UA10万突破ありがとうございます。これからも頑張ります!!
アイの復帰から少し経過した。B小町は快進撃を……遂げている訳ではなかった。
「今月の給料……」
渋い顔をしながら給料明細を見ている。アイドルの仕事は、ライブ出演、握手会・特典会、イベントなど。他にも色々あるが、拘束時間が長い割に単価が低いものだ。アイの今の仕事はアイドル活動だけなので、低いのは仕方ない。
「大丈夫……これからもっと伸びるから」
明細と睨めっこしているアイの隣に座る。ついでにアクアを抱っこする。
「うん……ありがと。そういえば、彼方もお給料出たんでしょ?」
「ねぇ、見せて? ちょっとだけ……気になるなぁ?」
同じ事務所に所属しているので、俺も給料が出ている。明細を取り出し、アイに手渡す。その明細を見て、アイが固まった。
「どれどれ〜…………え?」
そして、自分の明細と俺の明細を交互に見比べる。
「……私の倍以上あるんだけど? なにこれぇ、ずるくない?」
自分との給料の差に溢した言葉がこれである。確かに……アイからすればそうだろう。ちょっと……アクア、ルビー。給料明細を覗き込むじゃあない。というか、驚き方が少しアイと似ているな。
「ミヤコさん……彼方だけずるくない?」
パソコンで作業している運営側のミヤコさんに、そう声をかけている。
「ずるくないの。彼方くんはドラマ、雑誌、取材、宣伝、レッスン込みで働いてるの」
「でもぉ……同じ事務所なのにぃ……」
「同じ事務所でも、仕事の単価も本数も違うの。悔しいなら売れなさい」
ミヤコさんの言う通りだ。アイより俺の方が仕事をしている。活動休止していた差もあるが、アイはアイドルとしてメディアに出ている。その他は、例えば演技や雑誌の仕事などはない。差が出て当たり前である。
「うぅ……正論……」
「その代わり、アイさんが売れたら今度は彼方くんが焦る番よ」
こっちにパスが回ってきた。俺としては、収入に関してはどっちが上とかどうでもいい。この子達が不自由なく幸せにできる程のお金を稼げれば、それでいい。
「……なんかさぁ、世の中結局お金なんだねぇ」
「嫌な事に気付いちゃったのね……」
言ってる事は間違っていないのが、なんとも言えない。お金があればやれる事も増えるし、不自由もしなくなる。その先はとても大きい。
「そこは、2人で頑張っていくしかないな。この子達の為に」
「……うん。2人で、だね」
さっきまでしょんぼりしていた顔が、少しだけやわらぐ。
「私ひとりだったら、たぶんすぐ不安になってたかも」
アクアの頭をそっと撫でて、それからルビーのほっぺをつつく。
「でも、彼方もいて……この子達もいてくれるなら、頑張れる」
ふにゃっと笑って、でも瞳にはちゃんと火が灯っていた。
「この子達に可愛いお洋服も着せたいし、おいしいものも食べさせたいし、幸せだなぁって思ってほしい」
少しだけ唇を尖らせて、彼の方を見る。
「……だから、もっと売れたい。彼方に“ずるい”って言えないくらい稼ぐもん」
そしてすぐに、いつもの調子で笑う。さっきまでの渋い顔とは違う。吹っ切れたみたいだ。
「でもその前に、今日のレッスン頑張らなきゃね?」
何も1人じゃあないのだから。そう難しく考える必要はない。先行きが不安なのはわかるが、そればかりに気を取られていたら、そのうち身動きが取れなくなる。
だから、やれる事をやるだけやって抱え込む。ピンチになったら、その時に考えればいい。隣には互いがいるのだから。
「先ずは目の前の事からだな」
互いに準備をする。確か、今日はモデルの仕事だったかな?
