一番星は消えない   作:ディバル

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お気に入り登録が1000を超えました。ありがとうございます。作者として嬉しい限りです。まだ先の話になりますが、この作品をある程度書き終わったら、また別の【推しの子】の二次創作を書こうと考えています。これからも応援よろしくお願いします。では……本編をどうぞ。




054 残された者達

 

 

 

 

彼から彼女の名前が出たのを聞き、雨宮吾郎は言葉に詰まっていた。ここにいる全員の空気が止まり、沈黙がしばらくの間生まれた。

 

「覚えてますか……3年前、さりなちゃんが亡くなって、彼女の最後の言葉を貴方が俺に届けてくれたことを」

 

「!!」

 

その言葉を聞き、雨宮吾郎は思い出した。彼女の話の中で出てきた「お兄さん」の存在………それが目の前の彼だと。

 

「あの時は、伝えてくれてありがとうございました」

 

そう言って彼は頭を下げ、感謝の言葉を伝えてきた。直接、感謝を伝えたいとずっと思っていた。

 

「……ああ……覚えてるよ。あの時の……そうか、彼女の言っていた“お兄さん”は……君だったのか」

 

なんの縁なのかな、さりなちゃん……。君が大事に思っていた人達が今、俺の目の前にいる。そして、俺に対して感謝を伝えている。俺は、ただ君の言葉を届けただけなのにな。

 

「はい……こうして、対面で会ったばかりで申し訳ないですが……さりなちゃんは、最後……どんな顔をしてましたか?」

 

その質問は、古傷を自ら開く行為だ。頭を上げ、彼は雨宮吾郎に視線を向ける。その表情から、生半可な思いで聞いているわけではないと分かる。彼は知りたかった。数少ない友の最後を。よく見てみると手が震えている。その言葉の端々には恐れが混じっている。

 

「……そう、か。聞くんだな。あの子は……怖がってなかったよ」

 

あの時の光景、彼女の表情。頬に触れた、あのわずかな体温……どれも、昨日のことのように思い出せる。

 

「最後まで……笑おうとしてた。……悔しさもあったはずなのに、それでも……誰かを想ってた……強い子だったよ。本当に」

 

その言葉を聞き、彼はしばらく……何も言えなかった。それは彼だけではなく、アイもそうだった。アイは彼方の手をそっと握りしめる。

 

「さりなちゃんは……俺のことを恨んでませんでしたか?……最後に俺は彼女の電話に出られなかった……今もずっとそれを後悔しています」

 

その言葉には、言葉に言い表せない後悔が滲む。整理はつけたつもりでも、彼の中でずっとその後悔だけが積もっていた。もう片方の拳が強く握りしめられる。自分の手を痛めんとばかりに。

 

「……彼方」

 

そんな様子を見て、アイが何かを言おうとしたが言葉に出せなかった。その後悔は、彼にしか分からないことだから。

 

「……恨んでなんか、いないよ」

 

ハッキリと彼はそう告げる。

 

「あの子は、最後まで君のことを責めるような子じゃなかった。むしろ……会えなかったことより、“伝えられなかったこと”のほうを気にしてた」

 

そうか……彼は、ずっと悔やみ続けてきたのか……。まるで、あの出来事を自分の罪みたいに抱えたまま。……でも、それで分かった気がするよ。

どうして君が、あの子のことをあんなに楽しそうに話していたのか。

 

「君に、ちゃんと届いたかどうか。それだけを気にしてた」

 

今となっては、さりなちゃんに答えを聞けない。でも……これだけは言っておこう。

 

「……だから、その後悔は……少しだけ手放していい。君はもう、ちゃんと受け取ってる」

 

その言葉を聞き、彼の手の力が抜けた。彼方は静かに涙を流した。数年間にわたる後悔から、ほんの少しだが解放されたみたいだ。

 

「ありがとうございます。ずっとそれだけが、心に残ってました」

 

涙をぬぐいながら感謝の言葉を述べた。その顔は、さっきまでとは違い、憑き物が落ちたようにすっきりとしていた。まだ彼の中に後悔はあるだろう……しかし、ほんの少しだけ積もったものが減っていた。

 

「貴方になら任せられる……どうかアイと子供をよろしくお願いします。」

 

再度、深々と頭を下げる。彼なりの感謝と、自分の大切な人を預けるという意思表示である。

 

「……任せられる、か。……随分と重たい言葉をくれるね」

 

……正直、最初は「なんだこの子は」って思っていた。年齢も状況も状況だし、どこか現実味がなくて……半ば呆れていたのも事実だ。でも……違ったな。

 

話していくうちに分かった。彼は、逃げずに考えている。自分の立場も、責任も、その上でどうするべきかをちゃんと選ぼうとしている。そして、こうして筋まで通してくる。

 

