一番星は消えない   作:ディバル

70 / 70
069 過去と現在

 

 

 

 

………何度も頭をよぎった。ルビーの中にさりなちゃんの面影を見るたび、自分を咎めた。そんな都合のいい妄想をしている自分が許せなくて、さりなちゃんに何一つできなかった俺に。

 

でも、あまりにも似ていた。アイや彼方くんのことを話すルビーの姿は、さりなちゃんそのものだったのだから。そんな救いがあるはずがないって……それでも、僕はお前を君だと思って接していたよ。

 

「せんせぇ!!」

 

大粒の涙を流しながら、ルビーはアクアに抱きついた。ため込んできたものをすべて吐き出すように泣く。

 

「どうして!どうして言わないでいたの?」

 

「……気づいてたけど……確信が持てなかったから」

 

抱きしめる力が強くなる。

 

「……病院に連絡したらね……もう……亡くなってるって、言われて……」

 

最近のニュースで白骨化された遺体が発見された。……それが“自分のもの”だと理解するのに、時間はかからなかった。見つかったという事実への安堵と、それでも割り切れない、言葉にしづらい感情だけが静かに残った。

 

「せんせ……私、あの時と違って踊れるようになったんだよ」

 

「……ああ……ちゃんと見てたよ」

 

「私ね……ママみたいになるんじゃなくて……私らしいアイドルになるの!」

 

「……さりなちゃんなら、なれるよ。きっと」

 

「うん……見ててね、せんせ」

 

二人は再会を果たした。しかし……ここで疑問に浮かぶことがある。

 

「……ねぇ、せんせ」

 

「どうした?」

 

「パパってさ……気づいているよね?」

 

そう……それは、天城彼方だ。こうして再会を果たしたのは、彼の後押しがあって今に至っている。本人としては、こうなるとは微塵も思っていなかっただろう。

 

「……ああ。あれは“知らない”って感じじゃなかった」

 

「私がこうして話したのも、パパに言われてだし」

 

前世でも、アイの話題で彼方くんとは何度か話した。……けど、本質までは結局掴めなかった。近づいたと思えばすり抜けて、掴もうとしても形にならない。まるで……鵺みたいな。

 

「……あの言い方、全部“繋がってる”前提だった」

 

「ねぇ……せんせはどう思う?」

 

「……少なくとも、彼方は“全部知ってる側”だ」

 

 

 

 

 

翌日の夜。

 

ママは今、お仕事でいなくて、家にいるのはパパだけ。台本を読んでいて、すごく集中してるみたい。ちらっとお兄ちゃんの方を見ると、小さくうなずいてくれた。……だから、私はそのままパパのところに向かった。

 

「…………ここの解釈は」

 

近づいても集中しているのか、彼は気づいていない。

 

「パパ」

 

声をかけられて、ようやく気づく。台本を横に置き、2人の方を向く。

 

「ごめん……集中してて気づかなかった。どうした、2人そろって?」

 

「パパは、どこまで知っているの?」

 

前置きなしで本題から入った。その言葉で、一瞬だけ沈黙が生まれる。

 

「まぁ……そうなるだろうね。ヒントを与えたのは俺だし」

 

パパ、さっきまでと違って……すごく真剣な顔をしてる。目がまっすぐで……ちょっとだけ、こわいくらいに。

 

「久しぶり……さりなちゃん……雨宮先生」

 

そう……告げた。

 

「……え……なんで……その呼び方……」

 

聞き間違いなんかじゃない。ちゃんと聞こえた……はっきり、「さりなちゃん」って……私のこと、そう呼んだ。

 

「……さりな“ちゃん”って……パパ……やっぱり……」

 

「はぁ……そこまで分かってて、なんで今まで黙ってたんだよ」

 

「……ずっと……知ってたの……?私のことも……せんせのことも……」

 

また、こうやってお兄さんとして話せるの、すごく嬉しい……でも。

 

「……ねぇ……どこで……? なんで……そんなふうに……普通にいられたの……?」

 

「……俺たちのこと、どう思って見てたんだよ……」

 

「……ねぇ……パパ……ちゃんと教えてよ。もう……ごまかさないで……」

 

パパは、私たちの話をずっと黙って聞いていた。全部言い終わってから、やっと口を開いた。

 

「そっか……さりなちゃんには普通に見えたのか。でもね……それは違うよ。ずっと……複雑な気持ちだった……俺は、君の最後の言葉を直接聞けなかった……ずっと負い目を感じていた」

 

