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やはり輝を連れてきて正解だった。彼がいることで話がスムーズになる。俺だけだったらこうはならなかった。もっと別のアプローチをする必要があり、難航していた。ある程度の冷静さを保っているが、まだ終わってはいない。まだ大きな爆弾を抱えている。それは、子供だ。これに関しても伝えなくてはならない。
「終わらせたくないな」
「……このまま、何も知らなかったことにして……全部、飲み込むなんて……できない」
「……でも、どうすればいい」
よかった。未練たらしく関係を修復したいとか言わなくて。言っていたら性根から叩き直す必要があったから。たまにそういった人がいる。この人はそのタイプではなかったみたいだ。
「簡単な話です。この証拠を武器に、愛梨さんに慰謝料と養育費の請求をすればいい。離婚に強い弁護士も既にアサインしています」
「養育費?……まさか!!」
再び上原の顔に絶望が宿る。これは不味い。
「落ち着いてください。ゆっくりと息を吐いて。冷静に……決して馬鹿なことを考えないでください」
そっと背中を撫でる。しかし俺の言葉が不快に感じたのか、手で大きく振り払われた。その手が俺の頬に当たる。
「お前に何が分かる!」
その顔は、怒りと悲しみの混ざった顔をしていた。俺には彼の気持ちは分からない。それでも、心中という選択肢を取らせるわけにはいかない。
「分かりませんよ……でも、貴方が苦しんでいるのは分かる。だからこそ、言う必要がある」
「貴方の今、息子として育てている姫川大輝君は、輝君の子供の可能性がある」
淡々と事実を突きつける。原作の流れだと確定だが、現時点では輝の証言しかない。こちらも証拠を手に入れる必要がある。
「やめてくれ。それ以上……聞きたくない……」
「……そんなこと……あるわけ……」
否定の言葉を返そうとしたが、途中で途切れる。
「……いや……全部……繋がってしまう……」
「……っ……なんでだよ……」
前から思うことがあったのだろう。全てが繋がったことにより、心に限界が来てしまった。涙が流れる。そんな上原さんの顔を見て、輝の顔にも絶望が浮かび上がってきた。俺はそんな姿を見ても、あまり感情が湧かなかった。あまり知らない人だったのもそうだが、一番はアイのため。今でも俺は、目の前にいる上原さんではなく、アイを見ていた。
「このままでは、上原さん。貴方は幸せにはなれません。貴方も被害者だ。だから、俺の手を取ってください」
手を差し出す。弱っている精神的に。だから、彼は恐らく手を握ってくる。
「……っ……分かった」
「……受け入れるしか、ないんだな。その手……借りる」
俺の手を握った。ほら……やっぱりこうなった。心を追い詰めて、相手が欲しい言葉をかける。そうすれば、こんな感じに動く。ああ……俺って、こんなに冷たい人間になってしまったんだな。こうなるとある程度、予測していた。そして、その予想が見事に的中した。
まるで人をコマとして扱っている。法を破り、分かっていて放置し、煇にも苦しい思いをさせた。そして今も、自分を偽り詐欺師みたいなことをしている。変わってしまった。いや……変わらなくてはダメだった。
「では、話を未来に進めましょうか」
あれから話を続けた。上原さんに頼み事と約束を取り付けた。頼み事は、大輝君の遺伝子情報の確保。これは大きな証拠になる。これがあるのとないのでは、また違ってくる。現時点でもこちらが勝てる勝負だが、姫川愛梨の可能性を完全に断ち切るために念を押しておく。
約束に関しては、2つ。証拠を提供する代わりに、上原さん自身が興信所に依頼したことにすること。これは、証拠を表に出すために彼が調べたことにする。そして、俺にたどり着かないようにするための偽装工作。興信所にも金を握らせたので、興信所が口を割らなければ大丈夫だ。
そして、もう1つが俺の存在を他言しないこと。これも繋がりを匂わせないためだ。俺は裏で動く。それも了承済みだ。連絡先も交換したが、それは普段使っているものではなく、ダミーのガラケーで対応。全てが終わったら、変装に使った道具とガラケーは処分する。これで神崎蒼空という人間は、この件から足がつかないようにする。
彼は徹底的だった。自分の身を案じているわけではない。全ては「ドーム公演」の日まで捕まるわけにはいかないからだ。その後はどうなってもいいと思っている。彼の行動原理は、結局のところ「星野アイ」だ。一度死んだこともあり、腹の括り方が常人のそれではない。その執念は、もはや「怨念」のようなドロドロとしたものだった。
「上手くいったな」
話し合いが終わり、彼の家に戻ってきていた。ソファーに座りながらウィッグと付け髭を取った。付け髭が鬱陶しかったので、取れてせいせいする。変装の道具はいい物を買った。触ってもバレない。演技力も相まって、上原さんを騙すことに成功し、無事に終わった。
「上手くいきましたね」
「……でも、少し怖かったです……」
「上原さんの顔も……彼方のやり方も……」
「それでも、これで……終わりに近づいたんですよね」
まあ……そうだろうな。やり方が普通じゃない。でも、俺らみたいな年齢は大人に頼らないなら、手段はあまり選べない。今回は、たまたま上手くいっただけだ。
「そうだね……近づいてはいる。でも、君にはまだ大きな仕事がある。姫川愛梨を完全に拒絶し、終わりを告げるんだ。」
「はい。やります。ちゃんと終わらせます」
この子も強いな。とても眩しい。俺がやったことは、背中を押しただけ。目に信念がある。そして何より、瞳の星が光り輝いていた。アイには劣る光だが、俺にはないものだ。
「ちゃんと俺も一緒にいてやるさ。だから、最後まで頑張ろうな……共犯」
そう言うと、彼の顔に笑みが浮かんだ。
「共犯、ですか。少しだけ安心しました」
「一人じゃないんですね。最後までやりきります」
1人でやろうと思ってたんだけどな……まさか、こんな風になるなるて……分からないものだよな。
「それより、彼方は大丈夫?」
「なんのこと?」
「さっきから暗いですよ?」
バレてるな……これ。演技には自信があるのになあ……。上原さんにもバレなかったのに。なんでこの子には分かるのかな?これで、俺の嘘を見破ったのは2人目だ。
「……随分と冷たい人間になったな……って思ってさ」
「上原さんに声をかけた時、縋ってくると思った。そうなるように仕向けた。あの人が絶望している時、俺はほとんど何も思わなかった」
黙って聞いていた。人前で弱音を出すなんて珍しい。その弱さは、俺には必要ないのに。ブレてはない……俺の今世の目標は変わらない。ただ、その過程でいろいろと落としてしまった。
「……それでも必要だったんですよね」
「彼方がやらなかったら……多分、誰もできなかった」
「僕は、冷たいとは思いません。怖いけど。でも……ちゃんと、優しいです」
優しいか……。まだそう思ってくれる人がいるだけで幸せなんだろう。俺は恵まれているな。前世から……俺が折れていないのは、アイや輝のお陰かもしれない。少しだけ、軽くなった。
「そう……ありがとう、輝」
「どういたしまして……友達として当然のことをしたまでですよ」
友達……改めて言われると嬉しいものだ。やっぱり、人生において友達って大事だ。多かろうと少なかろうと、友達は人生に大きな影響をもたらしてくれる。
「さて……飯を食いに行くか。奢るよ」
「いいんですか?じゃあ遠慮なく」
まだ問題は片付いていない。けれども、確実に終わりへと向かっていた。この先の結末は、まだ誰も知らない。
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