一番星は消えない   作:ディバル

60 / 68
059 もう一度の人生

 

 

 

 

俺の名前は、星野愛久愛。これが今世の俺の名前である。あの時、俺は死んだ。しかし、目が覚めたら…………

 

「おはよう……アクア」

 

転生し、星野アイの息子として生きている。現実を受け入れるまで時間は掛かったが、どうやら生まれ変わったらしい。今風に言うのなら転生と言うべきだろうか?

 

最初は、都合のいい夢かと思ったが、夢にしては長すぎる。何故、転生したのか気になる所だが……

 

「ん〜……おはよ。今日も、かわいいね」

 

アイに抱っこされる。今は、この赤ちゃんライフを堪能しよう。推しのアイドルが思いっきり甘やかしてくれる環境……控えめに言っても最高だ。

 

「うわぁぁぁん……」

 

そう言えば、俺には兄弟がいる。

 

「どうした……ルビー」

 

星野瑠美衣。俺の双子として産まれた子供だ。そして、そんなルビーを抱っこしているのは、天城彼方。前世で関わりがあった存在で、同じ推しの話をした仲間だ。

 

最近、知ったのだが彼は、モデルやドラマに出ているマルチタレントだ。出ているドラマをアイから見せられたが………なんと言うか不気味で、アイとは違う目の離せなさがある。

 

「今日も元気で、パパは嬉しいぞ」

 

笑顔でルビーを抱っこしている。2人が仕事の時は、ミヤコさんが見てくれるけど、彼方くんが家にいる時は、俺たちの面倒をしっかりと見てくれている。いろいろと不器用な面もあるが、いい父親と言えるだろう。

 

それに対して、アイは母親としては相当、駄目な部類になるだろう。名前をよく間違えている。けど……最近、それが少し改善されつつある。何がきっかけかは、大体察しが付くが、きっと彼方くんが何か言ったのかな?

 

「パパのこと見てるじゃん〜。どうしたの? 甘えたいの? ほらほら、行っておいで〜?」

 

彼方くんの方を見ていると、アイがそれに気づき彼方くんの方に近づけられる。

 

「お……アクア。今日も可愛いな」

 

ルビーをアイに手渡し、代わりに彼がアクアを抱っこする。嬉しそうに笑顔を浮かべていた。その顔は、紛れもない父親の顔だ。

 

「今日も元気で嬉しいぞ」

 

こんな笑顔で言われて正直照れくさい。だから、思ってしまう。アイや彼方くんには、普通の子供を育てて欲しかったと。

 

「じゃ、行ってくるね〜。ちゃんといい子で待っててよ」

 

「ミヤコさん、アクアとルビーをお願いします」

 

アイと彼方くんは仕事に向かった。ミヤコさんが俺たちの面倒を見る事になる。この人も大変だ。やっている事がほぼベビーシッターであるのだから。

 

 

 

 

それから、ミヤコさんに面倒を見てもらいながら時間は過ぎていき………気づけば、外はすっかり暗くなっていた。

 

「ほら……ルビー、起きろ。もう直ぐ始まるぞ」

 

眠っているルビーの体を軽く揺らす。もう直ぐ、彼方くんが出るドラマが始まる。ルビーに始まる前に起こせと言われたからだ。

 

「……ん……んん……」

 

一瞬だけ眠たそうに目を擦ってから………

 

「……もう始まるの?」

 

はっきりした声で状況を確認する。

 

「起こしてくれてありがと……見逃したら最悪だったんだから」

 

そう言いながら、小さい体のまま当然のようにテレビの方へ視線を向ける。こいつも、俺と同じ転生者だ。それに気づいたのは、ここで生活し始めて少し経った時だった。

 

 

 

 

回想

 

あれは、アイと彼方くんが寝静まった深夜の時だった。

 

「はぁ……死ねよ?? ママの才能と美を理解しない猿人類が………!パフォーマンスの質で格の違い明らかでしょ!!それと………パパの演技が気持ち悪過ぎて無理? それがいいんでしょ?」

 

こいつはスマホ2台を見ながら「アイ B小町」、「天城彼方」などでTwitterをエゴサし、アンチと壮絶なリプ合戦を繰り広げたのである。

 

