一番星は消えない   作:ディバル

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060 生まれ変わった奇跡

 

 

 

 

アクアが立てた作戦とルビーの演技により、なんとか誤魔化すことに成功した2人。

 

「これで良かったのかな……?」

 

「どのみち乳児の活動範囲には限界がある。大人の協力は必要だった」

 

いくら前世の知識があっても、俺たちはまだ赤ん坊だ。動ける範囲といえば、せいぜいこの家の中くらいだろう。でも、ミヤコさんという大人の力を借りれば、外にいてもおかしくはない。

 

「これで外にも出れるな」

 

「やった!」

 

両手を上げ、バンザイをしながら喜ぶルビー。

 

それにしても……。

 

「しかし、なかなか迫真の演技だったな。どこかで演劇やっていたのか?」

 

「ううん……初めてやった」

 

「初めて?」

 

「……私、ちょっと変わった場所で育ったから」 

 

「ふーん?」

 

初めてにしては、出来すぎていた。あの時のルビーは……彼方くんがほんの少しだけ過った。他人に圧をかける、あの不気味な演技。天城彼方は、そうやって売れてきた。それとルビーが重なったような……。

 

「じゃあ才能だ……将来は女優かな」

 

アクアの言葉の後、少し考え込んだ末に。

 

「将来……考えたことなかった」

 

そんな言葉を呟くルビー。しかし、その言葉はすぐに流れるテレビの音により消えていく。

 

深夜……2人が寝静まった後に、アクアが目覚める。近くにルビーはいない。リビングに向かい彼女を探していると、ソファーを背にぐっすりと眠るルビーの姿。

 

アクアはそんな彼女を横に寝かせ、掛け布団をかける。

 

俺に妹が出来た。アイドルオタで、俳優オタでもある。変わった女だ。でも………

 

「アイや彼方くんについて語る時の熱量は、君にそっくりな子だよ……さりなちゃん」

 

その声に反応して、ルビーが起きる。

 

「ふぁ……なに? なんか呼んだ?」

 

「悪い、起こしたか」

 

「呼んでねぇ。寝るなら布団で寝ろ」

 

「ん〜……」

 

眠い目を擦りながら歩く。そして、彼女は振り返り、アクアの方を見る。

 

「まぁ……そうだよね……そんなわけないか……さりなは前世の名前だし」

 

互いに求めている者が、すぐ近くにいるとは思いもしないだろう。なぜ2人が転生したのかはわからない……2人がその事実を知るのは、まだ先の話である。

 

 

 

 

 

私の名前は星野瑠美衣。……前世の記憶、ある。前の人生は、13歳で終わった。短くて、理不尽で、つらいこともたくさんあった。叶えたいことも、見たかった景色も、まだまだいっぱい残したまま。

 

……でも、今世は違う。

 

「あーうー」

 

「ルビーは甘えん坊さんだね」

 

ママは、あの星野アイ。世界でいちばん可愛くて、キラキラしてて、最高のアイドル。めちゃくちゃ幸せ。だって、大好きな推しが親で、抱っこされているのだから。

 

「ほら〜……パパだよ」

 

アイがテレビの方を指差す。そこには、バラエティー番組に出演している彼の姿。テレビに映るパパの姿。……天城彼方。顔良し、演技良し、存在感バグってるくせに、家ではちゃんと優しい。しかも私と同じで、ママ推し。そこ重要。かなり重要。

 

前世の頃は、ママとパパ、2人と電話越しでけっこう話してた。パパに関しては、本当の兄のように慕っていた。パパとはオタク仲間っていうか、同志っていうか、そんな感じ。

 

……でも、まさかその2人がくっ付いて、しかもその娘として生まれてくるなんて、誰が予想できるの?人生、たまに意味わかんないレベルで神展開してくる。

 

それと、最近知ったんだけど……パパ、外では一人称が「私」なんだよね。

 

……え、あの演技で? あの圧で? あの不気味さと色気と存在感で?それで「私」って名乗ってるの、強すぎない? ギャップで人を殺しにきてるでしょ、あれ。

 

「彼方ぁ……まだ帰ってこないのかなぁ〜……」

 

完全に女の顔じゃん……。

 

ママのこんな表情、たぶん見られるの私たちくらいだよね? レア映像すぎるんだけど。しかも隙あらばイチャつくし。ほんと油断するとすぐ甘々空間になる。で、アクアはアクアで「やれやれ……」みたいな顔してる。いや、わかる。

 

テレビに映る自分の父親を見ている3人。

 

『そうですね……最近の趣味は可愛いものを見て癒やされてますね』

 

「ふぇっ!?」

 

「……………」

 

バラエティー番組の質問で、最近の趣味についてそう答える彼。

 

部屋がシーンと静まり返った。最近、彼が可愛いと言っているのは……

 

それ……私たちのことじゃん?いや、ちょっと待って? あの涼しい顔で地上波使って子ども自慢してるってこと!?

 

ママもアクアも固まってるし、私もまだこのタイプの惚気には慣れてないんだけど!?

