お気に入り登録が1000を超えました。ありがとうございます。作者として嬉しい限りです。まだ先の話になりますが、この作品をある程度書き終わったら、また別の【推しの子】の二次創作を書こうと考えています。これからも応援よろしくお願いします。では……本編をどうぞ。
彼から彼女の名前が出たのを聞き、雨宮吾郎は言葉に詰まっていた。ここにいる全員の空気が止まり、沈黙がしばらくの間生まれた。
「覚えてますか……3年前、さりなちゃんが亡くなって、彼女の最後の言葉を貴方が俺に届けてくれたことを」
「!!」
その言葉を聞き、雨宮吾郎は思い出した。彼女の話の中で出てきた「お兄さん」の存在………それが目の前の彼だと。
「あの時は、伝えてくれてありがとうございました」
そう言って彼は頭を下げ、感謝の言葉を伝えてきた。直接、感謝を伝えたいとずっと思っていた。
「……ああ……覚えてるよ。あの時の……そうか、彼女の言っていた“お兄さん”は……君だったのか」
なんの縁なのかな、さりなちゃん……。君が大事に思っていた人達が今、俺の目の前にいる。そして、俺に対して感謝を伝えている。俺は、ただ君の言葉を届けただけなのにな。
「はい……こうして、対面で会ったばかりで申し訳ないですが……さりなちゃんは、最後……どんな顔をしてましたか?」
その質問は、古傷を自ら開く行為だ。頭を上げ、彼は雨宮吾郎に視線を向ける。その表情から、生半可な思いで聞いているわけではないと分かる。彼は知りたかった。数少ない友の最後を。よく見てみると手が震えている。その言葉の端々には恐れが混じっている。
「……そう、か。聞くんだな。あの子は……怖がってなかったよ」
あの時の光景、彼女の表情。頬に触れた、あのわずかな体温……どれも、昨日のことのように思い出せる。
「最後まで……笑おうとしてた。……悔しさもあったはずなのに、それでも……誰かを想ってた……強い子だったよ。本当に」
その言葉を聞き、彼はしばらく……何も言えなかった。それは彼だけではなく、アイもそうだった。アイは彼方の手をそっと握りしめる。
「さりなちゃんは……俺のことを恨んでませんでしたか?……最後に俺は彼女の電話に出られなかった……今もずっとそれを後悔しています」
その言葉には、言葉に言い表せない後悔が滲む。整理はつけたつもりでも、彼の中でずっとその後悔だけが積もっていた。もう片方の拳が強く握りしめられる。自分の手を痛めんとばかりに。
「……彼方」
そんな様子を見て、アイが何かを言おうとしたが言葉に出せなかった。その後悔は、彼にしか分からないことだから。
「……恨んでなんか、いないよ」
ハッキリと彼はそう告げる。
「あの子は、最後まで君のことを責めるような子じゃなかった。むしろ……会えなかったことより、“伝えられなかったこと”のほうを気にしてた」
そうか……彼は、ずっと悔やみ続けてきたのか……。まるで、あの出来事を自分の罪みたいに抱えたまま。……でも、それで分かった気がするよ。
どうして君が、あの子のことをあんなに楽しそうに話していたのか。
「君に、ちゃんと届いたかどうか。それだけを気にしてた」
今となっては、さりなちゃんに答えを聞けない。でも……これだけは言っておこう。
「……だから、その後悔は……少しだけ手放していい。君はもう、ちゃんと受け取ってる」
その言葉を聞き、彼の手の力が抜けた。彼方は静かに涙を流した。数年間にわたる後悔から、ほんの少しだが解放されたみたいだ。
「ありがとうございます。ずっとそれだけが、心に残ってました」
涙をぬぐいながら感謝の言葉を述べた。その顔は、さっきまでとは違い、憑き物が落ちたようにすっきりとしていた。まだ彼の中に後悔はあるだろう……しかし、ほんの少しだけ積もったものが減っていた。
「貴方になら任せられる……どうかアイと子供をよろしくお願いします。」
再度、深々と頭を下げる。彼なりの感謝と、自分の大切な人を預けるという意思表示である。
「……任せられる、か。……随分と重たい言葉をくれるね」
……正直、最初は「なんだこの子は」って思っていた。年齢も状況も状況だし、どこか現実味がなくて……半ば呆れていたのも事実だ。でも……違ったな。
話していくうちに分かった。彼は、逃げずに考えている。自分の立場も、責任も、その上でどうするべきかをちゃんと選ぼうとしている。そして、こうして筋まで通してくる。
……なるほどね。どうやら俺は、彼のことを気に入ってしまったらしい。
「でも、その重さごと引き受けるのが……俺の仕事だ」
