一番星は消えない   作:ディバル

70 / 97
069 過去と現在

 

 

 

 

………何度も頭をよぎった。ルビーの中にさりなちゃんの面影を見るたび、自分を咎めた。そんな都合のいい妄想をしている自分が許せなくて、さりなちゃんに何一つできなかった俺に。

 

でも、あまりにも似ていた。アイや彼方くんのことを話すルビーの姿は、さりなちゃんそのものだったのだから。そんな救いがあるはずがないって……それでも、僕はお前を君だと思って接していたよ。

 

「せんせぇ!!」

 

大粒の涙を流しながら、ルビーはアクアに抱きついた。ため込んできたものをすべて吐き出すように泣く。

 

「どうして!どうして言わないでいたの?」

 

「……気づいてたけど……確信が持てなかったから」

 

抱きしめる力が強くなる。

 

「……病院に連絡したらね……もう……亡くなってるって、言われて……」

 

最近のニュースで白骨化された遺体が発見された。……それが“自分のもの”だと理解するのに、時間はかからなかった。見つかったという事実への安堵と、それでも割り切れない、言葉にしづらい感情だけが静かに残った。

 

「せんせ……私、あの時と違って踊れるようになったんだよ」

 

「……ああ……ちゃんと見てたよ」

 

「私ね……ママみたいになるんじゃなくて……私らしいアイドルになるの!」

 

「……さりなちゃんなら、なれるよ。きっと」

 

「うん……見ててね、せんせ」

 

二人は再会を果たした。しかし……ここで疑問に浮かぶことがある。

 

「……ねぇ、せんせ」

 

「どうした?」

 

「パパってさ……気づいているよね?」

 

そう……それは、天城彼方だ。こうして再会を果たしたのは、彼の後押しがあって今に至っている。本人としては、こうなるとは微塵も思っていなかっただろう。

 

「……ああ。あれは“知らない”って感じじゃなかった」

 

「私がこうして話したのも、パパに言われてだし」

 

前世でも、アイの話題で彼方くんとは何度か話した。……けど、本質までは結局掴めなかった。近づいたと思えばすり抜けて、掴もうとしても形にならない。まるで……鵺みたいな。

 

「……あの言い方、全部“繋がってる”前提だった」

 

「ねぇ……せんせはどう思う?」

 

「……少なくとも、彼方は“全部知ってる側”だ」

 

 

 

 

 

翌日の夜。

 

ママは今、お仕事でいなくて、家にいるのはパパだけ。台本を読んでいて、すごく集中してるみたい。ちらっとお兄ちゃんの方を見ると、小さくうなずいてくれた。……だから、私はそのままパパのところに向かった。

 

「…………ここの解釈は」

 

近づいても集中しているのか、彼は気づいていない。

 

「パパ」

 

声をかけられて、ようやく気づく。台本を横に置き、2人の方を向く。

 

「ごめん……集中してて気づかなかった。どうした、2人そろって?」

 

「パパは、どこまで知っているの?」

 

前置きなしで本題から入った。その言葉で、一瞬だけ沈黙が生まれる。

 

「まぁ……そうなるだろうね。ヒントを与えたのは俺だし」

 

パパ、さっきまでと違って……すごく真剣な顔をしてる。目がまっすぐで……ちょっとだけ、こわいくらいに。

 

「久しぶり……さりなちゃん……雨宮先生」

 

そう……告げた。

 

「……え……なんで……その呼び方……」

 

聞き間違いなんかじゃない。ちゃんと聞こえた……はっきり、「さりなちゃん」って……私のこと、そう呼んだ。

 

「……さりな“ちゃん”って……パパ……やっぱり……」

 

「はぁ……そこまで分かってて、なんで今まで黙ってたんだよ」

 

「……ずっと……知ってたの……?私のことも……せんせのことも……」

 

また、こうやってお兄さんとして話せるの、すごく嬉しい……でも。

 

「……ねぇ……どこで……? なんで……そんなふうに……普通にいられたの……?」

 

「……俺たちのこと、どう思って見てたんだよ……」

 

「……ねぇ……パパ……ちゃんと教えてよ。もう……ごまかさないで……」

 

パパは、私たちの話をずっと黙って聞いていた。全部言い終わってから、やっと口を開いた。

 

「そっか……さりなちゃんには普通に見えたのか。でもね……それは違うよ。ずっと……複雑な気持ちだった……俺は、君の最後の言葉を直接聞けなかった……ずっと負い目を感じていた」

 

彼は、ずっと負い目を感じていた。雨宮吾郎の言葉により、前より負い目を感じなくなったが……ルビーが生まれて、その魂がさりなのものだと気づいてからは、また負い目を感じていた。娘として愛しているのは嘘ではない。

 

ただ、最後に何もしてあげられなかった自分を許せずにいた。だから、その負い目を感じさせないように普通に振る舞って、それを悟らせずに今日まで過ごしてきた。

 

「……そんなの……そんな顔で、1人で抱えないでよ……」

 

パパ……お兄さんは、ずっとあの時のことを後悔してたんだ。やっぱり……お兄さん、優しいから。

 

「最後に何もできなかったなんて……そんなこと、ない……」

 

彼女が、彼の手を優しく握る。

 

「……ねぇ……お兄さん」

 

「……もう、自分のこと責めなくていいよ。だって……今、ここにいるもん……私……」

 

その言葉に対して返答はせずに……今度はアクアの方を向いた。

 

「雨宮先生……申し訳ありません。俺が頼んだばかりに、あなたを死なせてしまって……」

 

