一番星は消えない   作:ディバル

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044 反撃の狼煙

 

 

 

 

「任せろ……それは、ありがたいですけど、どうするんですか?」

 

それは、ごもっともな質問である。秘密を共有できる相手ができたとはいえど、2人はまだ中学生だ。できることには限りがあり過ぎる。しかし、それは……ただの中学生ならの話だ。

 

「簡単だ……姫川愛梨を社会的に終わらせる。その証拠は既にある」

 

そう言って引き出しからある封筒を取り出し、その中身をテーブルにぶちまけた。そこには、貴方と姫川愛梨とのホテルに入っていく写真や、青ざめながらキスを受けているシーンもあった。

 

「!?……これって……」

 

写真の数々。それは覚えのあるものばかりで、体が固まる。 

 

「まずは、謝罪から輝と愛梨さんの関係は知っていた。知っていて彼女を泳がせた。申し訳ない」

 

深々と頭を下げる彼。色んな情報が一気に流れ込み、しばらくの間、放心状態になっていた。ついさっき、自分に子供がいたことを知り、それを彼に吐き出し、そして今度は目の前に反撃のための証拠が揃っている。

 

「わかっていて……俺は、止めなかった。決定的な証拠を集めるために……君は、俺を恨む権利がある」

 

「……どうして、止めてくれなかったんですか……」 

 

「知っていたのに……全部……」

 

何を思って……今、僕の前にいるんですか。どんな気持ちで……僕と向き合っているんですか。わざわざ、こんな……恨まれるようなことまで言って……分からない……何も……理解できない。

 

「……でも、助けようとしてくれてるのは……分かります……」

 

「……ありがとうございます……」 

 

彼方は、ずっと頭を下げ続けていた。

 

「……言い訳になるが、証拠が必要だった。確実に姫川愛梨という人間を君から離すためには……でも、俺は輝……お前のことを今でも大切な友達だと思っている」

 

最初は、打算で話しかけた。それは間違いない。しかし、彼と過ごす内に、心の底から楽しいと感じていた。今世では初めての同性の友達。その関係がとても懐かしく……楽しみ、青春じみたものを感じ取っていた。紛れもない本心を伝えていた。

 

「……友達、ですか」

 

「そんな風に、思ってくれてたんですね」 

 

「……嬉しいです……でも、少しだけ……遅いですよ」

 

顔を上げる。その顔は、いつもと違い真剣だった。そして、貴方の目を見ながら……。

 

「そうだな……俺は、いつも気づくのが遅い。最近、それをよく感じているよ」

 

「だから……今ここで言う。輝……改めて、俺と友達になってくれ」

 

どうして、この人は……こんなにも真っ直ぐに言ってくるんだろう……。いつもは、全部見透かしてるみたいで……何でも知ってる、大人みたいなのに……。愛梨さんみたいに……汚くない。大人っぽいけど……でも……。

 

もしかしたら……本当は……僕と、何も変わらないのかもしれない。今も少しだけ手が震えている……汗も出てるし、緊張もしている。僕は、この人を大きく見過ぎていたのかもしれない。

 

「ずるいです……そんな言い方……」

 

「断れるわけ、ないじゃないですか……」

 

「……僕でいいなら……よろしく、お願いします……」

 

2人は握手をする。まだ何も始まってすらいないのに、笑っていた。

 

「さあ……友よ。反撃の時間だ。君にも動いてもらう。一緒に乗り越えようか……この最悪の状況を」

 

「はい。……一緒に、乗り越えましょう。もう……逃げませんから」

 

 

 

 

 

翌日。

 

僕達は上原さんの所へと向かっていた。今日は、愛梨さんは仕事でいない。それにしても……大丈夫かな?彼方もだいぶ無茶なことをするよね。隣で歩く彼方を見ながら、そんなことを思っていた。 

 

「どうした?輝……急に呼び出して、何かあったか?」

 

指定した場所に、上原さんは既に来ていた。場所はファミリーレストラン。冷静に話をするために彼方が指定した場所だ。

 

「少し……大事な話が」

 

「そうか……で、そちらの方は?」 

 

上原がそう言いながら、もう1人を見る。彼にとって初めての人物。

 

「初めまして……上原清十郎さん。俺は、神崎蒼空と言います。輝君の遠縁の親戚です。以後、よろしくお願いします」

 

白い髪のウィッグを被り、ライトグレーのスーツを着て、付け髭をした天城彼方だった。

 

(大丈夫かな……これ?)

