一番星は消えない   作:ディバル

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066 私のままで

 

 

 

 

映画の公開から2年が経過した。アクアとルビーは4歳になった。あの映画はそこそこ評価され、なんの賞か忘れたが監督賞にノミネートされたみたいだ。アクアの演技もよかったが、結局、アイが全てを持っていった。

 

それがきっかけかはわからないが、バラエティー、雑誌など仕事が増えてきていた。今のアイは、絶賛売り出し中のアイドルタレントと言えるだろう。

 

アクアとルビーは順調に育っており俺達の子供というのも世間からバレていない。出かける時は、変装を施している。

 

そして……もうすぐアイは20歳を迎える。あの時は油断した。だけど……今度はミスをしない。

 

「んー今日も可愛い!!可愛いよ!!」

 

「写真撮って良い?」

 

幼稚園服に身を包む我が子をスマホで撮る。ブレなし……完璧に撮れたな。可愛い………待ち受けにしたいくらいだ。

 

「まぁトータルではママの方が可愛いけどね」

 

「もう撮ってるじゃん」

 

2人は幼稚園に入園した。子供の成長は早い。少しこの間までは抱っこしていたのに、今では幼稚園生である。でも……アクアよ。バッグに京極夏彦のサイコロ本を持って行こうとするのはどうかと思うぞ?

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

仕事が終わり、家に帰ってくる。アクアは本を読んでいた。ルビーは体操座りをして落ち込んでいた。何かあったのかな?

 

「ルビー……幼稚園で嫌な事でもあった?」

 

隣に座り、そう声をかける。顔を上げてこちらを見て、その後に目を逸らしながらも口を開いた。

 

「……幼稚園で、お遊戯やるんだって。でもね……私、ダンス苦手で……みんなみたいにできないかも……って思うと……やりたくないなぁ……」

 

前世では病気の関係で歩けなくなっていた。倒れてばかりで、受け身を取らないと怪我をする。彼女が怪我しないように編み出した動き。それが、踊る時に邪魔になっているのだろう。

 

「パパはダンスの事は全くわからない。でも……大丈夫。ルビーはちゃんと踊れる。俺は、ルビーが踊っている所を見たいな」

 

ルビーは少しだけ俯いたまま、ぎゅっと自分の膝を握った。やがて、恐る恐る顔を上げる。不安が残ったままの瞳で、それでもまっすぐこちらを見て………

 

「……ほんと?ちゃんと、できるかな」

 

声はまだ弱い。でも、さっきより少しだけ前を向いていた。

 

「……パパが見てくれるなら……ちょっと、がんばってみる……」

 

不安は完全には拭え切れていない。でも、一歩を踏み出そうとしていた。

 

「パパはダンスの事全くわからないけどいいの?アイに見てもらった方がいいんじゃないか?」

 

アイという言葉に、ほんの少しだけ揺らぐ。しかし、首を小さく振った。

 

「……やだ。パパがいいの……パパに見てほしいの……」

 

……てっきりアイに見てもらうのかと思ったけど。いいか……言い出したのは俺だし……強請る姿がアイに似ていて思わず笑いそうになるが堪える。だって……可愛かったから。

 

「わかった……じゃあ頑張ろうか、一緒に」

 

パァっと明るく満面の笑みを浮かべるルビー。うん……子供は笑顔じゃないと。ルビーに手を掴まれ、そのまま引っ張られてゆく。アクアはそれを横目で見ていた。でも、いつもより柔らかい表情をしていた。

 

事務所に移動する。家から徒歩5分の場所だ。引っ越す時に事務所に近い場所を選んで正解だった。ダンススタジオ。練習をするならここが一番だ。

 

「じゃあ……試しに踊ってみようか」

 

「うん」

 

踊り始めるルビー。しかし、動きが全体的にぎこちない。本人は必死にやっているが、最後には転んでしまう。最終的に受け身を取るような動き。倒れる事を恐れている感じがする。

 

「……今のは違うの……次はちゃんとやるから……ちゃんと見ててね、パパ」

 

転んだがすぐに立ち上がり、こっちを見てそう言ってくる。何も言ってないんだけどね。何度も繰り返し踊り続けるが、結局は転び続けた。根本的にどうにかしないといけない。倒れる事の恐怖を拭わないと、一生このままだ。

 

何度も立ち上がって、繰り返すが同じところで転ぶ。

 

