診察を受けてから少し時間が経過した。俺は、仕事の関係で東京と宮崎を行き来する生活を送っている。ここで問題になったのがアイが住む場所だ。活動休止をして妊娠までしているアイドルを東京で過ごさせるのは問題が多すぎた。
なのでマンスリー・ウィークリーマンション形式という形をとった。短期間の滞在を前提とした物件であれば、敷金・礼金が不要なケースが多い。その条件の物件を借りた。アイは、病院の近くで壱護さんと一緒に生活している。
東京と宮崎を往復する生活は、正直言うとしんどい。でも、できるだけアイの側にいられるようにした。アイの方が不安だろう、初めての体験なのだから。
そして、そんなアイを担当する雨宮先生とは………
「アイのパフォーマンスはいつも完璧なんですよ………初ライブから目が奪われました」
「……ああ、分かるよ。アイは、そういう子だ」
アイの話で盛り上がっていた。やっぱり……この人はアイのオタクだ。さりなちゃんの影響もあるのだろうが、徐々にアイの魅力に沼っているな。
「舞台の上だと、まるで別人みたいに輝くんだよな………でも、それを“当たり前”にやってのけるところが、アイのすごさだ」
大きく頷きながら吾郎の言葉に共感する彼方。同じオタク同士、話に花を咲かせながら楽しんでいる。
「わかります。アイは、歴史に残る伝説になります」
そう宣言する彼。その言葉に吾郎は微笑んでいた。そして……その場にはその当の本人もいて………。
「……ちょっと、やめてよ。本人いるんだけど?」
そんな2人の会話を聞きながら彼女は、彼方の方を揺らしながら頬を赤くしていた。
「アイ……今、君の話で盛り上がっているんだ。静かにしてくれない?」
「……ねえ、それ私の話だよね?本人ここにいるんだけど?」
オタクとしての熱が湧いており、それはアイですら止めることはできないでいた。彼はスマホを取り出して2人にある写真を見せる。それは、彼女が見たことある物だ。アイのグッズが飾ってあるケース。しかし、前より増えていて。
「俺が数年間、コツコツ集めてきたグッズ達です」
「……うわ、これは……本気だな。ここまで揃えるの、相当だよ」
「……え、ちょっと待って。前より増えてない?絶対増えてるよね、これ」
ケースがもう一つ追加されてある。そのガチっぷりは、吾郎も驚きで、なんなら少し引いている。アイに関しては増えていることに驚いていた。
「…………必要経費だ」
増えたことに言及されると目を逸らして、小さく呟く。
「……いやいや、必要経費ってなにそれ。増やしすぎでしょ」
さすがのアイでもこれを肯定はできなかった。
「……安心してくれ。アイが妊娠してからは買っていない。子供達のためにちゃんと貯金しているから」
「……“してからは”ってことは、それまでは普通に増えてたってことだよね?」
………再び彼が黙った。実のところ、神木輝を救った後に買い足していたのだ。わざわざ新品のケースまで買って。数万円は軽く飛ばしている。彼の趣味がグッズ収集くらいだったのが幸いして、それ以外はあまり自分のためにお金は使っていない。
「……もう一個ケース増えてる時点でバレバレなんだけど?」
「欲しかったから………仕方ないでしょ?」
視線は逸らしたままである。
「推しのグッズは集めたくなる物なんだ……雨宮先生ならオタクとしてのこの気持ちがわかるでしょ?」
なんとこの男、雨宮吾郎まで巻き込みやがった。
「……気持ちは分かるけどね。今ここで同意はできないかな」
巻き込んだが効果はいまひとつで。
「……ほらね、センセにも逃げられてるじゃん」
しばらく黙った後に何事も無かったかのように………
「………よし、今度は歌について話すか」
さりげなく話題を変えてきた。
「……分かりやすいね、その切り替え方」
「……バレバレなんだけど、ほんと」
その後、俺はアイに注意された。グッズを買うのはいいが少し抑えろと。素直に俺はそれに頷いた。子供達のために少しは控えないとなぁ。
アイがこの病院を訪れてから時は進んでいく。28週目に差し掛かっていた。
「君の場合、帝王切開の可能性が高い。赤ん坊の頭蓋骨が大きかった場合、君の体型だと骨盤の開きが足りないことが多いんだ」
その言葉で壱護の顔色が悪くなる。当然だろう……アイドルはステージに立ち、自分そのものが商売道具だ。衣装の関係でお腹が出る物もある。
「大丈夫、自然分娩でいけるよ。だって私の子だよ?きっと小顔で美人に決まっている!」
どこからそんな自信が出てくるんだと思うが、それがアイらしいと思った。
