アクアが立てた作戦とルビーの演技により、なんとか誤魔化すことに成功した2人。
「これで良かったのかな……?」
「どのみち乳児の活動範囲には限界がある。大人の協力は必要だった」
いくら前世の知識があっても、俺たちはまだ赤ん坊だ。動ける範囲といえば、せいぜいこの家の中くらいだろう。でも、ミヤコさんという大人の力を借りれば、外にいてもおかしくはない。
「これで外にも出れるな」
「やった!」
両手を上げ、バンザイをしながら喜ぶルビー。
それにしても……。
「しかし、なかなか迫真の演技だったな。どこかで演劇やっていたのか?」
「ううん……初めてやった」
「初めて?」
「……私、ちょっと変わった場所で育ったから」
「ふーん?」
初めてにしては、出来すぎていた。あの時のルビーは……彼方くんがほんの少しだけ過った。他人に圧をかける、あの不気味な演技。天城彼方は、そうやって売れてきた。それとルビーが重なったような……。
「じゃあ才能だ……将来は女優かな」
アクアの言葉の後、少し考え込んだ末に。
「将来……考えたことなかった」
そんな言葉を呟くルビー。しかし、その言葉はすぐに流れるテレビの音により消えていく。
深夜……2人が寝静まった後に、アクアが目覚める。近くにルビーはいない。リビングに向かい彼女を探していると、ソファーを背にぐっすりと眠るルビーの姿。
アクアはそんな彼女を横に寝かせ、掛け布団をかける。
俺に妹が出来た。アイドルオタで、俳優オタでもある。変わった女だ。でも………
「アイや彼方くんについて語る時の熱量は、君にそっくりな子だよ……さりなちゃん」
その声に反応して、ルビーが起きる。
「ふぁ……なに? なんか呼んだ?」
「悪い、起こしたか」
「呼んでねぇ。寝るなら布団で寝ろ」
「ん〜……」
眠い目を擦りながら歩く。そして、彼女は振り返り、アクアの方を見る。
「まぁ……そうだよね……そんなわけないか……さりなは前世の名前だし」
互いに求めている者が、すぐ近くにいるとは思いもしないだろう。なぜ2人が転生したのかはわからない……2人がその事実を知るのは、まだ先の話である。
私の名前は星野瑠美衣。……前世の記憶、ある。前の人生は、13歳で終わった。短くて、理不尽で、つらいこともたくさんあった。叶えたいことも、見たかった景色も、まだまだいっぱい残したまま。
……でも、今世は違う。
「あーうー」
「ルビーは甘えん坊さんだね」
ママは、あの星野アイ。世界でいちばん可愛くて、キラキラしてて、最高のアイドル。めちゃくちゃ幸せ。だって、大好きな推しが親で、抱っこされているのだから。
「ほら〜……パパだよ」
アイがテレビの方を指差す。そこには、バラエティー番組に出演している彼の姿。テレビに映るパパの姿。……天城彼方。顔良し、演技良し、存在感バグってるくせに、家ではちゃんと優しい。しかも私と同じで、ママ推し。そこ重要。かなり重要。
前世の頃は、ママとパパ、2人と電話越しでけっこう話してた。パパに関しては、本当の兄のように慕っていた。パパとはオタク仲間っていうか、同志っていうか、そんな感じ。
……でも、まさかその2人がくっ付いて、しかもその娘として生まれてくるなんて、誰が予想できるの?人生、たまに意味わかんないレベルで神展開してくる。
それと、最近知ったんだけど……パパ、外では一人称が「私」なんだよね。
……え、あの演技で? あの圧で? あの不気味さと色気と存在感で?それで「私」って名乗ってるの、強すぎない? ギャップで人を殺しにきてるでしょ、あれ。
「彼方ぁ……まだ帰ってこないのかなぁ〜……」
完全に女の顔じゃん……。
ママのこんな表情、たぶん見られるの私たちくらいだよね? レア映像すぎるんだけど。しかも隙あらばイチャつくし。ほんと油断するとすぐ甘々空間になる。で、アクアはアクアで「やれやれ……」みたいな顔してる。いや、わかる。
テレビに映る自分の父親を見ている3人。
『そうですね……最近の趣味は可愛いものを見て癒やされてますね』
「ふぇっ!?」
「……………」
バラエティー番組の質問で、最近の趣味についてそう答える彼。
部屋がシーンと静まり返った。最近、彼が可愛いと言っているのは……
それ……私たちのことじゃん?いや、ちょっと待って? あの涼しい顔で地上波使って子ども自慢してるってこと!?
ママもアクアも固まってるし、私もまだこのタイプの惚気には慣れてないんだけど!?