「お前もしかして俺と同じか?」

 

「え………」

 

アクアが声をかけると、しばらくの間固まって………

 

「赤ん坊がしゃべった! キモッ」

 

「お前もだろ」

 

自分の事を棚に上げてルビー。こうして、2人は自身が置かれている状況が同じだと知る。

 

 

 

 

 

回想終了

 

「パパ……やばっ……今日も安定して気持ち悪い!これがパパの良さなのに! みんなわかってないなぁ!」

 

テレビに映る彼方くんを見て興奮するルビー。アイと彼方くん、両方が推しみたいだ。この様子からして前世からの推しらしい。随分とピンポイントな確率を引いているなこいつ。

 

ドラマが終了。こうしてみると本当に彼が役者なんだなぁと思ってしまう。

 

「顔良し、演技良し……ウチの父、まじのまじで強すぎる……!!もう一回見よ……!」

 

ルビーの熱量に少しだけ呆れながらも、否定する気にはなれなかった。確かに彼方くんの演技には、人を引き込む何かがある。見ていて心地いい類のものではない。けれど、目を逸らせない。そんな妙な魅力があった。

 

それに………あれだけ忙しく働きながら、家では俺たちを抱き上げ、ミルクを作り、オムツまで替えているのだ。画面の中で不気味な笑みを浮かべる男と、家で子ども相手に頬を緩める父親が同一人物だとは、未だに少し信じ難い。

 

だけど、素直に尊敬している。そんな事は、なんて口が裂けても言わないが。少なくとも……俺は、この人が父親でよかったと思い始めていた。

 

それと同時に、アイの幸せそうに笑う姿。アイのパートナーが彼でよかったとも思う。

 

「……っはぁ〜……やっぱ無理、最高……」

 

食い入るように画面を見つめながら、両手を胸の前でぎゅっと握る。

 

「この表情……ここで目線落とすの天才すぎるでしょ……!」

 

小さな体をぴょこぴょこと揺らし、興奮を抑えきれていない。

 

「ねぇ、見た!? 今の間! 今の沈黙! あれがいいの!」

 

返事も待たずに巻き戻しを要求するように、リモコンへ短い腕を伸ばした。

 

「もう一回……次は瞬きしないで見る……!」

 

ルビーがリモコンを手に取り、見返そうとしようとした時だった。

 

「…………え?」

 

背後から、間の抜けた声が落ちた。

 

振り向けば、ミヤコさんが飲み物の入ったコップを片手に、入口でぴたりと固まっている。目は見開かれ、口は半開きのまま止まっていた。

 

「……今、喋った?」

 

静まり返る部屋。ルビーの手からリモコンがするりと落ちかけ、俺も思考が止まる。

 

「え、ちょ、待って……赤ちゃんが会話してた?」

 

ミヤコさんはゆっくりとこちらを指差し、震える声で続ける。

 

「しかも感想が濃いのよ!? 演技論まで言ってたわよね!?」

 

ルビーはさっと無表情になり、何事もなかったように天井を見上げた。

 

「……あー、あー」

 

今さら赤ちゃんのふりをするな!!

 

「誤魔化せるわけないでしょ!!」

 

ミヤコさんのツッコミが、夜のリビングに響き渡った。完全に油断していた。さっきまで寝ていたのに。

 

「ねぇ……これどうするの?」

 

「どうするも何も、なんとかするしかないだろ?」

 

2人は彼女に聞こえない声量で作戦会議を始めた。

 

「ちょ、ちょっと待って……待って待って待って……!」 

 

ミヤコさんは額を押さえ、その場でふらつくように数歩よろめいた。コップをテーブルに置く手もわずかに震えている。

 

「赤ちゃんが喋った……いや、会話した……しかも内容しっかりしてた……」

 

ぶつぶつと現実確認のように呟きながら、俺たちとテレビを交互に見る。

 

「これ……病院? 病院案件? でも何科!? 小児科!? 脳外科!? いや天才児ってそういうレベルじゃないわよね!?」

 

頭を抱えてしゃがみ込み、今度は勢いよく顔を上げた。

 

