………何度も頭をよぎった。ルビーの中にさりなちゃんの面影を見るたび、自分を咎めた。そんな都合のいい妄想をしている自分が許せなくて、さりなちゃんに何一つできなかった俺に。
でも、あまりにも似ていた。アイや彼方くんのことを話すルビーの姿は、さりなちゃんそのものだったのだから。そんな救いがあるはずがないって……それでも、僕はお前を君だと思って接していたよ。
「せんせぇ!!」
大粒の涙を流しながら、ルビーはアクアに抱きついた。ため込んできたものをすべて吐き出すように泣く。
「どうして!どうして言わないでいたの?」
「……気づいてたけど……確信が持てなかったから」
抱きしめる力が強くなる。
「……病院に連絡したらね……もう……亡くなってるって、言われて……」
最近のニュースで白骨化された遺体が発見された。……それが“自分のもの”だと理解するのに、時間はかからなかった。見つかったという事実への安堵と、それでも割り切れない、言葉にしづらい感情だけが静かに残った。
「せんせ……私、あの時と違って踊れるようになったんだよ」
「……ああ……ちゃんと見てたよ」
「私ね……ママみたいになるんじゃなくて……私らしいアイドルになるの!」
「……さりなちゃんなら、なれるよ。きっと」
「うん……見ててね、せんせ」
二人は再会を果たした。しかし……ここで疑問に浮かぶことがある。
「……ねぇ、せんせ」
「どうした?」
「パパってさ……気づいているよね?」
そう……それは、天城彼方だ。こうして再会を果たしたのは、彼の後押しがあって今に至っている。本人としては、こうなるとは微塵も思っていなかっただろう。
「……ああ。あれは“知らない”って感じじゃなかった」
「私がこうして話したのも、パパに言われてだし」
前世でも、アイの話題で彼方くんとは何度か話した。……けど、本質までは結局掴めなかった。近づいたと思えばすり抜けて、掴もうとしても形にならない。まるで……鵺みたいな。
「……あの言い方、全部“繋がってる”前提だった」
「ねぇ……せんせはどう思う?」
「……少なくとも、彼方は“全部知ってる側”だ」
翌日の夜。
ママは今、お仕事でいなくて、家にいるのはパパだけ。台本を読んでいて、すごく集中してるみたい。ちらっとお兄ちゃんの方を見ると、小さくうなずいてくれた。……だから、私はそのままパパのところに向かった。
「…………ここの解釈は」
近づいても集中しているのか、彼は気づいていない。
「パパ」
声をかけられて、ようやく気づく。台本を横に置き、2人の方を向く。
「ごめん……集中してて気づかなかった。どうした、2人そろって?」
「パパは、どこまで知っているの?」
前置きなしで本題から入った。その言葉で、一瞬だけ沈黙が生まれる。
「まぁ……そうなるだろうね。ヒントを与えたのは俺だし」
パパ、さっきまでと違って……すごく真剣な顔をしてる。目がまっすぐで……ちょっとだけ、こわいくらいに。
「久しぶり……さりなちゃん……雨宮先生」
そう……告げた。
「……え……なんで……その呼び方……」
聞き間違いなんかじゃない。ちゃんと聞こえた……はっきり、「さりなちゃん」って……私のこと、そう呼んだ。
「……さりな“ちゃん”って……パパ……やっぱり……」
「はぁ……そこまで分かってて、なんで今まで黙ってたんだよ」
「……ずっと……知ってたの……?私のことも……せんせのことも……」
また、こうやってお兄さんとして話せるの、すごく嬉しい……でも。
「……ねぇ……どこで……? なんで……そんなふうに……普通にいられたの……?」
「……俺たちのこと、どう思って見てたんだよ……」
「……ねぇ……パパ……ちゃんと教えてよ。もう……ごまかさないで……」
パパは、私たちの話をずっと黙って聞いていた。全部言い終わってから、やっと口を開いた。
「そっか……さりなちゃんには普通に見えたのか。でもね……それは違うよ。ずっと……複雑な気持ちだった……俺は、君の最後の言葉を直接聞けなかった……ずっと負い目を感じていた」
彼は、ずっと負い目を感じていた。雨宮吾郎の言葉により、前より負い目を感じなくなったが……ルビーが生まれて、その魂がさりなのものだと気づいてからは、また負い目を感じていた。娘として愛しているのは嘘ではない。
ただ、最後に何もしてあげられなかった自分を許せずにいた。だから、その負い目を感じさせないように普通に振る舞って、それを悟らせずに今日まで過ごしてきた。
「……そんなの……そんな顔で、1人で抱えないでよ……」
パパ……お兄さんは、ずっとあの時のことを後悔してたんだ。やっぱり……お兄さん、優しいから。
「最後に何もできなかったなんて……そんなこと、ない……」
彼女が、彼の手を優しく握る。
「……ねぇ……お兄さん」
「……もう、自分のこと責めなくていいよ。だって……今、ここにいるもん……私……」
その言葉に対して返答はせずに……今度はアクアの方を向いた。
「雨宮先生……申し訳ありません。俺が頼んだばかりに、あなたを死なせてしまって……」
