一番星は消えない   作:ディバル

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こんばんは。作者のディバルです。……日刊19位に本作が載りました。昨日までは、そこまで伸びてなかったので驚いてます。それに伴い沢山の方々に見てもらえると機会が増え、お気に入り登録も増えていってます。本当にありがとうございます。これからも応援よろしくお願いします。では、本編をどうぞ。





046 愛の終着点

 

 

 

 

上原さんとの話し合いから2週間ほど、経過していた。翌日に大輝君の髪の毛を輝に渡し、それと同時に上原さん、煇、そして大輝君の髪の毛を専門の機関に提出した。それは事件の証拠というよりも、関係性を裏付けるための確認。現代と違ってまだこの時は、DNA鑑定はすぐには出ない。それなりに時間がかかった。

 

現代なら追加でお金を払えば早いが、今とは技術の差がある。でも、逆にそれがよかった。警察に行き、証拠付きで被害届を提出。それから、上原さんや煇にも事情聴取がされた。

 

輝の親もそこで初めて事態に気づき、一緒になって事情聴取を受けた。これまでの経緯を一つひとつ確認される。いつ、どこで会ったのか。どんなやり取りがあったのか。相手との関係はどういうものだったのか。

 

警察は、今後は不用意に相手と接触しないようにと念を押した。これ以上の関係の継続は、状況を悪化させる可能性が高いからだ。

 

でも、ここで動かないと輝はずっと姫川愛梨という人間の自縛から解放されない。これは理屈の話ではない……感情の話だ。

 

「さぁ……ラスボスを倒しに行こうか」

 

「ラスボスって……ほんとに、そうですね」

 

これから最終局面なのに、彼はゲーム感覚でそう言い笑って見せた。

 

「正直、怖いです。でも……もう逃げたくない」

 

「終わらせます。ちゃんと、自分の言葉で」

 

さぁ……最終幕の開演だ。

 

 

 

 

 

なんで……こうなったの?私はそんなことを何度も頭の中で考えていた。内容証明が届いたのはついさっきのこと。私と輝の関係がバレた。どこから漏れたの?マスコミ対策や清十郎にはバレてなかったのに、どうして?

 

「もしかして……輝が?」

 

それしかない……輝が行動を起こした?あの空っぽなあの子が?ありえない……ありえない……絶対に!!

 

その時だった。彼女の携帯から着信音。直様手に取り確認をする。メールだ……。その相手は彼女がよく知る彼……神木輝のものだった。

 

『話がしたいです』

 

その後に場所が指定される。そこは近くにある河川敷。

 

「ふふ……気のせいね。やっぱり私を求めてきた」

 

さっきまでの疑心暗鬼な気持ちが晴れ渡る。あんなに疑っていたのに、今ではすっかり雌の顔を晒し、愛する男からの連絡を喜び笑っていた。

 

「じゃあ……一体誰が?」

 

振り出しに戻る。たった一通の連絡で輝への疑いが晴れた。随分とお花畑な脳みそである。しかし、それも無理はない。唐突に彼女が築いてきた楽園が踏み躙られ、壊されたのだから。思考がまとまらず、不安だけが積もる。

 

「……今は、輝に会わないと」

 

急いで身支度を整える彼女。話をするだけなのに、化粧や着る服に妥協はしない。彼女は気づいていなかった。自分が既に詰んでいることを。

大急ぎで準備をしてドタバタと出る。この時にも変装は忘れずにしていた。

 

そのまま走る。ひたすら……走って走り続けた先に……ようやく彼を視界に捉えた。

 

「お待たせ……輝……?」 

 

彼女の顔から温度が消えた。なぜなら……。

 

「こんにちは……愛梨さん」

 

彼の隣に、彼女が気色悪いと思っている天城彼方が立っていたのだから。

 

 

 

 

 

随分と早かったな……連絡してまだ30分も経っていないのに。愛梨さんが俺の存在に気づくと、こちらを睨みつけてくる。それに対して笑顔で返してやる。

 

「なんで……貴方がここにいるの?」

 

「私は、輝の付き添いです」

 

さて……準備は整った。あとは君次第だよ……輝。俺は彼の方を見て背中を軽く押す。押してやるとこちらを一瞬だけ見て頷く。どうやら覚悟が決まったみたいだ。

 

「……愛梨さん」

 

「もう……終わりにしましょう。僕は……貴方のものじゃない」

 

前は完璧に言えなかった言葉。それを今度は真正面から言って見せた。これだけでも彼が成長したと言うことがわかる。

 

「は?……待って。……なんで?」

 

愛梨は彼の言葉を理解できていなかった。彼は、自分から離れないという絶対的な自信が、こうも簡単に崩れ去る。

 

