一番星は消えない   作:ディバル

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052 家族の始まり

 

 

 

 

今後の方針を話し終わった後、あいつらは帰っていった。

 

「にしても、とんだ爆弾を抱えちまったなぁ」

 

俺は、斉藤壱護。苺プロダクション……通称、苺プロの社長だ。最近のうちは調子がいい。看板のアイドルグループ、B小町はアイを中心に勢いを伸ばして、そこそこデカい箱も埋められるようになってきた。このままいけば……ドームも現実味を帯びてくる。

 

それと、天城彼方。あいつはモデルに役者にと、気づけば業界でも名前が通るようになってやがる。最初はくすぶってたくせに、ある時を境に一気に化けた。今じゃ各所から引っ張りだこだ。……正直、今の苺プロはこの二人で回ってると言ってもいい。

 

だからこそだ。……そんな二人が、よりにもよって……な。

 

「……アイのほうから迫ったってのがなぁ……まったく、あいつらしいっちゃらしいが……頭痛ぇ話だ」

 

正直な話、アイが彼方に好意を抱いてたのは分かってた。あいつ、隠す気ねぇくらい分かりやすかったからな。ただ、彼方のほうが全然気づいてなかったから、「まあ、しばらくは大丈夫だろ」って高を括ってた。仮に付き合ったとしても、バレなきゃ問題ねぇ……そう思ってたんだが……。

 

「……まさか、子どもまで作って報告してくるとはな……さすがに想定外だわ」

 

話を聞く限り、どう考えても主導はアイだ。あいつ、勢いで突っ走るタイプだからな……嫌な予感はしてたが、まさかここまでとは思わなかった。

しかも聞けば、襲ったうえにゴムにまで細工してたって話だ。正直、その瞬間は説教より先に頭痛が来たな。こんな形で爆弾抱えてくるとは思ってなかった。

 

「……ほんと、あの子は昔からブレーキ壊れてるのよね……」

 

アイに関しては、いろいろとぶっ飛んでいる。

 

「でも彼方さんも、流されてる時点で同罪だから」

 

「……はぁ……これ、どうやって守るか考えるほうが先ですね」

 

ミヤコが愚痴をこぼしてやがる。そりゃそうだ、ここから先は地獄みてぇに忙しくなる。とりあえずアイは活動休止。彼方は続けさせるが、スケジュールは絞るしかねぇな。

 

「……にしても、“父さん”ねぇ……」

 

「都合いいときだけ呼びやがって……まったく」

 

「……私なんて“母さん”ですよ? でも……そう思ってくれてたのね」

 

「……はぁ……ほんと、手のかかる子たちなんだから」

 

そう言う二人の表情は、穏やかなものだった。最初、彼方はオマケ程度だった。しかし、細かな気遣いや事務処理をサポートしていた。彼に助けられた点も、この三年間でそれなりにあった。

 

彼が影響を及ぼしたのは、アイやB小町だけではなく、この二人も同様だった。

 

「めんどうな娘と息子をもったもんだな」

 

「えぇ……本当に」

 

 

 

 

 

なんとかなった。姫川愛梨との直接対決よりもドキドキした。とりあえず産む方向になった。アイは活動は休止するが、今月の仕事を終えてからになる。俺は休止はしないが、仕事は減らすと。同じ事務所の男女が同じタイミングで活動を止めたら、怪しむ者が出てくるからだろう。まだ俺たちは高校生と呼べる年齢だ。高校には行ってないけど。活動を減らすのには問題はない。

 

そして、アイが出産する場所は、壱護さんのツテがあるそうだ。まだ場所は伝えられてないが、恐らく宮崎のあの病院だろう。そうなると自然にあの人物と関わることになる。雨宮吾郎。原作では、初回と回想にしか出てこなかった人物。後に星野アクアとして転生を果たす。しかし、この世界は運命が変わった。彼が死ぬことはない。

 

それに俺たちは彼と話す必要がある。さりなちゃん……彼は彼女の主治医であった。最後を見送った彼に聞く必要がある。最後にどんな表情をしていたのかを。

 

「いやぁ……何とかなったね?」

 

そんなことを考えていると、能天気な声が響いた。その声の主はアイ。さっきまで修羅場だったのに、アイはいつも通りである。

 