 

笑いかける彼方に対して、そんなことを思っている輝。興信所の時とは違う変装をしているが、バレたらアウトである。堂々と親戚と嘘をついている。でも、これは……彼の作戦でもあった。

 

 

 

 

前日。

 

「俺は、変装して上原さんの前に立つ」

 

「は?」

 

最初に言われたのがこれであった。煇は、間の抜けた声を出しながら目を見開き驚いていた。作戦の概要からではなく、変装の話から始まったのもそうだが、予想外の提案が出てきた。

 

「輝が上原さんに連絡して、ファミリーレストランに呼び出す。そこを話し合いの場とする」

 

「ちょっと……待ってください」

 

そのまま概要について話し始めたので、待ったをかけた。

 

「どうした?まだ……続きがあるんだけど?」

 

「変装って、本気ですか。バレたら、終わりですよ……?」

 

その言葉を聞いて、彼は笑った。

 

「安心しろ……興信所に依頼した時も変装はしたけど、バレなかった。姿、身長、肩幅、声質。全てを変える。騙し切ってやるさ」

 

また、さらっととんでもない情報を言いながら、真顔で言ってくる。煇は頭を抱えた。

 

「……さらっと言ってますけど……それ、普通じゃないです……」

 

「……本当に、この人……何者なんですか……」

 

「俺を普通だと思ってたのか……輝?」

 

やっぱり、分からない。さっきまで……僕が大きく見過ぎてただけかもって思ってたのに。普通に、この人……危ない人なんじゃ……?考え方が……全然、普通じゃない。

 

「場所の選出理由に関しては、冷静にさせるためだ」

 

感情の暴走を抑えられる。公共の場では、怒鳴る、暴れる、泣き喚くといった極端な行動を自制する心理が働く。主に「第三者の目」があることで冷静さを保たせる。その理由は、心中という選択肢を取らせないためだ。

 

冷静さを失った結果が、原作の心中ルートにつながっている。彼はそう考えて、あえて人目が多い場所を指定させた。

 

「そして、一番重要なのが、輝が愛梨さんとの関係をハッキリと断つことだ。こればかりは、君にしかできない……できるか?」

 

「……できます。やらないと……いけないので」

 

「もう……逃げたくないです」

 

その言葉を聞いて笑う。しかし、いつもの笑みではない……その笑みは、まるで悪魔のようだった。

 

「愛する男からの拒絶……どんな顔するんだろうな」

 

「俺の友達を傷つけたんだ……生半可な結末じゃダメだ」

 

あ……彼方。性格、悪いだけだ、これ。その顔、完全に悪役だ。なんか……こっちが悪いことしてるみたい。絶対、敵に回したくない……。

 

輝は、そんな悪魔のような笑みを浮かべる彼に対してそう思い、絶対に敵に回さないことを誓うのであった。

 

 

 

 

 

回想終了

 

「遠縁の親戚が、何故わざわざ煇と一緒に?」

 

「これから話す内容は、貴方にとって辛い話だ。だから、俺が割って入る必要がある……どうか彼を責めないで欲しい」

 

軽くアイコンタクトをして、彼が合図を出した。その合図と同時に、彼から渡された封筒を上原の前に出す。

 

「これを見て下さい」

 

「封筒?」

 

差し出された封筒に対して疑問を抱きつつ中身を開け、その中にある写真や資料を見る。上原の顔がどんどん青ざめていく。その顔に浮かんだのは絶望。自らが愛する者の裏切り。そして、その相手が目の前にいる煇であると知り、憤怒の表情を見せ始める。

 

「落ち着いて下さい。輝君は被害者なんです」

 

「被害者?これを見て、どこが被害者なんだ!」

 

2人の様子を不安そうに見ている輝。バレたら事態がややこしくなる。そんなリスクを抱えているのは彼方の方だが、輝自身の心拍数も上昇している。

 

情報量の多さ、妻の裏切り。上原の脳内は既にぐちゃぐちゃであった。封筒をテーブルに叩きつけて立ち上がる。かなり大きな声を出したので、周りの視線を集めてしまう。

 

「落ち着いて下さい。周りの人が見てますよ」

 

「…………」

 

周りの視線に気付いたのか、バツが悪そうな顔をしながら着席。場所の効果もあり、少しだけ冷静になる。 

 

「すみません……僕から話します」

 

「全部、本当です」

 

「……でも……僕からじゃ、ないんです」

 

それは、誰にも言えずにいた言葉。何が正しいのか分からない。姫川愛梨に「愛」を求めたのは事実だ。でも、手段だったはずのものが、いつの間にか拒まなくなっていた。

 

「……断れなくて……逃げられなくて。怖くて……何も言えなくて……」

 

「……気づいた時には……もう、戻れなくて」

 

「ずっと……やめたかったんです」

 

ようやく、本音を漏らした。上原は、そんな彼を見ながら頭を抱え、再び輝へ視線を向けた。その目は疑い。嘘じゃあないかそれを確かめるべくジッと見ながら何かを言おうとしたが言葉が詰まる。悩み始めて30分。ようやく口を開いた。

 

「……そう、か……」

 

「……お前が……そんな顔をするってことは……本当なんだな」

 

「……気づいてやれなかった。すまない……」

 

上原から憤怒の感情が消える。彼自身も同じ劇団の仲間として煇を見ていた。その中で過ごした時間もあり、嘘ではないと判断したみたいで。

 

「上原さん……貴方は被害者だ。このままで終わりたくありませんよね?」

 

落ち着いたところに、すっと入り込むように。輝のここでの役割は果たした。次は……天城彼方の番である。

 

 

 

 







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