一番星は消えない   作:ディバル

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058 親として

 

 

 

 

「たっだいま〜♪」

 

今の時刻は22時。歌番組が終わって家に戻ってきた。彼女の声に反応するように足音が近づいてくる。近づいてきたのは、エプロンを付けていた彼方。

 

「お疲れ様……お風呂にする?それともご飯にする……好きな方を選んでくれ。もう両方準備はできている」

 

「んー……じゃあさ、両方ほしい。ご飯もお風呂も、それと……ちょっとだけ、ぎゅーも」

 

どっちがいいか聞いたのに両方ねだってきた。そして、両手を開き待っている。抱きしめられるのを待っているな、これ……。

 

「ね、はやく……ぎゅーして?」

 

「わかった……復帰おめでとう。そして、お疲れ様……」

 

頑張ったアイを労うために抱きしめる。最初はぎこちなかったが、今ではすっかり抱きしめられるようになった。

 

「ん……えへへ、あったかい……やっぱりこれが一番好き」

 

アイも抱きしめてくる。しっかりと抱きしめられるようにはなったが、ドキドキする。そのまま抱きしめ続ける。

 

「…………………」

 

いつまで抱きしめるんだ?しばらく時間が経ったが一向に離そうとしない。そろそろ5分くらい経つけど?このままだと、ずっとこうしてしまいそうだ。

 

「アイ……そろそろ離れようか」

 

「んー……やだ。もうちょっとだけ……このまま」

 

えぇ…………。抱きしめる力が強くなったんですけど?嫌じゃないし……好きにさせるか。俺も、もう少しだけ抱きしめよう。

 

彼はアイに甘かった。結局、そのまま30分間、2人は玄関で抱きしめ続けていた。そして、満足したらしくアイは彼から離れる。

 

「んー……充電できた。これでまた頑張れる」

 

電気か何かなのか、俺は?

 

「それで……ご飯とお風呂どっちにする?両方同時は無理だぞ」

 

「んー……じゃあ、ご飯先。お腹すいたし、そのあと一緒にお風呂入ろ?」

 

…………一緒に?いや……今はわかる。だけど、一緒には……いや、そもそもいろいろ段階を飛ばしたから今更か。

 

アイは洗面台に向かい、手を洗いに行った。その間に作った物を温め直す。お箸、飲み物、その他諸々を用意。用意が済んだ頃にはアイが到着。

 

「お腹すいた〜……ね、はやく食べよ?」

 

彼女と一緒に座って手を合わせて合掌。

 

「「いただきます」」

 

一緒に食べるのが当たり前になっていた。数ヶ月は1人で食べていたのに。……やっぱり誰かと食べる食事はいい。心も満たされていく。

 

「そう言えば、話があるけどいいかな?」

 

「ん?なに〜?そんな改まって」

 

ご飯を頬張りながら聞いている。

 

「アクアとルビーの話。アイ……2人の名前と姿をしっかりと覚えられるようにしようか」

 

母親として大事なこと。自分の子供の名前と姿をちゃんとわかるようにする。アイは人の顔と名前を覚えるのが苦手だ。社長である壱護さんですらまだ間違えている。そして、アクアとルビーの見分けがついていない。

 

「んー……だってさ、ほんとに似てるんだもん。ほら、ちょっと間違えるくらい大目に見てよ〜……ちゃんと覚えるってば」

 

その言葉は、とても軽い。これが問題だ。

 

「こればかりは引かない……あの子たちにはしっかりと愛情を注いで成長してほしい。アイも名前を何度も間違えられるのは嫌だろ?」

 

前世で俺は親に恵まれたが、アイはそうではない。実質的に母親から捨てられた。そんな彼女がこの歳で親に。いきなりは無理だろう。そう言う俺も、一言とやかく言えるほど父親をやれているかどうかわからない。

 

彼の言葉にしばらくの間、アイは黙って考えていた。そして………

 

「……うん。……わかった。ちゃんとやる。あの子たちのこと、間違えないように覚える」

 

真剣な彼の眼差しと言葉を受けて、彼女も軽いことではないと理解し言葉を返した。そこにさっきの軽さはなかった。

 

「あぁ……ゆっくりでいい。一緒に頑張っていこう」

 

急ぐ必要はない。まだ2人も生まれてきたばかり。それに、初めてのことだ。最初から完璧にできる人間なんていない。誰しも悩み、考え、それぞれの問題に当たる。今まさに俺たちがそれだ。

 

そんなことを話している時だった……。

 

「ふぇぇ……ふぇぇん!」

 

泣き声が寝室から聞こえる。この声からしてルビーかな?

