一番星は消えない   作:ディバル

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062 星野家の日常

 

 

 

 

ライブは無事に終了した。3人は会場を出る。

 

「心配して来たって言っていたわりに誰よりもエンジョイしていたじゃないですか!!」

 

「「つい本能で………」」

 

私たち、今ミヤコさんにがっつり怒られてる。だってさ、無理言って連れてきてもらったミニライブだよ?そりゃテンション上がるに決まってるじゃん。

 

……だって私、初めて生でママのライブ見たんだよ?抑えられるわけなくない?しかもさ、アクアだって普通にヲタ芸してたし。あれだけ全力でやっといて私だけダメとか、ちょっと理不尽じゃない?だったらさ、1人くらい増えても誤差でしょ?

 

……まあ、怒られてるんだけどね。

 

「目立ちすぎです」

 

彼女が2人に注意していると1人の男が近づいてくる。

 

「ミヤコさん」

 

そう声をかけた男は、3人にとって初めて見る姿だ。

 

「えっと………」

 

いきなり声をかけられて微妙な反応をするミヤコ。しかし、彼がスマホの画面を見せるとその微妙な反応から呆れた反応に変わった。

 

「……この後、仕事ですよね?」

 

「えぇ……その合間で来ました」

 

その返しでため息をついた。2人が話している様子を見てアクアとルビーは顔を見合わせた。

 

「……誰?」

 

ルビーが小さく呟く。

 

「さぁな。でもミヤコさんの知り合いっぽいな」

 

アクアは静かに観察する。声のトーン、立ち方、視線の配り方……どこか場慣れしている。

 

「……なんかさ、普通の人じゃない感じする」

 

「同感だ」

 

2人の視線の先で、その男は何事もなかったかのように立っていた。まるで、ここにいるのが当然だと言わんばかりに。

 

「まぁ……わからないか」

 

彼の視線は2人に向く。クスッと笑いながら2人に声をかける。

 

「アイの良さをもうわかっているなんて……うん、さすがだな」

 

しばらく2人を見た後に満足そうな顔をしてミヤコさんの方に向き直る。

 

「じゃあ……そろそろ行きますね」

 

最後にそう言って彼は去っていった。

 

「……なんか今の人、妙に距離近くなかった?」

 

「アイの名前、当たり前みたいに出してたな」

 

「絶対関係者だよね?」

 

「……それにしても、変な人だったな」

 

自然と2人はミヤコの方を向いていた。あれは誰だと言わんばかりに。

 

「あれは……変装した彼方さんですよ」

 

「「は?」」

 

同じ反応をしている。

 

「いや待て、気付かなかったの俺たちだけ?」

 

「変装の意味あった?」

 

「……あのオタク、パパだったの?」

 

全然わかんなかったんだけど。だってさ、髪の色も目の色も全部違ったんだよ?あれもう完全に別人でしょ?……なのに中身パパって、バグすぎない?

 

「あの人、アイのライブを見に行く時は必ず変装するんですよ。私だって最初、分かりませんでしたよ」

 

「ガチ勢すぎでしょ……」

 

「いやもう、あれ職業病の域だろ」

 

「……ていうかさ、普通に怖いんだけど。でも全部ママのためなんだよね……重い」

 

アイもあれだが彼方も大概である。元からオタクとしてアイを推し続けている。年々ガチになっている。

 

「……関係者なんだから、普通に入れるよな。なのにわざわざ抽選って……」

 

ちょっとだけ、胸の奥があたたかくなる。ああいうとこ、ほんとパパだなって思う。近くで見られる立場なのに、あえて同じ場所に立つんだ。ファンと同じ目線で、同じ温度で。

 

「本人曰く、『オタクとして、全て自力でなんとかする。事務所の力は借りない』と言ってましたね」

 

「……そこまでやるか、普通」

 

「いやでもさ、それちょっと分かるかも」

 

「関係者席より、あっちの方が楽しいんだろ」

 

「うん……なんか、ズルいくらい楽しそうだった」

 

実際、彼は楽しんでいた。今回は押さえていたが、マジになるとさらに装備が増えるとの事。

 

「毎回、変装を変えてくるんですよ……一度、そこまでする理由を聞いたんですけど、『何があるかわからない。姿、声質、肩幅、喋り方から一人称に至るまで全てを変える』みたいです。私も少し引きました」

 

「……徹底しすぎでしょ。もはや変装じゃなくて別人じゃん」

 

「そこまでやる必要あるか?」

 

「……でも、それで気付かれないなら正解なんだよね」

 

事実、彼の変装を見破ったのはアイくらいだ。演技力と道具を使って完全に別人になっている。しかも、仕事をしている時の彼は掴みどころのない存在。それも相まって天城彼方とは気付かせないようにしていた。