アクアは、一瞬だけ目を伏せた。わずかに肩が揺れて……でも、すぐに小さく首を横に振る。
「……違うよ」
短く、それだけ。責めるでもなく、突き放すでもなく……ただ、静かに否定する。少しだけ間を置いてから、視線を彼に戻す。
「……あれは、俺が選んだことだ」
声は落ち着いているのに、どこかやわらかい。
「……彼方くんのせいじゃない」
はっきりと、そう言い切った。その言葉で彼方は、なんとも言えない表情を一瞬だけしたが……すぐに笑顔で……
「ありがとう……アクア、ルビー」
そう、二人を呼んだ。失ったものは元に戻すことはできない。でも、今ここに新たな形として再会の機会を与えられた。
「……うん……」
「……ああ」
ルビーは、少しだけ泣き笑いみたいな顔でうなずいた。アクアは、ほんのわずかに目を細めて……小さく息を吐いた。
「それと、アクア。君にこれを返しておくよ」
取り出したのは、一つのキーホルダー。それは、さりなが死に際に雨宮吾郎に託した『アイ無限恒久永遠推し!!!』のキーホルダーだ。
ルビーの肩が、びくっと揺れた。
「……それ……」
声がかすれる。数日前のニュース。白骨化された遺体。胸の奥に沈んでいた記憶が、一気に浮かび上がる。
「……見つかったって……言ってたやつ……」
視線が、キーホルダーに釘付けになる。
「……パパが……見つけたの……?」
アクアの目が、わずかに細くなる。
「……あの遺体……」
短く息を吐く。
「……やっぱり……」
視線が、キーホルダーと彼方の間を往復する。
「……持ってたってことは……そういうことか」
「ああ……俺が見つけた。雨宮先生は、仕事を投げ出す人じゃない。あの日、連絡をしても戻ってこなかった」
その言葉のあと、部屋の空気がわずかに沈んだ。ルビーの指先が、無意識に震える。アクアは何も言わず、ただ視線を落とした。
「それに違和感を感じていた。本当はもう少し早く見つけたかった。育児と仕事で忙しくてね。あそこで一人で放置されているのが我慢ならなかった」
キーホルダーをアクアの手に握らせる。
「……そっか……」
ルビーは、ぎゅっと唇を噛んで……でも、逃げずにそのキーホルダーを見つめた。
「……ひとりじゃ、なかったんだね……せんせ……」
小さく震える声。それでも、どこか安心したみたいに。
「……見つけてくれて……ありがとう……」
指先が、そっと胸元を押さえる。アクアは、しばらく黙ったまま目を伏せていたが……やがて、静かに口を開く。
「……ちゃんと、終わらせてくれたんだな」
低く、噛み締めるような声。
「……あのまま、誰にも見つからないのが一番最悪だった」
一瞬だけ視線を上げて、彼方を見る。
「……借りができたな、彼方くん」
「気にしなくていいですよ……俺は人として当たり前のことをしただけです」
彼は立ち上がり、グッズ部屋に入る。そして、しばらくして戻ってくる。
「俺たちの出会いはここから始まったよね……さりなちゃん。これは、君が持ってた方がいい……だからあげるよ」
ルビーにも『アイ無限恒久永遠推し!!!』を手渡した。
「……え……いいの……?」
そのキーホルダーは、彼らの出会いの始まりであり、大切な思い出。
「……これ……ほんとに……私が持ってていいの……?」
はじめて、自分で手に入れたアイのグッズ。あのときの私は、それをそのまま、せんせにあげた。そして今は……お兄さんから、また受け取ってる。同じもののはずなのに、少しだけ重くて……でも、ちゃんとあったかい。
「……ありがとう……お兄さん……」
ルビーの笑顔。それが、存し日の記憶と重なる。
「……ずっと……大事にするね……これも……せんせとのことも……全部……」
今ここで、過去と現在が繋がった。
「……ちゃんと覚えてるよ……あの時のこと……ずっと……」
2人の手に握られているキーホルダー。同じものだが、それぞれに意味がある。そして、彼は2人を抱きしめながら、最後にこう言った。
「アクア、ルビー……生まれてきてありがとう」
オマケ アイに前世の事を言うか相談する2人。
「ねぇ、ママに言う?」
「言わない」
「……なんでそんな早いの」
「面倒になる」
「えー……でもさ、ちょっとは考えようよ」
「考えた結果だ」
「……でも、私はちょっと言いたい」
「今じゃない」
「……じゃあ、いつ?」
「そのうちな」
「ふーん……逃げないでよ?」
「逃げてない。様子見」
「それ、ほぼ逃げじゃん」
「うるさい」
次回で第4章「親と子」が終了します。そして、5章「運命のドーム公演」は16話構成となります。10話程度に収めようと思いましたが思ったよりも長くなりました。因みに、これまでの話で伏線を幾つかばら撒いてます。
それとついでにお知らせで………この「一番星は消えない」とは別で全く新しい【推しの子】の物語を描き始めてます。まだ出すのは先ですが、そこでのメインは黒川あかねとなります。頭の片隅程度に置いておいてください。では、長々と話しましたがこれからもよろしくお願いします。
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