雨宮吾郎の表情が変わり産婦人科医として……
「安心していい。母体も子どもも、どっちもきちんと守る……それと、君もだよ。父親が倒れたら元も子もないからね」
彼に言葉が送られる。
「えぇ……もちろんです」
彼方が手を差し出す。その手を吾郎が握った。そして、その様子を見ているアイ。
「……ふふ、なんかさ……いいね、そういうの。ちゃんと“大人同士”って感じでさ。ちょっと安心しちゃった」
そうは言うが、彼はまだ16歳である。精神年齢的なことを言えば、この中で最も高い。
「……センセ、彼方のことも見てくれるんだ。優しいね」
ニコッと2人を照らすように笑う。
「じゃあさ……私も、ちゃんと頑張らないとね。ママとしても、アイドルとしても」
さっきまで暗い雰囲気だったが彼女の言葉でその雰囲気が和らぐ。
「……みんなで、ちゃんと守っていこ?」
そう言いながら、2人の手に彼女は両手を重ねて、にこっと微笑んだ。
「ところで雨宮先生……貴方もアイのファンなんですか?」
握手をし終えた後に、彼がそんなことを聞いてくる。
「……まあ、否定はしないよ。患者の前で言うことじゃないけどね……結構、好きだ」
答え終えた直後、彼方くんがくすっと笑いながら何かを取り出した。差し出されたそれは、見慣れたサイズのアクリルスタンドだった。……え、ここで?一瞬、状況が理解できずに視線が止まる。いや、分かる。分かるけど……今、このタイミングで出すものじゃないだろう。
「……お近づきの印にどうぞ」
今日一番、屈託のないいい顔で笑いながら………彼は俺の手を取って、そのまま強引にアクリルスタンドを握らせてきた。……いや、待ってくれ。
「……強引だな、君は」
小さく苦笑が漏れる。けれど、不思議と嫌な感じはしない。
「……ありがとう。こういうの、素直に嬉しいよ」
受け取った彼に対して彼方は……喜びが全身から溢れて出す。
「ようやく……同性でアイを語れる人ができた」
さっきまで泣いていた人間とは思えない反応をしながら、拳を握りしめてガッツポーズまでしている。
「え、ちょっと待って?そこで意気投合するの?……ふふ、いいけどさ。なんか複雑なんだけど」
さっきとの温度差に対して、彼女は笑いながら喜ぶ彼の姿を見て、アイも明るくなっていく。
「……いや、その喜び方はどうなんだい?さっきまでの流れとの温度差がすごいな……」
割とシリアスな雰囲気から一変した。切り替えがとても早い。
「……まあ、語れる相手が増えたのは否定しないけどね」
2人の言葉に反応するように、彼がじっと見て話し始める。
「喜ぶに決まっている!好きな同じ趣味の人間がいるなら語るだろ!!ようやく同じ目線で話せる同性の同志ができたんだ」
鬼気迫る気迫がそこにはあった。恋人という関係にはなったが、今でもアイを推している彼。そんな彼にとって、語れる存在を欲していた。
「……熱量すご……そんな真剣に語られると、ちょっと照れるんだけど」
彼の熱量に押されて、頬がほんの少しだけ赤くなるアイ。
「……ねぇ、ほどほどにしてね?本人、ここにいるからさ」
「……分かった分かった、落ち着こうか。気持ちは理解できるけど、ここ病院だからね?」
……落ち着いて見えたけど、ちゃんと年相応の顔もするんだな。……少しだけ、安心したよ。
「……まあ、その情熱は嫌いじゃないよ。ちゃんと節度を守れるなら、だけど」
「それは、当たり前ですよ。というか、マナーを守れない人は俺も嫌いです」
熱く語っていたのに、唐突に無表情でそう言う彼。感情がジェットコースターのように移り変わりする。もはや怖いまである。
さっきまであれだけ熱を帯びていたのに……次の瞬間には、すっと温度が引いたように無表情で言い切る。
(……なるほど)
感情の振れ幅が大きいというより、切り替えが極端に速いのか。スイッチの位置が分かりやすい分、扱いやすいタイプとも言えるけど……正直、少し怖いな。
「……ほんと、忙しいね彼方」
「……切り替えが速すぎるな」
楽しそうにしている彼を見守る2人。しかし、彼らの顔にも笑みが溢れていた。重苦しい雰囲気は夜風と共に消えていく。
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各章解説と他作品の元ネタ解説いるかどうか。
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いる
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いらない