一番星は消えない   作:ディバル

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068 導かれた再会

 

 

 

 

最近、ルビーがずっと暗い。アイにも甘えなくなっている。数日前は、元気いっぱいだったのに……。あの暗い表情……俺はその表情の正体を知っている。絶望……アイや輝が絶望した表情とよく似ている。

 

「……ルビー、大丈夫?」

 

「……大丈夫……」

 

アイが聞きにいくが、ルビーは小さくそう呟いた。大丈夫じゃない時の顔をしている。原因は……わからない。いや……思い当たる節は1つある。だが、憶測で物事を語るのはダメだ。確定しても、こればかりは俺ができる事は何もない。

 

「……本当に?」

 

「……うん……大丈夫……」

 

見抜いているだろう……ルビーの嘘に。でも、アイはそれ以上詮索しなかった。話さないとわかったから。……ルビーがこうなったのは恐らく、俺が原因だ。雨宮吾郎の白骨化された遺体を発見し、それが職場に伝わり、そして彼に会いたいという純粋な気持ちを持つルビーに伝わった。

 

筋は通っている。なら……俺がする事は、ただ1つ。いつもやっている事をするだけだ。

 

 

 

 

 

ルビーは、そのまま視線を落とした。握っていた指先に、じわりと力がこもる。

 

(……だいじょうぶ、って言ったのに)

 

胸の奥が、うまく呼吸できないみたいに重い。喉のところで、何かがつっかえている。ママの優しい視線が、少しだけ怖かった。このまま見られていたら、きっと……崩れてしまう。

 

「ルビー……パパとあっちの部屋でお話ししようか」

 

パパが、いつもみたいに笑って、何も変わらないみたいな顔で、そう声をかけてくる。

 

ルビーは、ぴくっと肩を揺らした。一瞬だけ顔を上げて……すぐに、また逸らす。

 

(……なんで……)

 

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。

 

「……やだ……」

 

小さく、首を横に振る。でも、その声は弱くて……拒んでるはずなのに、どこか縋るみたいで。

 

「……いかない……」

 

そう言いながらも、指先はぎゅっと服を掴んでいて。逃げたいのに、逃げきれないみたいに……その場から動けなかった。

 

「そっか……」

 

やだって言ったのに……パパ、ずっと笑ったままで。なにも言わないで、そのまま、ぽんって頭に手をのせて……優しく、撫でてくる。

 

ルビーの肩が、びくっと小さく揺れた。

 

(……やめてよ……)

 

そう思ったはずなのに振り払えない。むしろ、逃げ場を失ったみたいに、胸の奥がぐらぐら揺れる。

 

「……やだ……」

 

もう一度、弱く呟く。でも、その声はさっきよりもずっと頼りなくて。撫でられるたびに、押し込めていたものが少しずつ浮かび上がってくる。

 

(……なんで……そんなふうにするの……)

 

唇が、わずかに震える。視界が、じわりと滲む。

 

「……っ……」

 

堪えようとしたのに………間に合わなくて。ぽろり、と一粒だけ涙が落ちた。

 

「何があったかは知らないし……聞くつもりもないよ。でもね……ルビーが求めているもの……その答えは案外近くにあるかもしれない」

 

ルビーは、はっと小さく息を止めた。

 

(……え)

 

意味が、すぐにはわからない。でも、その言葉が胸の奥に落ちて、静かに波紋みたいに広がる。

 

「……ちかく?」

 

かすれた声で、ぽつりと呟いた。

 

「そう……パパは、君達が思っているよりもずっと2人のことをよく見ている……ルビーが求めているものは、近くにある。パパに話したくないなら、同じ境遇の子に話せばいい」

 

「……同じ……境遇の子?」

 

彼は、そう言いながら人差し指で誰かの事を指した。視線の先にいたのはアクア。しばらくアクアを見て考えた……その結果、見えてきたもの……。

 

お兄ちゃんと、私の共通点……同じ境遇……?……あ、そっか……私たち、転生してるんだ……。でも……それが、なんで……? それに、どんな意味があるの……?

 

ルビーは、アクアから目を逸らせなかった。

 

(……お兄ちゃんも……同じ……?)

 

胸の奥が、どくん、と大きく鳴る。さっきまで重く沈んでいたものが、少しだけ形を変えていく。

 

「……お兄ちゃん」

 

小さく名前を呼ぶ。声は震えているのに、今度はちゃんと前を向いていた。

 

「パパの口から言えるのはここまで……後は、ルビー次第だよ」

 

パパは、それだけ言って……何もなかったみたいに、静かに行っちゃった。

 

ルビーは、その背中をしばらく目で追っていた。

 

(……なんで……そんなこと言うの……)

 

胸の奥が、またきゅっと締まる。でもさっきまでの“苦しいだけ”のそれとは少し違っていて……どこか、引っかかるみたいに残る。

 

視線が、ゆっくりとアクアに戻る。

 

(……お兄ちゃんも……知ってるの……?)

