一番星は消えない   作:ディバル

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004 過度な期待

 

 

星野アイと関わり初めて一年が経過した。施設と学校を行き来して話して遊んだりとそんな毎日を繰り返した。俺達は小学5年生になった。学年とクラスが分かれた程度の変化しかない。俺とアイは別のクラスになった。少しだけ一緒に過ごす時間が減ったが、これまでと余り変わり映えのしない日常を過ごしていた。

 

しかし、その日常に暗雲が差し込もうとしていた。それは、アイの母親、星野あゆみの出所日が近づいていた。アイの母親は窃盗をして捕まった。窃盗の懲役の相場は6ヶ月〜3年程度で、初犯や軽微な被害なら執行猶予付きや罰金刑となることが多い。彼女の場合は初犯だったので懲役が1年3ヶ月となった。

 

彼女と出会った時に調べたのでこの情報は間違いない。問題なのはアイの心だ。彼女はここ最近機嫌がいい様に見える。何となくだが一年過ごして彼女をよく見ていた俺はわかる。それが、もう直ぐ母親が迎えに来てくれるのではないかと言う期待。それ故に機嫌がいいのかもしれない。その内情はわからない。彼女は聞いても答えてはくれないだろうし此方から聞くつもりもない。

 

だが、この予想が外れて欲しいと俺は思っている。期待を抱く程にこの後の辛さが大きく響くからだ。期待して裏切られた事は俺もあるが、それが自身の母親と言うのはとてつもなく辛い事だろう。

 

「何かいい事でもあったのかい?」

 

鼻歌を歌っているアイに対してそう聞く。聞きはしないが探りはする。俺の予想が外れて欲しいと願って。

 

「何にもないよ?……これからいい事がある感じかな」

 

いつもより笑顔が眩しい。今日も元気いっぱいの推しを見れて俺としてはご満悦なのだが。いろいろ考えるのが少しめんどくさくなったのでさっきの言葉は撤回する。

 

「そのいい事って何?」

 

俺はアイにそう聞く。

 

「んっとね……ナイショ♪」

 

可愛らしくウィンクをした。破壊力やば………いや、ダメダメ。今はそう言う事を考えるな。さて、思った通りはぐらかされた。これ以上の詮索は無意味だ。どうか俺の考えが杞憂であります様に今はそれを願う。

 

 

 

 

 

それからまた時が過ぎた。星野あゆみの出所日から数ヶ月。彼女がアイを迎えに来る事はなかった。わかりきっていた事だ。この数日でアイにも変化が訪れていた。瞳の星は暗く染まった。俺とは会話をしてくれるが他者を寄せ付けない空気感を出しており彼女に話しかける人は誰もいなかった。そして、一番の変化は………

 

「星野さん大丈夫?」

 

ある日の放課後、俺は教室にいた彼女に話しかけた。

 

「え?……何が?」

 

笑顔でそう答えるアイ。しかし、その笑顔は前とは違い取り繕っている。いつもの様な太陽みたいな笑顔ではない。まるで自分に「大丈夫」と言い聞かせている様に見え仮面を被っているみたいだった。

 

「いや……何でもない。とりあえず帰ろう」

 

彼はいつものようにそう言った。しかし、今の彼女は何処か上の空で視線は此方ではなく外を向いていた。

 

「うーん……今日はいいかな?」

 

アイが俺との下校を断った。今まではそんな事なかった。

 

「今日は一人で帰りたい気分なんだよねぇ」

 

一見すれば何の変化がない様に見える。それが問題なのだ。彼女の心境はわからない。俺基準で考えるのはおこがましいが、俺だったら落ち込む。しかし、彼女はその様子を見せない。他者に弱さを見せずに押し殺している様に感じる。それは、人によっては強さに見えるかもしれない。しかし、それをやっているのがまだ子供である彼女。

 

「そう……じゃあまた後で」

 

「うん」

 

手を振って見送る彼女。一旦ここは引く。無理に距離を詰める訳にはいかない。下手をしたらそれは、彼女の傷口を抉る事になるのだから。それに、俺は何を言っていいのかわからない。俺は、アイとは違い今世の親から捨てられはしたがちゃんと母親は俺を愛していた。そして、前世では家族に恵まれた。そんな俺が何を言っても嫌味にしか聞こえないだろう。

 

それに、少しそっとさせておいてその内、話せばいい。俺は、その時そう思っていた。それが間違いだと気付いたのは数日後だった。

 

 

 

 

 

一緒に帰るのを断られた日からアイと過ごす時間が減っていった。彼女は部屋に籠るのが増えた。学校で話しかけようとしたが、別のクラスのもあり俺が行く頃には既に何処かへと姿を消していた。俺を避けているのか、単純に一人になりたいのか。その真意は彼女だけが知る。ただ、一つだけ言える事がある。食事の時は、一緒になるがその瞳は黒く染まっていた。

 

「先ずは、話さないとな」

 

俺は、アイの部屋の前に立つ。そして、扉に向けてノックをする。

 

「星野さん……少しいいかな?」

 

そう声をかけるが返答はない。その後、何度か呼びかけたが反応がなかった。違和感……こんなにノックしているのに反応がまるでない。単純に無視しているか、寝ているのか。それとも……嫌な予感が頭をよぎった。

 

「星野さんごめん開けるよ」

 

彼は部屋の扉を開く。部屋に誰もいなかった。代わりに窓が開いていた。彼は、急いで玄関に向かう。アイの靴がなかった。窓から外に出たのだろう。今の時刻は19時。そろそろ本格的に暗くなってくる。

 

「探さないと」

 

それから彼の行動は早かった。施設の大人に彼女がいなくなった事を伝える。数時間経ってここに戻ってこなかったら警察に通報する様に頼み施設から出て走り出す。

 

「何処に行ったんだ?」

 

小学生とは思えない程の美貌を持つ彼女。それが夜遅くにいたら、考えたくはないが急ぐ。もしもの事があったら大変だ。今は、原作開始前の時間だ。何が起こるかわからない。アイの母親が迎えに来てくれなかった事が原因なのはほぼ、間違いない。思考を回せ、とにかく考えろ。彼女が行きそうな場所。

 

それから、彼は走りながら思考を回す。彼女がいそうな場所を巡りながら。学校、公園、近くのデパートに至るまで探して走る。途中で雨が降り始めた。濡れても彼は走り続けた。

 

何故、もっと早く話さなかった?話していたら何かが変わっていたかもしれないのにだ。いや、違う。それは、言い訳でしかない。俺は、嫌われたくなかったんだ。あの時、必要だった事は、彼女に手を差し伸べる事。それが正解だった。俺の今世の目標は何だ?推しに好かれる事……違う。彼女を救う事だろう?馬鹿だろ俺。なら、好感度なんて関係ない。彼女の隣は俺である必要はない。

 

走り続けていると河川敷の橋の下に、誰かがいた。彼がその人物を視界に捉える。そこにいたのは膝を抱え込み座っているアイだった。

 

「アイ!!」

 

彼が叫ぶ。そして、彼女の元へと向かう。彼の叫びに気づいた彼女が顔を上げる。涙を流しており、初めて見る顔だった。そして、今まで以上にその黒い星が光り輝いていた。

 

 

 

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