彼は、ずっと負い目を感じていた。雨宮吾郎の言葉により、前より負い目を感じなくなったが……ルビーが生まれて、その魂がさりなのものだと気づいてからは、また負い目を感じていた。娘として愛しているのは嘘ではない。

 

ただ、最後に何もしてあげられなかった自分を許せずにいた。だから、その負い目を感じさせないように普通に振る舞って、それを悟らせずに今日まで過ごしてきた。

 

「……そんなの……そんな顔で、1人で抱えないでよ……」

 

パパ……お兄さんは、ずっとあの時のことを後悔してたんだ。やっぱり……お兄さん、優しいから。

 

「最後に何もできなかったなんて……そんなこと、ない……」

 

彼女が、彼の手を優しく握る。

 

「……ねぇ……お兄さん」

 

「……もう、自分のこと責めなくていいよ。だって……今、ここにいるもん……私……」

 

その言葉に対して返答はせずに……今度はアクアの方を向いた。

 

「雨宮先生……申し訳ありません。俺が頼んだばかりに、あなたを死なせてしまって……」

 

アクアは、一瞬だけ目を伏せた。わずかに肩が揺れて……でも、すぐに小さく首を横に振る。

 

「……違うよ」

 

短く、それだけ。責めるでもなく、突き放すでもなく……ただ、静かに否定する。少しだけ間を置いてから、視線を彼に戻す。

 

「……あれは、俺が選んだことだ」

 

声は落ち着いているのに、どこかやわらかい。

 

「……彼方くんのせいじゃない」

 

はっきりと、そう言い切った。その言葉で彼方は、なんとも言えない表情を一瞬だけしたが……すぐに笑顔で……

 

「ありがとう……アクア、ルビー」

 

そう、二人を呼んだ。失ったものは元に戻すことはできない。でも、今ここに新たな形として再会の機会を与えられた。

 

「……うん……」

 

「……ああ」

 

ルビーは、少しだけ泣き笑いみたいな顔でうなずいた。アクアは、ほんのわずかに目を細めて……小さく息を吐いた。

 

「それと、アクア。君にこれを返しておくよ」

 

取り出したのは、一つのキーホルダー。それは、さりなが死に際に雨宮吾郎に託した『アイ無限恒久永遠推し!!!』のキーホルダーだ。

 

ルビーの肩が、びくっと揺れた。

 

「……それ……」

 

声がかすれる。数日前のニュース。白骨化された遺体。胸の奥に沈んでいた記憶が、一気に浮かび上がる。

 

「……見つかったって……言ってたやつ……」

 

視線が、キーホルダーに釘付けになる。

 

「……パパが……見つけたの……?」

 

アクアの目が、わずかに細くなる。

 

「……あの遺体……」

 

短く息を吐く。

 

「……やっぱり……」

 

視線が、キーホルダーと彼方の間を往復する。

 

「……持ってたってことは……そういうことか」

 

「ああ……俺が見つけた。雨宮先生は、仕事を投げ出す人じゃない。あの日、連絡をしても戻ってこなかった」

 

その言葉のあと、部屋の空気がわずかに沈んだ。ルビーの指先が、無意識に震える。アクアは何も言わず、ただ視線を落とした。

 

「それに違和感を感じていた。本当はもう少し早く見つけたかった。育児と仕事で忙しくてね。あそこで一人で放置されているのが我慢ならなかった」

 

キーホルダーをアクアの手に握らせる。

 

「……そっか……」

 

ルビーは、ぎゅっと唇を噛んで……でも、逃げずにそのキーホルダーを見つめた。

 

「……ひとりじゃ、なかったんだね……せんせ……」

 

小さく震える声。それでも、どこか安心したみたいに。

 

「……見つけてくれて……ありがとう……」

 

指先が、そっと胸元を押さえる。アクアは、しばらく黙ったまま目を伏せていたが……やがて、静かに口を開く。

 

「……ちゃんと、終わらせてくれたんだな」

 

低く、噛み締めるような声。

 

「……あのまま、誰にも見つからないのが一番最悪だった」

 

一瞬だけ視線を上げて、彼方を見る。

 

「……借りができたな、彼方くん」

 

「気にしなくていいですよ……俺は人として当たり前のことをしただけです」

 

彼は立ち上がり、グッズ部屋に入る。そして、しばらくして戻ってくる。

 

「俺たちの出会いはここから始まったよね……さりなちゃん。これは、君が持ってた方がいい……だからあげるよ」

 

ルビーにも『アイ無限恒久永遠推し!!!』を手渡した。

 

「……え……いいの……?」

 

そのキーホルダーは、彼らの出会いの始まりであり、大切な思い出。

 

「……これ……ほんとに……私が持ってていいの……?」

 