「僕は、愛梨さんのものじゃない」

 

再度宣告。聞き間違いであるという淡い期待すらも打ち砕く。

 

「…………」

 

ショックのあまり、もう言葉すら出てこなかった。静かに絶望し、その場に座り込んだ。

 

「なんで……私は、貴女をこんなに愛しているのに!!」

 

しかし、ラスボスはまだ倒れてはくれない。絶望の後に湧いてきたのは怒り。瞳から涙を流しながら叫ぶ。

 

「貴女のそれは、本当に愛ですか?」

 

ここで割って入ってくる彼方。愛梨の視線が煇から彼に移った。

 

「私は、愛している輝のことを!!これは紛れもなく愛よ!!」

 

「じゃあ……なんで貴女はものとして彼を扱うんですか?」

 

「貴女のそれは愛じゃない……」

 

その言葉を聞き、さらに彼女の中で怒りが増す。

 

「なんで、私だけが責められないといけないの?」

 

「私だって似たようなことをされながら生きてきた!」

 

「この芸能界で、綺麗も汚いも全部呑み込んで、それが正しいと言われ続けてきた!!それを信じて今日まで生きてきた!!」

 

「どうして私だけが男に搾取されなきゃいけないの!?」

 

華やかに見える芸能界。しかし、その裏側に立つと見えてくるものが違ってくる。姫川愛梨が活動していた時代。それはまだ、芸能界と暴力団が密接だった昭和後期の話。

 

まだ右も左もわからない若いタレントを呼び、未成年だろうと構わず酒を飲ませ、女を使って営業を唆す事務所も多く存在していた。そんなあってはいけないことを正しいと植え付けられ、拒否権を奪う。

 

ルッキズムの極致たるこの芸能界で、性と美を売り物にするこの世界。NOと言うことすら奪われ、この世界で抱かれることですら『正しい』と植え付けられた。

 

愛梨もその被害者だった。奪われた自身の性を、性で奪い返す。人は……どこまで正しくあれるのだろうか?

 

「確かに、貴女は被害者だった。でも、今は加害者です。なぜ、自分がされたら嫌だったことを貴女がしてるんですか?」

 

その言葉は正論だ。でも時に正論は、相手を追い詰める武器でもある。思うところがあったのか一瞬だけ口ごもったが、それも長くは続かない。

 

「うるさいわね……貴方に私の何がわかるのよ!!」

 

それは、芸能界の闇を間近で受けた者の悲痛な叫びだった。

 

「私は何も知りませんよ……貴女が知ってるんです」

 

彼女は被害者だ……それが今では加害者。その痛み、苦しみをわかっているのに、なんでそれを煇にするんだろうな……。俺は愛梨さんのことは知らない。でも、彼女がやっていることは間違っている。

 

「貴女のことは貴女自身にしかわかりませんよ」

 

「……っ……分かってるわよ……そんなこと……!」

 

「分かってるから……やめられなかったのよ……!」

 

「空っぽで……何も残らなくて……怖くて。だから……手放せなかっただけなのに」

 

ボロボロと涙を流す。その涙は何の涙だろう?愛する男に拒絶されたから?……これまでのことを後悔しているから?……目を逸らしていた事実に気付いたから?俺にはわからない。俺は姫川愛梨ではないから。

 

「貴女はここでお終いです。輝は空っぽじゃない。少なくとも貴女よりかは……貴女は、与えてきたつもりでも、奪っていた。」

 

「本当の意味で与えていない貴女は、この先も満たされない。孤独を感じながら一人で生きていってください」

 

そして最後に輝の方を見る。俺が言いたいことは言い合えた。最後の言葉は彼に飾ってもらう。

 

「……さよなら、愛梨さん」

 

「僕はもう……貴女のところには戻りません」

 

そう言い、俺達はその場を去る。背後から悲痛な叫びが聞こえたが無視をした。もうあれは過去の存在。煇はもう前を向いている。振り返る必要はもうない。

 

 

 

 

「いやぁ……にしてもよく頑張ったな、輝」

 

帰り道、歩きながら彼らはさっきのことを振り返っていた。さっきまで大事な局面だったのに、まるで学校帰りのようにそう言いながら話していた。

 

「……まだ、少しだけ……震えてますけど」

 

「でも……ちゃんと終わらせられました」

 

「……ありがとう、彼方」

 

これで未来は大きく変わるはずだ。アイの生存の確率が上がった。でも、今はそれは置いておこう。

 

「俺は、輝を尊敬するよ……よく頑張ったね」

 

そう言いながら彼は輝の頭を撫でて笑う。そんな彼を見て、煇の足が止まった。

 

「……兄さん」

 

「は?」

 

突然そんなことを言われて固まる彼であった。

 

 






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