 

彼は、見事なまでに親バカになっていた。関係者以外から見たら意外な趣味に見えるが、身内からすれば高度な身内自慢である。

 

「えっ……えへへ……なにそれぇ……」

 

顔を赤くしながら、照れたように頬へ手を当てる。

 

「彼方、そういうの外で言うんだ……ずるくない?」

 

口では困ったように言いながら、嬉しさは隠しきれていない。

 

「可愛いものって……私のことも入ってるよね?」

 

誰に確認するでもなくそう呟き、テレビの彼に向かってむっと頬を膨らませる。

 

「……帰ってきたら聞こ〜っと」

 

あっ……これダメなやつだ。パパ帰ってきた瞬間、絶対イチャつく流れじゃん。見える。未来が見える。リビングがまた甘々空間になるやつ。

 

それから2時間くらいで、パパが帰ってきた。で、玄関開いた瞬間にママが抱きついて、そのまま当然みたいにイチャイチャタイム突入。見てるこっちが恥ずかしくなるくらい甘い空気出してて、私は途中から視線そらしてた。

 

アクアは無の顔してた。それからお風呂とご飯を済ませて、ママは満足したみたいに先に寝ちゃった。

 

「まだ起きていたか……寝る前に抱っこさせてね」

 

リビングに戻ってきたパパは、そのまま私とアクアをひょいって抱っこした。……すっごい笑顔。さっきまでテレビの中で、あんな圧強めの顔してた人と同一人物と思えないんだけど?家だとずっと顔ゆるんでるし、ほんとに幸せそう。

 

「やっぱりうちの息子、娘たちは可愛い……アイも可愛いけど」

 

……いや、最後にママ入れるんだ。子ども褒めてる流れから自然に嫁自慢へ繋げるの強すぎでしょ……。パパ、ほんとそういうとこだよ……。

 

「アクア、ルビー元気に育ってくれ」

 

前世で病気になってから、家族はほとんど会いに来てくれなかった。そんな時、先生がいてくれて、アイがいてくれて、お兄さんがいてくれた。大好きなアイの話をして、お兄さん越しにアイとも話せて……あの時間が、私にはすごく大事だった。

 

そのお兄さんが、今では私のパパになってる。人生ってほんと何があるかわかんない。……でも、1つだけはっきり言える。この人がパパでよかったって、心の底から思える。

 

だってパパは、見返りとか理由とかそんなの関係なく、まっすぐに愛情をくれる人だから。こんなふうに大事にしてもらえる毎日は、たぶん奇跡みたいなものだ。

 

「さて……そろそろ寝ようか」

 

抱っこされたまま寝室へと向かっていく。ベビーベッドに2人をそっと下ろして、寝る前に2人の頭を優しく撫でてくる。

 

「おやすみ……また明日」

 

パパの手の感触が、私たちを包むみたいにちゃんと伝わってくる。あったかくて、大きくて、すごく安心する手。前世では、もし生まれ変われたらなんて、都合のいいことを何度も考えてた。

 

そんな奇跡みたいな話、あるわけないって思いながら。……でも今、その夢みたいなことが本当に起きてる。こうして大好きな人たちに囲まれて、愛情を注いでくれている。

 

数分もしないうちに眠ってしまった。外では仕事、家では育児と、本人が気付かないうちに疲れが溜まっていたのだろう。

 

「……寝たな」

 

パパの胸がゆっくり上下している。さっきまで私たちを抱いていた腕は、もう力が抜けていた。

 

「寝たね。秒だったね」

 

思わず小さく笑う。こんなに一瞬で眠るなんて、相当限界だったんだと思う。

 

「相当疲れてたんだろ」

 

アクアは呆れたように言いながら、そっと毛布を肩まで引き上げた。

 

手つきはやけに丁寧だった。

 

「仕事して、帰ってきて、私たちの世話して、ママとイチャついてたしね」

 

「最後はいらない」

 

即答だった。

 

「でも事実じゃん」

 

「……否定はしない」

 

小さくため息をつく声に、私が吹き出しそうになる。 

 

「見て、寝顔すごい穏やか」

 

テレビの中じゃあんな顔もするのに、今はびっくりするくらい優しい顔だった。

 

「家だと安心してるんだろ」

 

その言葉は静かだったけど、どこか嬉しそうにも聞こえた。

 

「毛布かけてるアクア、やさし」

 

「うるさい」

 

そっぽを向くアクアの横顔は、少し照れている。

 

「私も手、握っとこ」

 

パパの大きな指をぎゅっと握る。あったかくて、安心する温度だった。

 

「好きにしろ」

 

ぶっきらぼうなくせに、止めはしない。

 

「……この人がパパでよかったね」

 

自然に零れた本音だった。胸の奥がじんわり熱くなる。

 

「……ああ」

 

短い返事。でもその一言だけで、アクアも同じ気持ちなんだとちゃんとわかった。

 

規則正しい寝息が部屋に響く。ようやく静かになった夜だった。

 

 

 







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