はじめて、自分で手に入れたアイのグッズ。あのときの私は、それをそのまま、せんせにあげた。そして今は……お兄さんから、また受け取ってる。同じもののはずなのに、少しだけ重くて……でも、ちゃんとあったかい。

 

「……ありがとう……お兄さん……」

 

ルビーの笑顔。それが、存し日の記憶と重なる。

 

「……ずっと……大事にするね……これも……せんせとのことも……全部……」

 

今ここで、過去と現在が繋がった。

 

「……ちゃんと覚えてるよ……あの時のこと……ずっと……」

 

2人の手に握られているキーホルダー。同じものだが、それぞれに意味がある。そして、彼は2人を抱きしめながら、最後にこう言った。

 

「アクア、ルビー……生まれてきてありがとう」

 

 

 





オマケ アイに前世の事を言うか相談する2人。

「ねぇ、ママに言う?」

「言わない」

「……なんでそんな早いの」

「面倒になる」

「えー……でもさ、ちょっとは考えようよ」

「考えた結果だ」

「……でも、私はちょっと言いたい」

「今じゃない」

「……じゃあ、いつ?」

「そのうちな」

「ふーん……逃げないでよ?」

「逃げてない。様子見」

「それ、ほぼ逃げじゃん」

「うるさい」


次回で第4章「親と子」が終了します。そして、5章「運命のドーム公演」は16話構成となります。10話程度に収めようと思いましたが思ったよりも長くなりました。因みに、これまでの話で伏線を幾つかばら撒いてます。

それとついでにお知らせで………この「一番星は消えない」とは別で全く新しい【推しの子】の物語を描き始めてます。まだ出すのは先ですが、そこでのメインは黒川あかねとなります。頭の片隅程度に置いておいてください。では、長々と話しましたがこれからもよろしくお願いします。


皆様の感想や評価が作者のやる気に繋がっています。よければ評価と感想をお願いします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

一番星の子(作者:孤独なバカ)(原作:推しの子)

歌好きの主人公が転生した先は推しの子である星野アイの子供だった。前世の曲を推しの子世界で歌って星野アイを超えようとするとありふれた話。▼曲は曲名のみ使用。歌詞は使わないつもりです。▼ごめんなさい。タイトルかぶりがあった為タイトル変更してます


総合評価:2252/評価:8.3/連載:23話/更新日時:2026年03月27日(金) 18:40 小説情報

百合の間に挟まりたくない男はどうしたらいい(作者:かぐいろ大好き侍)(原作:超かぐや姫!)

▼ 田舎から都会に飛び出した、高校生の天野尊(あまのみこと)。▼ 実家が田舎の農家で一生をそこで過ごすのが嫌で、高校生でありながら一人で東京に。家賃38,000円の映ないボロアパートであるが都会で青春を謳歌する。▼ 思いがけず、同じ苦学生の友人と謎の月のお姫様を育てる事に!▼ 尊の青春はどうなってしまうのか!▼*当作品は『超かぐや姫!』に脳を焼かれ[俺の理想…


総合評価:2042/評価:7.5/連載:12話/更新日時:2026年05月11日(月) 05:30 小説情報

超かぐや姫!~超人に脳を焼かれた廃人~(作者:三流ゲーマー)(原作:超かぐや姫!)

劇場で観て脳を焼かれたので思うままに書いてみた作品です


総合評価:2465/評価:7.91/連載:31話/更新日時:2026年05月18日(月) 00:00 小説情報

転生オリ主は綾紬芦花を幸せにしたい(作者:天戸 蒼香)(原作:超かぐや姫!)

「超かぐや姫!」、面白い! 最高!▼でも舞台裏で泣いてる綾紬芦花も幸せにしたい!▼そんなオリ主が超かぐや姫の世界に転生したから、芦花を幸せにするために原作介入!▼……するも、そんな上手くはいかない話。▼でも芦花も含めてちゃーんとハッピーエンドにするよ、作者が保証しちゃう!▼※百合の間に男が挟まることになります


総合評価:3465/評価:8.05/連載:27話/更新日時:2026年05月19日(火) 08:22 小説情報

英雄にしかなれない男、転スラに行く(作者:ちゃがまくら)(原作:転生したらスライムだった件)

とあるRe:ゼロから始まる異世界生活好きが転スラに転生する話▼*ラインハルトと同じ加護、体質を持っているだけの一般人です(予定)▼ここの設定違うよ、とかあったら遠慮せずコメントにどうぞ


総合評価:2655/評価:7.12/連載:47話/更新日時:2026年05月13日(水) 09:53 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>