「いや、先にアイさんたちに連絡!? でも仕事中よ!? 『すぐ帰ってきて、子どもが喋った』って何!? いたずら電話だと思われるわ!」

 

ルビーが小さく咳払いした。

 

「……落ち着いて」

 

「落ち着けるかぁ!!」

 

即座にツッコみながら、ミヤコさんはまた頭を抱える。

 

「え、なにこれ……私だけがおかしくなった可能性ある? 疲れてる? 幻聴? でも二人いたし……!」

 

そしてしばらく悩んだ末、スマホを握りしめて震える声で呟いた。

 

「……とりあえず、証拠……動画撮る……?」

 

そんな彼女の様子を見たルビーは……

 

「うわっ……やばっ! どうする、殺す!?」

 

「無理だ………体格差がありすぎる」

 

「こっちは冗談で言ってるんだけど、もしかしてそっちは本気?」 

 

処理する方向で話を進めていた。なんとも単純で危ない考えである。

 

ほっといたら不味いのは間違いない。だけど………むしろコレはチャンスと考えた方が………。

 

アクアの脳内で、この危機的状況をどうにかする為の作戦が組み上がってゆく。その思考時間、わずか0.35秒。

 

「俺に考えがある」

 

アクアがルビーに作戦を伝える。

 

「……アイさんに連絡する?いや……先に病院?……どうしよう……」

 

彼女が今後の対応をどうするか考えていると、声が響き渡った。

 

「哀れな娘よ……とりあえず落ち着くがいい」

 

ミヤコの視線が、その声のした方向へと向かう。いつの間にかソファーに座り、腕組みをしているアクアの姿が彼女の目に映る。

 

「誰?」

 

「わ……我は天の使いである」

 

まだ、生まれて数ヶ月もしない赤ん坊が流暢に言葉を喋る姿に、ミヤコの脳内がさらに掻き乱される。

 

「いやいや……流石に神とか言われても……私、そういう宗教的なの信じないし」

 

「あっ……わかった。これドッキリでしょ? アイさんか彼方さんのどっちかが出る番組で、マネージャードッキリとか!」

 

(くっ………流石に無理があるか………。)

 

アクアがそう考え始めていたその時だった。

 

「慎め。我はアマテラスの化身。貴様等の言う神なるぞ」

 

低い声が響き渡る。それは、ルビーの声だった。赤ん坊の姿と相まって、その姿は不気味に見えるが、確かな存在感が出ている。

 

「星野アイと天城彼方。この2人は芸能の神に選ばれた。そして、その子等もまた……大いなる宿命を持つ双子………」

 

「それ等を守護するのが汝の役目。我らの事を他言するのは許さん」

 

ミヤコの腰が抜け、その場に座り込む。その圧倒的な異質感。それが、この場を支配する。さっきまでの疑いの声が消えていた。

 

「貴様の行いは神に背く行為……このままでは汝に天罰が下るであろう」

 

「天罰!? 天罰って具体的には!?」

 

「具体的に?………具体的には………」

 

「死ぬ」

 

言葉に詰まっていた所に、アクアのサポートが入った。

 

「そう! 死ぬ!」

 

「私………どうすれば」

 

「簡単な事。我々の秘密を守る事。そして、この子等を可愛がり、言う事を全部聞くのじゃ………」

 

今の状況を乗り越える為の一時凌ぎのはずだったのに、いつの間にか自分の欲望も上乗せしていた。

 

「わ、わかった……言わない、誰にも言わないから……!」

 

この人が不憫に見えてきたな。

 

「ちゃんと面倒見るし……可愛がるし……!だから、その……天罰だけは勘弁してください……!」

 

なんとかこの危機的状況を切り抜けた。ルビーがドヤ顔をしながら俺を見てくる。その顔が少しウザかった。元は、こいつが悪いのに。

 

次の瞬間、アクアは無言でルビーの頭を叩いた。

 

 

 






本作のミヤコさんはアイや彼方にかなり心を許しております。そして、彼方が積極的に育児に励んでいるので文春に情報を売ろうとはしませんでした。


皆様の感想や評価が作者のやる気に繋がっています。よければ評価と感想をお願いします。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。