アクアは、一瞬だけ目を伏せた。わずかに肩が揺れて……でも、すぐに小さく首を横に振る。

 

「……違うよ」

 

短く、それだけ。責めるでもなく、突き放すでもなく……ただ、静かに否定する。少しだけ間を置いてから、視線を彼に戻す。

 

「……あれは、俺が選んだことだ」

 

声は落ち着いているのに、どこかやわらかい。

 

「……彼方くんのせいじゃない」

 

はっきりと、そう言い切った。その言葉で彼方は、なんとも言えない表情を一瞬だけしたが……すぐに笑顔で……

 

「ありがとう……アクア、ルビー」

 

そう、二人を呼んだ。失ったものは元に戻すことはできない。でも、今ここに新たな形として再会の機会を与えられた。

 

「……うん……」

 

「……ああ」

 

ルビーは、少しだけ泣き笑いみたいな顔でうなずいた。アクアは、ほんのわずかに目を細めて……小さく息を吐いた。

 

「それと、アクア。君にこれを返しておくよ」

 

取り出したのは、一つのキーホルダー。それは、さりなが死に際に雨宮吾郎に託した『アイ無限恒久永遠推し!!!』のキーホルダーだ。

 

ルビーの肩が、びくっと揺れた。

 

「……それ……」

 

声がかすれる。数日前のニュース。白骨化された遺体。胸の奥に沈んでいた記憶が、一気に浮かび上がる。

 

「……見つかったって……言ってたやつ……」

 

視線が、キーホルダーに釘付けになる。

 

「……パパが……見つけたの……?」

 

アクアの目が、わずかに細くなる。

 

「……あの遺体……」

 

短く息を吐く。

 

「……やっぱり……」

 

視線が、キーホルダーと彼方の間を往復する。

 

「……持ってたってことは……そういうことか」

 

「ああ……俺が見つけた。雨宮先生は、仕事を投げ出す人じゃない。あの日、連絡をしても戻ってこなかった」

 

その言葉のあと、部屋の空気がわずかに沈んだ。ルビーの指先が、無意識に震える。アクアは何も言わず、ただ視線を落とした。

 

「それに違和感を感じていた。本当はもう少し早く見つけたかった。育児と仕事で忙しくてね。あそこで一人で放置されているのが我慢ならなかった」

 

キーホルダーをアクアの手に握らせる。

 

「……そっか……」

 

ルビーは、ぎゅっと唇を噛んで……でも、逃げずにそのキーホルダーを見つめた。

 

「……ひとりじゃ、なかったんだね……せんせ……」

 

小さく震える声。それでも、どこか安心したみたいに。

 

「……見つけてくれて……ありがとう……」

 

指先が、そっと胸元を押さえる。アクアは、しばらく黙ったまま目を伏せていたが……やがて、静かに口を開く。

 

「……ちゃんと、終わらせてくれたんだな」

 

低く、噛み締めるような声。

 

「……あのまま、誰にも見つからないのが一番最悪だった」

 

一瞬だけ視線を上げて、彼方を見る。

 

「……借りができたな、彼方くん」

 

「気にしなくていいですよ……俺は人として当たり前のことをしただけです」

 

彼は立ち上がり、グッズ部屋に入る。そして、しばらくして戻ってくる。

 

「俺たちの出会いはここから始まったよね……さりなちゃん。これは、君が持ってた方がいい……だからあげるよ」

 

ルビーにも『アイ無限恒久永遠推し!!!』を手渡した。

 

「……え……いいの……?」

 

そのキーホルダーは、彼らの出会いの始まりであり、大切な思い出。

 

「……これ……ほんとに……私が持ってていいの……?」

 

はじめて、自分で手に入れたアイのグッズ。あのときの私は、それをそのまま、せんせにあげた。そして今は……お兄さんから、また受け取ってる。同じもののはずなのに、少しだけ重くて……でも、ちゃんとあったかい。

 

「……ありがとう……お兄さん……」

 

ルビーの笑顔。それが、存し日の記憶と重なる。

 

「……ずっと……大事にするね……これも……せんせとのことも……全部……」

 

今ここで、過去と現在が繋がった。

 

「……ちゃんと覚えてるよ……あの時のこと……ずっと……」

 

2人の手に握られているキーホルダー。同じものだが、それぞれに意味がある。そして、彼は2人を抱きしめながら、最後にこう言った。

 

「アクア、ルビー……生まれてきてありがとう」

 

 

 





オマケ アイに前世の事を言うか相談する2人。

「ねぇ、ママに言う?」

「言わない」

「……なんでそんな早いの」

「面倒になる」

「えー……でもさ、ちょっとは考えようよ」

「考えた結果だ」

「……でも、私はちょっと言いたい」

「今じゃない」

「……じゃあ、いつ?」

「そのうちな」

「ふーん……逃げないでよ?」

「逃げてない。様子見」

「それ、ほぼ逃げじゃん」

「うるさい」


次回で第4章「親と子」が終了します。そして、5章「運命のドーム公演」は16話構成となります。10話程度に収めようと思いましたが思ったよりも長くなりました。因みに、これまでの話で伏線を幾つかばら撒いてます。

それとついでにお知らせで………この「一番星は消えない」とは別で全く新しい【推しの子】の物語を描き始めてます。まだ出すのは先ですが、そこでのメインは黒川あかねとなります。頭の片隅程度に置いておいてください。では、長々と話しましたがこれからもよろしくお願いします。


皆様の感想や評価が作者のやる気に繋がっています。よければ評価と感想をお願いします。

解説をどの形式にするか。

  • キャラ達による解説
  • 作者による解説
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。