彼は、見事なまでに親バカになっていた。関係者以外から見たら意外な趣味に見えるが、身内からすれば高度な身内自慢である。
「えっ……えへへ……なにそれぇ……」
顔を赤くしながら、照れたように頬へ手を当てる。
「彼方、そういうの外で言うんだ……ずるくない?」
口では困ったように言いながら、嬉しさは隠しきれていない。
「可愛いものって……私のことも入ってるよね?」
誰に確認するでもなくそう呟き、テレビの彼に向かってむっと頬を膨らませる。
「……帰ってきたら聞こ〜っと」
あっ……これダメなやつだ。パパ帰ってきた瞬間、絶対イチャつく流れじゃん。見える。未来が見える。リビングがまた甘々空間になるやつ。
それから2時間くらいで、パパが帰ってきた。で、玄関開いた瞬間にママが抱きついて、そのまま当然みたいにイチャイチャタイム突入。見てるこっちが恥ずかしくなるくらい甘い空気出してて、私は途中から視線そらしてた。
アクアは無の顔してた。それからお風呂とご飯を済ませて、ママは満足したみたいに先に寝ちゃった。
「まだ起きていたか……寝る前に抱っこさせてね」
リビングに戻ってきたパパは、そのまま私とアクアをひょいって抱っこした。……すっごい笑顔。さっきまでテレビの中で、あんな圧強めの顔してた人と同一人物と思えないんだけど?家だとずっと顔ゆるんでるし、ほんとに幸せそう。
「やっぱりうちの息子、娘たちは可愛い……アイも可愛いけど」
……いや、最後にママ入れるんだ。子ども褒めてる流れから自然に嫁自慢へ繋げるの強すぎでしょ……。パパ、ほんとそういうとこだよ……。
「アクア、ルビー元気に育ってくれ」
前世で病気になってから、家族はほとんど会いに来てくれなかった。そんな時、先生がいてくれて、アイがいてくれて、お兄さんがいてくれた。大好きなアイの話をして、お兄さん越しにアイとも話せて……あの時間が、私にはすごく大事だった。
そのお兄さんが、今では私のパパになってる。人生ってほんと何があるかわかんない。……でも、1つだけはっきり言える。この人がパパでよかったって、心の底から思える。
だってパパは、見返りとか理由とかそんなの関係なく、まっすぐに愛情をくれる人だから。こんなふうに大事にしてもらえる毎日は、たぶん奇跡みたいなものだ。
「さて……そろそろ寝ようか」
抱っこされたまま寝室へと向かっていく。ベビーベッドに2人をそっと下ろして、寝る前に2人の頭を優しく撫でてくる。
「おやすみ……また明日」
パパの手の感触が、私たちを包むみたいにちゃんと伝わってくる。あったかくて、大きくて、すごく安心する手。前世では、もし生まれ変われたらなんて、都合のいいことを何度も考えてた。
そんな奇跡みたいな話、あるわけないって思いながら。……でも今、その夢みたいなことが本当に起きてる。こうして大好きな人たちに囲まれて、愛情を注いでくれている。
数分もしないうちに眠ってしまった。外では仕事、家では育児と、本人が気付かないうちに疲れが溜まっていたのだろう。
「……寝たな」
パパの胸がゆっくり上下している。さっきまで私たちを抱いていた腕は、もう力が抜けていた。
「寝たね。秒だったね」
思わず小さく笑う。こんなに一瞬で眠るなんて、相当限界だったんだと思う。
「相当疲れてたんだろ」
アクアは呆れたように言いながら、そっと毛布を肩まで引き上げた。
手つきはやけに丁寧だった。
「仕事して、帰ってきて、私たちの世話して、ママとイチャついてたしね」
「最後はいらない」
即答だった。
「でも事実じゃん」
「……否定はしない」
小さくため息をつく声に、私が吹き出しそうになる。
「見て、寝顔すごい穏やか」
テレビの中じゃあんな顔もするのに、今はびっくりするくらい優しい顔だった。
「家だと安心してるんだろ」
その言葉は静かだったけど、どこか嬉しそうにも聞こえた。
「毛布かけてるアクア、やさし」
「うるさい」
そっぽを向くアクアの横顔は、少し照れている。
「私も手、握っとこ」
パパの大きな指をぎゅっと握る。あったかくて、安心する温度だった。
「好きにしろ」
ぶっきらぼうなくせに、止めはしない。
「……この人がパパでよかったね」
自然に零れた本音だった。胸の奥がじんわり熱くなる。
「……ああ」
短い返事。でもその一言だけで、アクアも同じ気持ちなんだとちゃんとわかった。
規則正しい寝息が部屋に響く。ようやく静かになった夜だった。
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各章解説と他作品の元ネタ解説いるかどうか。
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いる
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いらない