 

「オムツか……それともお腹が空いたのかな?」

 

食事の手を止めて寝室に向かい、ルビーとついでにアクアを連れてくる。ルビーの声で起きてしまった。ルビーのオムツは問題ない。

 

「アイ……ルビーがお腹を空かせたみたい。お願いできる?」

 

ルビーをアイに手渡す。ルビーはアイの母乳の方が好きだ。なので、アイに任せる。

 

「ん、いいよ。ほらルビー、おいで……いっぱい飲もうね」

 

ルビーの方は大丈夫そうだ。

 

「アクアはお腹空いているかな?」

 

「……うぇ……あー……ん」

 

小さく声を漏らしながら、口をもぐもぐと動かしている。腕の中で体をくねらせて、何かを探すように顔を寄せてきた。

 

「ちょっと待ってね、サッと作るから」

 

抱っこ紐でアクアが落ちないように固定して両手をフリーにする。そして、そのまま作る。熱々なので短時間で冷やし、人肌程度の温度にして飲ませる。

 

「待たせて悪かったね……ほら、どうぞ」

 

ゆっくりと飲ませていく。アクアは母乳よりも哺乳瓶で飲む方がいいみたいだ。その理由はなんとなくわかるが、言及しないでおく。

 

「よし……いい子だな」

 

飲み終わった後に背中を優しくトントンと叩き、ゲップをさせる。

 

「アイ……ルビーをこっちに。俺が抱っこしているからご飯食べちゃいな」

 

「んー……ありがと。じゃあお願い……すぐ食べてくるから、そのまま見ててね」

 

ルビーを受け取り、2人を抱っこする。やはり小さい……赤ちゃんなのだから当たり前だが、俺も昔はこんなに小さかったのか……と思ってしまう。座りながらしばらく抱っこを続ける。これは、ご飯は少し後かな?

 

「ね、彼方……ほら、あーん。今動けないでしょ?私が食べさせてあげる」

 

箸で崩れないようにそっと肉じゃがをつまみ、落とさないように少しだけ手元を寄せる。距離を詰めて、こぼさないようにゆっくり彼の口元へ運んだ。

 

「……ありがとう。助かるよ」

 

うん……今日もご飯の出来がいい。そのままアイに食べさせてもらう。食べさせてもらうのはいいんだけど……アクア、ルビー、そんなにマジマジと見ないでくれるかな?

 

「……あー……あー……」

 

「……きゃっ……あぅ」

 

アクア、なんで真顔でガン見してるの?ルビー、なんで手を叩いて喜んでいるのかな?まぁ……一つだけ言えることがあるなら、とても平和だということだ。この幸せがずっと続けばいいのに。

 

でも、まだ油断はできない。雨宮先生のことがある。俺の考え過ぎであればいいのだが……。恐らく彼はもう……。せめて事故であると願うしかない。そんなことを考えながら、アイに食べさせられ続けた。

 

 

 

 

「……すぅ……すぅ……」

 

「……くぅ……すぅ……」

 

食事を終えた頃には、2人は眠り夢の中に。俺の腕の中で眠っている抱っこ紐の存在がとてもありがたく感じる。これがあるから2人を落とす心配がないのだから。

 

「……ふふ、かわいい。いっぱい騒いで、ちゃんと寝ちゃったね」

 

「あぁ……大変だけど、癒される」

 

まるで天使みたいだ。本当に……親になったんだな。……前世では子供はいらないと思っていた。でも、こうして自分が親になり実際に育てると、自分のその考えが簡単に覆った。

 

子供たちを寝室のベビーベッドに寝かせる。

 

「……一緒にお風呂、入ろ?」

 

リビングに戻ってから、正面から抱きしめられ、そんな言葉が耳に届く。そう言えば、帰ってきた時に言ってたな。

 

「子供たちともう入ったんだけどなぁ……」

 

「えー、いいじゃん。もう一回入ろ?今度は私とだよ。せっかく一緒にいられるんだからさ、ちょっとくらい甘えてもいいでしょ?」

 

「……わかった」

 

また押し負けた。やっぱりアイには甘くなってしまうな。そんなことを思いながら、アイにお風呂場に連行されてゆく。

 

 






オマケ 2人の名前を頑張って覚えるアイ

「えっと……この子がアクアで……」

「違う……そっちはルビー」

「じゃ、じゃあこっちがルビー!」

「違う……そっちがアクア」

3日後

「えっと……この子がアクアで……」

「……あってる」

「で、こっちがルビー!」

「はい……よくできました」

「えへへ……やっと覚えられたぁ」

(……またイチャついてるよ、この2人)

(朝から甘すぎない?)


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