「なったけど、この先大変だぞ?」

 

まだ問題は山のようにあるのに、まるで不安がない様子。母親になる自覚がまだないのだから仕方ないが、とてもアイらしかった。

 

「大変なのは分かってるよ? でもさ……それでも楽しみのほうが勝ってるんだよね」

 

「だって、彼方と一緒に乗り越えていけるんでしょ?それに……一人じゃないもん。だから、大丈夫」

 

前向きな考え方だ。俺は、今不安でいっぱいなのに。そんな状態で彼女を見ていると、笑みが溢れてしまう。確かにそうだ……一人じゃない。アイや壱護さん、ミヤコさんと頼れる人もいる。

 

「にしても……親か」

 

ここに来て初めての経験をすることになるとは、まだ付き合って半年も経ってないのに。いろいろとステップをぶっ飛ばしすぎたが……とりあえず一旦置いておく。

 

「……ふふ、びっくりだよね。こんな一気に“家族”になるなんて」

 

アイさん……笑っていることは悪いんだけど、六割くらい君が悪い気がするんだけど? いつかは、とは思っていたけど……こんなに早くなんて誰が予想できたか。

 

「でもさ……彼方となら、ちゃんとやれる気がするんだ。ね、一緒にいい親になろ?」

 

「そうだな……頑張らないと」

 

親か……前世の俺の親はどんな気持ちで俺や妹を産んだのだろうか? きっと今の俺みたいに不安を感じていたんだろうか? こんな形になってしまったが、俺はこれから子を守る立場になる。きっと、考え、迷うだろう。でも、精一杯頑張ってみよう。

 

「……今更だけど……なんで4ヶ月も経って報告したんだ?」

 

忙しかったとはいえ、電話やメールで伝えることもできただろうに。こういう大事なことは、すぐに伝えるのがいいと思うけど。

 

「……ちゃんと顔見て言いたかったの。こういうのってさ、軽く伝えたくなかったし……彼方の反応も、ちゃんと見たかったから」

 

その後にアイの瞳が彼を捉える。

 

「……それに、逃げられないようにっていうのも……ちょっとだけね?」

 

アイさん……怖いんですけど? 黒星を宿しながら腕を強く握ってこないで? 地味に痛いから……。それに……。

 

「逃げるわけないだろ? した時にそうなる可能性も覚悟してたし。……愛する人を置いて逃げないよ」

 

共にこれから先を歩くと決めたんだ。逃げるわけがない。そんなことしたら、男の恥だ。結果的にしたのは事実だ。自分の行動に責任を持たないでどうする。

 

「……うん、知ってる。彼方は、逃げないって分かってたよ……だから好きなんだもん」

 

彼女は少し俯き、はにかむように笑った。

 

「……でもさ、ちゃんと言葉にしてくれるの、やっぱり嬉しい」

 

少し頬を赤らめながら笑う彼女の姿。それは、紛れもなく「本物」。ステージの上で嘘をつき、自分を偽って愛を伝えていたが、星野アイは彼を通して本物を手にしたのかもしれない。

 

「これから稼がないと……生まれてくる子どもに不自由はさせたくない」

 

元々1000万あった金は600万は使った。手元に残っているのは400万程度。これじゃあ心もとない。アイはしばらく活動を休止する。それに一家の大黒柱である俺が稼がないと。

 

「大丈夫だよ、彼方。私もちゃんと働くし、一緒に頑張ればなんとかなるって。それにさ……お金も大事だけど、私は彼方が無理するほうがイヤだな」

 

「無理はしないさ……でも、親になるってお金がかかる。俺の親は、それが原因で俺を施設に預けた。だから、そこを軽く見たくない。」

 

今世の親は、貧困で俺を育てられなかった。それに対して恨みはない。でも、そういう家庭もあると知った。だから、親と同じ轍を踏みたくはない。

 

「……そっか。ちゃんと考えてるんだね」

 

「でも、一人で背負わなくていいよ? 私も一緒に親になるんだから。半分こ、ね」

 

「あぁ……改めてこれからよろしく、アイ」

 

「……ふふ、こちらこそ……パパ」

 

「……少し気が早くない?」

 

そう言う彼に対して笑うアイであった。

 

 

 

 

 






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