 

喉が、こくりと小さく鳴る。怖い。聞いたら、全部変わっちゃいそうで。でも……。

 

「……お兄ちゃん」

 

一歩だけ、踏み出した。ほんの少しだけ、迷いながら。それでも、止まらずに。

 

ぎゅっと胸の前で手を握って……今度は、逸らさない。

 

「……ちょっと……いい……?」

 

アクアは、本から目を上げた。ほんの一瞬だけ、間があって――静かに、ルビーを見る。

 

「……いいよ」

 

短い返事。でも、その声はいつもより少しだけ柔らかい。ルビーの表情を見て、何かを察したのか……本を閉じて、立ち上がる。

 

「……部屋、行くか」

 

それだけ言って、先に歩き出す。その背中は、いつも通り落ち着いているのに……どこか、待っているみたいで。

 

ルビーは、小さく頷いて……その後を追いかけた。

 

アクアの部屋に入ると、静かに扉が閉まった。外の音が、少し遠くなる。ルビーは、入口のところで立ち止まったまま……ぎゅっと手を握る。

 

(……どうしよう……)

 

何から聞けばいいのか、わからない。でも……ここまで来て、逃げるのは違う。

 

アクアはベッドの端に腰を下ろして、ルビーを見る。

 

「……で、何?」

 

ぶっきらぼうな言い方。でも、急かす感じじゃない。ルビーは、一歩だけ近づく。

 

「……お兄ちゃんって」

 

声が、少し震える。

 

「……前のこと……覚えてるの……?」

 

一瞬……沈黙。その後、空気が張り詰めた。アクアの目が、ほんの少しだけ細くなった。

 

「……なんで、そう思う?」

 

否定しない。その時点で、もう答えに近い。ルビーの胸が、どくん、と大きく鳴る。

 

「……だって……パパが」

 

言いかけて、止まる。でも、もう誤魔化せない。

 

「……“同じ境遇”って……言ってたから……」

 

アクアは、数秒だけ黙ったまま……視線を落とす。そして、小さく息を吐いた。

 

「……はぁ……あの人、余計なこと言うな」

 

ぼそっと呟く。でも……次に顔を上げた時には、もう隠す気はなかった。

 

「……覚えてるよ」

 

はっきりと、そう言った。ルビーの指先が、ぴくっと震える。

 

「……全部?」

 

「……全部じゃないけど。大体は」

 

その言い方が、妙に現実的で……嘘じゃないってわかる。ルビーの喉が、きゅっと締まる。

 

「……どんな……人だったの……?」

 

自分でもわからない質問。でも、聞かずにはいられなかった。アクアは、少しだけ目を細める。

 

「……医者だよ」

 

「……え?」

 

ルビーの思考が、一瞬止まる。

 

「地方の病院で働いてた」

 

さらっと言う。でも、その奥に何かがある。ルビーの中で、何かが強く引っかかる。

 

(……医者?)

 

胸が、ざわつく。記憶の奥。ずっと大事にしてた人。白衣。優しい声。名前を呼んでくれた人……。

 

「……名前」

 

かすれる声で、絞り出す。

 

「……名前は?」

 

アクアは、少しだけ黙った。その間が、やけに長く感じる。そして……。

 

「……雨宮吾郎」

 

その名前が、落ちた瞬間。ルビーの世界が、ぐらりと揺れた。

 

「……え」

 

息が、止まる。

 

「……うそ」

 

後ずさるように、一歩下がる。

 

「……だって……それ……」

 

喉が、うまく動かない。涙が、じわっと滲む。

 

「……せんせ……だよ……」

 

声が、崩れる。アクアは、黙ったままルビーを見る。否定しない。それが、何よりの答えだった。

 

「……じゃあ……お兄ちゃんが?」

 

震える声。アクアは、ゆっくり頷く。

 

「……あぁ」

 

その一言で、全部が繋がる。

 

「……じゃあ……私……」

 

ルビーの手が、胸に触れる。

 

(……私も……)

 

ずっと言えなかったこと。ずっと抱えてた記憶。やっと、形になる。

 

「……私……さりな……」

 

小さく、でも確かに。その名前が、溢れた。

 

 

 






前世バレは、書くつもりなかったんですが雨宮吾郎の遺体発見を入れた事でこの話が生まれました。もし幼少期の頃から互いを知っていたらって言うifを書いてみました作者的には満足しております。

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