……なるほどね。どうやら俺は、彼のことを気に入ってしまったらしい。

 

「でも、その重さごと引き受けるのが……俺の仕事だ」

 

雨宮吾郎の表情が変わり産婦人科医として……

 

「安心していい。母体も子どもも、どっちもきちんと守る……それと、君もだよ。父親が倒れたら元も子もないからね」

 

彼に言葉が送られる。

 

「えぇ……もちろんです」

 

彼方が手を差し出す。その手を吾郎が握った。そして、その様子を見ているアイ。

 

「……ふふ、なんかさ……いいね、そういうの。ちゃんと“大人同士”って感じでさ。ちょっと安心しちゃった」

 

そうは言うが、彼はまだ16歳である。精神年齢的なことを言えば、この中で最も高い。

 

「……センセ、彼方のことも見てくれるんだ。優しいね」

 

ニコッと2人を照らすように笑う。

 

「じゃあさ……私も、ちゃんと頑張らないとね。ママとしても、アイドルとしても」

 

さっきまで暗い雰囲気だったが彼女の言葉でその雰囲気が和らぐ。

 

「……みんなで、ちゃんと守っていこ?」

 

そう言いながら、2人の手に彼女は両手を重ねて、にこっと微笑んだ。

 

「ところで雨宮先生……貴方もアイのファンなんですか?」

 

握手をし終えた後に、彼がそんなことを聞いてくる。

 

「……まあ、否定はしないよ。患者の前で言うことじゃないけどね……結構、好きだ」

 

答え終えた直後、彼方くんがくすっと笑いながら何かを取り出した。差し出されたそれは、見慣れたサイズのアクリルスタンドだった。……え、ここで?一瞬、状況が理解できずに視線が止まる。いや、分かる。分かるけど……今、このタイミングで出すものじゃないだろう。

 

「……お近づきの印にどうぞ」

 

今日一番、屈託のないいい顔で笑いながら………彼は俺の手を取って、そのまま強引にアクリルスタンドを握らせてきた。……いや、待ってくれ。

 

「……強引だな、君は」

 

小さく苦笑が漏れる。けれど、不思議と嫌な感じはしない。

 

「……ありがとう。こういうの、素直に嬉しいよ」

 

受け取った彼に対して彼方は……喜びが全身から溢れて出す。

 

「ようやく……同性でアイを語れる人ができた」

 

さっきまで泣いていた人間とは思えない反応をしながら、拳を握りしめてガッツポーズまでしている。

 

「え、ちょっと待って?そこで意気投合するの?……ふふ、いいけどさ。なんか複雑なんだけど」

 

さっきとの温度差に対して、彼女は笑いながら喜ぶ彼の姿を見て、アイも明るくなっていく。

 

「……いや、その喜び方はどうなんだい?さっきまでの流れとの温度差がすごいな……」

 

割とシリアスな雰囲気から一変した。切り替えがとても早い。

 

「……まあ、語れる相手が増えたのは否定しないけどね」

 

2人の言葉に反応するように、彼がじっと見て話し始める。

 

「喜ぶに決まっている!好きな同じ趣味の人間がいるなら語るだろ!!ようやく同じ目線で話せる同性の同志ができたんだ」

 

鬼気迫る気迫がそこにはあった。恋人という関係にはなったが、今でもアイを推している彼。そんな彼にとって、語れる存在を欲していた。

 

「……熱量すご……そんな真剣に語られると、ちょっと照れるんだけど」

 

彼の熱量に押されて、頬がほんの少しだけ赤くなるアイ。

 

「……ねぇ、ほどほどにしてね?本人、ここにいるからさ」

 

「……分かった分かった、落ち着こうか。気持ちは理解できるけど、ここ病院だからね?」

 

……落ち着いて見えたけど、ちゃんと年相応の顔もするんだな。……少しだけ、安心したよ。

 

「……まあ、その情熱は嫌いじゃないよ。ちゃんと節度を守れるなら、だけど」

 

「それは、当たり前ですよ。というか、マナーを守れない人は俺も嫌いです」

 

熱く語っていたのに、唐突に無表情でそう言う彼。感情がジェットコースターのように移り変わりする。もはや怖いまである。

 

さっきまであれだけ熱を帯びていたのに……次の瞬間には、すっと温度が引いたように無表情で言い切る。

 

(……なるほど)

 

感情の振れ幅が大きいというより、切り替えが極端に速いのか。スイッチの位置が分かりやすい分、扱いやすいタイプとも言えるけど……正直、少し怖いな。

 

「……ほんと、忙しいね彼方」

 

「……切り替えが速すぎるな」

 

楽しそうにしている彼を見守る2人。しかし、彼らの顔にも笑みが溢れていた。重苦しい雰囲気は夜風と共に消えていく。

 

 







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