一番星は消えない   作:ディバル

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053 欲張りなアイドル

 

 

 

 

壱護さんとミヤコさんに話してから1ヶ月が経過した。アイが活動休止を発表した。予定した通りに事が進んでいた。俺も仕事を調整して、今日は壱護さんのツテの病院に向かっていた。

 

「また……この地に来るとはな」

 

予想していた通りの地に、また来ていた。宮崎……3年前にアイやB小町、そして俺が仕事をした場所だった。ここで、さりなちゃんとも初めて会った地。あれから訪れていないのに、とても懐かしい気持ちになる。

 

「……ね、ちょっと運命っぽくない?またここに来るなんてさ……なんか全部つながってるみたい」

 

懐かしい気持ちを感じていると、アイに声をかけられる。

 

「……でも今度は、お仕事じゃなくてさ。ちゃんと“未来”のために来てるんだよね、私たち」

 

手を俺の腕に回して抱きつくアイ。未来か……自分の事は二の次だったが、今は彼女と一緒に未来を見ている。かと言って油断はしない。ドーム公演まで何があるかわからない。でも、前よりかは力を抜いていいだろう。

 

「俺達と子供達の未来だな」

 

「……うん、そうだね。“家族”の未来だもんね。ちゃんと守りたいなって思う。絶対、幸せにしようね」

 

そんな事を話していると、後ろから大きなため息が聞こえた。そのため息の主は斉藤壱護であった。

 

「……おいおい、病院の前でイチャつくな。場所考えろ」

 

話していると壱護さんが割って入る。

 

「“家族の未来”だの何だの、いいこと言ってるがな……まずは現実見ろ、現実」

 

耳に痛い言葉が飛んできた。歩いているうちに病院に着いた。確かに場所を考えないと。地方とは言え、アイを知っている者がいる可能性はある。B小町はそこそこ有名になっているので、バレたら大騒ぎだ。かと言う俺も知名度はまあまあ……ある。

 

アイは帽子を被り、俺に関しては伊達メガネと髪型を少し変えている。ガチの変装をすると病院の人たちにかえって迷惑をかけるので、軽めの変装だ。

 

病院に入り、待つ。壱護さんが予約していたみたいだ。にしても、病院でこうやって待つのはいつぶりだろう?前世で骨折した時を思い出す。同じ場所を3回も骨折して、そのうち2回が手術前だったという。なんともアホなエピソードだ。

 

「……星野さん、天城さん。お待たせしました。診察の準備ができていますので、こちらへどうぞ」

 

待つこと1時間。呼ばれたので、まずは診察室に入る。もう少しで、あの男とご対面だ。

 

 

 

 

 

 

「アイが活動休止か……心配だなぁ……無事に戻ってきてくれたらいいけど」

 

俺は、雨宮吾郎。この病院で産婦人科医をしている。で、まあ……そんな俺にも一応、趣味くらいはある。アイドルだ。B小町のアイを推してる。……で、そのアイが活動休止、ね。普通にショックだった。そりゃあ理由は分からないし、芸能界なんてそんなもんだって頭では分かってるけど。でも……仕事は待ってくれない。

 

「……切り替えろ、俺」

 

今は医者だ。推しのファンじゃない。目の前の患者をちゃんと診る、それが最優先だ。

 

「はい。お待たせしましたっと。えっと……星野さんは初めてですね」

 

「はい」

 

目の前にいる患者は、妊娠の検査だ。お腹の具合は、20週ってところか。初診察にしてはだいぶ遅いタイミングだな。それに年齢が16。なるほど……訳ありで誰にも相談できないままここまで来たパターンか?

 

「貴方は親御さん?」

 

「まあ……戸籍上は………彼女は施設育ちなもので。実質、後見人というか身元引受人というか」

 

「……なるほど」

 

16歳、施設育ち。どこかで聞いたような話だな……。

 

そんな事を思っていたが、次の瞬間……彼女が帽子を取った。

 

「…………」

 

「先生、どうなんでしょう?ものすごい便秘という可能性は……」

 

「だとしたら死んでますねぇ……」

 

「そっちは順調!今日も問題なかったよ」

 

「ちょっと……アイ。女の子がそんな事言ったらダメだよ」

 

隣に座っていた彼がそう注意する。

 

「とりあえず検査してみましょう。準備がありますのでお待ちください」

 

そう言いながら、彼は一旦診察室から退出した。退出した後に……ようやく彼の脳内が現実に追いついた。

 

ちょいちょい!ちょいちょい!えっ……本物?アイのそっくりさん!?いや……長年のファンの俺が見間違えるはずがない!!……それにしてもリアルアイ、ちょ〜〜〜〜かわい〜〜〜〜〜っ。

 

じゃねぇ!!推しのアイドルが妊娠している。ショックでゲボ吐きそうなんですけど!!というか……隣にいる男は誰だよ?

 

扉を開けて、待つ3人の様子を見る。彼が注目していたのは、隣に座っていた天城彼方の存在。推しのアイドルが妊娠したという事実は、彼にとって大きな衝撃を与えており、冷静さを欠いていた。 

 

「ワンチャン、お前らの勘違いだと賭けたが……どうしてこうなった?」

 

ホントそれだよ!!……お前らって事は……もしかして!!

