない。

 

「……誰かに、話さないと……」

 

声が震える。足も止まらない。

 

「……どうすればいいんだよ……」

 

頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも歩き続けていた。歩き続けてたどり着いた場所……そこは、天城彼方の家の前だった。彼自身もなぜここに来たのかわかっていない。でも、気づいたときにはインターホンを押していた。

 

彼方は、一瞬だけ驚いた顔をした。けど、それもすぐに消えて、いつものように笑った。何もなかったみたいに、自然に。

 

「風呂入ってこい……風邪ひくぞ」

 

そのまま、軽く押されるように風呂場に入れられる。……さっきまでの気持ち悪さが、少しだけ和らいでいた。たぶん、気づいてる。何かあったことくらい。でも……何も聞かない。それが、逆に優しかった。

 

「……はぁ」

 

シャワーを浴びながら、ぼんやり考える。話さないと無理だと思った。誰かに聞いてもらわないと、どうにかなりそうだったのに。……いざとなると、言葉が出てこない。喉の奥で、全部止まってる。

 

「……言っても、いいのかな」

 

小さく呟いた声は、水音に紛れて消えた。こんなこと、口にしていいのか。答えは出ないまま、ただシャワーを浴び続けていた。

 

 

 

 

「風呂入ってきたみたいだね……ほら、軽くでいいから食べな」

 

目の前に置かれたのはおにぎりだった。なんの変哲もない。それこそ、どこにでもあるようなおにぎり。

 

「……ありがとうございます」

 

おにぎりを食べる。中にはシャケが入っていた。本当に変哲もない……そこら辺のコンビニで売ってあるようなものだ。でも……

 

「……美味しい……」

 

頬から涙が伝った。さっきまでぐちゃぐちゃだった頭と心が、ゆっくりと正常に戻っていく。

 

「よかった……」

 

ほっとしたような顔を浮かべながら、食べている様子を見ていた。

 

「……何があったか聞かないんですか?」

 

「逆に聞くけど……聞いてほしいの?」

 

質問したのは彼の方なのに、逆に質問が返ってきた。

 

「そういうときは、大抵……聞いてほしいんだよ……違う?」

 

「…………」

 

反論できなかった。だって……聞いてほしいのは事実だから。まだそんなに喋ってないのに……まるで全て見透かされているみたい。

 

「ゆっくりでいい……途中で詰まってもいい……だから、聞かせてくれない?」

 

頭に手を置かれて優しく撫でられる。我慢してきたものが、さらに涙となって溢れてしまった。

 

「安心して……俺は、煇の味方だよ」

 

その言葉が、神木輝を縛っていた心の鎖を完全に破壊した。洪水のように口から溢れ出す言葉の数々。それを彼方は、真正面から受け止める。言葉に詰まったら、背中をさすってくれながら、ゆっくりと話を聞いてくれる。

 

 

 

 

「なるほど……こんなことしか言えないけど、辛かったね」

 

全部、話した。愛梨さんのことも、大輝くんのことも……何も残さず。

 

彼方は最後まで遮らずに聞いてくれていた。それから、しばらく何も言わずに、ただ頭を撫でてくる。……不思議と嫌じゃなかった。むしろ、少しだけ楽になっていくのがわかる。……兄さんって、こんな感じなのかな。ぽつりと、そんなことを考えていた。よく知らないはずなのに……なぜか、少しだけ、そう思えた。

 

「輝……この状況、何とかしたい?」

 

そんな言葉が耳に届いた。

 

「……したいです。……でも、どうしたらいいのか、わからない」

 

「……間違ってるのは、わかってるのに……」

 

「……全部、ぐちゃぐちゃなんです」

 

その言葉を待っていたと言わんばかりに、彼は笑った。

 

「任せろ……」

 

そう宣言した……。まだ何も具体的なことは言っていないのに、彼は一気に安堵する。ここから始まる……彼らの反撃の時間が。

 

 

 

 






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