 

「あれでも軽めですよ、多分」

 

その場の空気が凍った。

 

「……軽めであれか?」

 

「いやもう、ガチの時どうなってんのそれ」

 

うちのパパ、ガチすぎない?……前世のときからママのオタクなのは知ってたけど、ここまで本気だったんだ……。私たちのママとパパ……色んな意味でヤバいかもしれない。

 

 

 

 

 

「21万リツイート……転載動画も既に200万再生………」

 

画面映るのはヲタ芸をする双子。

 

「赤ちゃんコンテンツはバズりやすいとはいえ……これはさすがに」

 

誰かが撮影していたのか、2人がヲタ芸をしている姿がネットに流された。赤子がヲタ芸を全力でし出している姿は、瞬く間にネットでバズった。

 

「ちょっと来い………」

 

ミヤコさん、社長に首根っこ掴まれてそのまま連れてかれちゃった。……ごめんね、ミヤコさん。私たち、心の中でこっそり謝った。

 

「……ウチの子可愛い。動画保存しておこう」

 

社長もミヤコさんもあんなに重く考えてるのに、パパだけいつも通りの親バカ全開でさ……普通、ちょっとは気にしない?

 

「アクアとルビーがヲタ芸してるのもびっくりしたけどさ……彼方も来てたよね?」

 

「…………」

 

ママのひと言で、パパがぴたっと黙った。さっきまであんなに緩んでた顔が、一瞬で無表情になった。

 

「何のことかなぁ?」

 

「……ふーん、そうやって誤魔化すんだ」

 

ママの目が鋭くなっている。

 

「ねぇ、赤のサイリウム6本も持ってた人、誰だっけ?」

 

どんどん詰めれる彼方。

 

「変装してても、ああいうとこでバレるんだよ?」

 

これ、完全に詰んでるやつだ。逃げ場ないよね、パパ。

 

「……完璧に別人になっていたのに……」

 

「……じゃあさ、あのバッグの中のグッズは何?」

 

ママがすっとパパのカバンを取り上げて、そのまま無言で中身をひっくり返したんだけど。出てくる出てくる、さっきのイベントで売ってたグッズ一式。……いや、フルコンプしてない?これ。

 

「ペンライトだけじゃなくて、キーホルダーも……ちゃんと新作まで揃ってたよね?」

 

彼の額から汗が滲み出した。

 

「ねぇ、それも“別人”の持ち物ってことで通すの?」

 

「……ごめんなさい。でも、お金なら心配ない、家に9割入れてるから」

 

いや、そこじゃないんだけど。思わずツッコミそうになるのをぐっと飲み込む。なんで今“お金は心配ないアピール”なの?ズレすぎでしょ。そこ真面目に答えるとこじゃないから。……でも、その言い方ちょっとだけ本気っぽくて、逆にずるい。誤魔化す気あるのかないのか分かんないし。いやほんと、うちのパパどうなってんの。

 

「うん、えらいえらい。ちゃんとしてるね……でもね、今それの話してないよ?」

 

彼の頭に触れて撫でているが、これで終わりなんて事はなく。

 

「グッズもチケットも、ぜーんぶ“自力”なんだ?ほんとに好きなんだね……私のこと」

 

笑ってるのに、なんか空気が重い。ふわっとしてるはずのママの声が、じわっと逃げ道を塞いでくる感じ。……あ、これダメなやつだ。完全に詰めにいってる。パパ、さっきまで余裕そうだったのに、今めちゃくちゃ追い込まれてるよね。

 

「当たり前だろ?……推しとしての好きもあるけど、今は一人の女性としてアイが好きだ」

 

パパ……それ、さすがにその顔で言うやつじゃないと思うんだけど。

 

「……っ、ずるいなぁ、そういうの」

 

あ、これ……始まるやつだ。完全にイチャつく流れじゃん。アクアもさりげなく顔を逸らしてるし……うん、巻き込まれないようにしてる。……しばらく、この甘ったるい空気から逃げられなさそう。

 

いろいろあるけど……これが今の私たちの日常なんだよね。

 

 

 






オマケ

「わっ、ケース3つになってる〜!」

(……なにこれ、全部ママ?)

(写真で見せてもらった時より増えてるな)

「すごいけどさぁ……彼方、しばらくグッズ買うの禁止ね?」

「…………え?」

「この前“最後に一個だけ”って言ってたよね? なんで増えてるの?」

「いや、これはその……限定版が……」

「限定版でケース増えるのおかしいからね?」

「…………」

「あとアクアとルビー、将来これ見て“パパ怖い”ってならない?」

「大丈夫……絶対にこの子達もアイにハマるから」

「自分の子供を同志にしようとしないで!?」




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