現場に入り、控室で今日の現場資料を受け取る。男性ファッション誌の春特集。テーマは「自然体と色気」……相変わらず曖昧だ。
メイク席に座り、髪を整えられ、衣装へ着替える。鏡に映る顔は、家で子どもを抱いていた父親の顔から、仕事用の顔へ切り替わっていく。
「天城さん、おはようございます!」
「おはようございます。よろしくお願いします」
スタジオへ入ると、照明が眩しい。カメラマンがすぐ声を飛ばした。
「じゃあ立ち姿から。力抜いて、目線だけください」
指示通りに立つ。シャッター音が続けて鳴る。
「いいね、そのまま顎少し引いて。次、口元だけ少し緩めて」
「……うん、いい顔してる」
ジャケット姿、ソファに腰掛けるカット、腕時計を見下ろすカット。数秒ごとに違う空気を求められる。
「すご……一枚ごとに雰囲気変わる」
スタッフの小さな声が聞こえた。モデルも演技の延長線だ。モデルとは、服・アクセサリー・商品などを身にまとい、その魅力をポージングや表情で表現、宣伝する。
だから、それらが目立つように自然にする。被写体が目立ち過ぎてはいけない。主役は俺ではなく、身に纏っている物達だ。かと言って、地味過ぎては絵にならない。
結局のところ、バランスが大事なのだ。
休憩中、スマホを見る。アイから一件。
『お仕事頑張ってる〜? 私は今レッスン頑張ってるよ。えらい?』
そんな通知を見て、素で笑ってしまう。表向きの仮面が崩れそうになるくらいに。
「彼方くん、笑ってるとこ悪いけど次ラストね!」
「はい、今行きます」
家族のために働く。けれど、カメラの前に立つこの瞬間も嫌いではなかった。これが俺の仕事なのだから。
翌日。俺は1人、ライブ会場に訪れていた。俺が何故こんな所にいるかと言うと、販促イベントのミニライブが目的だ。勿論……アイが目的だ。
偶々抽選が当たったので、仕事の合間で訪れている。
勿論、変装もガッツリしている。一応、有名人なので。ウィッグは黒髪で、カラコンで目の色を変え、声質も変えている。そして、変装用に用意している服を身に纏っている。これなら気付かないだろう。
因みに、最前列にいる。こちとらもう数年単位でオタクしてる。年季が違うんだよ。
そんな事を思っていると……ベビーカーを押している女性が隣に立った。知っている顔……というか、朝見た人だ。……ミヤコさんじゃあないですか……。
てことは……いるよなぁ……。ここって確か……。
「本日は、B小町のお三方にお越し頂きました〜!」
どうやら始まってしまった。
『アイの笑い方って良くも悪くもプロの笑顔なんだよな』
『人間臭さがないって言うか』
数日前に見たネットのコメント、なんで今さら思い出しちゃうんだろ。……しかも、ライブ本番のど真ん中なのに。そんなこと言われたってなぁ……私プロだし。それ、よく分かんないし。人間っぽくないの求めているのはそっちじゃん?
鏡を見て研究して、ミリ単位で調律。目の細め方。口角。……全部が打算。いつも一番喜んでもらえる笑顔をやっている。
…………私は嘘で出来てるし。
彼女がそんな事を思っていると……。
「「バブ!バブゥ!バブッ!バブッ!バブウゥ!!!」」
自分の子供がサイリュームを両手にし、思いっきりヲタ芸を打っている姿が目に飛び込んで来た。
「なんだ赤ん坊。ヲタ芸打ってるぞ!!」
「乳児とは思えないキレだ!!」
目が合った気がした瞬間、胸の奥がふっと軽くなる。さっきまで刺さっていた言葉も、不安も、全部どうでもよくなった。だって……。
うちの子きゃわ〜〜〜〜〜〜〜♡
アイが抱いた感想はこれだった。
そして、隣にいる男性もサイリュームを振っていた。しかし、その数が多い。片方の手に3本ずつ、計6本のサイリュームを振っている。しかも、それは貴女の赤のカラーだ。
変装は完璧だ。だけど、彼女はそれの正体に気付いていた。
……いや、いる。なんでいるの、彼方?
その振り方、リズムの取り方、妙に無駄のない動き。変装してても分かる。オタクとしての年季が隠しきれてないんだけど。
しかも赤を6本って、気合い入りすぎでしょ……。思わず笑いそうになるのをこらえて、歌いながら視線だけそっと向ける。目が合った気がした瞬間、向こうがぴしっと姿勢を正した。
……なにそれ、可愛い。さっきまで胸に引っかかっていた言葉なんて、もうどうでもよかった。こんなふうに全力で見てくれる人がいて、帰れば待ってる子ども達がいて。
それだけで、私はちゃんとここに立てる。アイはいつもより少しだけ柔らかく、少しだけ本物の笑顔で笑った。
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