「……ちがう……今のも……ちがうの……」

 

呼吸が荒くなってきている。何度転んでも休もうとはしない。何度失敗しても諦めない。その根性はいいが、これ以上やっても同じ事を繰り返す事だろう。アイと違って、ダンスは全くのど素人だ。なら、俺ができる事は1つしかない。

 

「転ぶ事を怖がっていたら体の動きが制限される。だから、思いっきり全力でもっと胸を張るといい……アイはいつも堂々としている。そんなアイをイメージしながら踊ってみたらどうかな?」

 

アドバイスと呼べるかはわからないが、エールを送る。ウチには未来のトップアイドルのアイがいる。身近な人、それこそルビーの推しである彼女を思い浮かべさせたらいいだろう。俺にできるのはこれくらいだ。背中を押す。アイや輝にやったように。

 

「……うん……ママみたいに……ちゃんと、キラキラして踊る……見てて、パパ……今度は転ばないから」

 

雑念は消えた。今日一番の自信を持った表情。恐れずに全力で………。

 

 

 

 

私の人生は、その殆どを病院で終えた。体は不自由で言う事を聞かず、立ち上がる事すらままならぬ中で、ひたすら憧れ続けた。

 

振りだって全部覚えている。ママのかっこいい動きは、全部脳裏に刻まれてる。あの光は、全部網膜に焼き付いている。そうだ……最初から恐る必要はなかった。

 

あんな風に動けたら、あんな自由に……もっと……もっと動け!!もっと、私の身体。あぁ……私も踊っていいんだ!

 

恐れはもうない。全力で堂々と体全身を使って踊る。全体的に動きが良くなり、ぎこちなさもなくなり、転ぶ事なくしっかりと踊れていた。

 

曲が止まる。最後まで踊り切った。背後から拍手が響く。

 

「ちゃんと踊れてたよ。すごいよ……将来は、アイみたいなアイドルになれるかもしれないな」

 

ルビーは一瞬だけ嬉しそうに笑った。けれど……その言葉の一部に、少しだけ引っかかる。

 

「……ちがうもん」

 

小さく呟いて、首を横に振る。

 

「ママ“みたい”じゃないもん……」

 

一歩、前に出る。さっきまで踊っていた余韻が、まだ体に残っているみたいに………。

 

「……私は、私のままで……アイドルになるの」

 

まっすぐ見上げる瞳は、さっきまでの不安なんて欠片もない。吹っ切れていた。もう転ぶ事はない。殻を破って成長している。

 

パパが、一瞬だけ驚いた顔をした。すぐに、いつもの笑顔に戻ったけど、そのほんの一瞬がやけにくっきり見えた。

 

「そうだな……悪かった。ルビーはルビーのままでアイドルになればいい……最初のファンは俺だ」

 

本当に……パパはずるい。欲しい言葉、ちゃんとくれるんだもん。……ずっと前から、そうだった。それに、何回も助けられてきた。……やっぱり、見てもらってよかった。

 

「……えへへ……じゃあね、パパ……ずーっと一番に見ててね。ぜったい、いちばん可愛いアイドルになるから」

 

「あぁ……ルビーなら、なれる。立派なアイドルに」

 

パパの大きな手が、ぽんって頭にのる。そのまま、優しく撫でられる。ママに甘えるのも好きだけど……こうしてパパになでてもらうのも好き。あったかくて……なんだか、ほっとする。胸の中が、じんわりして……いっぱいになる感じ。

 

「……えへへ……ありがと、パパ……もっとがんばるね」

 

私、ちゃんと踊れるよ。もう……あの狭い病室にいた私じゃないもん。だから、もうちょっとだけ待っててね。ぜったい私なりのアイドルになって……ちゃんと振り向かせるから。だから、もう少し待っていてね……せんせ。

 

 

 






オマケ ルビーの練習を手伝うアイ。

「ルビー、もう一回」

「うん、ママ!」

「今のは違う。もっと胸張って」

「こう……?」

「そう、それ。アイドルの顔になってきた」

「ママ……できてる?」

「まだ。でも、いい感じ」

「じゃあもう一回!」

「その調子」

「ママ、見てて!」

「見てる。ちゃんと」

「……できた?」

「できた。今のは合格」

「やった……!」

「でもね、アイドルはここからが本番」

「えぇ〜!?」

「ほら、もう一回いくよ」

「も、もう一回……!」

「そう、それでいい」

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