正直に言えば、複雑な気持ちはある。妊娠のこともそうだし、アイの隣にいるのが彼方くんだって現実もね。……でも、それは表に出すものじゃない。だから、それは全力で隠した。だって………彼方くんと話している時のアイは、ステージの上よりも、ずっと自然で……ずっと輝いて見えたから。
「けっこう大きくなってきたよね。なんか実感わいてきたかも」
「……俺たち、本当に親になるんだな」
彼女のお腹に手を当てる彼方。その顔はとても穏やかな顔をしていた。いろいろと肩に乗っていたものから少しだが解放されたからで。
さりなちゃん。君の大切にしていた人たちは、ちゃんと前に進んでいるよ。それぞれ迷いながらでも、自分で選んで、ちゃんと歩いてる。だから、心配はいらない。君が残した想いは、きちんと届いてるよ。
そしてあっという間に出産予定日を迎えた。
「せんせいおつかれさま。でも呼んだらすぐ来てよ?」
「おぅ……家はすぐ近くだしな」
「彼方も早く来てくれないか?」
彼方くんは、仕事が立て込んでいて、さっきまで東京にいたらしい。1時間前に飛行機に乗ったと連絡は来ていたけど、到着まではもう少しかかるだろう。
にしても、なかなか大変だね。ここ最近は東京と宮崎を行き来してるんだろう?あの年齢でそれをやってるのは、正直たいしたものだと思うよ。
「……間に合うさ。彼方くんは、そういう時に外さないよ。」
「うん。ありがと……せんせい」
これが終わったらアイとの繋がりもなくなり、ただのファンに戻る。
「まぁ来れなくても代わりの先生来てくれるし」
「やだ、センセが良い」
ちょっと裏側も見えたけど。でも前より好きになった感すらある。彼方くんに関してはアイの話をするために電話をかけてきそうだが。彼の勢いに押されてつい交換してしまった。2人の幸せを心から応援……。
「あんた、星野アイの担当医?」
雨宮吾郎がそんなことを考えていたその時だった。彼の背後から男の声が響く。振り返るとそこには、フードを深く被っている男の姿。
「……」
2人に静かな緊張感が走った。
「彼女が受診する際は偽名を使っている。病院で見かけたにしても、なんで公表されていない彼女の苗字を知ってる?」
そう、身バレ防止のために偽名を彼女は使っていた。アイの苗字を知る人間は一部しか知らない。目の前にいる男がその苗字を知っていること自体がおかしいのだ。
「関係者?……名前を聞いていいか?」
彼の質問に男は答えず逃走。山道の方に逃げ込んでいく。
「おい!ちょっと待て!」
呼び止めるべきか、一瞬迷った。だが………このまま見逃す方が、よほどまずい気がした。
逃げ出した男を追いかけるため、彼も山道に入る。
もしかしてストーカー?出産も控えたこのタイミングで……。見失った。クソ……こんな山道走らせやがって……。
もう既に暗く、木や葉に囲まれた場所での追跡は困難を極める。完全に見失った。捜索のためにスマホのライト機能を駆使して辺りを照らす。
「どこいった?」
探すことに集中し、背後がおろそかになっていたその時、背後から思いっきり押された………。
……んっー……。
あー、びっくりした。
どうやら足を滑らせたのかな?
その時、スマホの着信音が鳴り響く。それは、B小町のヒットソング「サインはB」。聞きなれた音楽が耳に届く。
携帯……。
もしかしてアイが産気づいたか?
どこだ……携帯……。
暗くて分からん。
ていうか体が動かねぇ。
彼方くんはそろそろ着いたか?
俺も早く行かなきゃ……。
約束したんだ、元気な子供を産ませるって。
それに彼方くんからアイを預かったんだ。
早く起きて……あの子の子供を………。
その思いは叶うことはなかった。雨宮吾郎という人間の最後は、暗い山の中で一人、孤独に約束を果たせず、未練を残したままその生涯を終えた。
雨宮吾郎に関しては原作と同じ結果にしました。神木輝は救ったのに何故でしょうか?
それと、第4章「親と子」は70話まで続きます。次の章を書き始めております。5章に関しては10話以内に収めるつもりです。
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各章解説と他作品の元ネタ解説いるかどうか。
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いる
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いらない