 

「いやぁ……ホントにすいません。これは俺の責任ですね」

 

「彼方は悪くないよ?だってさ、前にも言ったけど襲ったの、私だもん」

 

ちょっと!?……もう俺の脳内パンク寸前なんですけど!?

 

 

 

 

検査が終了し、診察室に全員が戻ってきた。

 

「診察結果……20週の双子ですね」

 

「「「双子」」」

 

彼の言葉を聞き、3人が同時にハモる。反応はそれぞれだ。壱護は汗をダラダラとかいており、彼方は顎に手を当てて何か考え込み、アイはしばらく固まっていた。

 

「双子……」

 

そして、再度同じ言葉を繰り返した。予想してなかった出来事に戸惑っているのだろうか。それは彼女にしか分からない。

 

「……もう一度確認するぞ。本気で産む気なのか?」

 

「……うん、産むよ。1人でも2人でも、関係ないよ。だって、私の子だもん。ちゃんと産んで、ちゃんと育てる」

 

「俺も育てる覚悟はできてます」

 

やっぱりこの子が父親なのか……。雰囲気的にアイより年上か?

 

「君が父親なのかな?」

 

「そう言えば、自己紹介をまだしてませんでしたね。俺は、天城彼方……アイと同じで16歳です。よろしくお願いします……雨宮先生」

 

アイと同じ……雰囲気的に年上と思っていたが……それにしても、さっきアイが言っていた“襲った”ってのは……。いや……考えるのはよそう。これ以上は脳が本当にパンクする。

 

そう言えば……彼の名前を俺はどこかで……ダメだな。今の脳はまともに機能していない。

 

「先生はどう思う?」

 

彼女の問いに対して、彼は……

 

「最終的な決定権は君にある。よく考えて決めるんだ」

 

 

 

 

「そうとしか言えないな」

 

自販機で買ったコーヒーを飲みながら、屋上で呟いていた。医者としては……ね。ようやく……落ち着いてきた。俺は、君に男がいても応援し続ける。でも、君が子供を産めば、もうこれ以上高く羽ばたく事はできなくなるんだろうな。

 

「ファンの意見ってのは身勝手だよな……さりなちゃん」

 

一人でいろいろと考えていると、屋上の扉が音を立てて開いた。視線を向けると、そこにいたのはアイと天城彼方の姿だった。

 

「あっ……センセ」

 

「お仕事お疲れ様です」

 

「星野さんと天城さん……」

 

2人はそれぞれの反応を見せながら近づいてくる。

 

「社長の紹介って事で選んだんだけど、良い所♪」

 

鼻歌を歌いながらその場を歩いているアイ。

 

「わざわざこんな田舎に来たのは、東京だと人目につくから?」

 

「あれ?仕事の事言ったっけ?」

 

「昔……患者に君のファンが居たんだよ」

 

そう言ったアイは、「あちゃー」と言いながら笑っていた。

 

「やっぱ溢れ出るオーラ隠せてないね」

 

「笑い事じゃないんだけどなぁ」

 

隣で彼が少し困ったように笑っている。……妙に落ち着いているな。初めてという感じがしない。こういう場の空気に、どこか慣れているようにも見える。

 

「君は……アイドルをやめるのか?」

 

「なんで?やめないよ?」

 

普通は……やめる、って選択をするんじゃないのか。出産して、そのまま身を引く……そういうケースはいくらでも見てきた。それなのに、この子は違うのか……。

 

「私、家族って居ないから、家族に憧れがあったんだ」

 

「お腹に居るのは双子なんでしょ?それに彼方もいる。産んだらきっと賑やかで楽しい家族になるよね!」

 

彼女は少し膨らんだ腹部にそっと手を当てて、静かに微笑んでいる。

 

「子供は産む……アイドルも続ける……つまりそれは……」

 

「そ……公表しない」

 

「アイドルは偶像だよ?嘘という魔法で輝く生き物。それに……

 

『嘘はとびきりの愛なんだよ?』」

 

その瞳に、思わず視線を奪われる。

 

「母親としての幸せとアイドルとしての幸せ……普通は片方かもしれないけど……」

 

月明かりの光が彼女を照らす。

 

「どっちもほしい……星野アイは欲張りなんだ」

 

アイというアイドルは思っていたよりずっと図太く、ずるくて強くて……やけに澄んでいる。空に浮かぶ一番星みたいに、静かに光っていた。

 

「星野アイ……僕が産ませる。安全に元気な子供を」

 

僕はどうしようもないほど、君の奴隷(ファン)だ。

 

「決意を決めたところで悪いんですけど……1つ聞きたい事が」

 

決意を固めたところで、彼がそう言葉をかけてくる。

 

「……ああ、構わないよ。何かな?」

 

「さっき言っていた、雨宮先生が言っていた患者のファンというのは……天童寺さりなちゃんですか?」

 

その少女の名前は、彼にとっても古傷。ここに、彼女の光だった者達が集結した。

 

 

 





ようやく原作に入りましたね。ここまでくるのに50話近くかかるとは思いませんでしたね。

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各章解説と他作品の元ネタ解説いるかどうか。

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